モブに厳しいリバイス世界で生存してしあわせになりたいんだが   作:オルゴメタルム

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第三話 出逢い2 / 発狂

 

一輝兄とオリ主視点です。

 

 


 

 

 俺、五十嵐一輝はただただ混乱している。

 成り行きで出会った彼女、水無瀬(みなせ)一叶(いちか)にいきなり「住み込みでバイトをさせてほしい」と懇願されたからだ。

 

 

「…………ごめん、わかるように説明してくれないか?」

「はい。自分でいうのもなんですが、私は『しあわせ湯』と『それを営む五十嵐家の皆さん』が世界で一番好きなんです。特に、最近は一輝さんが頑張っててさらに魅力的で」

 

 ──なんだって???

 

 うちの風呂と、家族が、世界で一番──!?

 

 

「えっ、と…………あ、ああ、ありがとう。すごい嬉しい」

 

 これは、本当に嬉しい。

 先程も言ったが、俺が銭湯の経営に全面的に携わると決めてから間もない。ミスもたくさんしてて落ち込んだりしてる今の俺に、こんな純粋で大きな思いを伝えられるのは凄い心にくる。染み渡る。

 

 

「ああ、詳説すると、『しあわせ湯』自体と一輝さんたちの家族の雰囲気が大好きなんです。人間お風呂に入れば復活できるの言通り、いや言葉では尽くそうなんて烏滸がましいほどに身体の根源まで染み渡る慈しむような優しく朗らかなお湯。身体だけでなく心の芯まで温めてくれるお風呂がまず素晴らしいですよね。しかも、お風呂の種類や季節に天気などの違いによってテーマ性を変えているのもこだわりが見えてもう凄いとしかですね。湯けむりに見合った背景と昵懇の信頼出来る入浴剤を専門に用意し、彩りと環境を最大限以上に活かすための匠の工夫が光りまくっているのが素人目にも伝わります。そし──」

「──ま、って」

 

 

 ジーンときてた俺に急な圧が襲いかかった。

 澄ました表情から当然のようにマシンガントークが飛んできてまたも圧倒されてしまう。

 

 と、とりあえず、うちの風呂がこれでもかってぐらい好きなのは、わかった。

 激流を浴びせたのに、何でもないことのように微笑んでいる優しい顔からも、それは明らかだ。

 

 

「そして──なによりも一輝さんたちが。

 五十嵐家のみなさんが家族で手を取り合って作る『しあわせ湯』だからこそ、強く惹かれたんです。

 どうしてこんなにも魅力的なのか。心温まるのか。その根源までもっと深く知りたい。さらに好きになりたいと、思いました」

「…………」

 

 目を輝かせ、柔和に包んだ言葉で、彼女は俺たち家族が好きなのだという信実を示してくれた。……ずっと、()()()()()()()()

 なんとなく、ようやく、流れがつかめてきた気がする。

 

 

「私はあなたたち家族を常に間近で感じたい。素晴らしい湯を提供してくれた今までに報いて貢献したい。

 そのためにはやはり、住み込みで働きたいのです。大きな提案だとはわかるのですが、常に銭湯の手伝いができる環境でないと、私の願望と釣り合わないですから」

「なるほど…………」

 

 

 やっと腑に落ちた。彼女は願望だけでなく、謝恩と義理を果たすために、一人ここまで乗り込んできたんだ。

 

 エゴのために動いた自分自身が無茶な事を言ってるのを理解しているからこそ、行動の大胆さは留まらなかった。

 憩いとなっていた湯や五十嵐家への心からの謝恩と、今まで貰ったものに対して報いたい思いからくる義理。それが結果的にさらなる大胆さを成している。

 この子は自分のために動きたい時、同じ分だけ周りに報おうとしないと()()できないんだ。

 それは、なんてフェアで──ワガママなんだろう。

 

 

(俺は……わかる。だって俺と、俺のやりたいこととか心掛けとかと、すごい似てるんだ)

 

 俺は、いつからか自分に興味が持てなくなった。だから、周りのみんなの助けとか支えになろうと世話焼いて、お節介って言われて、それでもいい事が出来たら……満たされた気分になる。

 

 みんなからは、たまに空回りするけど、優しくて出来た良い子なんて言われたりするけど……全然そうじゃない。

 キッカケや動機は関係ない。俺はずっと、自分のためにばかり動いてる。

 自分のお節介でみんなに良かったってなってほしいから、助けになろうと優しくしてるだけ。それを心掛ければみんなが楽しく日々を送れるって思って、良い子ちゃんみたくなってるだけ。

 

 

