オレも今年から社会人になり、学生の頃のように自由な時間があんまり取れなくなった。仕事でのストレスは溜まっていく。そんなオレにも楽しみにしていることがある。
それは…パン。社会人になると同時に実家を出て、一人暮らしを始めたのでまだここら辺のことを多く知っているわけではないけど、一つだけ確かなことがある。それは駅前のパン屋さんは美味しいという事実。最初に食べたときの驚きは未だに忘れていない。今まで食べてきた、どのパンよりも美味しかった。
毎朝、仕事に行く前には絶対に寄っていくようにしている。
そしてもう一つ、そのパン屋さんには店番をしている人がいる。どうやら、ゲームが好きなようで行った時は絶対にしている。仕事が入る日は毎日のように通っていることもあって……懐かれてしまった。
今日は休みだから、パン屋にいつもなら来ないんだけど、買い出しをした帰りに気が向いて寄ることにした。
パン屋に来てみたはいいけど、店主が留守なようで店の中は誰もいなかった。だったら帰ろうと踵を帰ろうとしたところ、店の奥から茶髪の女の子が出てきた。
「遊ぼう」
「え…」
「遊ぼうよ~」
女の子はボクの手を取って引っ張って来る。かなりの力で引っ張るものだからボクはそのまま店の中へ連れ込まれた。
茶髪の子はオレをテレビの前に座らせると自分はその隣に腰を下ろした。本当に入っちゃってよかったのかなぁと思って周りを見渡すとゲーム機が無造作に放り出されていた。
「ゲームが好きなのかい?」
「うん。好きなんだ~」
「そうかい。それじゃあ、少しだけ付き合おうかな」
「やった~~」
飛び跳ねるようにというか…飛び跳ねている。嬉しさは彼女の笑顔だけでもわかる。あんあに良い笑顔をしている人を久し振りに見た気がする。大人になるとあんな風に優しい笑顔は消えてしまうもの。
そう言えばと思って、ボクは彼女に質問をしてみた。
「キミの名前って何って言うの?」
「あれ~お兄さんには言ってなかったけ」
まだこの子と知り合って時間は経っていないから、名前すら聞いていなかった。
「うん。まだ聞いてないな」
「ころね」
「ころねちゃんか。良い名前だね」
「うん!とっても気に入ってるんだ~」
自分にもこの子のように自然に笑えた時があったのだろう。社会に出てからそんなに時は経ってないけど、自分も大人になったと言う事かな。
「じゃあ、がんばろう~~」
ころねちゃんは右手を高く突き上げた。
結果的に言うと…自分は思っていたよりもゲームの才能があったようだ。対戦プレーでは負けなし。明らかにころねちゃんは悔しがっているようで頬を膨らませ、ジト目でこちらを見ていた。ちょっと視線は痛かったけど、最後まで油断することなく、やり終えた。
「…まけた~おにいさん、つよすぎるよ~」
「ごめん、ゲームなんてあんまりやらないから」
「あやまらなくてもいいんだよ~」
「そうなの?」
「ころね、誰かとあんまりゲームしたことなかったから…こんなに楽しいなんて思わなかったよ~~ 負けたのは悔しいけどころね、嬉しいよ」
「そうか。君の役に立てたのならオレは嬉しいよ」
それから帰り支度を整えて、女の子にお礼を言って店を出ようとしたら呼び止められた。
「おにいさん~」
「うん?どうしたの?」
「ころねはおにいさんの笑顔が見たかったんだ~いつも店に来るときはキツそうな顔を浮かべているから笑っているところを見たいなぁ~と思って一緒に遊ぼうと誘ったんだよ」
そんなに自分っていつも辛そうな顔をしているのかな。こんな子にも心配されちゃうほど。確かに会社にはまだ慣れていないから疲れが残っていたりしたのかもな。
「ごめんね。キミに心配されてしまうなんて大人失格だね。そして……ありがとう。オレのことを心配して元気づけてくれて。キミのお陰でオレはとっても楽しかったよ」
「そ、それならよかったぁ~ころね、どうやったらおにいさんのことを元気づけられるか必死に考えたんだ。必死に考えた結論に思いついたのが……いっしょにゲームをするだったんだぁ~」
こんなに自然と優しい笑顔を浮かべる人は初めて見た。いつも誰の笑顔を見ても愛想笑いじゃないかと考えてしまうオレがこの子の笑顔だけはそう思えなかった。
「キミには感謝しかないよ。オレなんかのためにここまでしてくれてありがとう。だから、また買いに来るね」
「うん。待ってるよ~ぜっ~たいにきてね~~」
ころねちゃんはオレにも届くような大きな声で叫んでいた。
「また来よう……それじゃあ、来週からも仕事頑張ってみるか」
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