たった1つの笑顔   作:粗茶Returnees

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キューカ島②

 

 ベルナートもモネも、共に過ごしたからこそ影響を受け合っている。シュガーは2人の距離感を見て1歩引いていたから、ベルナートの影響を受けていないが、モネは違う。よく知っているからこそ、価値観が少しズレることもある。

 今モネが担っている仕事も、ベルナートが知れば怒るだろう。モネだって「何年も会っていなくても、知られたら怒られるわね」と思いながら任務に就いたし、自分の仕事に後ろめたさも感じるようになった。

 しかしドフラミンゴを裏切るような行動も取れない。それもまた、自分自身が許せない。

 

「海賊嫌いって聞いてるけど、ウタから何か働きかけることは考えているのかしら?」

 

「新時代を作る。その目標は昔からあるよ。でも具体的なのはまだで、海賊は嫌いだけど、だからどうのってことも考えてない。私に何ができるのか……私は知らないことが多過ぎる」

 

「少なくとも戦うとかではないのね」

 

「もちろん。傷つけ合うのは嫌だし」

 

「いいんじゃないかしら? あなたは歌姫としてこれからもっと知られる。戦い以外の方法で、あなただけのやり方を模索していけばいいと思うわ」

 

「うん! ありがとう」

 

 ベルナートは今席を外している。デザートを食べたいという女性陣の要望を聞き入れ、買い出しに行っている。初めはウタが行こうとしたのだが、昼食はウタが買ってきていた。今度はこっちの番だとベルナートが譲らず、渋々ウタは残っている。

 

「そんなに気になる?」

 

「え?」

 

「ベルナートのこと。顔に書いてあるわよ?」

 

「……うん。正直に言うと気になる。ベルナートはいつも秘密ばっかだから、ベルナート自身のことを全然教えてくれないし」

 

「……そうなのね。それなら私が話し過ぎるわけにもいかないわね」

 

「そうなるよね。……あれ? ()()()()()()()()()?」

 

「ふふふふ、彼の線引きもわかってる。どこまでなら私が話してもいいのか、ね」

 

 その言葉にウタは目を丸くした。秘密主義とさえ思えるベルナートのことを、モネは多分に知っているらしい。しかもベルナートの性格すら理解している。

 なぜそこまで知っているのか。どうやって聞き出したのか。聞いてみたいことが次々と頭に浮かんでくるが、ウタはそれを振るい落とした。モネが話せることだけを聞くしかない。

 

「聡いのね。……ウタはベルナートのことどう見えてる?」

 

「どうって、どういうこと?」

 

「正義か悪か」

 

「正義か悪かって……。正義だと思ってる。悪いことは悪いって言える人だし、理不尽なことは許せない人だから」

 

「うふふ、そうね。彼の倫理観と行動原理を見ればそう。でもベルナートは、自分のことをそうだとは思っていない」

 

「二分して考えるのは、極論になるから?」

 

「あら、思っていたより視野が広いのね」

 

「前よりは少しだけ広げられたから」

 

「いい変化だと思うわ」

 

 素直な感想だった。けれどこれもベルナートと関係するからだ。ウタが彼と共に行動しているわけじゃないのなら、モネもそこまで気にかけなかった。

 少しは知見を広めても、ウタの箱入り娘感はまだまだ拭えない。モネとしては、少しくらいベルナートの負担を減らしたい。

 

「自分の立場を棚に上げて言わせてもらうけれど、この世界はそう綺麗に二分できるわけじゃない。グレーゾーンの人たちも実在する。王下七武海も、私の目からすればそこね」

 

「元は海賊だからだよね」

 

「そういうこと。ベルナートもそこなのよ」

 

「なんで?」

 

「そこは彼自身が話すでしょうね。私が話せる範囲を超えてる」

 

 周りの話はできる。しかし肝心の核の話をするわけにはいかない。ウタは焦らされた気分に陥ったが、自分も肝心なことは話していない。問いただすような真似はできない。

 

「……モネ、ベルナートは海賊じゃあないよね?」

 