 でも、そんな俺を許容してくれる家族や環境だからこそ、どうしてもお返しがしたくなる。

 自分のためにやりたくてやらせて貰ってる分、みんなも同じようにやりたい事をやってほしい。そうなれるように報いたい。協力したくて、助けになりたくて、仕方が無くなる。

 自分と他者とでフェアにしたい。でもそれすらも、自分の中にある曖昧なバランス感覚で納得したいだけだと言える。

 

 自分のエゴの分だけ、謝恩と義理がどんどん強くなる。自分と他者のためって願いが噛み合った結果、行動は大胆でちょっと強引になりがちなんだ。

 

 

 つまり俺は、ただただワガママなんだ。

 そんな俺だから、彼女が同じくらいにワガママなんだって直観できた。

 だから、俺とこんなにも似通った──一叶(いちか)の願いを応援したいと思ってるのは、当然のことだったんだ。

 

 

「ありがとう、たくさん話してくれて。その願い、ちゃんと伝わった」

「ということは……!」

「ああ、住み込みバイト、俺の一存でだけど──断らせてもらう方向で……」

「ありがとうござ──えぇ!? 」

 

 喉から矢が飛び出したような驚愕。

 さっきまで落ち着いた優しげな雰囲気がいきなりアワアワと変貌し……思いっきり迫られている!?

 き、気づけば俺は、思い切り身を乗り出した彼女の柔らかい指で、手をがっしり握られていた……。

 

 

「な、なんでですか! 私、がんばってたくさんあなたに言葉を伝えましたよね!? なな、何が不足なのでしょう? すべて埋め合わせられるよう努力します!から!!」

「お、落ち着いて……」

 

 今にも顎と鼻でぶつかりそう。目前の彼女は、お目はぐるぐる、口はふわふわ、百面相の泣き顔になっている……。

 まるでマイペースなネコが突然、構ってほしがりのイヌになったみたいな。そのギャップと距離感のせいなのだろうか。心臓がバクバクしてしまっている。

 

 

「ハッ……すみませんはしたない……はずかしい……」

「だ、大丈夫だ。ほら、うん」

 

 ハッと我に返った彼女は、みるみる萎む花みたいに、向かいの席へ身を戻していく。連動して、どんどん顔が恥ずかしさで真っ赤になっていった。

 顔を抑えてすっかり最初以上に大人しくなってしまった彼女に、俺からも誠実な言葉を投げかけていく。

 

 

「あの、本当に全部の言葉が嬉しかったんだ。誠実な思いもしっかり伝わった。でも、やっぱりまだ未成年だし、家族にも心配かけちゃうだろ? だから、折衷案を考えたいんだ」

「私は一人寮暮らしなので、寝床が変わるのに問題はありません。家族は数年前から海外に飛んでいってます。もうOKをもらえました」

 

 一転、ムッと頬を膨らせた彼女は、どこからかババンっと住民票の写しを出した。

 確認すると、本当に学校の提供する寮に一人暮らしだ。そ、そこはじゃあ、大丈夫、なのか……?

 

 

「で、でも俺は、君のことを見た記憶が無くて。邪推になるけど、万が一君が危険な人な可能性とか……」

「さすがにそれは悲しいです。去年は高校の受験勉強で一切来れなかっただけで。その以前の一輝さんはまだ経営に携わってはいなかったじゃないですか。

 私も常連と言えるほど通えるような金銭的余裕はありませんでしたし、直接面識が無いのもムリないです。

 ……ここまで来ても、私のことを信じてくれませんか……?」

 

 ──上目遣いで、眉尻を微かに下げた彼女に見つめ直されている。

 心配から決定を先延ばしにして、苦しい発言をしてしまった俺が、今度はハッとさせられた。

 

 この子はずっと、俺だけを見つめている。他でもない俺にこそ、自分のことを信じてほしいだけだったんだ。

 最初から俺に認められたかったから。俺と1対1で勝負していたんだ。

 それなら、答えは決まってるよな。

 

 

「ごめん、君は正直でいてくれたのに、俺は誠実になり切れてなかったみたいだ。勝手な心配から、君を傷つけてしまった」

「い、いえいえ! 自分の思いを正直に表せるよう動けるのは、あなたの魅力だと思いますから。全然大丈夫です」

「でも、それでみんなにも迷惑かけちゃうかもしれないからさ。これからは、銭湯に支障が出ないよう、近くで指摘してくれると助かる!」

「……! それって──!」

 

 さっきの絶望した驚愕とは違う。パアッと花開いたような驚きで、彼女の表情が彩られていく。

 

 

「ああ、バイト面接……じゃないけど合格! その熱意は本物! 家族に説明しなきゃだけど、俺も一緒に頼むから!

