たった1つの笑顔   作:粗茶Returnees

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アラバスタ王国⑤

 

 砂漠の国の衣装となると、砂を警戒して作られることが多い。それは庶民的な衣装であり、伝統的な衣装とも言える。しかしそれがすべてではない。シャツもあればスカートだって売られる。内向的な政策は行われておらず、人は皆自由に服を選べる。

 そんな国の特徴的な衣装の1つとして、踊り子の衣装もある。上は胸を隠す程度の布で、下は爽やかな印象を与えるスカートタイプ。長いベールを羽織ることもある。

 

「着てみたい」

 

 アルバーナでのライブ後に王宮に招かれたウタたちは、踊り子たちの舞いを観させてもらった。

 そしてウタはビビにその事を頼み、それならとビビが手配することで話が決まった。使用する日はライブの最終日。つまりユバである。

 

「かわいいし着てみてライブしたら盛り上がるかな~って」

 

「能力でなんとでもなっただろ」

 

「わかってないねベルナート。こういうのは実際に着てみるのがいいんだよ」

 

「……なんというか、ウタがそういう服を着ることにまず驚いてる」

 

「なんで?」

 

「ウタは普段から露出ある服を着てるわけでもないだろ。だからライブのためだとしても抵抗ありそうだなって思ってたんだけど。……そういうわけでもないんだな」

 

「んー?」

 

 現在はライブの後。今回も例に漏れず能力を使ったため、ライブが終わってから数時間。踊り子の衣装を着たまま寝かせるのもどうなんだ、となる話だが、しかし寝てる異性の服を脱がせるわけにもいかない。

 せめてウタが体調を崩さないようにと、衣装の上から上着を着させているのが今のウタの服装だ。

 ウタは襟の間から踊り子の衣装を再度確認し、無言のまま緩やかに顔を赤くさせていく。

 

「冷静になると恥ずかしいね……これ……」

 

「恥ずかしいのかよ」

 

「かわいいのはかわいいんだけどね。これ着てライブしてたんだなって改めて思うと、うん。だいぶ恥ずかしい」

 

「普段から脚は結構見せてるくせに」

 

「それとこれとは別!」

 

 こういう衣装が恥ずかしい理由の1つとして、このワールドツアーはライブ映像も配信している点がある。

 ウタが認識できる目の前のファンたちだけでなく、本人が把握しきれない映像の向こう側の人たちにも、大胆に肌を晒したことが恥ずかしいのだ。

 

「その衣装、普段とは逆だもんな。脚が隠れてて、代わりに上は肌が多い」

 

「そうそう。まあでも、終わったことだし楽しかったからよし!」

 

「ここまできたらもう恥ずかしいものも無くなるか」

 

「それも別だけど、というか蒸し返すのはやめて」

 

「はい」

 

 1回やったからといって、恥ずかしさが消えるわけもない。むしろ「恥ずかしい」と思ったからこそ、かえって2回目の方がハードルも上がる。2回目があるかはさておき。

 上着を脱ぐことなく着たままにしているウタを見れば、恥ずかしさがまだあるのも納得だ。

 

「ウタが目を覚ましたか。では乗り場に行くとしよう」

 

 話し声が聞こえたから部屋に入ってきたゴードンが、ウタとベルナートを呼び出す。ライブが終われば温泉に行くとスケジュールに組み込まれており、その出発はウタが目を覚ましたら。

 これまでのライブからおおよその時間を割り出し、その時間は同行者たちにも伝えられている。

 温泉に行くのだと思い出したウタは、ベルナートの腕を引っ張って駆け出した。大人と言える年齢になっているのだが、子どもっぽさは抜けそうにない。そういう性分らしい。

 その姿は微笑ましくもあり、ゴードンは目を細めながらその後を追った。

 

 オアシス・ユバから温泉に行くには、地下トンネルを通らなければいけない。その長い距離を人を乗せて走るのは、ヒッコシクラブと呼ばれる巨大なカニだ。

 

「乗せて走ってくれるとは、これは快適だな」

 

