「ご主人、何かして欲しいことはありませんか!?」
「ううん。大丈夫だよ」
「やっぱりご主人はすごいですね。ご主人のやっていることは全てすごいです。あてぃしには出来ないことを軽くやってのけますしね」
「……別にそんなことないと思いますよ。それにしても僕と湊さんって恋人同士だよね」
「…う、うん…」
「それなら対等に接してくれてもいいと思うんですよ」
「…む、むりですよ…。あてぃしがご主人と対等なんて…おこがましいです…」
湊さんと恋人関係になって半年近く経つけど未だに恋人関係らしいことは何もない。それに端から見たらこの関係性は「主人」と「メイド」のように見えるんだろう。でもそれは正しい。だって恋人関係と言うよりも主人とメイドという関係の方が言い表しやすいですし。
「僕と湊さんは恋人な訳ですし」
「で、でも…あてぃしにとってご主人はすごい人なので…」
湊さんにとって…僕は『ご主人であり、すごい人』なのだ。そこに『恋人』という言葉は含まれない。恋人でありながらも……恋人ではない。
「じゃあ…湊さん」
「なんですか?」
「頭を撫でさせてくれませんか?」
「い、いいですよ…」
すると湊さんは僕に近づいて来て撫でられるのを待っているようだ。僕はなるべく髪を乱さないように優しく撫でた。僕が「こうしたい」と言えば湊さんは従ってくれる。さっきのも同じで「撫でてくれませんか?」と聞けば確実に肯定的な返事が返って来る。
だから湊さんの方から僕に対しての望みを言われたことは今まで一度もない。そして僕も湊さんにお願いをしないようにしている。だって言ってしまったらどんな無理難題であってもやろうとしてしまうから。
「湊さん、僕の言葉が絶対ではないのです!僕が言っていることが嫌だったら言ってください」
「…い、いやなんてことはありません。ご主人の言葉が全てなので…」
僕はここで言いたい気持ちを抑える。ここで言っちゃったら湊さんは今までよりも僕に対する忠誠心を高めてしまうのは目に見えている。自分が僕から怒鳴られたのは…自分の忠誠心が足りないと解釈してしまうんです。これじゃ悪循環。
「ご、ご主人……なんか怒っていますか…?」
「怒っていませんよ」
「もう一個だけお願いしてもいいですか?」
「な、なんですか?」
「手を繋いでくれませんか?」
「…て、て…ですか!?」
「うん。お願いできるかな。湊さんが嫌なら断ってくれても別に構わないよ」
「…だ、だいじょうぶです」
そして湊さんは手を繋いでくれた。湊さんの手は温かい。でもその温もりを感じても…僕にはやはり嬉しさというものは全くない。
普通の恋人であれば初めて手を繋ぐ時はやはり緊張したりするものなのかもしれないが、少なくとも僕にはその気持ちはない。だってこれは僕が『手を繋ぎたい』と言った結果。言わなければ手を繋ぐことさえもなかった。僕は湊さんのことを…今でも…『愛している』。湊さんに愛が無かったとしても。
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