僕は一度だけ常闇トワのことを助けたことがあった。その助けと言うのも本当に大したことではない。ただ落ちたボールペンを拾ってあげただけ。そのたったそれだけ。一般的に見ればごく当たり前のことであり、何もおかしいことはない。でもこれが僕のこれからの学校生活の行方を左右するなんて僕は思っていなかった。あの日から僕の生活は変わった。
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今日もいつものように学校に登校して授業を受けた。休み時間になりトイレに行きたいと思ったからこそ行った。そして僕がトイレをして教室に戻ると…常闇さんが急に迫ってきた。
「…なんでトワに声を掛けないでどっかに行くの?」
「い、いや…ただトイレに行くだけだし、別に言わなくてもいいかなぁと」
「だめ。どっかに行くときは絶対にトワに言って!」
何でか分からないけど、こうなってしまった。あの日以来、常闇さんは僕の行動を制限するようになった。一つ一つの行動に制限を設けられて絶対に側に居ないと何か言われる。
「…う、うん。わかったよ」
「と、トワはキミのことが好きなの!あの時にキミに惚れちゃったの!!だから、絶対にトワの側から離れないで」
「わ、わかってるよ」
ここまで見て、僕と常闇さんが付き合っているように感じた人もいるかもしれないけどそんなことはない。これは僕が断っているとかではなくて告白もされていない。僕も告白待ちとかではなくて、僕には恋を抱いたことがない。だからこの常闇さんへの気持ちが本当に『恋』なのかが分からない。
常闇さんと話す時は妙に緊張したり、常闇さんが他の男子と話していたら少し嫉妬したりする。この気持ちの正体を僕はまだ知らない。
僕と常闇さんの席は隣同士。そして授業中はずっと僕の方に視線は向いているのを知っている。謎の緊張感に授業中は襲われる。
「あ、あの…見られると緊張するので止めてくれると有難いのですが」
「だめ。トワはキミのことをずっと見てたいの」
「そ、そうなんですか…」
常闇さんは学校でも人気を誇っている。だから常闇さんにこんなセリフを言われたい人は多いでしょう。僕なんかよりも。
「でも、それだと授業に全然集中できないんじゃありませんか?」
「それは大丈夫。ちゃんと違う時間で勉強は復習するし、今はキミのことを見ることに集中したいの」
本当に真面目な人。でも、それを僕に向けなくても良いんだけど。見ることに集中されてもこっちがただ恥ずかしくなるだけなので。
「そんなことを言われたとしても……」
昼休みに入るのと同時に俺は購買に行こうと席を立った。
「ねぇ、どこに行くの?」
「え、購買でパンでも勝ってこようかなと思って…」
「じゃあ、トワも行くよ」
こんな感じで僕が席を立つときには決まって常闇さんが隣にいる。今でも学校内では「なんで常闇さんはあんな奴のことを」とか「俺の方が絶対にトワの彼氏に相応しいよな」とかが聞こえてくる。隣の常闇さんはそんな声が全く聞こえていないようだ。僕の腕を掴んだまんま全然離そうとしない。
授業は終わって…それぞれが部活に行ったり、帰路に付いたりしている。その中でも僕と常闇さんは帰路に付いていた。今はお互いに隣同士で歩いている。
「あの…常闇さん」
「なに?」
「僕たち恋人でもありませんし、あんまり学校内で一緒にいるのは避けた方がいいんじゃないですか?」
「なんで?」
常闇さんはなんでそんなことを言われているのかまるで理解していないような顔をしている。
「…学校内でも…常闇さんの評判が落ちているように思えますし、僕と一緒にいると…」
常闇さんは歩みを止めた。それに合わせるように僕も足を止めることにした。
「そんなこと関係ないよ。トワはキミのことが……だ、だ、だいすき!!最初は一目惚れだったんだと思う。でもそれからキミと接していく内にキミの優しさに触れて…もっと大好きになっていった。キミがトワ以外の人を見ていると嫉妬するし、キミがトワに話し掛けてくれるだけでもとても嬉しかった。こんなに誰かの行動に一喜一憂をしたのは初めての経験だった」
「今まで全然勇気が出なくて……でも、キミを誰かに奪われたくなくて…キミの近くに絶対に居て見張ってたの」
常闇さんがどこかに行く時は絶対に声を掛けてというのはそういう意味だったのか。
「でも…これ以上、キミに告白できなくて誰かに奪われたら一生後悔することになるから」
すると常闇さんは深呼吸をして…僕の方を真剣な目つきで見た。
「キミのことが大好き!!!トワはこの世界で一番キミのことが好き!だ、だから付き合ってください!」
常闇さんは頭を下げて僕に対して片手を差し伸べている。よく男性の方からしているのは見るけど、まさか女性の方からこんなことをされるとは思いもしなかった。
ようやく自分の気持ちの正体が分かった気がする。この気持ちの名前は『恋』
「……僕でよければ…」
僕は常闇さんの手に自分の手を重ねた。
「ほ、ほんとに!?」
「はい。これからもよろしくお願いします」
それから僕と常闇さんは手を繋いで帰路についた。
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