 ──これからよろしくな、一叶!」

「やったっ! 本当にありがとうございます! 一輝さんっ……!」

 

 

 俺が契約を了承した瞬間、控えめに拳をグッとした一叶は力が抜けたのか、ほわほわしながら席に座り直し、嬉しそうに顔を綻ばせていった。俺も緊張から解放されて、身体をほぐそうとする。

 

 この短時間で彼女のスタンスどころか情動までたくさん知ってしまったのに、やはり平凡で普通の子だなあと思っている自分がいる。

 やっぱりそういう雰囲気と姿勢だったから、俺は信じようと決められたのかもしれない。

 あと、今の流れのおかげで、俺が自分の想像以上に疑り深く、頑固だってことを認識できた事による、感謝と罪悪感もある。

 

 つまり、彼女に出会えたからこそ俺は──

 

「──ちょっとヒートアップし過ぎたし、遅いけど夜風に当たりに行かない?」

「あっ、はい、喜んで!」

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 私──水無瀬一叶は今、まさかのあの五十嵐一輝と一緒に、すっかり涼しくなった真夜中の下町を散歩している。

 

 勝負はゴリ押した私の勝ち。のはず……。代償に人生のうち半分以上の勇気を消費した気がする。†等価交換†にしては上出来では……?

 緊張から解放された私は、他愛のない話題や自己紹介から来歴まで、慣れ親しんだかのように気負いなく会話している。

 主人公相手に何様のつもりなのか。絶対寮に帰ってから悶えること間違いなしのムーブである。

 

 

「それにしても、一叶はこんな夜中に何やってたんだ? やっぱり一人は危なすぎだぞ?」

「私は落とし物を探してて……住民票って言うんですけど」

「あっ、だからさっき急に……」

「個人情報なので焦りました。ホントは一年以上ぶりに銭湯に行くつもりだったのに……」

「まあまあ! 実は俺も吊り看板を無くしちゃってこっそり探してたんだ! 二人とも落し物して、探して見つけたんだ。同じように頑張ったから。

 だから俺たち、こうやって出会えたんだよ」

なんだこのイケメン……はい、私も勢いでしたが、勇気を出せて良かったです」

 

 

 もう自惚れていい? 私は十分頑張った。色々頑張った。今日はもう本当に頑張ったのだ。

 まず、一輝が探していた看板はもちろん私が隠した。住民票無くしたのも嘘である。なのに運命みたいに言ってくれる彼が眩しくて申し訳ないです。

 

 

 一輝と1対1で話す場を作ったのは、単純に話を聞いてくれそうなのが彼しかいなかったからだ。

 テレビ本編では、さくらが彼に相談して、玉置をフェニックスに引き渡さずに住み込みバイトさせる、中々問題になりそうな決断が許されていた。だから、私もゴリ押せばいけると思い込んだのだ。

 ただし、その時の起点はさくらだったので、今回は本編以上に一輝に強く訴えかけないといけない。

 でも、あの五十嵐一輝なら。疑問を抱かれたとしても、本心から誠実な主張をしたら、受け止めてくれるはずだと信じた。

 

 要するに、彼の善性全頼みで突撃したのだ。計画性なんて無かった。あと、気絶したのは極度の緊張のせいなので、最初から全部ガバガバだ。自惚れるとか言ってすみません。

 

 

(でも、あなた達が大好きなのは本心なんだ。それは事実なんだ。

 なんならファン目線なら今世では最悪なデッドマンズも好きなほうなんだ)

 

 銭湯と五十嵐家が好きなのは本心なので、そこを起点に出来て良かった。

 前世からのファンだった身としては、実際にあの『しあわせ湯』に入れて五十嵐家を生で見れるなんて、夢のような時間だった。絶望だらけの今世でのストレス解消にはもってこいである。

 

 ……あとメタ的に見て、本編以前ならしあわせ湯に危険が及ぶことはないという安心感から通っていたのもある。

 こうやって彼と実際に関わるまでは、本当に最高の憩いの場だったのだ。

 

 まあ、これからはトラブルメーカーたちの近くで頑張らないといけないが、今日は上出来なんじゃないか。

 やっぱり私は頑張ったのだ。プライベートを投げ捨ててな! すごい! ツラい!

 

 

「おーい、この暗さで走ると危ないぞー」

「ハッ、すみませんまたやらかすとこでした……」

「?」

 

 何度目かの恥ずかしさにやられて顔を抑える。

 あ、あぶねぇ。達成感と世知辛さに飲まれて脈絡なくウイニングランするとこだった。

 これ以上醜態を晒す訳にはいかない。ここは優雅なウイニングウォークで手を打とうじゃないですか。

 

 なんか変なテンションになっているが許してほしい。今日は祝勝記念日だ。

 私はなんとか無事、「五十嵐家に住み込んで真近で皆に甘言を吐いていく大作戦」のスタート地点に立つこと出来たのだから!

