ウルトラマンクライス   作:らいか@オリトラマン投稿者

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第1話「光の救世主」

 

(1)

 

「こんにちはー。便利屋ホシジマです」

 

『あらあらどうも、今開けますね』

 

 星島(ホシジマ)ナユタは姿勢を正した。彼の仕事は便利屋。個人事業主である。インターホンの向こう側にいた声の主ーーーつまり、今回の依頼者である小田カツコが、ドアを開けて顔を出した。

 

「あなたがナユタくんね?」

 

「はい!今日はご依頼ありがとうございます。よろしくお願いします!」

 

「最近、ほんとに腰痛が酷くてね・・・息子もお正月にしか帰ってこないしさ。だから、思い切ってお願いしちゃおうと思って」

 

 今日の依頼内容は、庭の草刈りだ。今は9月。この時期は草刈りの依頼が増える。9月は一年生の雑草が発芽する時期で、今刈り取っておけば、次のシーズンである3月頃までは、増えすぎるのを防げるからだ。

 

「いえいえ、お役に立てるなら!任せてください!」

 

 ナユタは人懐っこい笑顔を浮かべて言った。

 

「あ、そしたらさっそくお庭の方入っちゃって大丈夫ですか?」

「ええ、よろしく頼むわ」

 

 ナユタは、高校を出てすぐに便利屋を開業した。進路に迷った時、彼は自分自身の中にある、ひとつの「軸」を貫くことにした。それは、「人の役に立ちたい」という強い気持ちだった。

 

 どんな仕事も、人の役に立つ。だったら、何かひとつには絞らず、誰かが必要とすることに可能な限り多く、そして幅広く応えられるように。ナユタはそう考えて、便利屋を開業したのだ。

 

 開業から1年と少し。19歳になったナユタの便利屋稼業はなんとか軌道に乗り、今は途切れることなく仕事ができている。

 

「よーし・・・今日も、やるかー!」

 

 庭に立ったナユタは、生い茂る雑草の群れを前に、握った拳を天に掲げた。

 

第1話「光の救世主」

ノーチラスタイプビースト メガフラシ登場

 

(2)

 

「お疲れ様。どうぞ、召し上がれ」

 

「いいんですか?ありがとうございます!」

 

 午後1時過ぎ。草刈りの仕事を終えたナユタは、小田宅の茶の間に上げてもらい、冷たいお茶をご馳走になっていた。

 

「暑かったでしょう。ほんとに助かったわ、ありがとうね」

 

「いえいえ、今日は風も吹いてますし、全然ですよ!あ、いただきます」

 

 ナユタはグラスに口をつける。美味い。よく冷えた麦茶が身体中に染み渡り、カラン、という氷の音もまた、労働で火照った身体を冷やしてくれるような気がした。

 

「美味しいです!」

 

「池田さんから聞いてた通りね、仕事も早くて、ハキハキしてて。お願いして良かったわ」

 

「そう言っていただけると何よりです!あ、池田さんにもよろしくお伝えください」

 

 小田は、ナユタが別の依頼で何度かお世話になっている池田ミチルからの紹介顧客だった。ナユタはその人懐っこさから、特に高齢者から好かれやすい。ご近所ネットワークでの口コミは、ナユタが仕事をする上で大切な要素だった。

 

「主人が亡くなってから、やる人もいなくなっちゃってね。どうしようかと思ってたから」

 

「・・・旦那さん、かっこいいですね。漁師さんだったんですか?」

 

 ナユタは、仏壇に飾られた遺影、その中に映る男性の姿を見ながら言った。海をバックに、大きな魚を抱えて力強く笑う男性の姿。

 

「そうなのよ。海に出てばっかで、家のことは全然無頓着だったけど・・・草刈りだけは、なんでだかやってくれたのよね」

 

 小田は、少し困ったように、それでいて寂しそうに微笑んだ。ナユタは、きっとこの人はご主人のことが大好きだったんだろうな、と思った。

 

「・・・良かったら、旦那さんのお話聞かせてくれませんか?ほら、色々武勇伝もあるでしょ、海の男なら!」

 

「武勇伝なんて大層なもんじゃないわよ。あ、でもね・・・」

 

 小田は少女のように目を輝かせながら話し始め、ナユタは、思わず頬を緩めた。

 

(3)

 

 時を同じくして。

 

「この星は、宝の山だ」

 

 彼の目には、比喩表現ではなく、この星がーーー正確には、この星に住まう人々が、宝の山に見えていた。

 

 彼が立つのは、空。人の姿に、人ならざる黒い両翼を持つ彼は、その翼をはためかせるまでもなく、人々の生活の遥か上空に立ち、まるで品定めをするかのような目で街を見下ろしていた。