「ここが開通した時から走ってくれているの。私は以前にもこの子にお世話になったことがあるけどね」

 

「そういう縁で就任したわけか」

 

「ふふっ、そういうこと」

 

「名前はある?」

 

「うん。ハサミ」

 

「ハサミって……。マツゲよりましか」

 

 どっちも変な名前なのだが、比較してみたらハサミの方がマシかもしれない。マツゲもハサミも、そう呼ばれることを気にしている節は一切ない。

 ビビは当時のことを思い返して懐かしみ、そういえばとあることを思い出した。

 

「ウタさんってその上着の下はまだ踊り子の衣装だっけ?」

 

「え、うん。そうだけどそれがどうかしたの?」

 

「ハサミは踊り子が好きらしくて」

 

「王女に脱げって言われてるぞ」

 

「そういうつもりじゃなくて! 踊り子を見たらハサミは加速するのよ。だから上着は着たままでお願いねって話したかったの」

 

「安全のためにか」

 

「そう。安全のために」

 

「どれぐらい加速するのか試そうとするなよウタ」

 

「っ! そ、そんなことするわけないでしょ」

 

 数秒だけならいいかなとか考えていたら、見事にベルナートに牽制された。

 温泉島行きのハサミの速度は変わることなく、定刻通りに温泉島へと到着するのだった。

 

 

 

 

 温泉島は元々何もないような島だった。温泉を夢見て掘り続けた男ゴローが滞在していたが、それ以外人がいない島。つまり無人島だった。

 そんな島が今では温泉を売りにし、人が滞在できるように宿まで出来上がっている。ビビたちは視察に訪れたこともあるのだが、その時には宿がなかった。どうやら温泉を経営しつつ、段々と発展させているらしい。

 

「今日は貸し切りだ。疲れを取っていくといい」

 

「この人は番頭のゲダツさん。この島にいた番長たちを従えさせて、今の形に至ったんだって」

 

「へ~。あ、男女で分かれてるんだ」

 

「無論だ。お前たちから見て右が男ん。ん、んんんーんんーー!」

 

「途中から上唇噛んだまんまになってるぞ」

 

「はっ! うっかり……!」

 

 この温泉の名前が「うっかり湯」になっているのも、ゲダツが関係していそうだ。しかしその辺りはわざわざ聞くものでもない。ウタたちは、男女で別れてそれぞれの脱衣所へ。

 

「お前は行かないのか?」

 

「入るけどその前に1つ聞きたい。あんた空島の人間か?」

 

「そうとも。うっかり青海に落下し、その後はゴローに手を貸している」

 

「なるほどな。聞きたかったのはそれだけだ。ありがとう」

 

 空島に住む人間が青海に降りてくることは滅多にない。その希少な存在の中でも知られているのは、億超えの賞金首のウルージくらいか。彼がなぜ青海で海賊をしているのかも不思議なとこだが、それは本人に聞くしかない。事情があるのか、それとも夢があるのか。

 空島には(ダイアル)があるんだったなと考えながら男性の脱衣所へ。利用するのはベルナートとゴードン、コブラに護衛としてイガラムとカルー。今の御時世で上の人間が全員抜けるわけにはいかないため、チャカとペルは留守番だ。

 

「へ~、結構広いな」

 

 大人数が利用できる大浴場とそう変わらない。体を洗い終われば、ゴードンたちが浸かっている場所に合流する。

 

「これは良い湯ですね」

 

「そうだろう。私も気に入っている」

 

「ゴードンさんは……なんでサングラスかけたまま?」

 

「気にすることじゃない」

 

「気になるが? あと今向いてる方にいるのカルーですよ」

 

「……すまない。曇っていて見えないんだ」

 

「サングラスかけてるからでしょ」

 

 風呂に入る時ぐらい外せば良いものを、トレードマークということなのかゴードンは外さない。すでに曇っているのなら、これからが危なそうだ。何かに足を引っ掛けたりぶつかったりするかもしれない。

 

「それにしても、こっちは年齢高いな。な? カルー」

 

「クェ」

 

「……カルーなら向こう(女湯)いても怒られなさそうだな」

 

