モブに厳しいリバイス世界で生存してしあわせになりたいんだが   作:オルゴメタルム

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第三話 衝突深緋(ふかひ)のGeranium

日常回(?)。オリ主と監視してた誰かさんの視点です。

 

西洋の緋色のゼラニウムの花言葉:「憂鬱」「癒し」「慰め」

 


 

 ──2019年

 

 

 俺、伊良部正造は深夜の五十嵐家で、得体の知れない状況に置かれて硬直していた。

 

「──そろそろ教えていただけますか。五十嵐家、重ねてその裏に流れる血の真実を」

「……、……」

 

 冷や汗が背中を伝っている。ただのバイトである彼女が──水無瀬一叶がなぜ俺を詰問しているんだ……!?

 

「黙っていては進みません。情報を披瀝するのでその後ご一考ください。

 ただ、私は五十嵐家の未来のために真実を知りたいということ……それだけは、どうかご理解ください」

「………わかった、聞かせてもらおう」

 

 だが、立場上冷静に努めよう。俺は唐突に五十嵐家に来た彼女を当初から監視・詮索していた。……だから安全性も動機も十全に納得できる。

 一家としあわせ湯のため、身の危険を考慮した上で臨んでいる……ならば、向き合うしかない。

 ──彼らを思う気持ちと覚悟は、かつてからの俺と同じなのだから。

 

「最近所々炎上した痕跡を発見しました。耐震性等瑕疵が気になったので検索し、1()6()年前に火事があったことを知りまして」

「……火元か」

「はい、その一点が一切不明なのが訝しい。当初は根本の原因より将来の誘因ばかりを危惧しました。ガス管説の検証として配管の構造を調べる専門家宛の費用を出そうとしたら、幸美さんに必死で止められたんです。

 明らかに事情を隠そうとするご様子でした。最悪の可能性を考慮し、事情をお伺いしたのですが」

 

 ああ、彼女の言う最悪の可能性とは幸美さんが放火の元凶、ないし共犯であることだ。何なら俺にも疑いをかけただろう。

 将来性に重きを置いていると見える彼女は、事情があろうと、ともかく知るべき情報だと判断した。この想定は元が外様の彼女でないとまず発生しなかった。

 その姿勢には、五十嵐家を全幅で信用するわけでないフラットさがある。これは一輝たちとの接し方からわかっているし、彼らには良い作用になっていると思うが……今回は、こうきてしまったか。

 

 

「幸美さん、話してくれました。16~23年前の顛末すべて。ずっと抱え込んでたんですね。家族が事案に関与せず、平穏を生きられる一縷の望みに賭けるために」

 

 やはり、事態は懸念通りだった。五十嵐家の恐るべき過去を、教えてもらえたのか。

 

 23年前、科学研究組織ノアの手引きによって白波純平が仮面ライダーベイルとして戦っていた。ノアに潜入捜査をかけていた俺は、その手引き──ギフの細胞を移植された純平の悪魔ベイルが実の両親を殺すさまに居合わせたが、任務遂行のため黙認していた。

 しかし、ドライバーとバイスタンプを開発した狩崎真澄と、純平が運命の出会いを果たした五十嵐幸美に信頼がおけると判断し、純平……いや、元太と彼女を脱走させた。

 これはノアを暴く任務の一環であり、冷徹な判断であるのも確かだが……彼らに充てられていたのも事実だった。

 

 ……どちらにせよ、責任を取ってブローカーやパトロンとして五十嵐家を支援し続けるとは決めていた。今では完全に信頼し、陰で活動し続けているわけだが。

 その中途の16年前、狩崎博士がデモンズドライバーを使い道連れにしたはずのベイルにしあわせ湯を襲撃されたのが火事の原因だった。

 具体的な年月……幸美さんがこの子になら話してもいいと決めたのは本当らしい。

 

「……私は楽観すべきでない立場です。貴方だってそうでしょう? ずっと五十嵐家を監視してきた。人間か脅威か見定めるため──あるいは、どうあっても守るために」

「そうか……君は、信用できるんだな」

 

 配慮してぼかしているが、瞭然たる核心だった。

 彼女の判断の仕方は俺と似ている。幸美さんはギフ関係の騒動に巻き込まれない可能性を期待しているので秘密にする条件で話しただろうが、この子は違う。

 かつて実験失敗した成れ果ての悪魔、それどころか更なる人類の脅威と化す危険性もあるとわかっている。

 それでも五十嵐家なら必ず、降りかかる困難を乗り越えると確信しているのだ。

 水無瀬一叶は確かに、陰ながら彼らを支えたい俺の同志だった。

 