 

「これほどまでに情動溢れる知性体の群れ!・・・素晴らしい。実に素晴らしい星だ、地球は」

 

 お前もそう思うだろう?彼は、その手に持った道具・・・小さな銃のような形をしたそれに向けて語りかけるように、そう言った。

 

「まずは腹ごなしだ。どれにしようか?お前の、久しぶりの食事は。・・・"モンスライザー"」

 

 彼の言うモンスライザーは、まるで脈打つように、怪しい光を放った。

 

(4)

 

 ブー、と音を立てて、ナユタのポケットの中のスマートフォンが振動した。着信だ。

 

「あ、小田さんすみません!ちょっといいですか?」

 

「どうぞどうぞ」

 

「失礼します」

 

 ナユタは頭を下げて立ち上がると、スマホの画面を見る。電話の主は尾花(オバナ)ミサキ。ナユタの幼馴染だ。

 

「あ、もしもし」

 

『もしもし、ナユタ?お疲れ様。仕事終わった?』

 

「お疲れ様。終わって、今お茶ご馳走になってるとこ」

 

『あ、そしたら出るときまたかけて』

 

「うん、時間には間に合うようにするから!」

 

「はーい」

 

 電話を切り、すみませーん、と言いながらもう一度座るナユタ。小田が笑みを浮かべて言う。

 

「あら、彼女さん?」

 

「違いますって!やだなぁ、もう。幼馴染ですよ、幼馴染。あの、俺、"ほしぐも園"で育ったんですけど」

 

「ほしぐも園って・・・天満(テンマ)さんのとこ?」

 

「そうですそうです!」

 

 ほしぐも園。この町、セイウンシティの名手である資産家"天満コウシロウ"が運営する、児童養護を目的とした小規模グループホームの名前だ。

 

「今の幼馴染も、ほしぐも園で一緒で。そいつは短大で資格取って、そのままほしぐも園で保育士になったんですよ。で、今日は園の子の誕生日パーティがあるから、その連絡でした」

 

「あら、そうだったの。それなら、早く行かなきゃじゃない」

 

「あ、はい、もうちょっとしたら」

 

「だめだめ!こんな老人の思い出話に付き合ってないで、早く行ってあげなさいな」

 

 小田に急かされ、ナユタはあれよあれよと玄関前に立たされていた。靴を履き、仕事道具を肩にかけ、小田に深々と一礼する。

 

「小田さん、改めて今日はありがとうございました。お茶までご馳走になっちゃって」

 

「良いのよ、助かったわ」

 

「また旦那さんのお話聞かせてください!巨大サワラの話、すごかったです」

 

「あんなので良ければ、まだいくらでも。またお願いすると思うわ」

 

「ありがとうございます!いつでもお待ちしてます。まだ暑いので、お身体には気をつけて!」

 

 ナユタはそう言うと小田宅を後にして、自転車に跨った。

 

(5)

 

「ただいまー」

 

「あ!ナユタ兄ちゃん」

 

 ほしぐも園の玄関に入ったナユタを、ふたりの少年少女が出迎えた。ミヨコとハルト。現在ほしぐも園で暮らす5人の子供たちの中でも、最年少のふたりだ。彼らは同い年で、小学2年生である。

 

「おかえりー!」

 

「おかえりー!ねえ!プレゼントなあに?」

 

「ただいま!ミヨコ、誕生日おめでとう!プレゼントは・・・秘密だ!」

 

「えー!早く教えてよ!」

 

 ミヨコは、今日ーーー9月17日に誕生日を迎え、8歳になった。年に一度、自分が主役の日だ。願い事は出来るだけ叶えてやりたいけど、とナユタは苦笑する。

 

「パーティでのお楽しみにしろって。それともアレか?我慢できないか?もう8歳なのにな?」

 

「はー?我慢できるし!」

 

 ナユタとミヨコが戯れていると、居間の方からミサキが顔を出した。尾花ミサキ。先程ナユタに電話をかけた幼馴染にして、ほしぐも園で働く保育士だ。

 

「おかえり、ナユタ」

 

「ただいま、ミサキ。もうみんな揃ってる?」

 

「レン以外は」

 

「あ、やっぱり?」

 

「まぁ、いつものこと。さっきタケルが起こしに行ったとこだよ」

 

 ふたりが話していると、ちょうど2階からタケルが降りてきた。

 

「あ、ナユタ兄。おかえり」

 

「ただいま、タケル。また背伸びた?」

 

「どうだろ?」

 

 タケルは高校1年生。ほしぐも園で暮らす子供たちの中では最年長だ。高校に入ってからは身長の伸びが著しく、あっという間にナユタの背を越してしまった。

 