「クエッ!? クエ! クェッ、クエエェェ!!」

 

 そんな紳士にあるまじきことはしないと抗議するカルーを、コブラが笑いながら宥める。頭を撫でてカルーを落ち着かせたところで、コブラはカルーに腕を回した。

 

「カルー。カメラのここを押すと写真がだな」

「クェ!?」

「何やっとんだアンタ!! カルーそれよりもこの電伝虫を忍ばせてだな」

 

「お前たちそれは犯罪になるぞ」

 

 ツッコミ役のイガラムすら暴走しだしたところを、落ち着いているゴードンが静止させる。喋りかけている方向は岩なのだが、一応ストッパーの役割は果たした。

 

「仕方ない。ここは定番の手でいくか」

 

「女湯を覗く気ですか?」

 

「うむ。あの壁の向こうだ」

 

「カルーをそこに投げ込んであとで感想を聞きましょう」

 

「今回はその手も有りか」

 

 身の危険を感じたカルーが素早くベルナートたちから離れ、その速さを見てコブラとベルナートも諦めた。覗き自体は実際にはそこまで興味もないのだが、なんとなくのノリがそうさせようとしていた。

 

「カルーも漢になったものだ。ところでベルナートくん。ビビと見合いをしてみないか? 君なら私も賛成なのだが」

 

「オレもビビ王女もNOって言いますよ。しかもオレを抱え込むなんてアラバスタにデメリットしかないでしょ」

 

「ままならないものだな。……して、ベルナートくん。話は変わるが、悩みを抱えているね?」

 

「……コブラ王にはかなわないな」

 

「我々は少し離れていましょう」

 

 イガラムがゴードンを連れてカルーのいる方向へ。そちらは大浴場の端だ。それ以上は距離が取れないが、あちらはあちらで話を始めた。声の大きさに気をつければ、聞かれることもない。

 

「……どうやったらウタの力になれるかなって」

 

「? このツアーは君の案で、船も航海術も君のものと聞いているぞ?」

 

「ウタにはぽっかり穴が空いているんですよ。ライブも航海も楽しんでるけど、胸の内のそれは塞がらない。オレじゃあそこを補える代わりの存在になれないから、どうすればいいか」

 

「……このツアーもそこを考えてのことか」

 

「ただの思いつきでもありますけどね」

 

 そういうのも楽しいんじゃないかと持ちかけたに過ぎない。

 話を聞いたコブラは、数秒目を閉じてから口を開いた。

 

「代わりなどできるものではない」

 

「そりゃそうですよね。オレにはそういうの向いてない」

 

「違う。ベルナートよ、()()()()()()()()()()

 

「勘違い?」

 

「何かの代わりなど誰にもできることではない。この世に全く同じものなど何1つとして存在せぬ。それぞれが違う光を持ち、各々の温かさを持っている」

 

「……」

 

「君は君だけのものを持っている。君の良さがある。代わりになどなろうとするな。君のままで、ベルナートのままで支えなさい。それが何よりも相手の力になる」

 

 

 

 

 4人と1匹の男湯に対して、女湯はビビとウタだけだ。背中を流しあった2人は、足を伸ばして優雅に温泉を満喫していた。

 

「ごめんねウタさん。お父様はノリが良すぎるところがあるから」

 

「楽しいお父さんじゃん。未遂で終わってるんだし気にしてないよ」

 

「ありがとう」

 

 男湯で一時の間盛り上がりを見せた会話は、しっかりと2人の耳に届いていたらしい。仮に本当にカルーが投げ込まれても、カルーならいいかと話していたものだ。

 温泉と言えど水の溜まり場。能力者にとっては力が抜ける条件を満たしている。それでもウタは、無能力者のビビと同じように浸かっていた。

 

「ねえ。王女様だとやっぱり婚約者とかいるの?」

 

「いる人はいるんじゃないかな。私はまだ。お見合いも全部断ってるし、手紙も見ずに捨ててる」

 

「そこはせめて読んであげようよ」

 

