この島のは1話で纏まると思ったんですよ。駄目でした。
アラバスタにていくつかのエターナルポースを手に入れたベルナート達だったが、一行はそれらには向かわずにとある島へと来ていた。
その島の名はキューカ島。その名の通り休暇に訪れる者が多く、普段の生活から離れて息抜きする場所だ。
この島に訪れたのはベルナートがそう希望したから。ワールドツアーも2つ目の島が終わり、これからだと勢いづけたいところだったが、ベルナートはここに来ることを選んだ。というのも、「グッズ展開は必要だろう」とコブラと話したからだ。
どういうグッズを出すのか。これから製造も告知も販売方法もどうするのか。一度腰を落ち着けてしっかりと考えておきたい。勢いづいていくからこそ、完全に熱がつく前に固めておくべきだ。
「水着の人が多いね」
「ビーチもあるしプールもあるからな。夏島ってのもあるんだろう」
「ふーん? 私ちょっと買ってくるね」
「じゃあそこで飲み物でも…………買うってまさか、もういねぇ!?」
「そっちの店に入っていった。私も少し寄るところがあるから、後ほど合流するとしよう」
「……まぁいっか。キューカ島だし」
キューカ島はそこまで大きな島ではない。ゴードンの気配もウタの気配もベルナートなら把握し切れる。数える気はないが、その気になればこの島にいる人の数も正確に割り出せる。あとで合流するのも、ベルナートなら造作もないことだ。
ここに来た目的も、すでにウタとゴードンには話してある。ゴードンもそれを踏まえて別行動を始めた。話のすり合わせは、再会した時にでもすればいい。
「あら奇遇ねこんなところで。まさかまた会えるとは思っていなかったわ。ベルナート」
「……モネ……」
飲み物を買い、どこか座れる場所がないかと探していると、大型のパラソルの下で休んでいる薄い緑髪の女性と出会った。ウタやビビのように長く伸ばした髪に、綺麗な琥珀の瞳。どこかミステリアスな雰囲気を漂わせるその女性は、王下七武海の1人の部下のモネだった。
彼女はベルナートを手招きし、空いている対面の席に座らせた。他の者がナンパも兼ねて座ろうとしても全員追い払っていたため、それを目の当たりにした者たちは一様に驚いている。
「なんでお前がこの島に?」
「長期休暇よ。キューカ島だもの」
「そりゃそうか。
「ふふふ、ええ。次の仕事前のバカンス。なかなか悪くないでしょ?」
「次の仕事じゃなくて仕事中のバカンスだろ」
「あらバレた? うふふ、今でも見抜かれちゃうのね」
「お前の嘘はわかるよ。それはそうと似合ってるよその水着。大人っぽさが増してるのも相まって魅力的だ」
「……っ! そ、そう……? ありがとう」
恥ずかしそうに照れて顔を逸らすモネに、相変わらず褒め言葉に弱いんだなとベルナートも視線を逸した。さらっと言葉が出てしまう癖は、こういう事も招いてしまうのだ。
モネは褒められ弱い。それなのにナンパする男たちを追い払えていたのは、彼らの言葉が上っ面だけだからだ。けれど今のベルナートのように、本心から言われているとその言葉に重みが出てくる。そしてそれはモネに届き、こうして乙女っぽさを露出させた。
「うふふ。釣られて恥ずかしがるのは今も変わらないのね」
「どこかの誰かがギャップのある乙女な反応するからな」
「乙女って……」
「初心」
「なっ! そ、それはあなたが! ……はっ! ~~っ!」
「自滅するなよ……こっちまで恥ずかしくなるんだから」
熱くなった体温は、買ってきた冷えている飲み物で冷ます。それで互いに気持ちを落ち着かせると目が合い、どちらからともなく笑った。
「その飲み物一口くれ」
「いいわよ。あなたのも一口貰うわね」
交換して一口飲み合い、それをまた元に戻す。ストローで間接キスが成立してはいるのだが、そこは2人とも気にもしない。
「シュガーは元気か?」
「あら。再会して早々に他の女性の名前を出すなんてNGよ」
「そりゃ悪かった。ごめん」
「私の妹だから構わないけれどね」
「いいのかよ!」
「うふふ。久しぶりに揶揄っただけよ。シュガーは元気にしてると、そう聞いてるわ。私は仕事で拠点を離れることが多いし、その期間も長いからなかなか会えてないけれど」