「起きた?レン」

 

「だーめだ。もうアイコさんに任せようかと」

 

「あいつほんと信じらんない。ミヨコの誕生日だよ?ないわぁ」

 

 今度は中学2年生のサヤが居間から首を出し、口を挟む。

 

「ナユタ兄、おかえりぃ」

 

「ただいま、サヤ。なに、またレンとバチバチな感じか?」

 

「いやそういうんじゃないけどさ、普通にありえんくない?家族の誕生日だよ?」

 

 歳が近く、その上いわゆる思春期だからか、ここ最近サヤとレンの中学生コンビはあまり仲が良くない。

 

「疲れてるんだろ。野球部は大変なんだって」

 

「それも腹立つんだって!あいつ朝練は起きるくせにさー!!みんなで出かける時だって、いーっつもこう!」

 

「レン兄ちゃんはねぼすけ!俺は5時に起きれるよ!毎日」

 

 ハルトが誇らしげに会話に入ってきたあたりで、園長夫人ーーー保育士・天満アイコの声がした。

 

「あんたたち、玄関に集まって何してんの・・・。ナユタ、おかえり。ほらみんな、リビングに来なさいな」

 

「アイコさん、ただいま!」

 

「ねえアイコさん、レン起きなかったー。頼んでもいい?」

 

「タケルあんたね、前にも言ったでしょ。レンを起こす時は、情を捨てないと」

 

「思いっきりやっちゃって!アイコさん!」

 

 帰ってきて早々、この騒がしさだ。ナユタがほしぐも園を出て、1年と少し。ひとり暮らしにもだいぶ慣れたが、やっぱり賑やかなのは良いことだな、と思う。

 

 ナユタがリビングに入ると、園長の天満コウシロウがソファに腰掛け、本を読んでいた。ナユタはその隣に座る。

 

「ナユタ、おかえり」

 

「ただいま、園長。具合どうですか」

 

「うん、すっかり良くなったよ。ただの風邪だ。でも、心配かけたね」

 

 天満はここ数年体調を崩しがちで、ナユタはそれが気がかりだ。天満はもう73歳になる。どれだけ普段元気に見えても、やはり、心配なものは心配だった。

 

「ナユタはどうかな?仕事の調子は」

 

「なんとか途切れずにお仕事いただけてますよ。園長のおかげです」

 

「いやいや。私は最初の数件を紹介しただけだ。そこからは、ナユタの努力の結果だよ」

 

 セイウンシティに知人の多い天満は、ナユタが便利屋を開業した時、"どうしたら依頼が来るかわからない"という初歩の初歩でつまづいた彼を助けた。先行きが心配だったものだが、そこからのナユタは自身の努力で仕事を次に繋ぎ、別の人へ繋ぎ、気がつけば立派に"便利屋"をしていた。親代わりとして、天満はそれを心から嬉しく思っている。

 

 ガンガンガン!2階から大きな物音がする。これは、アイコがフライパンをおたまで殴打する音で、寝起きの悪いレンを起こす時の常套手段だった。ナユタと天満は、目を見合わせて微笑む。

 

「ここは相変わらずですね」

 

「そうだね。大事だよ、相変わらずっていうのは」

 

「へへ、そうですね」

 

 もうすぐ寝ぼけ眼のレンが降りてきて、ミヨコのためのパーティが始まる。ナユタは、ミサキが料理を配膳し始めたのを見ると、その手伝いに立つのであった。

 

(6)

 

「おめでとう〜!」

 

 ダイニングにて。文字通りのお誕生席に座るミヨコが、ケーキに刺さった蝋燭の火を吹き消した。拍手。ミヨコは少し照れながら笑う。

 

「ねえ、プレゼントはー?」

 

「食べてからの方がいいんじゃないの?」

 

「やだー!今欲しい!」

 

「ミサキ、もう我慢の限界だってさ。渡しちゃお」

 

「仕方ないなぁ。いいですか、園長?」

 

 天満がにこやかに頷くと、ミサキは苦笑いしながら席を立ち、隠してあったプレゼントの箱を持ってくる。正方形の、大きな箱だ。

 

「えー!なんだろ?開けていい?」

 

「どうぞ」

 

 返事を待たずして、ミヨコは箱の包装を剥がし始めていた。箱の中から出てきたのは、水色の大きな猫のぬいぐるみ。ミヨコは目を輝かせ、興奮気味に言った。

 

「ハチナナちゃんだ〜!可愛い〜!」

 

「え!ハチナナじゃん!可愛い!ミヨコ、うちにも触らせて」

 

「サヤ姉自重しろって、ミヨコのだろ」

 

「うっさい!」

 