「だって多いんだもの。それに私にはまだ早いと思う。私は、私の想像を超えるものがこの海に多いって、ルフィさんたちとの冒険で学んだ。まだまだ私の知らないことも多い。無知のままで身を固めてなんていられないわ」

 

「うわ。すっごい真面目な理由が出てきた。いろいろと考えてるんだね」

 

「自由でいたいっていうのもあるけどね。ふふっ、彼らとの冒険でその楽しさも学んじゃったから」

 

 王族という立場を理解している。アラバスタ王国のことも愛している。それはそれとして、自由に生きる楽しさも知っていて、掛け替えもない思い出と共にそれはビビの中に刻まれている。

 婚約者を決めて、結婚もしてしまったら気楽に()に出ることもできない。麦わらの一味の仲間で、もう一度会ったらまた一緒に冒険したいという願いもあるのだ。婚約の話をまだ進める気にはなれない。

 

「結婚しちゃうと窮屈になるし」

 

「結婚が窮屈か~」

 

「それ自体は素晴らしいものだと思うわ。だってお父様とお母様が結婚したから、私がこうして生まれてるんだもの。でも身を固めるってことは、自由を狭めることにもなっちゃう」

 

「ビビって頭良いんだね」

 

「そんなことないわ。今度はウタさんの番」

 

「私? 婚約者とかいないけど」

 

「だから、ウタさんのタイプの人を教えて」

 

「タイプか」

 

 真っ先に思い浮かぶものはある。けれど、それは嫌っている存在でもある。

 どうしようか。他に何か浮かぶかと頭を働かせても、結局出てくることはない。

 ちらりとビビを見てみると、子どものようにわくわくした様子でウタの答えを待っていた。ビビの立場を考えたら、こういう年頃のらしい話もなかなかできないのだろう。

 ウタは諦めて、最初に思い浮かんだものを口にした。

 

「普段は子どもっぽいのに、いざという時に頼りになる人」

 

(普段は子どもっぽくて…………ルフィさんみたいな?)

 

「ビビ?」

 

「あ、ううん。結構具体的だなって思っただけ」

 

「……まぁね」

 

「ベルナートさんは?」 

 

「ベルナート? ベルナートは私のタイプに合わないでしょ。普段から頼りになるもん」

 

「それはそれで素敵に聞こえるけど。じゃあベルナートさんは、ウタさんの頼れる仲間だね」

 

「仲間…………なんか仲間ってのもしっくりこないな」

 

 ベルナートはプロデューサーでもマネージャーでもない。そんな感じの役割は、だいたいゴードンの方が担っている。それだとベルナートは何になるだろうと、前にも考えたことを再度考えてみる。

 それを考えていると、少し違う疑問も同時に湧き上がってくる。

 

「私、ベルナートに何ができてるかな」

 

「え?」

 

「いつもベルナートの世話になってるから。……私は何ができるんだろうって」

 

「……具体的なことはなくてもいいんじゃないかな」

 

「どうして?」

 

「私がルフィさんたちの船に乗っていた時、具体的にこれで力になってたって言えることがないの。戦いだって力になれないし、料理はサンジさん、航海はナミさん、医術はトニーくん」

 

 力になれなかったとは思いたくない。それは彼らも否定する。ビビは仲間で、ビビは立派に一味の力になっていたと。

 それをビビも理解できるから、力になれなかったとは言わない。具体的には言えないだけ。でもそれでいいのだ。具体性は必要なわけじゃない。

 

「一緒にいるだけでも力になれるの。誰かが隣にいてくれる。これだけでも心強いじゃない?」

 

「それは……」

 

「私はそう思ってる。それに、今はルフィさんたちと離れ離れだけど、彼らの仲間だって思うだけで勇気が湧いてくるの。離れていてもよ? 側にいることって、みんなが思うより大事だと私は思うわ」

 

 ビビの言葉は、いろんな意味でウタに刺さる言葉だった。その言葉を聞いたウタは膝を抱え、水面を眺めた。

 

側に、か

 

 

 




ウタの好みを聞いた2人の反応
ベルナート……(シャンクスさんみたいな?)
ゴードン……(シャンクスだ)
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