たった1つの笑顔   作:粗茶Returnees

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 いつも誤字修正ありがとうございます。


アラバスタ王国④

 

 ビビの提案も入れたライブ案となると、最初に行う場所は当初の予定のアルバーナではなく、西にある大きな町レインベースからになる。その場所から時計回りに町を周り、最終的にユバに行く。ユバはオアシスであり町というには小さな場所だが、そこで生活している者たちもいる。ウタがライブを行わない理由にはならない。

 そんなわけで一行はアルバーナで2泊した後、レインベースへと向かっていた。アラバスタのほぼ中央に流れるサンドラ河は、対岸まで50kmはある巨大な河だ。

 それを渡るための船も、コブラの手配で用意されている。今はそこに行く道中だ。

 

「この帽子…、今はルフィが持ってるんだ……」

 

「恩人から預かってるって話だったか」

 

「……っ。他の手配書はルフィの友達なんだね」

 

(友達て……。まぁいいか。言い方は人それぞれだし)

 

「ロロノア・ゾロ。いかにも悪そうな感じ」

 

「額は一味で2番手か。ルーキーで億超えは凄いな」

 

 実際天竜人を殴り飛ばすという事件があったあの日、最悪の世代と称される億超えルーキーたちがシャボンディ諸島に集っていた。それでも億超えは11人。数多く海賊がいるこの時代でも、ルーキーで億を超えるのは稀なのだ。

 

「ナミ…………この人モデルか何か? これ手配書だよね?」

 

「ははは、ある意味人気は高いらしいぞー」

 

「年も近そう。……ルフィこういう娘と冒険してるんだ」

 

「女海賊くらいいるだろ。王女やってるけどビビも仲間らしいし」

 

「それはそうなんだけど……。まあいいや。……次が……そげキング? 仮装してるよねこれ。手配書としてどうなの? ルフィもいい笑顔で載ってたけどどうなのこれ」

 

「その鼻で判断できるだろ。ギリギリ手配書として有効だ。たぶん」

 

「ほんとにー? 次が……ぷっ、あははははは!! これっ、けほっ。……ふっあはは! これおもしろすぎるよ! ひぃぃお腹痛い! 涙も出てきちゃった……!」

 

「はははははっ、いやーこれは気持ちわかるな~。くくっ。黒足のサンジだけ写真じゃなくて似顔絵とは」

 

「あはははははっ! だめ、みたらわらっちゃうから、ベルナート、それかくして」

 

「はいはい」

 

 サンジの手配書を一番下へと移し、代わりに一番上となったのは麦わらの一味の船医(ペット)ことチョッパーだ。これはサクラ王国でも見た手配書であり、笑いを落ち着かせるためにウタはそれを眺める。

 

「はぁはぁ……。ふぅーー、よしっ。……前も思ったけど、なんでペット?」

 

「本人たちからしたらペットなんて思ってないだろうがな。元はトナカイって考えたら、その額も仕方ないかって思うとこはある」

 

「どういうこと?」

 

「悪魔の実ってのは、その能力者が死ぬとまた世界のどこかで発生するんだ。もちろん死体は能力がない。この手配書の姿は能力を使った状態だろうけど、死ねばトナカイになる」

 

「あ、もし懸賞金を高くしちゃうと、野生の普通のトナカイを狩猟しちゃう人が出てくるんだ」

 

「予想だけどな。麦わらの一味は少数海賊ってビビも言ってたし、司法の島での事件があるから、全員を賞金首にするしかなかったんだろう。政府側の苦肉の策ってとこだな」

 

「50ベリーってお菓子が買えるくらいの額だし、これなら誰もトナカイを狩猟しないね。それにしてもかわいいな~~! 会ったらぎゅーってさせてもらおうっと!」

 

 わたあめと一緒に写真に写っている。これが好物なのだろうと予測するには分かりやすく、ウタはその事を記憶に留めることに。

 

「その次はニコ・ロビン。この前見たね。……改めて見ると美人だよね」

 

「美人だな。……何だその目」

 

「別にー。好みじゃないって言ってたわりに、じーって見てるなーって思っただけだけど?」

 

「……世界でただ1人歴史の本文(ポーネグリフ)を読める存在だ。いろいろと思うことぐらいあるさ」

 

「ふーん? そういうことにしといてあげる」

 

「あのな」

 