「サヤ、レン。仲良くしなさい」

 

 隙あらば口喧嘩を始めるサヤとレンを、アイコが諫める。タケルはスマホのカメラをミヨコに向ける。

 

「写真撮るよー、ミヨコ。はいこっち向いて」

 

「ピース!」

 

「ハルト、ピースがミヨコに被ってる。ちょっと避けて」

 

 和気藹々とする様を、天満は嬉しそうに眺めていた。ほしぐも園を立ち上げて、もうすぐで20年になる。施設の運営は楽しいことばかりではなかったが、それでも、親の庇護を受けられない子供たちに帰る家を、家族をつくりたいという一心でここまでやってきた。

 

「ほらミヨコ、ちゃんと園長にお礼言いなさい」

 

「園長、ありがとう!一生大事にするね!」

 

 ミサキに促されたミヨコは、キラキラした目で天満を見つめてそう言った。こんな光が、消えることなく未来へと繋がってほしい。この子たちが悲しい過去に飲み込まれることなく、自分の存在に胸を張れるようであってほしい。だから、天満はほしぐも園の子供たちの誕生日には、決まってこう言うのだ。

 

「どういたしまして。こちらこそありがとうだよ。ミヨコ。生まれてきてくれてありがとう」

 

(7)

 

 生まれてこなければよかった。

 

 セイウンシティ内、とあるマンションの屋上にて、藍沢(アイザワ)ユウリはそう呟いた。その呟きは騒がしい街の音に掻き消され、誰に届くでもなく、ただポツリと、ユウリの心の中に落ちていった。

 

 それは呪いの言葉だ。落ちていく過程で言葉は針のような姿に変わり、心の奥の奥、最も脆い部分を残酷に突き刺した。もう涙も出なかったが、言葉では形容できない真っ黒な何かが自分の中に渦巻き、身体中に充満する様をユウリは想像した。

 

 ユウリは26歳の女性で、今は働いていない。愛する男の裏切りと、それに付随して起きたある出来事により、ユウリの心は壊れていた。

 

 ユウリが自身の住まうマンションの屋上に来たのは、夕涼みをするためではない。地上16階。人の命を終わらせるには、ここは充分な高さをしている。

 

 ユウリは屋上の柵に足をかけ、その上に立った。このまま目を閉じて力を抜けば、それだけでこの苦しみは終わる。そう思うと、ユウリは少し嬉しくなった。もういいんだ。もう、痛いのも辛いのも苦しいのも、全部終わり。もういいんだ。

 

 強い風が吹き、ユウリの身体はそのまま宙を舞った。

 

「もったいないな」

 

「!?」

 

 束の間。マンションの屋上から投げ出されたユウリの身体は、ありえないことだが、そのまま空中で静止した。"彼"の仕業だった。

 

 屋上に立つ彼は、その指先から放つ念力をコントロールし、ユウリの身体を浮かせ、柵の内側へと引き戻した。尻餅をついたユウリは、今起きた出来事と、目の前に立つ異様な男ーーー黒い両翼を持つ、スーツ姿の男に、戸惑いを隠せない。

 

「・・・なに、あんた」

 

「名前か?シュライグ。それが俺の名前だ」

 

「そうじゃなくてさ、なにしたの、今」

 

「念力だ。この星の知性体・・・人間には、馴染みのない概念だろうが」

 

「意味わかんないんだけど」

 

「こうすればわかるか?」

 

 シュライグはそう言うと、指をパチンと鳴らした。その瞬間、シュライグの相貌は、端正な顔立ちをした男性から、鳥の化け物のような姿に変化した。ユウリは思わず悲鳴を上げる。

 

「俺は銀河の果て、サイコビーク星からやってきた。お前たちからすれば、宇宙人だ」

 

「宇宙人・・・ほんとにいたんだ」

 

「この星は文明レベル1、未開の土地だ。知らなくて当然だろう。・・・さて、藍沢ユウリ」

 

名前を呼ばれたユウリは驚く。名乗ってはいないはずだ。

 

「俺は心を読むことができる。面倒だからその説明は省くぞ。・・・俺が地球に来たのは、"怪獣"を作るためだ」

 

「怪獣・・・?」

 

「そうだ。知性体の情動、特に・・・破滅的な、負の情動だ。俺は、そこから怪獣を生み出すことができる」

 

 シュライグは、その手に小さな銃のような道具ーーーモンスライザーを構える。

 

「お前の情動は素晴らしい。人を憎み、世界を憎み、そして、己をも憎む黒く深い情動だ。きっと、立派な怪獣を産んでくれるだろうと思ってな」

 

「・・・怪獣って、なにするの」

 