「私も、貴方ならと思っていました。それで本題ですが、情報を共有した以上、身の振り方や五十嵐家の今後のため、もう少し込み入った事情も把握すべきと思いご相談したく」

「君がそれを知って何を……いや、まさか」

「牛島家の監視の目は何ですか。似たやり口の他数人がいたので組織ぐるみだとは窺えますが、貴方に近しい動機でないとあれはできない。

 ……発足人は貴方ではないようですし、確信は今持てました。合宿後にその方とお話しさせて頂けませんか?」

 

 俺に当たった意図がわかった。俺のように監視している牛島家……その背後の組織の指針を知りたいのだ。

 俺が組織を知らない場合は自分の所見を確かめる手伝いを依頼していただろうが、反応で確信を持たれてしまった。

 今の彼女の情報量で、かつてから俺と近い暗躍ができる情報と能力を持つ者は──狩崎真澄しか居ないのだと。

 

 本当は他にも逃げ果せた職員は居るし、議論すべき真の巨悪(赤石英雄)を彼女は知らない。しかし、だからこそ、針を通す推測をドンピシャされてしまった。

 凡庸な動きや所作から諜報員でもないとわかるからこそ、一般人の彼女を通していいものか……のしかかる難しい案件に、頭が痛くなってしまうのだった──

 

 

****************

************

 

 

 うーん、この感じだと無理っぽいかな……?

 私がいきなりぶーさんに衝突したのは、彼と旧友的関係の狩崎真澄に会って媚びを売るためである。

 

 近い将来戦いに臨む一輝たちに近い以上、立場を明示しておくことは肝要だ。そして本命として、本編中盤に五十嵐元太同様安全を保証してもらいたいのだ。小物丸出しである。

 

(ベイルから完全に身を隠せる物凄いステルス性に肖りたい。五十嵐家贔屓のWE(ウィークエンド)パトロンなぶーさんは、窓口にできる望みあるからね)

 

 まあ緊急時、つまり将来本編中でも、民間人の組織なのでサラッと助けてくれるはずだが……さくらや玉置がやらされた無駄に命懸けの試験がムリな私では、そろそろ縁作らないとまずいよなと懸念した次第だった。

 

「……、……悪いが、斡旋の保証はできない。本当にすまないが、内密にして、また次に相談させてくれ」

 

 おっけ、交渉は決裂ね。先延ばしはお流れと同義だろう。余計な禍根も残らないこの辺りが潮時だ。じゃあ今日の事は忘れて、お互い『しあわせ湯』を愛する常連に戻るとしましょうね……

 

 あくまで今回はいけたらラッキー精神だった。その割には今持ちうる情報量に齟齬を作らないのが難しかったけどな!

 でも崖っぷちじゃないから、余裕を持ってやり取りできたぞ。この調子で次はフェニックスの合宿、ちょっくら頑張ってくるか!

 

 

 

 ──数週間後

 

 

 

 

 私は現在──限界の心身を引き摺り帰宅している。

 

(やっっっっと地獄の日々がおわ゙っだぁぁぉぁ!!)

 

 完全に舐めていた。オーキャンかと思ってたのに企業研修でも使うらしいバリバリ体験入隊という地獄だったのだ。

 交通、航空、警察的権限の知識を詰め込む座学と体術、逮捕術、軍事行動等が混ざった演習をサイクルする絶望の円環……もう二度と行きたくねぇ……

 フェニックスは業務が専門的かつ横断的すぎる。詰めるべきがニッチなくせに多いのだ。こういう準備が早い時期から推奨されること自体に納得はいく。いくが……私が許容できるかは別問題だよ! 場違いに劣っててぶっ倒れる度に気まずかったんだからな!

 

 まあこの入り口の厳しさ、入隊後警察学校も無しに一定の訓練を経たら即戦力!とかいうふざけた労働環境と、一機関が担うにはもりもり過ぎる過剰権限のせいだろう。……前から思っていたが、これほどの強権を有するフェニックスの存在はなんで道義的に許されているのかね? 

