アストロナウト   作:戸口

14 / 33
宇宙飛行士の話
アストロナウト - 0


波を、探して。

波に、向かって。

崩れて、落とされ、押し戻されて。

 

また、波に向かって。

 

何度も、何度も。

がむしゃらに。

無茶苦茶に。

 

何とかなって欲しいって、思いながら。

 

 

 

 

見せてあげたい、私があった。

 

波にカッコよく乗れる、私。

彼と同じ場所に行く、私。

朝、彼を励ましの言葉をかけてあげて。

夕方、一緒に並んで、帰って。

その日のことを笑い合ったり、慰め合ったりできる、私。

 

 

 

私がなりたかった、私に。

彼に見せたかった私に、なれたら。

傍にいても、いいだろうか。

 

どうか、いさせて欲しい。

いつか、いなくなるとしても。

どうか、どうか。

 

波に、乗れたら。

 

 

====================================

 

「遠野先輩のことが、好きです!」

 

七月、もう明日には一学期の終業式を迎え、

僕ら三年生が部員として弓道場に顔を出す、最後の日。

雨が降り出しそうな空模様で、早く帰ろうとしていたところを後輩の女の子に呼び止められて。

誰もいなくなった弓道場の裏で、いきなり告白されてしまった。

 

「…ごめん。もう、相手がいるんだ。」

淡々と、そう答えた。

 

僕はその子とあまり関りが無かったし、何の前触れも無かったから、

小さな驚きはあったものの、それ以外の感情はほとんど無かった。

明里がいる僕には答えが決まり切っているものだったし、

最大限良い方向に捉えても、僕らはただの、たまに話す先輩と後輩でしかなかったから。

淡白さしかない今の自分が、当然だと思えてしまう。

 

その子は僕の答えを聴くと、泣き出しそうに震え始めた。

僕に対して何かしら熱い想いを持っているのは、確かなのだろう。

話したことも、触れ合ったこともほどんどないのに、好きになれることもあるんだな。

そんな好奇心のようなものだけが、微かにくすぐられた程度だった。

 

「それじゃあ、帰るよ。

 これからも部活、頑張ってね。」

 

そう言って、立ち去ろうとすると。

 

「やっぱり、澄田さんなんですか?」

 

その名につい反応して立ち止まってしまい。

半分だけ、振り返った。

 

先程まで悲しみの極致のようだった表情に、

僅かに怒りか、嫉妬か…そういった物々しいものが宿り始めている。

 

「違うよ。」

 

…怒りたいのは、僕の方だ。

それだけ言って僕はもう振り返らず、足早にその場を立ち去った。

 

あの子に言ってあげる言葉なんて、これ以上何一つ無い。

…そう、あの子じゃないんだ。

俺が本当に、終わりを告げたいのは。

全てを明かして、解放してあげたいのは。

 

澄田花苗、なんだ。

 

肩に一粒、大きな水滴が落ちた。

それからすぐ、遠くから雨音がざあざあと近づいてきて、ものの数秒で立派な夕立が体を打ち始めた。

 

今日は、合羽も持っていない。

…本当に、何て日なんだ。

 

雨に濡れた全身の何もかもを諦め、やさぐれながら帰路についた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。