 ユウリは立ち上がり、シュライグを正面から見据える。その振る舞いに、シュライグは少し驚いた。ユウリから、怯えの心が消えたからだ。

 

「簡単だ。怪獣は、壊す。その怒りの、憎しみの、悲しみのままに暴れ、全てを破壊する。今からお前の心が産み出す怪獣は、この街を壊し尽くすんだ。どうだ、面白いだろう?」

 

「・・・それって、」

 

 ユウリは、ニヤリと笑った。

 

「最高じゃん」

 

「そう、最高だ」

 

 シュライグはユウリに向けてモンスライザーの引き金を引き、その次の瞬間、セイウンシティの上空に"それ"は顕現した。

 

(8)

 

 それは貝とも軟体生物ともつかない姿をしており、地上の人々にとっては、50m大のそれが生物であるかどうかさえわからなかった。

 

「なにあれ」

 

「え、なに、怖いんだけど」

 

 突如現れた異形を見上げ、ざわつく街。それの現れた周辺の空は、まるでオーロラのように揺らめき、不気味な、それでいて幻想的な気配を醸し出す。

 

 人々に、考える時間はあまり多くは与えられなかった。その異形は、突如悍ましい雄叫びを上げたかと思うと、その身体の下部ーーー触覚のように伸びた部位から街に向けて、赤い電撃光線を放ったのだ。

 

「うわぁぁぁ!」

 

「化け物だ!」

 

 爆音。人々の怯える声。ビルを、アスファルトを貫いて走る電撃は爆発を引き起こし、未曾有の危機が顕現したことを人々に知らしめた。

 

 ユウリは、その様を呆然と見つめていた。

 

「どうだ?あれがお前の産み出した怪獣。"メガフラシ"だ」

 

「あれが・・・私の・・・」

 

 ユウリは、心の奥が脈打つのを感じた。かつて感じたことのない高揚感。この感情は。この感情は、なんだ。

 

 気がつくと、ユウリは叫んでいた。

 

「いけぇー!メガフラシ!壊せ、全部壊せ!あはははは」

 

(9)

 

「なんだ・・・あれ」

 

 ナユタは、そう遠くない空ーーー少なくとも、同じセイウンシティ内であろう空に浮かぶメガフラシを見て、唖然としていた。鳴り響く警報音と、それすら掻き消す爆発音。メガフラシの光線による、破壊の音だ。突如として起きた出来事に、頭が追いつかない。

 

 ーーー落ち着け!ナユタは、自身の頬を両手でピシャリと叩く。あれの意味はわからないが、ひとつだけわかることがある。それは、ほしぐも園のみんなを連れて、一刻も早く、あれから遠ざからなければならないということだった。

 

「ナユタ!」

 

「ミサキ!みんな連れて逃げるぞ!」

 

「逃げるって、どこに?」

 

「とりあえず、あいつがいない方向に!」

 

「・・・わかった!とりあえず、防災頭巾だけ準備してもいい?」

 

「手伝う!」

 

 ナユタ、ミサキ、ミヨコ、ハルト、レン、サヤ、タケル、天満夫妻。9人はほしぐも園を後にして、メガフラシからの避難を開始した。見るからに渋滞が起きており、車は使えない。現に、大多数の人が車を乗り捨て、そのまま走って逃げてゆく。悲鳴、狂乱。初めて直面する"怪獣"という危機に、街はパニックに陥っていた。

 

 ナユタは先頭をミサキに任せ、最後尾を走っていた。まだ小さいミヨコやハルト、そして高齢の天満夫妻がいる。避難する人々で街は混んでおり、走りづらい。人混みの中で、子供たちはみんな不安そうな顔をしている。当然だ、大人だって不安なんだから。

 

(俺が、なんとかしないと)

 

 万が一、この子たちに何かあったら。園長に、アイコさんに、ミサキに何かあったら。絶対にダメだ。俺が守らないと。今ここで、役に立たないとーーー

 

 ナユタは、ハッと我に返る。

 

「ミヨコ?」

 

 頭に血が上り、気がつかなかった。いつの間にか、ミヨコがいない。そんな。ミヨコは、タケルと手を繋いで走っていたはずだ。

 

「え?ミヨコいない?!」

 

「うそ!」

 

「やばいじゃん!タケ兄、なんで手離したの!?」

 

「俺も今気づいたんだって!」

 

 サヤがタケルに食ってかかるが、タケルも気が動転しているようで、呂律が回っていない。

 

「サヤ、やめなさい。・・・私が探しに行く」

 

 天満はふたりの仲裁に入ると、そう言った。ナユタがそれを制する。

 

「ダメです、園長。俺が行きます」

 

「ナユタ、しかし」

 