モネは優秀な秘書として派遣されることが多い。仕事に熱心な点と主への忠誠心の高さ、その勤勉さと性格。怪しまれないようにわざと本隊から距離を取らされ、派遣される。外部で動く駒の1人だ。
「あなたにまた会えたことは本当に嬉しいと思っているのよ? 以前よりもまた身長が高くなったわね」
「もう打ち止めだとは思うけどな」
「あらそれは残念」
「モネ」
「なにかしら?」
「ドレスローザのこと、知ったよ」
「っ! …………そう」
ここで言う「知った」は、その国があることを知ったという上辺の話ではない。国の真相を知ったという話だ。
ベルナートの言っていることを正しく理解できるからこそモネは、一度ドキッと心臓が止まりかけたし、何か言おうとしても相槌しか打てなかった。
「オレは当事者でも関係者でもないから、過ぎたことをどうこう言うつもりはない。けど、もしその日に居合わせることがあれば、オレは
「……あなたなら……そう、するでしょうね。……私は……いえ、私には何も言う資格がないわね……」
「真面目だな。気にせずに言えばいいものを」
「言ったところで止まらないじゃない」
「もちろん」
「でしょう? それなら、その日が来ないことを祈るわ」
モネはドフラミンゴの部下だ。ドフラミンゴに救われた過去を持っており、それ以降妹のシュガー共々ドフラミンゴに忠誠を誓っている。
しかしモネは、ベルナートとの絆を断ち切ることができない。共に過ごした日々を忘れることができない。日数で見ればドンキホーテファミリーの方が何十倍も長い。それでも、その日数に決して劣ることがないほどにベルナートとの関係は深い。モネが思っている以上に。
だからモネは両者の激突を望まない。心情としては板挟みだ。どちらにもつけない。そしてドフラミンゴなら、揺れるモネすら利用しかねない。
「あいつが身内判定出してるならそれはないと思うけどな」
「だといいわね」
「……ま、そんな仮の話はやめとこう。面白い話でもないしな」
「そうね。ベルナート、あなた今は何をしているの? まだ迷っているのかしら?」
「いや。だいたいは決まってる。ただ、今は答えを出す直前だ。最後に賭けをしてる」
「賭け?」
「ベルナートここにいたんだ。……ぁ、取り込み中だった?」
何の賭けかを聞く前に、横から声が割り込んでくる。その声の主は、水着を買いに行っていたウタだ。着替えも済ませているようで、モネ同様水着姿である。その手には買ってきた昼食もあり、量からしてベルナートの分も用意したらしい。
どう話そうか困ったベルナートを横目に、モネの方が同席するように促す。ベルナートが今行っている"賭け"とやらも、ウタを見て察したらしい。
「本当によかったの?」
「ふふふ、ええもちろん。彼と密会してたわけじゃないから」
「そこを疑ったわけじゃないんだけどな」
「あらそう? 私はモネ。あなたはウタね? 配信見てるわ」
「そうなんだ! 嬉しいな~!」
「あなたの歌声好きよ。最近ワールドツアーを始めたのよね。ここへはそれで?」
「うわっ、いっぱい知ってくれてる。ここにはグッズのことを決めようって話で寄ったんだ。ライブしようかなーとも考えてるけどね」
「ぜひそうしてほしいわね。生で聴いてみたいわ」
ウタがモネと話しながら、買ってきたベルナートの分の昼食を手渡す。受け取ったベルナートは、2人の会話を聞きながら黙々と食べていた。
「ウタは能力者なのよね? ウタウタの実、すごい能力ねアレ」
「モネ」
「心配しないでベルナート。うちのファミリーは彼女を知らない。若様も。伝える気もないから安心して。私、あなたに嫌われたくないもの」
名前を呼んでベルナートが釘を差し、モネはくすりと微笑みながら素直に白状する。ドンキホーテファミリーが今取り組んでいるのは、四皇カイドウとのビッグビジネスだ。時代のうねりを感じながら、行動を起こさないでいる。歯車が狂った時に乗り遅れないように。
そんなモネの素性など知りようもないウタは、2人を交互に見てから首を傾げた。
「? モネさんって何者?」
「こわーいとこの秘書よ。今は休暇中。あとモネでいいわ」
「じゃあモネで。ねぇ、モネってベルナートの恋人?」
「むぐっ!?」
