モブに厳しいリバイス世界で生存してしあわせになりたいんだが   作:オルゴメタルム

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エピローグ

これはネタバレですが、モラトリアム編とは、オリ主がのどかな日常を送れるのはここまでだぞという意でした。

 

あと試験的な特殊タグの利用箇所がありますのでご容赦。


 

 人っ子一人の気配もない夜更けの工業団地群の一画。その端部で、荒くも弱々しい息差しが、萎むように漏らされていた。

 亀甲状の筋肉と蜂の腹を持つ異形──タートル・デッドマンは、その毒々しい上面に反し、致命に直面した絶望の様相に陥っていた。

 

「ハッ、はぁっ、ひぃっ、撒いたかッ? クソっ……たかが宗教への荷受けって話だったのに、なんでこんな!」

 

 条件の良い、武器と怪しげなスタンプの運び役。今までバレる気配もなかったのに、この窮状はなんだ。

 死が過ぎった光景がフラッシュバックして吐きそうになる。目出し帽の黒服数人に追い回された矢先──山吹色の意匠を青の四肢に巻き付けた蛇の化け物が待ち構えていたのだ。

 

 恐怖と焦りから、交易役の禁忌である物品(スタンプ)を使用。亀の化け物と成り果て、力押しによる突破を試みた。

 しかし悉くがいなされ、その倍々の殴打が浴びせられたことで戦意喪失。翻って逃げようとしたところで、逸らしていた目が合ってしまった。

 顔に張り付く莞爾を(かえ)した複眼から覗く……全てを圧し潰さんとする敵意を、総身で受けてしまった。

 

(ヒィイイイ!!?)

 

 そこからはこの有り様の通り。甲羅に籠って滑りながら、必死に逃げ回っていたのだ。

 法に触れていることを漠然と察しながらもやめられなかった。そのツケがここで……いや、そんな、でもこんな理不尽に晒されるのはさすがに……

 

「──逃げられると思ってるの?」

 

「ギャアアあぁああ!」

 

 

 頭上のコンテナに月を背にした仁王立ちの蛇──仮面ライダージャンヌが、月光が霞む威迫の眼光をこちらに突き刺していた。

 

「鬼ごっこは終わり。さぁ、くらいなさい!」

 

<コブラ! スタンピングスマッシュ!>

 

「あ────」

 

 嘗める水流を思わせるコブラのエネルギー体が合流した右脚が猛った瞬間──タートル・デッドマンは、死角から頭部を蹴り砕かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ふー……今日はこれでおしまい。デッドマンズやフェニックスの影にはまだ近づけない、か……)

 

 仮面を被るままに息を整えるのは五十嵐さくら。変身成功から暫くの特訓を経て、実戦に打って出始めていた。

 市民の安全を陰ながら守り、正義(フェニックス)巨悪(デッドマンズ)の繋がりを掴む。その為にデッドマンを打ち倒し、スタンプを回収する、着実な積み重ねの日々を送っていた。

 

『タートルスタンプの確保とフェーズ2のデッドマンへの勝利。お見事だよ、さくらちゃん』

『試験は順調ですよさくらさん。アジトはまだわかりませんが、スタンプはかなり集まってきました!』

 

『……試験とか、そういうののためにやってるんじゃないんですけど』

 

 息をつく中割入ってきた通信に無愛想を返す。未だに信頼を置けないウィークエンドのメンバーは、さくらの戦いを試験と評していた。命懸けの戦いを揶揄しているように感じて不快も過ぎったが、そういうスタンスを取ってしまう人たちなんだなと、もう納得してしまった。

 

 傍ではいつも通り、ウィークエンドの団員が痕跡を消す後始末を終え、撤収している。後はジャンヌも闇夜に身を隠した後、契約から解放されて伸びきった罪人を通報することでルーティンは終わる。

 

 ──はずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ッ!? 眩しッ──」

 

「──動くな! フェニックスが包囲した!」

 

 突如、ジャンヌは多角のライトで存在を暴かれた。この身を伝う黄の回路・レボルナリーパワーリボンが照り返した事で、相手はこちらを囲い込んだ白服の武装集団だと判明する。