「ミサキ!みんなを頼む!先行っててくれ!」

 

「ナユタ!」

 

 ナユタはそう言い残すと、列を離れ、人混みの中をただひとり逆走し始めた。

 

「ミヨコー!どこだー!」

 

(10)

 

 ミヨコは当然、怖かった。しかし、恐怖に勝る感情が彼女の中にあり、それが、列を離れてほしぐも園へ戻るという行動を彼女に取らせてしまった。

 

(ハチナナちゃんの、ぬいぐるみ)

 

 パーティでもらった、プレゼントのぬいぐるみ。ほしぐも園に置きっぱなしだ。園を出る時、なにがなんだかわからないまま外へ連れられたミヨコは、後になって、ハチナナを置いてはいけないと強く感じた。

 

 ミヨコは人混みをかき分け、ほしぐも園に向けて走った。やがて、ミヨコは園に到着した。しかしーーー

 

(鍵、開かない)

 

 扉には鍵がかかっており、ミヨコでは開けられない。ガチャガチャと、なんとか扉をこじ開けようとするが、どうにもならない。

 

「ミヨコ!」

 

「ナユタ兄ちゃん!」

 

 そこにナユタが駆けつけた。ミヨコを見つけ、ナユタがとりあえずは安堵の表情を浮かべる。

 

「何してんだミヨコ!早く逃げないとだろ」

 

「でも、ハチナナちゃんが」

 

「・・・気持ちはわかるけど、今はダメだ。大丈夫、まず今は避難して、ハチナナちゃんは後で迎えに来ような。いいか?」

 

「やだ!ハチナナちゃんも一緒に行くもん。一生大事にするって、言ったもん」

 

「ミヨコ・・・」

 

 ナユタは困ったように、ミヨコと上空のメガフラシを交互に見る。先ほどより、こちらに近づいている。考えたくないことだが、移動しているのだ。

 

「ん?」

 

 ナユタは、メガフラシの様子が変わったことに気がついた。電撃が、止んだ。空中に静止したまま、何かーーー虹のような、オーロラのような光を放っている。

 

「うわっ!」

 

 そして、その光がこちらに向けられたことに気づいた時には、もう手遅れだった。

 

「ミヨコ!」

 

「ナユタ兄ちゃん!」

 

 それは、メガフラシの放つ無重力光線だった。メガフラシが、生物を捕食する際に使用するものだ。意中の生物だけを浮かせ、吸い上げ、自身の口腔へと導いて捕食するーーーナユタとミヨコは、それを浴びてしまった。

 

 浮遊するナユタとミヨコ。ふたりだけではない、周りにも、メガフラシの無重力光線を浴び、十数名の人々が浮遊していた。それぞれが恐怖の叫び声を上げ、必死にもがくが、逃れることができない。

 

「ミヨコォーーーッ!」

 

 ミヨコはナユタよりも速く、メガフラシに向けて吸い込まれてゆく。ナユタはミヨコに向けて、力の限り手を伸ばす。ミヨコもまた、ナユタに手を伸ばした。しかし、ふたりの距離は離れてゆくばかりだ。

 

(くそっ、くそっ!俺はこんな時に、役に立てない!何も、護れない!)

 

 ナユタの目に、涙が滲んだ。その時だった。

 

 どこからともなく現れたその"光"は、ナユタとひとつになり、眩い輝きを放ち始めた。

 

(11)

 

 ・・・光の中に、ナユタは目を覚ました。

 

(ここは・・・)

 

 見渡す限りが、光。荘厳で、それでいて暖かい、黄金の光。ナユタは光の中に浮かんでいた。いや・・・正確には、ナユタもまた、光となっていた。

 

 声が聴こえる。

 

(光の・・・巨人・・・)

 

 声が聴こえる。

 

("クライス"・・・)

 

 声が聴こえる。

 

(戦う・・・力・・・!)

 

 声が、聴こえる!

 

「俺に、護る力をくれ!」

 

 ナユタは、その右手に現れた道具・・・光の巨人、その力の鍵となる神器"クライスター"を天高く掲げて叫んだ。

 

「クラァーーーイス!」

 

(12)

 

 その瞬間、ナユタの肉体は巨人の姿へと変化した。そしてその魂は光となり、巨人の中に溢れる。

 

「シュアッ!」

 

 黄金の光を纏う巨人は、飛行したまま、真っ直ぐに右手を伸ばした。その先には、ミヨコがいる。

 

「ナユタ・・・兄ちゃん・・・?」

 

 巨人の手は、ミヨコの身体を優しく包み込んだ。光り輝く掌に乗ったミヨコは、何が起きたかわからなかったが、それでも、ーーーその優しい光に、安堵を感じた。

 

(ミヨコだけじゃない!)