 

(何となく、太古からのフィクサー・赤石長官が自由に動かせる独立戦力を顕示するために創ったと推測できるが……うん、やっぱり長官はブラック過ぎる)

 

 島国の日本を本拠地にしてるのとか、その諸外国にスタンプやガンデフォン等オバテクが流通してないのとか、ギフスタンプの印影を変化させた言語を公用語にしてるのとか……考え始めたら陰謀の臭いにキリがない世界だ。3000年の()()()淵を覗くのはここまでにしよう……。

 

 

 ……こんな無様とノリだから察した方もいるだろう。日本最上位層の文武両道を要求するフェニックスに、どこをとっても凡人の私が受かるわけがないことに。

 絶対落ちる確信(安心)があるから、今まで逃げ出さず「まあ、実質記念受験だしな……」と状況を容認していた。辿り着いた安住の地(しあわせ湯)から出るわけもない。ずっと一輝たちを見ていたい。

 私が憂いていたのは入隊ではなく、受験準備でプライベートと費用が消えることだったわけだ。十分許せねえからなリバイス世界とデッドマンズゥ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「水無瀬、()()の手応えはどうだった?」

 

「ほんっとうにやばいですしにそうです」

 

 

 ──という感傷、6回繰り返しました。

 

 ……この合宿、もう6回逝きました。

 

 

(──なんで長休みに毎回行くんだよ! 大二はりきり過ぎだろ! 腰巾着の私には辛すぎるだろ!?)

 

 ちょっくらとか虚勢ひーひー張ってたらもう2019年。湯水のように私財と時間が溶けた現実を顧みて気が遠くなりそう。筋肉痛と疲労にも追い打ちされてマジで泣きそう。

 大二、心配しなくても貴方は受かるだろ。何なら何学んでも秀でない私と違って独学でも大丈夫だ。保証する。だから知らんイベントに行くな。監視する私の心臓に悪い。身体も痛い。やめろ……なんて心の中でしか言えるわけないけどな!

 

 

「最後だからフェニックスの演習所使えたじゃん。現役隊員にも見てもらえたしむしろラッキーだって。それに、昔からの知り合いだった()()()()()のアドバイスは効いたんじゃない?」

「そっちこそかなり仲良くなっていましたね。……あと私はメールするだけなので別に昔馴染みじゃないですね」

 

 そう、憂鬱案件はまだまだある。今回大二が門田ヒロミと出会ってしまったのだ。まだ本編前なのに!

 

(私も大二もキーキャラとの関わりが謎に増えてるの、ヤバいよな? てかそもそも合宿とか本編と無縁の知らんイベントに関わってるのも怖いんだよ……!)

 

 何故こんな顛末になったのか、発端は数年前まで遡る。

 私はリバイスを思い出した日、門田ヒロミ(新人)に助けてもらったのだ。頭パンクしてよく覚えてないが、流れで連絡先を交換していた。

 大二のために近年フェニックス受験のアドバイスを懇願。忙しい中年に数回やり取りしてくれた。そして今回はわざわざ合宿まで顔を出してくれたのだ。……出会っちゃったじゃねーか!

 

 あの面倒見が面倒くさいほどに良いヒロミさんだ。フェニックスに助けられた私がフェニックスを目指すなんて構図、応援したくなるに決まってる。彼の行動力と人の良さを考慮できていなかった……。

 

(1話時点のヒロミさんは立場が高かった。真面目な大二の情報網なら入隊以前からご存知になる。顔合わせの遅い早いとか、誤差にすらならないはずだよ。セーフだよセーフ)

 

 仕方ないので大二を紹介、彼は気に入って可愛がってくれたのだった。大二は琴線に触れただろうし、むしろ前向きに捉えたい。捉えさせてくれ……。

 

 

「ヒロミさんに救ってもらった水無瀬の縁で、俺も熱心な指導を受けられたんだ。義理立てるためにも、まだまだ一層厳しくして、一緒に合格してやろう……!」

 

「はっ、はい……うん、そうですね……」

 

 まっ待って大二、いつの間にそんな熱いこと言えるようになったの? まだカゲロウ居るのにもうヒロミさんに影響されたの? そこまで熱量見せなくていいよ? だって私まで同じ気概だと思われるじゃん。それで私は試験落ちるんだから、今後気まずくなってしまうだろ!