 

『なっ──さくらさん、団員は退避完了しました! 後は貴女さえ撒ければ大丈夫です!』

『待て光、ジャンヌの存在を受けた奴らの反応を見る必要もある!』

 

『どっちもわかってるから!』

 

 通信の中だけで迅速に対応指針が決まる。撤退はジャンヌの力をもって確約されていた。今後の活動への影響を考えるためにもフェニックス側の対応を確認しなくてはならない。

 

「最近悪魔関連事件被疑者が言う『蛇の魔女』とは貴様だな。大人しく同行し、話を──なっ、ドライバーだと!?」

 

「ヒロミ、間違いない。あれは『仮面ライダー』だ!」

 

 集団を待機させ、厳格ながら穏健に近づいてきた少数のうち、隊長格が気付いてしまった。

 名称は心外ものだが、ジャンヌの存在は契約解除の記憶混濁が薄かった者から把握されていた。

 では、ドライバーと仮面ライダーの仔細は。

 

(待って。ひと目でシステムが判るって、まさか──!)

 

 

「今博士が通信越しで喚いているぞ。お前は機密データを掠めて作られたライダーだと。……実力行使で捕らえるには十分過ぎるが、意地でも変身は解かないか?」

 

「……………!」

 

「……ならば仕方ない。

 ヤツは現存の兵器では敵わん! 総員待機しろ──俺が出る!」

 

 

 

 

 

 

<デモンズドライバー!>

 

 

 

 

 

「ウソでしょ、仮面ライダー……」

『もう実装できたのか……ジョージ!』

 

「我が命を懸けて……世界を守る!」

 

<スパイダー! Deal…

 

 おどろおどろしい待機音に乗せて垂れ堕ちる蜘蛛糸を手繰るように、しかしもう一方の手は力強く振り上げた。

 

 

「変身!」

 

Decide Up!

 

 

Deep(深く). Drop(落ちる). Danger(危機)...

 

仮面 RIDER.

DEMONS!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああああ

ああああああ

ああああ

ああああ

ああああああ

ああ

ああ

ああ

ああああ

ああああああ

ああああ

ああああ

ああああああ

ああ

ああ

ああ

ああああ

ああああああ

ああああ

ああああ

ああああああ

ああ

ああああ

ああああ

ああああああ

ああああ

ああああ

ああああああ

ああ

ああああ

 

 

 

 

 垂れた蜘蛛が強靭に光る糸を巻き上げて暴かれた戦士こそが──仮面ライダーデモンズだ。

 

「フェニックスの名にかけて、お前を倒す!」

 

「っ!」<ヘッジホッグ! リスタイル!>

 

 意気込んだかと思った瞬刻、猛る重装甲と人工筋の強圧がジャンヌに突き刺さった。奮うままに地殻を蹴り抜き、一拍で目前に駆け込んできたのだ。

 反射的にスタンプを押印、武装の展開を許諾させる。コンテナ上に隠した相棒が変わり果てた姿で合流した。

 

<ヘッジホッグ! ダダダダーン!>

 

 チェーン付きのアイアン、ヘッジホッグゲノム。拘束具を思わせる白銀の鎖が伝う先には二種類の棘──樽の如き厚みに生える黄金と(おどろ)に染まる真紅が嚇す棘塊(きょっかい)が、悪魔の眼を宿して覚醒した。

 遮蔽物のない広場に飛び出しながら、鎖を起点に棘塊をぶん回す。より広い間合いの確保に伴い、悪魔が全方位へ血染めの棘を乱反射し始めた。

 

『要は持ち手が鎖になったパイン?? 趣味の話は後にしてください狩崎さん!」

 

 今以てうるさい通信を切り、デモンズは駆けながら指を構える。信号を受け、粘着性特殊繊維・デモンストリングが発射された。

 伸縮、強靭、粘着質を誇るクモ糸が乱れ打つ。残さず棘が絡み取られ、全域の弾幕が消失していく。

 喫驚のジャンヌと迫れる道筋を解せた所で糸を切り離す。間合いを捉えたデモンズは、ついにジャンヌへ拳を振り翳した。

 