 

 巨人ーーークライスは、無重力光線で浮かぶ他の人々にも目を向けた。全員を同じ方法で回収していたら間に合わない。どうする。ナユタがそう考えた時、彼の脳裏にビジョンが浮かぶ。

 

(できるのか、そんなことが!・・・いや、やるしかない!)

 

 「デヤァッ!」

 

 クライスは、左の手から光の鞭のようなものを放つ。光の鞭は伸び、しなり、無重力光線で浮かんだ人々全員に触れる軌道を描くと、そのままクライスの手元へと戻ってきた。左の掌の中に、人々を救出することに成功したのだ。

 

 (よし!)

 

 クライスはメガフラシから距離を取ってから、そのまま地上へ降りた。ーーーこの辺りが避難所になっているようだ。クライスはしゃがみ込んで、ミヨコと左掌の人々をそこに降ろす。

 

 視線が集まっているのを感じる。人々が、自分を見上げている。当然か。巨人なんて、見たこともない。しかしその視線は、恐怖でもなく、不安でもなくーーー希望。人々からの、希望の眼差しであった。

 

 ミヨコが叫ぶ。

 

「ありがと〜!」

 

 クライスは、ミヨコに目を合わせて、深く頷いた。

 

(13)

 

「あれは・・・クライス?!馬鹿な!なぜ地球に!」

 

「ねえ、なんなの、あれ」

 

 シュライグは、突如として現れたクライスの姿に狼狽えているようだ。ユウリは不思議そうに訊ねる。

 

「・・・細かいことはいい。あれは、俺たちの敵だ。叩き潰せ、メガフラシ!」

 

 メガフラシに接近し、地上に立つクライス。その姿を見上げ、対峙する。

 

(さっきはあんなに大きく見えたけど、今は・・・)

 

 クライス自身も、メガフラシと同じく50m級のサイズがあるのだ。人間の姿で見上げた時と比べると、感じ方はまるで違う。

 

(さっきからずっと、頭に浮かんでる。まるで、教えてもらってるみたいだ)

 

 クライスはメガフラシを見据えると、頭の中に浮かぶビジョンーーーその、必殺の一撃の構えを取った。腕を十字に組んで放つ、破壊光線。その名前はーーー

 

(スターレイ・・・うわっ!)

 

「デヤァ!?」

 

 クライスが光線を放つその寸前、メガフラシが電撃を放ち、それを妨害した。電撃はクライスに直撃し、思わず膝をつく。

 

(熱い!痛い!・・・けど、思ったより平気だ)

 

 とはいえ、このまま上空から電撃を浴び続けるわけにもいかない。

 

(・・・まず、あいつを地上に!)

 

 クライスは、メガフラシの真下を確認した。視力や感覚能力も、巨人の姿に合わせて超人的なものに変わっていることがわかる。メガフラシの真下に、逃げ遅れた人はいない。

 

 「ダァッ!」

 

 クライスは電撃攻撃の隙間を縫って跳躍し、メガフラシに飛びかかった。空中でメガフラシの肉体を抱えると、飛行の際の推進力を使い、そのままメガフラシを地面へと叩きつける!衝撃音。大地が揺れ、土埃が舞う。

 

(よし!)

 

 クライスは、メガフラシの相貌を正面から見据えた。赤い目、なんてグロテスクな顔だ。身体は貝殻のようになっており、見るからに高い防御力を持っていそうだった。

 

(・・・柔らかそうなところを攻撃しよう)

 

 その顔面や首にあたるであろう部分に、一心不乱にパンチやチョップを加える。ナユタは、何か人や物を殴った経験などほとんどない。やけっぱちに近い攻撃だったが、効いているようで、打撃が命中するたびに、メガフラシの体表から火花が散った。

 

「グァッ?!」

 

 しかし、優位に立ったのも束の間。再び電撃攻撃が放たれ、クライスを襲う。痛みに怯んだ隙をついて、メガフラシは突進攻撃を繰り出した。クライスは後方へ吹き飛ばされる。

 

(まずい!)

 

 クライスはその超感覚で理解する。自分が吹き飛ばされた先には、避難中の人々がいる。このまま落ちたら、自身の身体で彼らを潰してしまう!

 

(うおおおおお)

 

 クライスは空中で体制を立て直し、そのまま飛行姿勢を取った。地上に落ちる前に再浮上し、上空へ。そして急降下!メガフラシの顔面にめがけて、渾身の飛び蹴りを放った。激しい火花が散り、メガフラシの顔面部分、角のような部位が弾け飛んだ。・・・怯んでいる!

 

(よし、今度こそ!)