 2人の話はその場にいるゴードンにも当然聞こえる。そして2人の倍以上生きているゴードンは、オハラの件も知っていた。

 音楽の島と考古学の島。ジャンルも違えば海も違う。そことの交流こそなかったが、世界最高の考古学者クローバーのことは聞き及んでいた。

 音楽を愛するが故に、エレジアに封印されているトットムジカを呼び起こす楽譜を処分できない自分と。考古学に人生を注いでいたが故に、禁忌に触れてまで歴史を紐解こうとしたクローバー。

 

(……臆病な私と、危険を承知で学者の本分を貫いたクローバー博士。……似つくわけがないか)

 

 ある意味では似ているとも言えそうだが、ゴードンはそうは思わなかった。

 コブラと話したことも思い返しつつ、1人静かに砂漠を眺める。この広大な砂漠を見ていると、自分の小ささが身にしみると思いながら。

 

「あのなウタ。さっきからモデルだの美人だの言ってるけど、お前もそっち側だからな?」

 

「……?」

 

「お前……。いいか。ウタは、十二分に、かわいいんだよ。モデルになれるぐらいに」

 

「またまた~。そんなこと言っちゃって~。…………え、ほんとに? 本気で言ってる?」

 

「こういうことで嘘ついてどうすんだよ」

 

「え、いや……。う、嬉しいけど……。どうしたの急にそんなこと言っちゃって」

 

「ウタが麦わらの一味の女性陣に思うとこがあったみたいだから」

 

「あ、励ましてくれてたんだ。……ふふっ、ありがとうベルナート。お世辞じゃない分もっと嬉しい」

 

「どういたしまして。それで最後の1人が、鉄人(サイボーグ)フランキーか」

 

「さいぼーぐって体からいろいろ出る人?」

 

「そんな感じ」

 

「……人?」

 

「人なんだろ。鉄人は言い換えたら改造人間だからな」

 

「……ルフィの仲間って面白い人多いね。バラエティに富んでる」

 

 実際には音楽家のブルックも加わっているのだが、その事はまだ正しく認知されていない。彼の手配書も50年前のものだ。しかも今では動くガイコツ。結びつけるのも難しい。

 ウタはルフィの手配書へと戻し、そこに載っている麦わら帽子とルフィの傷を撫でる。

 

「この傷も私が知らないやつ。どんな怪我したんだか」

 

「最初の手配書の時から傷はあったな。名を上げる前からの傷だと思う」

 

「そうなんだ」

 

 その声色も、撫でる指も優しかった。

 ただ懐かしんでいるだけではないのだろう。ルフィの話を聞こうと、海賊嫌いは変わらない。ビビも「ルフィさんは特別」と思っている節があった。海賊というのは、無法者が圧倒的多数だ。

 整理をつけようとしても、なかなかそれができない。手配書から目を離せなくなったウタの手を、ベルナートが軽く握った。

 

「……? ベルナート?」

 

「前々から気になってたんだけど、ウタが左腕につけてるそれ何? 手の甲のとこに変なマークあるけど」

 

「今さら聞くんだ。……このマークはルフィが描いた麦わら帽子だよ」

 

「瓢箪だろ」

 

「あはは。下手くそだよね。でも麦わら帽子なんだって。それでルフィがこの絵を私にくれたの。私たちのマークに、新時代のマークにしようって」

 

「新時代、か」

 

 その話を聞いてベルナートはふと思い出した。頂上戦争の直後、ルフィはオックス・ベルを16点鐘した。

 去る年に向けて8回。来る年に向けて8回。新年を祝うそれを、しかし季節外れの時期に行った。ビビ曰く、それらは話題集めのためで写真が本命。麦わらの一味に何が起きたかは不明だが、仲間に向けたメッセージだと言っていた。

 しかし今のウタの話ではどうだ。幼い頃に「新時代」を口にしている。ウタに釣られて言っただけかもしれないが、もし彼が本気ならこの16点鐘もそういう意味で正しいと言うことになる。

 2つを合わせてしまえばつまり「2年後に新時代に向けて動き出す」ということだ。もう半年は経っているから、あと1年半か。

 

「──ナート。ベルナート」

 

「ん、ああごめん。考え事してた」

 

「あのさ……うーん、やっぱ今はいいや。私も考えてることあるけど、固まったら話すね」

 

「え? あぁ、うん」

 

 ウタがどんなことを考えているのか。ベルナートにはそれが皆目見当もつかず、ゴードンは最悪のパターンを想定して静かに冷や汗をかいた。

 