<──必殺承認!>

 

「なっ!?」

 

 切り替え、直ぐさま鎖の伸びを回収したジャンヌは必殺を喚起。腕に棘塊を嵌め込み、鋭利を滾らせた正拳を打ち込んだ。

 

<ヘッジホッグ! リベラルスマッシュ!>

 

 月下の大気を昏く抉り抜く威力。咄嗟に蜘蛛の巣状のバリアを張ったデモンズだが、果たして弾き飛ばされてしまった。

 迅速極まる対応と腕から伝う鈍痛を受け、デモンズは相手にライダーとしての一日の長があると思い知る。構えから空手を修めているとは察していたが、プロのフェニックスにてんで怯まぬ勇猛な機転──もはや只者では済まされぬ存在だった。

 

<──トリケラ! ダダダダーン!>

<Add──Dominate Up !

モグラ…ゲノミクス!>

 

 局面を動かしたい動機が奇しくも重なり、向かい合う両者は同時に武装を展開する。

 片やトリケラの頭部と交差する角が意匠を持つ二丁銃剣・トリケラゲノム。

 片や掘削を再解釈した大貫通の人工筋付き大型ドリル・モグラゲノミクス。

 ──引き金が無音で引かれる。反動どころか微動だにせず、ジャンヌは角弾と光線を連射していく。

 しかし、そのスタンスはあくまでアマチュアであることをデモンズは見切っていた。

 

『射線を読ま、避けてる!? 似た形状の銃を知ってたのか!』

『注視すべきが違う。奥の隊員が流れ弾を受けぬよう誘導する手腕。その"安全な孤立"こそを狙ったか否かのセンスが俊秀だ』

 

 巧みに招かれた戦況だと示唆され光は慄然とする。確かに両者は再びコンテナが積まれた区画に入っていく。あくまで遠隔の視点だったが、広がる様は両者を称賛した解釈を敷衍した通りとなった。

 共に技巧と機転、そして配慮は秀逸だが……()()()()()()()()()()()()()()()と、牛島太助は憐憫を掛けた。

 

「手強いが……その配意は傲慢だ!」

(潜った!? マジでモグラまんまじゃん!)

 

 比較的狭い場所に誘って狙いを付けようとしたのにこれでは徒労か。切り替えて精神を研ぎ澄まし、下に次の気配を待ち構える。

 ……というより、もう撤退すべきだ。フェニックスはライダーまで担ぎ出した。裏向きでも穏健な付き合いはできそうにない。

 

 コンテナに飛び移っていき、そのままジャンヌは闇夜に踵を返す。

 戦意を終え迅速に帰──変わる気配を読んでいたのはジャンヌだけではなかった。

 

「──ダアァァッ!」

「横、から──!?」

 

 積まれたコンテナの中間辺りに至ったと同時に、ジャンヌの真横へ最盛に吼えるデモンズが飛び出した。

 潜ったのだから地殻より出でるであろう予見と撤退すべしと意識を変えた間隙を全部利用された。デモンズは地に潜んだ後、地上のコンテナに貫入していたのだ。

 全面に配置されたコンテナ内部全てが縄張り。その皮相を水流が伝うように飛び渡っていたジャンヌのしなやかな挙動は、かえってテンポをつぶさに把握されていた。

 意図も動きも読み切った。必殺の威力を収束させた脚で踏み込むままに、表舞台へ。

 

<モグラ! ──デモンズレクイエム!>

 

 突いた盲点を、そのまま抉り抜かんとする終焉の蹴撃。突出する右脚が螺旋を巻いて更に鋭気する。

 不幸にもジャンヌは地を離れた瞬間だった。人を逸した跳躍の慣性で小回りが効かず、回避不可能で──受け止めるしかない。

 

「ゔッ、あぁぁっ!!」<バッファロー!>

 