 

 うん、大二琴線震わされすぎ……ちゃんと全部糧にしてるの優秀すぎる……。

 今までの長休みだって受験準備であんまり部活行けなかったのに、勘も鈍らずエース続けてたのおかしいって。

 私は試験準備やリバイスの時系列ないしイベント見直しの負担がデカ過ぎて、余裕なくて1年せずに退部しちゃったぞ。そのポテンシャルとバイタリティちょっとぐらいわけてほしい。

 

 

 

●○●○

 

 

 

 内心憂鬱で喚いてるうちに、すっかり見慣れてしまった、薪焚きの煙を浮かばせる煙突が目に入ってきた。悪態を吐く勢いだけでどうにか、五十嵐家に戻ってきたぞ……。

 

 

「──おかえり! 大ちゃん! いっちゃん!」

「あっ、ただいま──さくらちゃん」

 

 玄関を開くと同時に、ハキハキと明るい声が突き刺さってきた。

 待ち遠しかったとばかりの勢いで彼女──五十嵐さくらが出迎えてくれたのだ。

 

 

「ただいま、俺は先に風呂入るよ」

 

「ちょっと、連絡来た時ご飯仕込んどくって返したじゃん!? ……あっ、もしかして、私の激辛カレーそんなに怖いの〜?」

 

「わかってるならビビらせないで、心の準備させてくれって……」

 

「もー素直なのか意固地なのかわかんないなー! でも入るならゆっくり疲れ落としてよね!」

 

「わかってるよ。準備ありがとな──」

 

 少しの期間だが離れ離れになっていた大二とさくら。割と容赦ない軽口が飛び交っているが、そこには無事家族と再会できた安心感が滲み出ており、朗らかな雰囲気は隠せず……という尊いシチュを特等席から拝められて、ファンの私までグッとくる。

 

 

 

「じゃあいっちゃん、私たちも先に入っちゃおっか!」

 

「……えっ。私も……うん、そうだね」

 

 でもあくまで視聴者の私は遠くから眺めていたかった!

 

 自分を蚊帳の外に置いて思い耽ってしまったので反応が遅れて、気まずい。弁解すると、私のような雑魚が貴方たちと話すなんて、なんというか、解釈違いに陥って尻込みしてしまうんだよ……

 今更だが、私はリバイスキャラと相対する時「こんな場違いな凡人如きが、特別な彼ら彼女と交流……?」と、いつも罪悪感に襲われる。

 もちろんこの方、五十嵐さくらとお話するのも畏れ多い。でも私は彼女と仲良くなっちゃってるんだよな……

 

「あれ、結構疲れヤバい感じ!? じゃあ私が道場直伝のマッサージしてあげるから、安心してね!」

 

「わっ、いいの!? ……なんか、いつもたくさん優しくしてくれて、ありがとうね……(ヒェッ、あの凄い効くヤツだ……)」

 

「どしたの急に? 当然でしょ? いっちゃんはもう家族みたいなものじゃん! むしろいつも家事とか頑張ってくれるんだし、そっちこそ普段から頼ってよねー」

 

 本編で彼女は中々カースト上位っぽいグループでつるんでいたが、どうやら中学でも似た人間関係を生きているようだ。

 そういった関係性の円満や、お得意の空手稽古に時間が割かれてるだろうと考えていたが、思った以上に私に絡んでくれる。

 私はご覧の通り、今世では趣味の時間が全くのゼロになった。

 そんな多忙と心労で精神が荒みがちな中、さくらとの交流は非常に心にグッと来る。癒しだ。癒しなのだ。

 

 公式サイトで心技体が一家最優という風に記された彼女。基礎スペックが高く、バイタリティに溢れており、こっちにまで元気をくれる。人間って生身でバフ撒けるんだ……と、英雄性にリスペクトしまくりである。

 あと、こういう評価は失礼だが、元気なアニマルみたいなかわいさがあって愛くるしい。刺々しく爆発する様もポーズに思えて結構微笑ましくなる。

 これらの印象によって、私に権利がないとはわかっていても、ついつい砕けた感じで接してしまうようになったのだ。

 

 

「は〜、みんないつの間にかやりたいことやって、充実してるって感じでいいな〜……」

 

「そうだね。私なんか、勉強特訓勉強の無限ループで余裕ないから、自分のことに一生懸命な人は凄い眩しく見えるよ」

 

「ちょっと、なんならいっちゃんが一番そうだと思ってるんですけど。私だって、もっと強くなって…………無敵になりたいのに」

 

 とはいえもうどうしようもないが、こんな距離感のままでよいのか非常に不安である。

 自分の夢を明かしてくれるのとか、タメで話すのとか、"いっちゃん"って(一叶)を渾名で呼んでくれる仲って、セーフなのか……? 