 

 

 

 

 

 アラバスタの西側にあるレインベースは、夢の町と称される場所だ。首都アルバーナに次ぐ大きな町というのもあるが、その呼び名の要因としてカジノがあることが大きい。

 ギャンブルは娯楽の1つだが、大勝ちすればそれこそ夢のような大金も掴める。「夢を買える」などという謳い文句もあながち誇張ではない。

 

「ライブで収入があるとはいえ、ギャンブルはほどほどにするように」

 

「ゴードンは行かないの?」

 

「私はいい。そちらの喫茶店でゆっくりしておくよ。コブラ王のおかげでライブの手配も済んでいる」

 

「わかった。じゃあ夕飯までには戻るから」

 

「今昼間なのだが?」

 

 ほどほどに済ませる気ないなと見抜いたゴードンを、それまた察したウタはベルナートの腕を掴んで笑顔でカジノへと走っていく。

 別にお金が欲しいわけじゃない。経験したことのないカジノというもので、思いっきり遊びたいだけだ。

 

「まったく……」

 

 お小遣いとして持たせたお金を、少し抑えめにしたのは正解だったかもしれない。

 

 

「これがカジノ……! 賑やかな場所だね~!」

 

「スロットにルーレット。カードゲーム。一通りはあるみたいだな」

 

「ベルナートはカジノに来たことあるんだ?」

 

「資金調達のために」

 

「それどうなの……」

 

 あまり褒められたやり方ではなかった。そもそもベルナートなら、たいていの賞金首に勝てるからそれで稼げていた。カジノで遊んだ経験があるのは、「そこにカジノがあったから」である。

 一度店の中を見て周りながら、どれから始めようかとウタが悩む。せっかくだから一通りやってみたい。しかしやるならまともにやりたい。小さな額で賭けて遊び尽くすのは、何か違う気がした。

 

「それならオレに考えがある」

 

「?」

 

 ウタを連れてベルナートが最初に選んだのはスロットだった。これで当てて資金を増やし、それから他のゲームをやるつもりらしい。

 

「でもこれ絵柄揃えないといけないんでしょ? 難しいよ」

 

「目押しだよ目押し。こんな感じ」

 

「見えてるベルナートがおかしい!」

 

 順調にジャラジャラと稼ぐベルナートの隣りで、ころころと表情を変えながらウタもスロットに挑戦し続ける。ベルナートのように見切っているわけではないため、ウタは運任せにやっているのだが、それでも収支がプラスになるのは日頃の行いか。

 互いに元手よりも増えたところで、2人は次の遊びへ。カードゲームは駆け引きもあるのだが、ポーカーにしてもブラックジャックにしても、ディーラーがウタを知っていてイカサマをする。

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

「やったー! また勝った~!」

 

「はいはいビギナーズラックビギナーズラック」

 

「負け惜しみ~」

 

「うるせ。次だ次!」

 

 ディーラーがウタを勝たせているのはベルナートも気づいている。むしろ気づいていないのはウタ本人だけだ。

 ここらで一度ウタに大敗させないかとディーラーに目配せするも、ディーラーがそれを拒否。どうやら最初にウタにサインを貰ったことが大きいらしい。賄賂は目の前で堂々と渡されていた。

 

「私よりお金少なくなっちゃったね」

 

「ぐっ……。今度はルーレットだルーレット! 今そこまで差はないからな。ルーレットをやって最終的にどっちの方が資金多いかで勝負だ!」

 

「いいよ。私が勝つけどね」

 

「言ってろ」

 

 ルーレットは運要素が一番多いゲームだ。スロットなら見切れるベルナートが勝つ。カードゲームだとディーラーがファンなウタが勝つ。

 しかしルーレットならそれらは関係ない。テーブルにいる全員が賭けてから玉が投げ入れられるからだ。……それでも中には、狙って投げるディーラーもいるらしいが。

 

「ルーレットって賭け方いろいろあるんだね」

 

「数字か色か。ここに書かれてる枠で狙うか。雑に言うとこの3つだな」

 

「うーん、悩むねこれ」

 

「デモンストレーションでも挟むか?」

 

「ううん。大丈夫。決めたから」

 

 そう言ってウタは数字を選ぶという1点賭け。それを見事に当てて大金を得るも、その後のルーレットで最終的にベルナートに負けた。

 

 

 




カジノ収支……どちらもプラス
ウタ……ルーレット1発目を4で勝利
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