「飲み物で流し込んでベルナート……!」
ウタの純粋ドストレート発言にベルナートは喉を詰まらせ、すかさずモネがベルナートに飲み物を手渡した。
落ち着くのに時間がかかりそうなベルナートを気にかけつつ、モネはウタの言葉で頬を赤くしながら答えた。ウタの期待には応えられない答えを。
「恋人……ではないわね。でも私にとって大事な人ではあるわ。それははっきりと言える」
恥ずかしいけどねと付け足してはにかむ姿は、ウタでも可愛らしいなと思うものだった。
「昔一緒に過ごしていた時期があるのよ。私の妹と3人で、ちょうど今のウタのようにいくつかの島を冒険したのよ」
「妹もいるんだ」
「ええ。私たちは彼に助けられたことがあって、その後の成り行きでしばらく一緒に行動していたわ。私と妹はその時すでに今のグループに属していたから、途中で彼と別れたけれど。再会も今日で初めてだから、……5年ぶりかそれ以上くらいかしら?」
「ふぅぅ。うん、そんぐらい」
「5年以上って。じゃあやっぱり私邪魔しちゃってるよね」
「気にしないで。言ったでしょ? 私はあなたのファンだって。彼もそうだけど、歌姫に会える機会も早々ないわ。贅沢させてちょうだい」
「それならいいけど」
ベルナートとモネは恋人でこそないが、それに近いほどに関係性がある。そう受け止めたウタは、気まずいなぁと思いながら自分の分のお昼に手をつける。
モネはモネで、ウタと話すことで情報を着実に手に入れていた。ウタウタの実の能力は知っているし、
何よりも、現時点なら問題性もないだろうが、仮に政府側に目をつけられるようなことが起きれば、世界から狙われる存在にまでなってしまう。
(ベルナートの賭けは、そういうことね)
(気づいたんだろうなー)
「あなたたちグッズを考えるのもいいけれど、絶対に売ったほうがいい物もあるわよ」
「絶対に売ったほうがいいもの?」
「
「ふふふ、ベルナートは気づいてたみたいね」
「とーんだいあるって何?」
会話に取り残されると察してすぐさま疑問をぶつけた。ベルナートはモネに、ウタは知識が乏しいことを教えてから、ウタに音貝のことを教えた。
本来なら敵になりうる相手に情報を売るべきではないのだが、モネはウタのことを話す気がないし、ベルナートもそれがわかっている。だから教えた。
「不思議貝ってわけだね」
「そういうことね。でもベルナート、どう集める気なのかしら? 今あなたたちは個人経営状態でしょう?」
「数量限定で売るしかないだろ。各個人に届けるにはそもそもの数も足りないだろうしな」
「調達方法は現地?」
「それが確実かつ手頃な価格だろうからな」
「現地って、空島ってこと?」
「ウタが良ければそこに行くつもりだぞ。空高い場所だから、上に行くと配信の電波も届かなくなるだろうけどな」
「そこはちょっと残念だけど、それでも行ってみたいかな。ワクワクする!」
「ふふ、空島への行き方は2つね。ハイウエストの頂から行くか、それともノックアップストリームに乗るか」
「響きが面白そうだからノックアップで」
「もう少し詳細聞いてから決めろよ……」
ノックアップストリームは、空に向けて海流が走る現象だ。その規模が空島に届くほどかどうか。そしてそもそも空島が、その現象の真上にあるかどうか。この2つの条件を満たさないと無事にたどり着くことができない。
生か死かの大博打。ノックアップストリームを使って空島を目指すというのは、そういうことなのである。
「え、そんな危ないやつだったの?」
「普通ならそれを使って空を目指す人はいないわね。でも、
「そんな空島あったか?」
「ベルナートでも知らないことあるんだ」
「そりゃあある。空島にはハイウエスト方面から行ったことしかないから、ノックアップストリームの方はノーマークなんだよ」
「へ~。それでモネその空島って?」
「かつて巨大なノックアップストリームで、島の半分が空に上がった島ジャヤ。その島へのログもエターナルポースも、下と上の2パターンがあるの」
「じゃあ上のを見つければ、あとは発生とかのタイミング次第で!」
「そう。空に上がれる」
「これはもう決まりだね。ベルナート、この島の次の場所はジョアだよ!」
「ジャヤな」