モブに厳しいリバイス世界で生存してしあわせになりたいんだが   作:オルゴメタルム

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第二話 solos

誤字報告や評価、ありがとうございました。

 

若く高一な大二視点です。

 


 

 

「他に下町から通う人がいなくてよかった。大二くんに迷惑がかかる心配はなさそうです。……このことは二人だけのヒミツ、ですからね?」

 

 

 

 

 

 ──クラスのあの子がうちで住み込みバイトしてるんだけど???

 

 

 …………が、気になったのは最初だけだった。

 

 

 

 

 

 

 アンタは、()()()()()()()()()()じゃなかったのか──?

 

 

 

 

 

 衝撃の「水無瀬一叶押し掛け住み込みバイト」開始からしばらく経った。彼女はいつの間にか兄ちゃんやさくら、母ちゃんと良好な関係を築いていた。

 それを見ていた俺、五十嵐大二が彼女に抱いた印象は──()()()()()()()()()()()()()だった。

 

 

 失礼な考えなのはわかっている。だが、俺はそうとしか思えなかった。

 学校での水無瀬は、目の前のことや与えられたものに愚直に取り組む能力も思想も人並みの人間だった。これは、俺自身が話していてわかった紛れもない事実だ。

 気付かぬ間に形成されている自分の領分を良くも悪くも越えない、越えられない、凡庸な少女なのだ。

 

 なのに、なぜ住み込みなんて普通じゃないことをしているのか。

 何をどう考えたら住み込みでバイトなんてすることになるのか。

 どう考察しても、わからなかった。

 

 

 今まで接してきた凡庸な彼女は絶対嘘じゃなかった。仮にも同じ環境で学びを深めてきた俺だからわかる。だからこそ今、普通じゃありえない場所にいる彼女のすべてが矛盾しているとしか思えない。

 

 考えても思い至らない。意味不明な現実に何を思えばいいのかすらわからなくなっていった。

 そんな未知と矛盾にまみれた、理解できない彼女に……恐れすら覚えた。

 

 一体自分のどこに、こんな負の感情が渦巻いてたんだろう。

 彼女の印象に合わないちぐはぐな現状だけじゃない。黒い思考ばかり湧いてくる今まで知らなかった俺自身にも、困惑と嫌悪感が募っている……。

 

 

 

 ──じゃあ、直接聞けばいいだろう。

 ──何をビビってんだ。

 

 

 

(……その通りだ。だが、俺はなぜか彼女に問うどころか、うまく接することすらできなくなっている)

 

 水無瀬の住み込みバイトが始まってから、俺は彼女と話すことを避けてしまっていた。

 未知を放って後回しにするなんて負債にしかならない。間違っている。正しくない。

 

 じゃあ、なんで俺は()()()、正しい行動ができないんだ────あ。

 

 

 

 ああ、俺は──彼女の本質を知るのが怖いんだ。

 配置された環境の中で、愚直に生きていく模範的な普通の人間。それが彼女に抱いた最初の印象だった。それが俺と似通っていたから、親近感を感じて話せる仲になった。

 

 今までそう居なかった、自分と近しい、気負いなく話せる都合のいい存在。

 それを否定されるのが、そうなる可能性がイヤなんだ。

 俺は彼女が俺と同じタイプの人間だと思っていたから、現実とのギャップにやられていたんだ。

 

 そして何よりも。そんな彼女の本質を知れば、きっと俺は自身との違いを否応なしに比べてしまうだろう。

 俺に似た行動指針と処世術を持つ彼女は、限りなく俺にとっての()()()を体現していて。

 なのに、今回の行動を起こした彼女にとっては、厳密には正しくなかったことになる。それは、間接的に俺を否定していることになるんだ。

 

 今でも黒い感情を沸かせる俺自身に嫌悪しているというのに。さらに知らない俺が浮き彫りになってしまえば──

 ……俺は俺にできる正しい生き方をしてきたつもりだ。これからも、誰かのためになるとか、正しい人生を送れるように努めたい。家族とは違う、俺だけができることをしたいのに……。

 

 

