アストロナウト   作:戸口

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アストロナウト - 1

八月一日。

僕はもはや定例となった月一のサイクルで、明里への手紙をポストに入れた。

夏らしく西瓜の写真と、部を引退して使わなくなった弓や道着の写真を同封した。

(なぜ弓道着を着た写真を送ってくれなかったのかと、後日明里に返事で拗ねられてしまった)

 

春休みでの再会後も、僕らは安定した関係にあった。

手紙に書く文章のボリュームは少なくなったが、決して悪いことではない。

明里が塾に頻繁に行くようになったことから携帯電話を買い与えられ、

月に一度か二度は電話で話していたから、書くことも自然と少なくなった。

 

だが、携帯電話という便利で手軽な連絡手段を手に入れた後も、文通はそのまま継続した。

アドレスも知っていたけれど、メールは必要最低限しか使わず。

文章で伝えたいことは、基本的に文通の手紙に書いた。

写真をつけた短い手紙のやり取りが今の僕らの距離には合っていたし、何だかんだで二人とも気に入ってたのだと思う。

 

僕らがあと乗り越えるべきなのは、大学受験ぐらいのもので。

それさえ超えれば、来年の、僕らの春がやってくるのだ。

その未来をより確実にするため、僕は前より真面目に勉強に取り組み、量も自然と増やして行うようになっていた。

 

…こうして月の変わり目にポストに来るのも習慣染みて来たなと、ポストの口を見ながら考えた時。

ちょうど一年ほど前、僕は明里に手紙を出したのだと。

この文通も、もう一年近く続いているのだと、気付いた。

 

それは、同時に。

澄田との関係を何も向き合えないまま、一年が経過してしまったことを意味した。

 

春休みに明里と会った後。

澄田には機会を見て明里との関係を打ち明けようとは思っていたが、中々踏み出せるような雰囲気にならず。

確か五月の下旬頃、次の帰り道で、強引にでも打ち明けてしまおうと決意したのだが。

 

ちょうどその後から、朝の弓道場にも、澄田は顔を出さなくなり。

帰りの駐輪場で会うことも無くなり、今日まで澄田とそんな会話をする機会が無かった。

 

校内ですれ違うことすら稀で、軽く挨拶を交わす程度。

六月の暮れに一度だけ、帰りのコンビニで澄田と鉢合わせた時も、

澄田は妙に楽しそうなテンションで、少しだけ立ち話をした後

「サーフィンの練習に行くから、またね。」と言って、そそくさと原付に乗り、走り去ってしまった。

 

もしかしたら彼女は、もう新しい何かや、誰かに夢中になっていて。

僕に求めることなど、無くなったのかもしれない。

 

実はそもそも、澄田は僕のことをただの友達くらいにしか思っていなくて、

僕はそう大した存在じゃあ、無かったのかもしれない。

そんなように思えてしまう。

 

…そうだったらいいなと、思う。

 

少しの寂しさはあれど、澄田に好意を持たれていたと、僕が勝手に勘違いして。

その勘違いに、僕の寂しさや孤独がいくらか紛らされ、勝手に救われていただけ。

これ以上誰も傷つくことなく、みんな、それぞれが見つけたものに向かっていく。

 

僕は東京に、明里の下に。

澄田は、澄田の望む道に、進んで行く。

それだけの話になるから。

 

そこまで思いいたると、何だか本当にそんなような気がしてきて。

急に肩の荷が降りたかのような軽やかな気持ちになり、それ以降その問題を深く考えるのを止め、受験勉強ばかりの夏休みを過ごした。

 

思い返せば、何て楽観的だったんだろう。

そんなわけが無いと、分かったはずなのに。

 

僕らは同じ、この小さな島の、同じ学校の中にいて。

近くにいれば。

姿が見え、その声の届く距離にいてしまえば。

想いが風化することは無いと、知っていたはずなのに。

 

彼女もきっと、どこか、僕らに似ていたから。

 




9月30日から、秒速5センチメートルの期間限定IMAX上映が始まりますね。
自分は劇場でこの作品を観たことが無かったので、とても楽しみにしています。
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