 ドリル状に鈍く尖った脚先に光明の銃剣を突き翳し、空かせた手は全速でスタンプをセットした。

 勢いは欠片も殺せる訳がない。火花を散らした銃剣が腕ごと弾かれ、胴体に螺旋が、接触した。

 瞬間、経験した事のない熱と痛みが全身に伝導する。しかし、激痛への寸刻の忍耐を代償に、ジャンヌは何とか武装操作を完了した。

 

<バッファロー! スタンピングスマッシュ!>

 

 変容した姿は、赤黄緑が象徴するサークル型の両円刄。

 全力がのしかかる致命の寸前に間に合った。デモンズの豪脚とジャンヌの間へ、即座に必殺の噴流を宿して出現する。

 防御に徹した両円刄は金縁を拡げた二重盾となり、蹴撃を見事食い止めた。威力角逐の轟音が劈く中、隔ての向こうのジャンヌも根性で、息と力を入れ直していく。

 向き直り、ジャンヌは円刄に手を添え護身を完成させた。相棒が激痛を堪え奮起する決意の猶予を、ラブコフは捧げ切ったのだった。

 

「ぐっ、これは……悪魔と完全に意思疎通しているというのか!」

「はぁっ、はぁぁ──ラブちゃんもう大丈夫!」

「ラブ〜! 復帰──コブッ!?」

 

 畢竟、広がる必殺の余波に両者共に弾かれた。

 互いに武器が消え、身の自由は効かず。まるで段瀑が打つかのように、何度も積載にぶつかりながら暴落した。

 ひしゃげるような痛々しい音が響く。両者、地面に叩きつけられた。

 

「こ、ブッふ──守っ、た~」

「ラブ、ちゃんッ!? そんな……!」

 

 ──否、ジャンヌの下には緩衝材を買って出たラブコフが。フロッキーな柔らかさが、確かにジャンヌのダメージだけは、十全に緩和した。

 

「なんで──ううん、ありがとう! 絶対無駄にしない!」<必殺承認!>

 

 なぜ自分にここまで、という凄愴は彼女の余裕ある清々しい瞳を受けて、押し込めた。

 戦闘において自分たちは担い手とサポーターのような役。しかし、元は確かに想い一つの同体だ。

 互いに心から献身し合える関係に、今抱くべき想いは尊重と感謝のみ。ならば、結果をもって応えてみせる。

 

<バッファロー! リベラルスマッシュ!>

 

 ドライバーにセットされっ放しのスタンプを再度励起。相棒を硬く変容させ防護しつつ、感覚が薄い瞳無き側の円刄を投擲した。

 必殺の勢いを乗せたそれは、大気を裂いて対象──痛む火花と過電流に衰微したデモンズへ急迫する。

 

<Add──Dominate Up !>

「ぐぅ……だが俺も、来たる若い芽に勇姿以外は晒せない!」

 

<──スコーピオン! ゲノミクス…!>

 

 未来で共に戦うであろう若者たちへ勝手に夢想をかけ、デモンズは力強く再起する。体に鞭打つかのように、生え行く尾節が地に叩かれた。

 

()()だが、やれないことじゃない!)

 

 決意に歯を食い縛るデモンズ。終体まで完全武装が成った厚い毒針を──迫る円刄に向け、アッパーカットの如く突き上げた。

 

(メダルや銭のような形状だが、それこそ持ち手が()()だ!)

 

 大気を劈く円刄が、突如轟音を響かせ停止した。()()()()()()()()()()()()()()様を認識し、ジャンヌは事態に無い眉を顰める。

 円刄の持ち手は中心の穴。その一点に毒針が、耐久性を信じて強引に差し込まれていた。

 机上でスピンするメダルのように、円刄の回転が収まっていく。

 無茶に軋みを漏らす尾節だが、まだ"もつ"と踏み、デモンズは更なる強化に移行した。

 

<Add──クジャク! Domi…

「なッ、重ならな──うわッ!?」

 

 しかし、何故かシーケンスは完遂されず。それどころか尾節まで解除された上、デモンズは後方に弾き飛ばされた。

 

「! ラブちゃんお願い!」

「ラブ〜〜──取れ〜!」

 

 結果自由となった円刄。意思持つままに、完全に怯んだデモンズの手からスタンプを弾き飛ばす。

 受け取ったスタンプはレリーフ付き……調整済みの代物だ。

 

<クジャク! リスタイル!>
      ウエポポポーン!