 つまり、だから、ただ。

 俺は今自分が、普通に正しい生き方が出来てると思っているから。

 浮き彫りになる俺自身に間違いがある可能性を、認め難いんだ。

 

 なんて青く、惰弱な理由なんだろう。

 物憂いはほとんど、俺自身が原因だったんじゃないか。

 俺がただ脆くて、弱いだけなんじゃないか──?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●○●○

 

 

 

 

 

「アントラージュだけじゃ不足な気がして……ここ数日の動きのデータを纏めちゃったんで見て下さい!」

 

「あれ対称式使えたんですか!? あんな次数でどう考えるんですかあぁぁ……」

 

「五十嵐くんの玉子焼き、えびや三つ葉をだし汁で混ぜ込んで茶碗蒸し風にしてみ……コホン! なってますねどうですか?」

 

 

 

 

 

 ──クラスのあの子がうちで住み込みバイト始めてから距離感近くなったんだけど???

 

 

 

 いや、変な意味とかじゃなく純然たる事実だ。何故か彼女は住み込み以来家や部活、さらに教室でも話しかけてくるようになっていた。

 

 な、なんでだよ。俺は避けてしまってるのに。

 彼女はまたしても自分の範疇を越えた行動をしているように見える。確かに元々特定のグループに所属してる感じじゃなかったけど……この時期に新しいグループと関わるって、勇気あるな。

 勝手に失礼な思考を巡らせていた俺はやるせなくて、上手く会話出来てる気がしない……。

 

 

 しばらく覚束無い日々が続いて……俺はやはり、彼女がありふれた凡人だと確信してしまった。

 

 よく見れば、こちらが引け目を感じているタイミングを計らって会話を切り上げているように思う。俺が他の人と話してる時は聴き手に徹している。

 ダメなラインまでは踏み込まない。引き際を弁えてる。始動が強引だったり大胆だっただけで、空気の読み方や距離感は……紛れもなく普通の人間だ。

 

 あれほど理解できないと離れたのに、接するほどにやはり彼女は俺と近しい考え方をしてるのではと思うようになった。

 じゃあ、結局なんで、住み込みとかあんな──

 

 ──待てよ。というか、だからなのか。俺が露骨に避けていると思ったから心配して話しかけるようになったのか? ただ、それだけなのか?

 

 

 未だに彼女の行動原理は一片も察せられない。

 しかし、少なくとも今の動機は。

 なぜ俺が避けるようになったのか知りたいだけ。同じ屋根の下で過ごす事になった俺が心配になったから、話してるだけ。

 そこに裏表なんて無いんじゃないのか? ありふれた、普通の理由なんじゃないのか──?

 

 

 自分の領分を飛び越え、普通じゃないことをした彼女なのに、接してみたら普通だとしか感じなかった。

 これが矛盾だから厭わしく思ったはずだった。でも今は、そんなことを考えていた自分がぼやけていた。

 

 彼女のことを理解できないはずだったのに……理解してると思う自分も、確かに居たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●○●○

 

 

 

「……では、今日は仕込みがあるので」

 

「あっ……」

 

 

 

 

 ──うちで住み込みバイトしてるクラスの子と全然話せなくなったんだけど……

 

 

 

 

 自分の考えが少しだけまとまってきたような気がしていた頃。

 彼女は突然俺と積極的に関わるを、やめた。

 

 ……また、急に彼女は、普通じゃない展開を始める──いや。

 普通に考えろ。俺が素っ気なかったからじゃないか? 彼女はずっと話しかけたのに俺の態度が変わってないと思ったから、諦めてしまった…………?

