アストロナウト - 0
波を、探して。
波に、向かって。
崩れて、落とされ、押し戻されて。
また、波に向かって。
何度も、何度も。
がむしゃらに。
無茶苦茶に。
何とかなって欲しいって、思いながら。
見せてあげたい、私があった。
波にカッコよく乗れる、私。
彼と同じ場所に行く、私。
朝、彼を励ましの言葉をかけてあげて。
夕方、一緒に並んで、帰って。
その日のことを笑い合ったり、慰め合ったりできる、私。
私がなりたかった、私に。
彼に見せたかった私に、なれたら。
傍にいても、いいだろうか。
どうか、いさせて欲しい。
いつか、いなくなるとしても。
どうか、どうか。
波に、乗れたら。
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「遠野先輩のことが、好きです!」
七月、もう明日には一学期の終業式を迎え、
僕ら三年生が部員として弓道場に顔を出す、最後の日。
雨が降り出しそうな空模様で、早く帰ろうとしていたところを後輩の女の子に呼び止められて。
誰もいなくなった弓道場の裏で、いきなり告白されてしまった。
「…ごめん。もう、相手がいるんだ。」
淡々と、そう答えた。
僕はその子とあまり関りが無かったし、何の前触れも無かったから、
小さな驚きはあったものの、それ以外の感情はほとんど無かった。
明里がいる僕には答えが決まり切っているものだったし、
最大限良い方向に捉えても、僕らはただの、たまに話す先輩と後輩でしかなかったから。
淡白さしかない今の自分が、当然だと思えてしまう。
その子は僕の答えを聴くと、泣き出しそうに震え始めた。
僕に対して何かしら熱い想いを持っているのは、確かなのだろう。
話したことも、触れ合ったこともほどんどないのに、好きになれることもあるんだな。
そんな好奇心のようなものだけが、微かにくすぐられた程度だった。
「それじゃあ、帰るよ。
これからも部活、頑張ってね。」
そう言って、立ち去ろうとすると。
「やっぱり、澄田さんなんですか?」
その名につい反応して立ち止まってしまい。
半分だけ、振り返った。
先程まで悲しみの極致のようだった表情に、
僅かに怒りか、嫉妬か…そういった物々しいものが宿り始めている。
「違うよ。」
…怒りたいのは、僕の方だ。
それだけ言って僕はもう振り返らず、足早にその場を立ち去った。
あの子に言ってあげる言葉なんて、これ以上何一つ無い。
…そう、あの子じゃないんだ。
俺が本当に、終わりを告げたいのは。
全てを明かして、解放してあげたいのは。
澄田花苗、なんだ。
肩に一粒、大きな水滴が落ちた。
それからすぐ、遠くから雨音がざあざあと近づいてきて、ものの数秒で立派な夕立が体を打ち始めた。
今日は、合羽も持っていない。
…本当に、何て日なんだ。
雨に濡れた全身の何もかもを諦め、やさぐれながら帰路についた。