       ポンポーン!!

█████████

「……惜しいなんてものじゃない。これほどの技量を持ちながら、何故公に恥じる活動を……!」

「恥なんかじゃない! 私は私のやり方で、みんなを守るだけだから!」

「────!」

 

<──リバディアップ!

Ah〜──クジャク!ダダダダーン!>

 

 

 新たに変容するは、双対の鉄扇・クジャクゲノム。ジャンヌの手に収まると共に、総ての羽に火が灯されていく。

 伴い広がる虹色の波動を受けたデモンズは、攻撃傾向から蓋然的に遠距離弾幕が放たれると予見する。互いに限界が近い中、まともに受ければこちらが致命的に──

 

『──OOOを飾る相棒から受け取ったクジャクのアイテムで強化……

 Hey、ヒロミ! なら君もアレで対抗だ! 地球のコアの如き熱さを見せてくれ!』

『狩崎さん!? ハッキングしてまで通信に──いえ、了解しました!』<イーグル!>

 

<Dominate up──イーグル! ゲノミクス!>

 

 何時も唐突でうるさいが頼れる上司の太鼓判を受け、託された選択肢(スタンプ)を選び取る。

 武装展開されたのは緑と紫の両翼・イーグルゲノミクス──その完成と、ジャンヌが火球を乱射したのは同時だった。

 

 しかし前者は即座に宙に飛翔。さらに羽ばたきによって発生したサイクロンが、跳ねる火球を飲み込んだ。

 内部で抗う火球は耀う間もなく消えてしまった。ならばとデバイスに手を掛けた所で、ジャンヌは相手の選択の意図を思い知る。

 

(風が、巨人みたいなおっきさの熱風に──来る!)

 

 取り込んだ熱とエネルギーを融和し、肥大化された指向性暴風。デモンズたちの目論見通り、渦巻く熱風が完成した。荒れ狂う熱量が、目下のジャンヌに押し寄せる。

 

 だが、その地核に墜さんとする威力に、ジャンヌはあえなく飲み込まれた。必然、デモンズはその姿を見失った。

 紅く渦巻かれゆくも健全の人影。ジャンヌは炙熱に苛まれながら、ドライバーを操作し鉄扇を再展開していた。

 どうせもう難しい事はなし。あとは残る雫程の体力をどう削り切るかのみだから。

 むしろ外との断絶を利用し、タイミングを計ってやる。ここは無理くり、底意地を張る局面だ。

 

「「──今だ!」」

 

 決着を果たす時。背部に開かれた飾羽の羽ばたきが、熱風を余さず押し退けていく。間もなく飛び抜けたジャンヌの睥睨が、上空のデモンズと交錯した。

 

 デモンズは位置エネルギーを最大に利用し急転直下。

 ジャンヌは必殺の隆起で変質させた熱風を追い風として受け、天上へ。

 

<イーグル! デモンズレクイエム!>

<クジャク! スタンピングスマッシュ!>

 

「「ハアァァァダアァァーーーッ!!」」

 

 激突する、最高威力の豪脚。刹那を過ぎてなお、過大な熱量を放出して拮抗が続く。羽翼はなおも燦然と奮い加速する。

 入り込めぬ過剰は水平線を苛烈に焼き上げていく。その天災に至る展望に、誰もが地球の核を幻視した瞬間。

 破砕する激音と共に爆心が一気に膨張し、爆ぜた。

 

「ぐぅぅ、ここまで熱が! ヒロミ──!」

 

 大気が激震した爆裂に怯みながら、田淵を始めとした隊員が結末を追う。目前に人体程の煙火が立ち上がっているのだ。

 

「ヒロ<──必殺承認!!> 何だと!?」

 

 やがて煙を闡明した月光の下、かくも凛と立つジャンヌは、地を踏み砕き走り出した。

 そして、限界を押してなお必殺を翳すその眼前には。

 

<スパイダー──Charge!>「ハ、ァああ──」

 

 

 ──コブラ! リベラルスマッシュ!!