 本編に影響したりしないよな……キャラと縁があるからってスタンプ押されて、ストーリーの出汁にされる可能性が怖いよ……

 

「そう見えたなら、さくらちゃんのおかげなんだよ」

「えっ?」

「私なんか、及第点取るのも全然難しいけど、さくらちゃんたちが思いっきり頑張ってる姿を見ると元気もらえて……まだ耐えるぞ〜って思えるんだ。むしろ私がありがとうだよ。

 そんなさくらちゃんだから、みんなから受けた刺激を梃子にして、ことさらどんどん強くなれるよ」

 

 かといって、お世話になっているのは事実だ。お返しはしたい。

 バイト業以外でも貢献すべく、彼女の相談に乗ることもある。

 また、(キャラへの尊敬や解釈の延長だが)共感や意見、褒め下ろしもさせて頂いている。彼女の魅力や持ち味、年相応の青い点は、ファン目線では湯水のように見つかる。大好きなキャラをタダで合法的に最前線の超解像で応援できるの、ファンとして()最高なんだよな……。

 

「……なんかいっちゃん、いつも私のこと、なんか…………褒めすぎじゃない?」

 

「そうかな? でもホントに我が道を行っててかっこいいし、それは極める努力を怠らないからこそだし、でも人倫忘れずでみんなを盛り上げちゃう威風まであって、もう良いも悪いも全部リスペクトしたくなって……あっ、ごめんね一人でべらべら」

 

「そ、そんなに……?」

 

(うっ、罪悪感がやばい……一人間としては未来の情報を利用したズルのコミュニケーションだもん)

 

 さくらにはちゃんと本編に至るよう、未来のキャラに対する所感を交えた刷り込みに近い話もしてしまっている。彼女らの戦う運命は私が居なくとも長官やウィークエンドの手引き次第確定するが、多少誘導してる以上心苦しい。

 ぐるぐる渦巻く呵責と申し訳なさから、ワガママだとはわかっていても出来る範囲で助けになりたいし貢献したくなる。お返しなんて言っているが、結局これもエゴなわけだし、その、ごめんなさい……

 

 一転胸が痛んで気が沈む私だけでなく、なぜかさくらまでぎこちなくなってしまった所で、どちらからともなく入浴準備を始めるのだった。

 

 

 

****************

************

 

 

 マッサージされたり相談されてビビったりの入浴後。

 さくらより先にケアが終わるので、私は一人縁側に座していた。なんか誰も居ないし、のんびりわんぱく牛乳を飲んでいる。

 五十嵐夫妻は夕飯の買い出し中で、大二はカレーにやられて仮眠してる。一輝は勝手に出掛けたという。

 ……ジーコとの確執は消えたと教えてくれた。過去のしがらみとかも無いし、散歩でもしてるんだろう。

 

 もう一輝も大二も心配要らない。最後はさくらの懸念点を復習うべきだ。

 

 先述の通り、さくらはWE(ウィークエンド)の介入次第ライダーの道が確定する。心臓に優しい。

 しかし、最悪を憂慮する私の視点では、本編描写を繋がった文脈と背景を持つ生きた現実として再解釈しておく必要がある。先程の長官黒幕伝説のように。

 つまり今回は、彼女がデッドマンズに闇堕ちする危険性も考慮しなくてはならないのだ。

 

 

(英雄性だけでなく、アギレラに誘われる程に、エゴや願いを自他顧みずに貫ける悪の才能も秘めると推測される少女、か。

 ……やっぱり、本編知識のせいで余計心配になってるんだよな)

 

 良かれ悪しかれ純真に思想を育んだ悪の華(アギレラ)の見る目は決して間違いじゃない。悪の才能の目利きやシンパシーに信用があるということだ。

 実際誘導したコング・デッドマンはフェーズ2に、フリオはギフテクスに至っているし、さくらもギフに連なる特質を持つ存在だった。

 そして後者について、アギレラとさくらは姉妹と形容される程人品が似ているという。穢れなき器(ギフへの御供物)として大事に育てられたアギレラは、歪な純粋さと幸せへの価値観を持った。家族に溺愛され、美徳を丸呑みに生きていた当初のさくらを識り、心に響くものがあったのだ。

 やがて夏木花が成長したさくらに救われWEに加入したように、さくらがアギレラの座するデッドマンズに堕ちる可能性もしばらくゼロにならない。

 

 ……"ジャンヌ"。

 名は体を現すというが、さくらもそうであるのだろうか。

 手段を選ばぬ苛烈で強情な戦闘力とカリスマを持った強き存在は、人々が光を──生き征く活力や届かぬ星を視る英雄にも、異端な社会の害として尊厳破壊を受ける烙印の魔女にも……どちらにも成り(堕ち)得る。

 

 