 

「わからない。結局俺の確信なんて偽物だったのかもしれない。でも、まだ間に合うのなら……直接、いろいろ聞いてみよう」

 

 

 表面だけに親近感を抱いていてもだめだ。失礼だ。

 いつも共にしていた帰路で今は一人。俺は一歩パーソナルに踏み込むことを決めた。

 前はあれほど未知だの間違いになるだの燻ってたのに。彼女と自分のことがわかってきたからか、憂慮は幾分無くなっていた。

 

 

「ただいま」

 

「……おかえりなさい、大二くん。今日は幸美さんに教えてもらったのをアレンジしたスープ餃子カレーですよ。

 ルー使わずに挑戦したんでほぼ試作品ですけど、辛くはないので安心してくださいね」

 

「あっうん、楽しみだよ……」

 

 

 今日は部活が休みだった。彼女は予定が無い日にしあわせ湯のバイトをしているようだが、いつの間にか料理を始めとした家事までやるようになっていた……。

 最初は断りもないホームステイみたいでドギマギしたが、今となってはバイトどころかお手伝いさんみたいになってて、色々畏れ多いんだよな。兄ちゃんも母ちゃんも負担かけすぎないようにしてあげてほしい。

 

 ……なんでそこまでするのか、今まで本人に聞けて無かったのは俺なんだけどな。

 

 

「──ごめん、ちょっといい?」

 

 今日こそが、白黒つける日だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 緑豊かな木々と岩場のせせらぎが特徴の中庭。その一面の風流が広がった縁側にて。

 澄んだ空気と穏やかな風に充てられ、スッキリした気持ちで切り出した。

 質問する前置きはまったくできなかったが、謝罪は先にうまくできた。だからこそ流れで互いに距離を作ってしまった事の心当たりも尋ねられたのだが……

 

 

「……せっかく友達になれたと思ったのに、なんだか距離ができましたよね。五十嵐家で()()()()()()()()()()まで起こったのに、悲しいじゃないですか。

 また話せるようにはなりましたけど、避けられてる気がして、何だか尻込みしてしまって……すみません」

 

「そんな、俺の方こそ変な態度になっててごめん……! えっと、その……」

 

「いえ! 私の方が拗ら……あれ? ……何だかお互い、勝手に気まずくなっていただけみたいですね……ふふ」

 

「あっ、そうだったんだ、な…………はは」

 

 なんと、俺たちは似たような心象で独りでに萎んでいただけだった。

 真相は本当に呆気ないものだったので、緊張が切れてしまう。結果、何だかおかしくなって、どちらからともなく微笑が零れてしまった。

 気を揉むこともない、出会った頃の空気感が戻って来た気がする。俺たちは本当に、ただ普通の学生関係だったんだなと、遂に確信することができたのだった。

 

 

「じゃあ……なんで、住み込みでバイトなんてしてるの?」

 

「しあわせ湯と五十嵐家が好きだからです。デッドマンズの被害に遭って辛い時にお世話になって、どんどん魅力を知りたくなりました。心を癒してくれた今までに報いたくなりました。

 普段から間近で関わってお手伝いすることで、すべて果たそうと思ったんです」

 

 ──しかし、これだけは決定的に違う。

 ただ好きだから。それ以外の雑念も邪推も差し込む余地がない直球の想いを、彼女は俺たちに向けていた。

 今、何かイメージが崩れた感覚を覚えている。やっぱり、俺はどこか心裏で、彼女が俺と同じ正しさを求めているのだと期待していたのだろう。

 

 ……正直、どうしても遠くに行ってしまったように思う。銭湯にかける熱意も行動力も、俺はそこまで理解できないし、共感もできない。

 ──それは、ずっと前を見据えていた彼女にはお見通しなのだった。

 

 

「まあ漠然とし過ぎで、くだらない理由ですよね。特に大二くんが得心できる要素は微塵もないでしょう」

「えっ……そんな、こと」

「結構一緒でしたしわかります。大二くんはもっと大きな守るべきを見据えているようですし、私が敵うはずも無い。でも……一つだけ確かなのは」

 

 違う、馬鹿になんてできない。信条や思想の違いがあろうが、俺たちはここまで来て等身大で話せる仲になっていた。だからこそ今、その行動力と実績は素直に尊敬できている。羨ましいとすら思った。対して当初の危惧通り、俺の未熟さは明らかになっていく……。

 

 俺は……俺の願いだって、もっと漠然としていたんだ。

 優秀な人間を目指す、正義を美徳とする……その生き方は、手段に過ぎない。

 いつも輪の中心でみんなを笑顔にできる兄ちゃんや、自由気ままにムードを作る家族みんな。その中に収まらない、もっと違う大きな所で……俺は、俺を認められたい。

 