 ──デモンズフィニッシュ!!

 

 

 コブラの気風を宿し正中面を突いたジャンヌ。4対の蜘蛛脚と共に紅蓮を突き上げたデモンズ。

 限界を越え弱り果てようと最後まで全力を。儀礼的にすら思える拳は、交差すら無く対象を打つ。

 もはや万全の威力ではなくとも、戦士を討ち取る衝撃だった。両者は再度の爆煙に飲まれ、応戦はここに終幕する。

 数刻後、思い切り弾かれ、防護が爛れた傷塗れのヒロミが隊員の下に転がり出た。

 

「大丈夫か! 蛇女はまだ来るか!?」

「いや、相打った! 倒した手ごたえは覚えている。まだ近くに居るはずだ。

 ──総員! 巨細漏らさず調べ上げろ!」

 

 最後の光景は自分と同じ、蓄積したダメージが超過した変身解除音だった。後は部下たちに任せよう。

 しばらく立ち上がれない痛苦だ。せめて戦闘を顧みておく。常に怯まぬ毅然たる態度、必ず勝利をもぎ取らんとする意気と強さ……言葉通り、人類の守護者でいてくれなければ困る程だった。

 恐るべき実力である以上、せめて脅威と化す事がないようにと、門田ヒロミは願うのだった。

 

 

『なァーに黄昏てるんだ! スタンプをス・チィ・ル、されてるんだけど??』

「──誠に申し訳ございませんでしたッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(はっ、はっ……WE専用経路が無きゃ捕まってた。

 ……この調子で、この力で、本当に──ううん。守り抜くって、決めたの!)

(ラブ〜! その意気〜!)

「ラブちゃん……いつも一緒に、戦ってくれてるんだよね。

 ありがと──これからも、よろしくね!」

 

 そしてさくらもまた、更に力を磨くのだと、何時の間にか背を預け合える程に信頼が実った相棒に誓うのだった。

 

 

◆◆◆

 

 

「──と、いうことで。

 急遽となったデモンズシステム導入は無事成功しましたよ~♪」

 

 後日、月下の闇夜で蒼き睥睨が交差したライダーバトルを、狩崎は嬉々として報告していた。

 この度のデモンズの調整は突然の命令で、非常に難を要した。しかし、結果は主導者の予見通り、急いだ甲斐のある素晴らしい成果とデータを得られたのだった。

 

「これからヒロミは命を懸けて、ライダーを全うしてくれるでしょう。それで、この度はなぜ喫緊の対応となされたのです──」

 

 デモンズ稼働の全てを仕掛けた、儼乎(げんこ)たる挙措で黒の手袋を突き合わせるその人物は──

 

「──赤石長官」

「風雲急を告げる……余所より仮面ライダーが現れるというのは、良くない兆しだったのだよ」

 

 赤石英雄。フェニックス長官にして、人類を3000年以上に渡り監視してきたギフのメッセンジャー。

 不老不死の心身をもって、大局を見定め人類を導くその志は、今回の()()に対しても直ぐ様指針を示してみせた。

 

「もし魔女何某の存在が広まれば、民衆は直ぐに英雄像を幻視しただろう。挙句はフェニックスの正義体系やライダーシステムに、的外れな角を立てかねん。

 ならばこちらも打ち出す他なし。君には多少無理を強いたが、こうして見事応えてくれた。素晴らしいよ」

「………、……」

 

 フェニックスは年々増加するデッドマン関連犯罪に対応すべく、独自のライダーシステムを鋭意開発中だと喧伝している。

 そんな中全く所在不明のライダーが現れることは、フェニックスの信用問題に直結する。既得権益の敗北、データ漏洩、反政府戦力増強の可能性……嵐の如く悪しき風評が突き刺さることが容易に予想されるのだ。

 

 帝国時代の遥か以前より政府の裏から強権を行使し、例として全国区域ほぼ全てにリアルタイムの監視体制を敷いているというのに。それでもなお魔女の正体が分からないのは、少し予想外だった。