(……でも。私はさくらが仮面ライダーとして成長し、覚悟を決めることを信じたい。

 五十嵐家のみんなが運命を乗り越える明るい未来を、現実として信じると決めた。だからこそ私は『しあわせ湯引き籠り作戦』とその他保険ルートを始められたんだ)

 

「──いっちゃん、お待たせ!」

 

 悩んでも仕方ないと顔を上げたところで、溌剌とした喜色を浮かべたさくらが出てきた。その晴れ渡る心身を見ているとやっぱり、ヒーローかつ尊敬捧げまくりたい人間だと改めて思わされる。

 かつてから五十嵐家のファンだった私は、結局最初から彼らを信頼しきっていたんだろうと再認できたのだった。

 

 

「なーに考えてたの? 珍しく神妙な顔になっちゃってたけど?」

 

「……ううん、もう大丈夫だから。ただ──」

 

 さくらが心配と慰めの言葉、というか追求をかけてくる。彼女に似合う真っ直ぐな表情だ。多分風呂でフェニックス入隊の怪しさが話題になったせいだろう。むしろ受かったら困るので、気にしてないよと本音の笑みを示した。

 

 こんな直球のさくらだから、そのまま本編に入る信頼がある。その根本も昔から揺るがないのだ。

 無敵になりたい、無敵でいたいという幼年期からの夢。当初は「強ければいい」で停滞したが、アギレラ達デッドマンズとの衝突の中、強くなれば何ができるのか、何のために強くなろうとするのかを具体的に考えるようになる。

 大切な家族、力ある者として守るべき民衆、そして自分が責任を取って付き合い続ける覚悟を決めた相手……自分の手で救える人がいるなら救う、明確なヒーロー精神を確立するのだ。

 

 凛と成る軌跡を描くこと、その先で日常を取り戻して自分を生きること。

 彼女たちなら成し遂げると信じてはいる。ただ、深く関わった今、みんなが戦禍に落ちることに不満も感じる。最低にも望む側なのに、何故なのか。

 ……いや理解した。叶わない望みだが、言わなきゃいけないことがある。

 

「──ずっと、こんな日常が続けばいいのに。さくらちゃんたちにしあわせになってほしいって思ってた」

 

 背筋を伸ばし、しっかり向き直っての発露だった。

 幸美さんの気持ちが少しわかった。本当は平穏が一番。戦いを越えたらちゃんと幸せを掴んでほしい。

 でもいずれ無慈悲にリバイスは始まる。情勢が不穏になっても、本編通り進むようできるだけ私もサポートするからと、決意を乗せたかったのだ。

 

「……私も、いっちゃんみたいな優しい人を守れるような強さが欲しい。絶対、誰も居なくなったりなんてさせないからね」

 

 ふと、何故かさくらまでキッと決意したかのように見えた。ちょうど今みたく、いやそれ以上の気迫でライダーになる日までもうあと数年だと思うと、感慨深い。

 その時はきっと、仮面ライダージャンヌのご活躍を心から応援しよう。……五十嵐家で縮こまりながらだけどな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──数週間前

 

 それは、一叶ちゃんが居なくなった後のことだった。

 

「──ぶーさん。今、何話してたの?」

 

「なっ、さくらちゃん!?」

 

 しっかり気配は読んでいたのに──いや、一家一身体能力に秀でた彼女の素質なら潜めたというのか!?

 

「ママの過去が何? 五十嵐家が何なの? いっちゃんは一人で何背負おうとしてるの……!?」

 

 一叶ちゃんは配慮でぼかしていたが、聡い彼女はピースを繋ぎ始めている。事の不穏さに身震いしながら、悲愴な顔で彼女は叫んだ。

 

「うちのことならいっちゃんには関係ないんじゃないの!? 危ないことなら、秘密にするから……私が背負うから! ──教えてよ!」

 

 危険だと本能で察しているから、彼女を晒さず自分なら担えると勘づいているから、優しいこの子は……これは、誤魔化せない。

 

 なら……どの道、五十嵐家を信じるなら。一叶ちゃんの言う通り全力でサポートするのなら。

 早すぎるが──明かすしかない。

 

 

 

 


 

西洋のゼラニウム(Geranium):「愚かさ」「愚行」

 

信頼してるのに信用は100%じゃない水無瀬。例えば五十嵐家で話したのは万一の暴力に備えた抑止でしたが…

 

大二、凡庸な水無瀬の学習レベルに配慮して共に合宿常連になった結果、自分の気概や人脈がさらにアップ。

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