 そう。俺はただ、()()()()()()()()()()に変わりたいんだ。

 たくさんのものを貰って、たくさんの経験をさせて貰った。その何倍もの大きなものを大事に守れる自分に成っていくことで、報いたいんだ。

 ……紐解いてみれば案外単純で俗っぽい考えだったなと、失笑してしまう。

 

「……私はいつも、普通に真っ直ぐ生きられたらいいのにと考えています」

「──えっ?」

 

 なのに彼女は──誰しもが願うようなこと(当然)を告白したのだ。

 

 

「でもそれはできないんです。だって、ずっと漠然とした焦燥があって。衝動か、観念か……()()のような何かが。今のままではいけない。私は、変わらないといけないんだって」

「それは……!」

 

 反射的に。

 自分でも、驚くことに……わかる、と思った。わかってしまう、気がする。

 

 普通に順調に上を目指す人生。家族を大切にする裕福な未来。そんな上手で、正しい人生がいい。そう進んでいると信じたかった。

 だから無視したかった。考えたくなかった。このまま真っ直ぐ進みゆく今の自分でいいはず、いいよな、いいだろ────その心裏に、本当の自分が認められる未来は来るわけないなんて懸念が、嘲りが、棲みついているいることを。

 ……焦る。早く向き合わなきゃいけない。受け入れないといけない。でもどうすればいいかなんて、考えれば考えるほど、なぜか空回りしていって──

 

「──せめて具体的な形にしなければと、思ったんです。曖昧に考える中で……しあわせ湯に、五十嵐家に出会いました」

「俺たちに……」

「好きになりました。でもどこまで本気でいられるか、そのために身を粉にできる私なのか、わからなかった」

 

 弾むような調子とだまみたいな澱みが混ざった思いを聞いて、ちょうど気付いた。彼女がバイトを始めた動機は、好きだからという意思は、最初から確立されたものじゃなかったのだ。

 彼女は俺と同じ……ではなく、誰しもが思うように、成長して、新しい段階(自分)に至りたかったんだ。

 

 

(彼女も俺も、同じというより、(ひろ)く共通した普通の動機を抱えていた。

 そして関門になってくるのは『本気で自分を心の底から賭けられるのかどうかわからない』か……)

 

 自分も何度か本気で打ち込みたいと思ったものはある。剣道もその一つだ。

 しかし、学校でトップの成績を収めながらレギュラーの座を勝ち取れた今ですら、この先を賭けられるのかと言われると怪しい。

 今まで全力で取り組んで、やってやれなかったことはほとんどない。抜きん出ている自覚はある。でも、俺が持たざる悉くに秀でた存在や、一概に能力では推し量れない力強さを奮う奴も見てきたから、完全に得意にはなれない。そこに居ても……善い事を胸に、正しい事を誇れる俺にはなれない。

 

 ……結局、波風立たない現状を過ごしていたわけだが。

 失敗が致命に直結すると憂い、精神的な挫折感を極力避けてきたツケか。結局、自分が間違っている可能性は全然考えられなかったのに……似たスタンスの水無瀬がいたから。こうして考えられるチャンスを得られたんだ。

 

 彼女はやはり、その行動指針に普通の価値観という正しさ、美徳を乗せていた。しかしそんな自分は殻に囚われているという様を幻視し、打ち破らんと悩み続けたんだろう。

 ……そこから本気で自分を賭けて、行動に出たのが俺との違いだから。

 

「教えてくれ。()()()は何だったんだ? 水無瀬は今ここにいる。普通に生きたいって思いながら、なんでその範疇を越えられたんだ?」

 

「──ハッキリしたものはありませんでしたよ」

 

 

 ……え?