 しかし、此度の策は違う。流布される前に、フェニックスから公的な仮面ライダーを"アイコン"として打ち出したのだ。結果、問題の可能性は消え去り、世に出た魔女を何時でも政敵にできる体制が整っている。

 

「デモンズシステムの急ピッチに耐えうるbufferもきちんとご用意していたとは。ただし変身者は、本来予定していた者ではなくなったようですけどね」

「──不服か? 君は"彼"を気にかけていると見えるが、仮面ライダー開発に懸ける一念は比じゃないのではなかったかね?」

「……もちろんですよ! 最っ強のライダーシステムの完成こそが我が人生を懸けるべき使命。今回の件を経て『リバイスシステム』完成はアット・ハーンドのものとなりましたから!」

 

 この事案が齎したフェニックスへの恩恵は片手に収まらない。リバイスのプロトタイプと言える『蛇の魔女』の戦闘データは、本命の『仮面ライダーリバイス』の開発を本来の想定から大きく飛躍させたのだ。

 

(運が良いことに()()()()()()()()()()()()()。半信半疑だったが、態々ヒロミの合宿についていって良かったよ。後は本人用にチューニングするだけ、なんだけどね……)

 

 直ぐには変身が了承されない事情があるにせよ、インスピレーションは音速を越えてドバドバだ。何と無しの憂いはライダーへの情熱に吞み込まれ、湧き立った狩崎は開発を進めるべくその場を後にした。

 

 

 

 

「……さて、これで奇しくも"フェニックス"の体制は騎虎の勢いとなったが──」

 

 ここまでの成果はフェニックスにとっての優良だ。

 赤石の真の目的の一つはギフの復活。そのためには自身が糸を引くもう一つの組織──デッドマンズの"勢い"についても考慮しなくてはならない。

 

 ずばり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 地球上では自身とアヅマ、ベイルしか知らないが、デッドマンは契約解除させた際にエネルギーサイクルが掠められ、埒外の経路を辿ってギフの棺に吸収される。これはギフ復活に直結する事象だ。

 

 つまり、悪魔の契約を破棄するライダーと悪魔獣を用意するデッドマンズを、両者同程度に興隆させることが肝要になるのだ。

 狩崎に語った沽券の懸念はフェニックスだけに留まらない。

 現状が続けば幹部の育成が完了していないデッドマンズが一方的に打撃を受け、エネルギー回収の効率が格段に落ちてしまう。

 かといってギフの恩恵を受けていない一般人ではデモンズの稼働期間に限界があり、今度はリバイス等の完成を待たずデモンズドライバーをデッドマンズに渡さねばならなくなる。ベイルの覚醒状況を利用できるのが悪魔だけである以上、ここはほぼ確定事項だ。

 

 

(悪魔を倒すも機関に依らず市民を守ると豪語する『蛇の魔女』の狙いは、フェニックスとデッドマンズの繋がりを掴むというような陰謀論拠が真っ先に思い立つ。

 背後にどれほどの影が潜んでいるか不明な現状が続けば、ギフ様復活以降まで、私が組織と直に接触できる機会が本来より大幅に減ることになるわけだ)

 

 証拠を押さえらぬよう、公務に徹するポーズを強いられ、裏社会との新鮮なパスが維持できない可能性の問題まで浮上している。

 

 ──しかし、人間万事塞翁が馬。

 悠久の時勢と人類の可能性を観測し続けた赤石が、()()()()の想定外に用意を怠るはずも、好転に利用しないはずもなかったのだ。

 

「ああ、どうか静やかに棺でお待ちくださいギフ様……復活に留まらずその先々まで、計画に揺らぎはありません。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()──未来ある若者たちこそが、いずれ貴方を永劫に至らしめるのです……!」

 

 大仰な身振りで誓いを示す赤石は、その勢いのまま机上のある資料に目を向けた。

 そこに大きなバツで示された者たちの名は────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

「──は? 仮面ライダーデモンズが、動きだした……? ……ぇ?」

 

 わなわなと震え始めた手から携帯が滑り落ちる。床に落ちてなお画面に映されているのは、門田ヒロミとのトーク画面だった。

 本来は機密なのに入試も終わったしいずれ共に働く仲としてこっそり大二にも教えたらしいが、そこじゃない。

 

(な、んで──? お、おかしい。こんな、えっ2019年だぞ、今は……!?)