 

 クライスはバックステップでメガフラシとの距離を取り、再び腕を十字に組む。必殺の破壊光線の構えだ。両腕に、大きな力が充満してゆくのを感じる。

 

(これで、終わりだ!スターレイ・ストリーム!)

 

「デヤァァァッ!」

 

 閃光。クライスの両腕に集まったエネルギーは、十字に組んだ腕の両掌ーーーその側部から、その腕が模した形のまま、つまり十字型の光線となって放たれた。凄まじい光のエネルギーの奔流が、メガフラシを焼き尽くす。

 

 やがてメガフラシは、その光のエネルギーを受け止めきることができず、自身もまた、光の粒子となって消えていった。

 

(やった・・・勝った!)

 

 腕を下ろし、肩で息をするクライス。街の至るところで、歓声が湧き上がるのが聴こえた。辺りを見渡すと、避難していた人々が、歓喜の表情を浮かべながら、クライスに視線を集めている。

 

「ありがとう〜!」

 

「ありがとー!」

 

 クライスーーーナユタは、街を見下ろしながら思った。

 

(よかった。俺は、みんなの役に立てたんだな)

 

 クライスは武器を下ろすように力を抜くと、その身体は光に包まれ、やがて小さくなり、ナユタの姿へと戻っていった。

 

(14)

 

「私の・・・私の、怪獣が」

 

 クライスとメガフラシの戦いを屋上で見ていたユウリは、茫然自失となり、へたり込んでしまった。人間の顔に戻ったシュライグもまた、苦虫を噛み潰したような顔をしている。

 

「クライス・・・ここでも邪魔をするのか?しかし、なぜだ。お前は、あの時・・・」

 

「そんなのどうだっていいよ!ねえ、また私の怪獣作ってよ。ねえ!」

 

 ユウリが、鬼気迫る表情でシュライグに掴みかかる。シュライグはそれを突き飛ばした。

 

「図に乗るな。お前の情動はもう使い物にならん。・・・死ぬなりなんなり、好きにしろ」

 

 シュライグはそう言い残すと、瞬く間に姿を消してしまった。ひとり残されたユウリは、叫んだ。

 

「ふざけんな!作れ、私の怪獣、作れェーーーッ!」

 

(15)

 

「ミヨコ!」

 

「ミサキ姉ちゃん!」

 

 避難所。ミヨコがミサキたちを見つけて、駆け寄ってきた。

 

「どこ行ってたの!心配したんだから!」

 

「ミサキ姉ちゃん、ごめんなさい・・・」

 

「でも、よかった・・・」

 

「ねえ、ナユタ兄は?一緒じゃないの?」

 

 レンがそう言うと、場の空気が凍りついた。そうだ、ミヨコを探しに行ったナユタが一緒にいない。まさか・・・最悪の予想が、彼らの頭を過ぎる。

 

「ナユタ兄ちゃんは・・・えっとね、ピカピカってなって、助けてくれたよ」

 

「会えたのか!?で、今どこにいるの、ナユタ兄は」

 

「うーん・・・わかんない」

 

「わかんない?!お前なぁ、ナユタ兄はお前を探しに」

 

「やめなさい、レン」

 

 ミヨコが、レンの問い詰めるような口調を怖がっているのを察した天満が割って入る。

 

「・・・私がナユタを探しに行ってくるから、みんなはここで待ってなさい」

 

「園長!俺も行くよ」

 

 タケルが名乗り出るが、天満は厳しい表情で首を横に振る。天満が歩き始めたその時、声がした。

 

「おーーーい!」

 

 一同は、手を振って走ってくる彼の姿を・・・ナユタの姿を、人混みの向こうに見た。

 

「ナユタ〜!」

 

 ーーー突如として、街を襲った脅威。怪獣、そして謎の宇宙人シュライグ。この星が初めて直面する恐怖の前に、光の巨人の力を手に入れた青年・星島ナユタの運命は、この日を境に大きく変わり始める。これは、やがて宇宙を駆け、多くの命を救うことになる"星の勇者"ーーーその、誕生の物語だ。

 

(16)

 

 宇宙空間。銀色に輝く光の翼を持った飛行物体が駆けてゆく。その飛行物体は、いわゆる宇宙船。その中に乗り込んだ青年は、その瞳に青い星の光を映し、こう言った。

 

「あれが地球か。見つけたぞ・・・クライス!」

 

続く。




 次回予告

 自身の得た力の意味に悩むナユタの前に、謎の青年が現れる。

「お前、どうやってそれを手に入れた?なぜ、それが使える!」

 そして、街に怪獣パズズが現れる。しかし、・・・変身ができない?!

 次回「星の翼」
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