 

 

「結局悩んでもどうにもならなかったので、虚しくなりましたけど……一度くらい、曖昧でくだらない自分でも。それが心の貧しさの証明でもいいからって。

 ……自分の心を信じてみたんです。本当に願えてると信じて動いてみた、だけなんですよ」

「………………」

「何か参考になりましたか……?」

「そっか──それで、いいんだ」

 

 一過性の心の機微に盲信し、今まで生きた自分と環境(ふるさと)を捨てるような暴挙だ──と、前の俺なら悲観しただろうか。

 でも、彼女を知ることができた今なら。

 

 

(何もわからなかったとしても。

 ──脆くて弱いままに、挑戦してもいいのか)

 

 答えになっていないのに応えたというような清々しい彼女の言葉は──天啓のように思えた。

 

 水無瀬は今も普通に慎ましく生きたいと願ってる。曖昧な考えの留保という、超えられなかった自分の弱さを背負いながらだ。

 かつて矛盾だと誤認したのは、後者の裏にある願いを読めなかったからだ。彼女はむしろ変わりたい自分であるために、いつかそれを確立するために、正負両方を抱える覚悟を決めていたのだ。

 

 全部まとめて受け入れ、持っていっていいというのは、ある種道理のようだった。

 当然だからこそ追い求める正しさも、認めてしまった負への懸念も。結果論かもしれないが、両方あってこそ俺たちは『変わりたい自分』を悩めていたのだから。

 少なくとも、そうしたはずの彼女は……

 

 

「……でも、今はそれだけじゃないんだよね?」

 

「……はい! 最近になって、新しい願いができたんです。

 ──()()()()()()()()()。大二くんたちと私のために。……或いは最初から心の裏にあったものかもしれません。でも、わからないままに動かないと思い至りませんでした」

 

 そう、今は将来性を確立していた。先と違い、弾む調子だけが感じられた言葉からも明白だ。

 しかも、俺の見解を察しているのだろうか。後半は自分だって信じてよいのだと、まるで背中を後押しするような共感を示唆された。

 

 

「大二くん……私の好みの構成過程じゃなくて、行動するための()()()を気にしたのは、選びたい選択肢──進路自体は、もう見出してるからなんじゃないですか?」

 

「──……そう、かも、しれない」

 

「やっぱり! 《フェニックス》についてたくさんリサーチしてましたもんね」

 

 やはり、察せられていた。もう一年の秋半ばだ。殆ど候補は挙げていた。かといって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()フェニックスを当てられたのは驚いた。その芯まで見透かすような目ざとさに粟立ち、身が引き締まる。

 

「フェニックスは世界を、人々の営みと命を守る使命を果たす覚悟が重要です。

 ……大二くんは、どうですか? 守りたいものを守るために、変わりたい自分ってありますか……?」

 

 勇んで投げ掛けられた問いは挑戦、或いは()()()のような念が込められていた。

 水無瀬は応えてくれた。次は俺の番なんだ。

 ──直感的に、ここは俺の岐路なんじゃないかと思った。

 

 ……俺は大義に心を委ねられるのか?

 そもそも、俺は何を守りたいんだ?

 俺は、どう変わりたいんだ──?

 

 

 

『俺は、俺を認められたい』

『大きなものを大事に守れる自分に成っていくことで、報いたい』

『胸を張れる立派な自分に変わりたい』

 

 

 

 それって──本当は最初から決まってたんだ。

 

 

 

「俺は……フェニックス入隊を目指したい。正しさを願う心と抱えてしまう弱さ、その両方を持って当たり前の命を守りたい。

 そうやっていくことで……まだ曖昧でちょっと恥ずかしいけど」

 

 ひと息入れる。これは俺自身への誓いでもある。勇気を出して、決意を。

 

「──いつか誇るに足る自分に成りたいって、はっきり言えるよ」

 

 

(……ようやく、少しは、自分を正しく認められた気がする)

 

 俺は、大きなかけがえのないものを守りたいんだって、言えたんだ。対象は……大きく出て、世界だった。

 

 水無瀬が心を軽くしてくれた。

 曖昧なままでわかり辛い、脆くて弱い自己を認めてしまっても。『変わりたい自分』を願う心も信じ抜けるならば──どちらも受け入れていいはずだって。

 

 命ある誰もがその権利をもって連鎖する人の営みが、世界になる。

 そして、フェニックスこそが世界を守るなら。

 報いをもって誇れる自分になりたい俺が、目指していい場所なんだって思えたんだ。

 

 

 