 

 

(この作戦……うぅ、やっぱり罪悪感が凄い。生きるためなんだって決めたけど……)

 

 一喜百憂とはまさにこのこと。私は急に気が重くなる。

 この作戦は名の通り、仮面ライダーとなる宿命を生まれながらに定められた彼ら彼女らを監視しながら、悪魔の囁きを投げかけ、早く成長してもらうスーパーな作戦だ。

 

 私はこの前、唯一の武器の本編知識が活用できるよう、本編通りのストーリー展開を願っていると言ったが、正確には少し違う。

 流れは本編通りとして、本編以上に仮面ライダーに早く成長して、敵をぶっ倒してほしいのだ。無茶苦茶無茶である。 

 

 

(私如きが異分子になるとは思えないけど、万が一があるからなあ。知らないストーリーが始まったら詰み。とにかく早く強くなってくれ、五十嵐家の皆さん!)

 

 異分子が介入して変な要素が生まれ、戦いが長引くのは困る。そうなる可能性すら潰せるように、本編以上に強くなってほしい。敵を倒して人間の尊厳を守ってもらいたい。

 全部人任せの最低な作戦だ。死にたくなる。

 

 私はどうしようもなく凡人で小物だ。だから、原作を変えようと意気込んで介入しても、何も変えられないのは自分が世界で一番よく分かっている。

 無力で、虐げられるばかりなんだ。それは、今世で被った実害と絶望によって、より強く実感している。

 

 だから、私にない「特別」なものを持っていながら、戦う定めは避けられない彼らに、強く早く成長してもらおうという作戦しか思いつかなかっ──

 

 ──待って。……今、私は、大変な事に気付いてしまった。

 

 

(よく考えたら! 具体的に彼らに何すればいいかなんも分かってない!

 成長を促すって、そんな頼れるイケおじみたいな事凡人にできるわけないじゃねーか! 罪悪以前に何も出来そうになくてごめんなさい!!)

 

 正気に戻った私は内心で発狂する。そりゃそうだ。これ、そもそも作戦として成立しているかも怪しい。

 成長を促すとは……? 本編以上に強くなるとは?

 私は何も思い付かなかった。力だけでなくおやっさん(ぢから)もない、とんだクソ雑魚ではないか……。

 

 

 じゃあ「最初から前世知識を明かして成長してもらえばいいじゃん」とか思われそうだが、それはムリである。

 前世について話しても信じてくれるとは思えないし、もしそれによって余計に悪い方向に転がったらと思うと、ゾッとする。私は何も保障できない。だからこそ、大きな変動を望むことすら罪になる。許されない。

 とにかく、私は絶対に前世について明かすことはしないと決めているのだ。

 

 

(ヤ、ヤバ、わァ──切り、替えよう。

 い、勢いだけで来るとこまで来てしまったんだ……。せめて、被害を受けなさそうなポジに収まれるように努力しよう。

 それで、みんなの事めっちゃ応援するんだ……。とりあえずご飯と寝床ぐらいは何時でも用意できるようにするんだ……。聴き手になって負担がマシになるようにするんだ……)

 

 諦めたくない一心で、なんとか私は踏みとどまれた。

 

 私の行動指針の全てが示された人生プランは早くもほぼ崩壊。ヘボ作戦も一瞬でご破算である。私がやれること、前世でテレビ越しにやってた応援しかなかった……。

 

 仕方が無いので、私は五十嵐家が健康で文化的な最低限度の生活を送れるように支援する、特に被害も受けない都合のいいポジションになろうと思う(願望)。だから誰か、私のことも手厚く保護して応援してくれ……。

 

 

(命懸けで戦わないといけないとか、マジで凄い苦しいだろうけど……ホントにみんな頑張って下さい! 出来ること少なそうでゴメン!)

 

 ……冷静に考えると、応援だけなら五十嵐母とか諸々がやってるし、多分私の場合はもうちょっと勇気出して踏み込まないといけないんだろうな。

 そうじゃないと、平穏を守ってもらう身としては、さすがに割に合わないし。

 

 何となく、そうしないと、私は()()できない気がするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

まあ、凡人とはいえせっかく主人公になったんだから、平穏は許さないんですけどね(次章の予定を見ながら)

 

一輝兄、オリ主が自分と同じくエゴイストだと直観し、親近感や安心感を抱く。

 

 

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