 

 具体的な年を顧みたことで、あってはならない現実が今この瞬間この世界で進行していることを、理解してしまう。

 本編は2年後だ。信じられない。なぜこんなあり得ない事象が起きてるんだ。監視の目、他のキャラには断然に劣るが門田ヒロミが本編を逸脱する傾向なんてまず一切見なかった。本当に無かった!

 

 脳と心臓が真空に放り込まれたかのように、真っ白に眩み苦しく締まる。即して顔や手が引きつっていくのが分かった。だってこんな、ありえるのか? あっていいのかこんなことが?

 だってそんな、この乖離を認めれば、頑張ったのに、この世界が本編通り進んでハッピーエンドを迎えられる可能性を信じられなく────ビビーッ!

 

「ッ!!?!? ……なんだ通知かよビビらせないでよ今はさほんとなになんなのもう…………」

 

 脚と耳から伝った実質怒号を受け、変な体勢で飛び上がってしまう。滑稽さと現実をごまかすように語気だけでも強めようとしたのに、反してどんどん小さく沈んだ。

 

 頭と一緒に自暴自棄になりかけた目をブルーライトに晒して依存ルーティンに強制送還させる。ほらねこんな時でも若者の身体は正直なんですよ。ちゃんと文明の利器でコントローラブルなんですよ! ……何言ってんだろうコイツ。

 

 今度こそ羞恥心で鈍く再起した身体で、届いたメッセージを開いていく。ああもう、どうあっても、この後いつかきっとあの現実を受け入れないといけ、な───、──、────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「h……?? フェニックス──()()()()()、通知────?」

 

 

 この日、私の生存権は砕け散った。

 

 


 

【悲報】オリ主、絶対落ちたはずのフェニックスに何故か入隊決定してしまう。

 

ミラモンやシフトカー並みに機転が利くラブコフ。弱さを司ることが誰にもバレてないのが信頼ポイント。

ハリネズミは紐が鎖に変わった○インアイアン、イーグルはコンドルの右が紫から緑に。つまりリデコです。

 

今回、配信限定の過去編みたいだなと思いながら書いてました。

つまり全く未知の世界に放られる次章こそ、一叶は真の苦難と決断の時です…頑張れ…

 

 

ヒロミ、2019年にもかかわらず、仮面ライダーデモンズに変身。

狩崎、デモンズの運用開始とリバイスの適合者発見を受け、インスピレーションがドバドバ。

 

赤石、謎の勢力のせいで齎されたフェニックスとデッドマンズの沽券の危機に対し、早急に対応策を弄したい。……既に両者とも目星はついている。

 

 

 

 

 

 

 

【あらすじ】


 

プロローグ / 運命の始まる日

自身が生まれた世界が『仮面ライダーリバイス』という特撮番組のようだと気付いた「水無瀬一叶」は、一般人が生き辛い情勢の中で無事生存することを人生目標に定めた。

その第一歩として、世界の主人公である「五十嵐一輝」に接触するのだった──。

 

モラトリアム編 / 最終猶予終了

安住の地を手にした一叶は、世界の展開が変わる可能性に怯えながらも初めての高校生活をこなしていた。

キーパーソン達との交流により──歪みはもう止まらない。

 

最後の猶予期間(モラトリアム)を越える、少年少女の物語。

 

 

本編消失編 / Episode:0 for 1

世話好きで家族思いな青年・五十嵐一輝は、自分の内で悪魔の囁きが響く症状に悩まされていた。

それぞれの道を往き始めた家族を見て、自らも進む時だと原因を暴くと、意外な適性を見出されることとなり……

 

銭湯と世界。家族と自分。

真に守るべきものが決まる時、歪みを越えて新たなヒーローが誕生する──!

 

 

次章、彼女の再構成が始まる『本編消失編』

しばらくお待ちください…

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