「……やっぱり、大二くんはすごいです。決められたんですね、世界を守るって!」

 

 今できる最大限に至って、ようやっと胸をなでおろした。ヒートアップしていた空気感は区切りがつき、互いの安心感で整っていく。

 待ち合わせを迎えてくれたような、水無瀬の朗らかな笑みが印象的だった。やはり、そういうことなのだろうか。

 

「ありがとう。今日ここで、フェニックスに行きたいって纏まった考えで言えたのは、水無瀬のおかげだと思う」

「いえいえ、大二くんだからこそでしたよ! ……せめて私も頑張ろうと思います。『しあわせ湯』を守る、だけじゃない貢献を──」

 

 確信した。

 水無瀬は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ。

 

 俺は水無瀬と和解するために来たはずなのに、気づけば進路を決めてしまった。彼女には神懸かったキャリーをされた。天使の導きかってレベルだ。違和感だ。

 でも、「範疇を超える」「守りたい願い」「フェニックス」等のピンポイントな話題が繋がって、察せた。

 俺と似た考え方とやり方を選ぶ彼女だから、同じ進路を決めていたのだろう、と。

 

(同じ進路に悩んでることを見抜いて、ここまで俺を心配してくれたんだ……俺は水無瀬にも報いないといけないな)

 

 

「守りたいもののためにお互い頑張りましょうね。友達として、私も精一杯応援します」

「ありがとう。でも、同じような手段を取るわけだし、ちょっと違うような……」

 

 そう、一方的な「応援」は少し違う気がする。俺たちは違う願いのために動くことになるが、守りたい対象はしっかりと円の中で重なっている。

 目的は違っても、手段は同じだ。……出来ればこれまで以上に、一緒に切磋琢磨したいな。

 

「……? えっとじゃあ、どうせなら──親友として。改めてよろしくしましょう」

「親友か……うん、よろしく……!」

 

 鈍く反応を示していると、彼女のほうからピッタリだと思える関係に誘ってくれた。

 不思議と、小っ恥ずかしくも思わなかった。これから研鑽し合える日々を、純粋に心待ちにできたからだった。

 

 

 

 

 

 

 

●○●○

 

 

 自分の成長に説得力を覚えた節で、家族に俺たちがフェニックスを志望したい旨を伝えた。

 当然、命懸けの業務に携わることもあるだろうと心配されてしまった。しかし俺の願いと、多大に関係する水無瀬の願いを覚悟として伝え……遂に承認してもらうことができた。

 

 最後まで渋っていた母ちゃんには、なんと兄ちゃんからフォローしてくれた。

 

「俺は大二を尊重するよ。……お前の願い、応援するからな!」

「兄ちゃん……ありがとう」

 

 ……いつものお節介じゃなくて、純粋に信じてくれてるんじゃないかって思えて、結構嬉しかった。

 家族の承認も得て、ここからが俺たちの本番だ。

 

 

「俺たちは同じじゃないけど──親友なんだし。それぞれ変わりたい自分のために……お互い高め合っていこう?」

「…………はい、よろしくお願いします……」

 

 俺たちは鏡写しのように同じ人間ではなかった。

 願いが違う以上、ひとりひとりでやっていくことになる。自分の目指すものの為。守りたいものの為。

 この先同じ方向に進んで、同じ場所で戦うというのにだ。

 

 ただ、きっとみんなそうだからこそ。

 ひとりひとりがそれぞれの自分を生きていける平和な世界を俺は守りたい。そんな自分に成りたい。

 

 そんなやり方は、水無瀬と唯一同じだったから。

 ──いつか一緒に、世界を守ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

つまり…水無瀬は攻め過ぎた誘導による自業自得だったのでした…。

 

ラビンズを経て色々大二の解釈をこねられて楽しかったです。

大二は本来、良くも悪くもあまり迷わずフェニックスを志望したのだと思っています。

が、今回は水無瀬との関係によって色々考えを深めてしまった結果なので…やっぱり水無瀬のせい!

 

 

大二、水無瀬のせいかおかげか、世界を守る使命に早くも明確な願いが付随。コンプレックスの方も少しは…?

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