「もちろん。海賊は彼が嫌う対象の1つよ」

 

「よかった……」

 

「ウタ。彼のことを本当に知りたいのなら、答えてちょうだい。あなたは何があっても、ベルナートが何であっても、彼を信じられる?」

 

「え……? それって、どういう……」

 

「答えて。もしそうじゃないのなら、あなたは彼のことを知る資格なんてない。彼が隠しているのは、彼なりの優しさなのよ」

 

 モネの目も言葉も、真剣そのものだった。その問いには、誰よりもベルナートを知るモネの想いが込められていた。

 聞いてからの回答なんてできない。今この場で、ウタは答えないといけない。

 戸惑いを押し留め、静かに深呼吸しながら思い返す。エレジアで出会ってから見てきたベルナートのことを。

 

「私は、()()()()

 

「…………そう」

 

 それがウタなりに言い切れる限界だった。

 「信じられる」とは言えない。「信じる」とも言えない。

 そこにはウタの過去が関係していて、モネはそれを知らないなりにウタの目を見てその言葉に頷いた。

 とても100点の回答とは言えない。モネが心配せずに済む回答なんかじゃない。けれど、その答えならばモネも信じられる。

 

「それが聞けただけましね。……ベルナートはちゃんと新聞読んでる? 情報を怠っていない?」

 

 満足したわけではないが、これ以上こういう話はできない。まだ人混みに紛れているが、ベルナートがこっちに戻ってこようとしているのが見えたからだ。

 タイムリミットは予想よりも短いらしい。それなら、モネはモネでベルナートのことをウタに聞きたかった。

 

「え、うん。いろんなこと知ってるし、私もゴードンもベルナートに助けられてばっかりだよ」

 

「ちゃんと読むようになったのね」

 

「昔は違ったの?」

 

「そうね。あまり読もうとはしていなかったわ。情報収集もやりたがらなかったし」

 

「へ~意外」

 

 それもこれも、勤勉なモネが一緒にいたからだ。モネに頼りきっていた。別れてからはそうするわけにもいかず、()()()()()()()()()()ベルナートは情報を集めている。今では他のやり方も混ぜているが、主要な方法はモネ式である。

 それがベルナートがモネから受けた影響の最たるものだ。ベルナートはそれを言わないし、モネも知ることはない。照れくさいから。

 

「おかえりなさいベルナート。早かったわね」

 

「あ、おかえりベルナート」

 

「買ってきたぞ。こっちはホイップを盛りに盛ってくれたパンケーキ。こっちはモネ用のかき氷」

 

「ありがとうベルナート! いっただきま~す!」

 

「あら、覚えていてくれたのね。嬉しい」

 

「モネのことで忘れたことなんてないぞ」

 

「うふふふ、お礼にベルナートも食べて」

 

 ミルクのかかった抹茶かき氷。スプーンでその一部を掬ったモネが手を伸ばした。最初の一口目をいいのかと目で問うと、ウィンクで返された。お礼だからこそ一口目を食べろとのことらしい。

 その光景を目の前で見るのも何だかなと思ったウタは、好物のホイップましましパンケーキを堪能することに。味は店や人によって違いも出てくる。ここのお店の味はどうかと、品評する気分になりながらゆっくりと食べた。

 

 

「せっかく水着に着替えているのだし、ウタもプールを楽しんだら? ベルナートがいるなら海も楽しめるわよ」

 

「海も?」

 

 デザートを食べ終えたところで、モネがウタにそう持ちかけた。もちろんウタはプールに入るつもりだったが、海もと言われると疑問が浮かぶ。

 しかし話はそう難しいことじゃない。ベルナートは能力者ではなく、泳ぐこともできる。そのサポートがあれば、海も楽しめるという話だ。実体験だからモネはそれを推せる。

 

「力は抜けるけどベルナートに寄りかかることはできるし、ベルナートもしっかり掴んでくれるから大丈夫よ」

 

 ただし、肌の露出が増えた状態で男女が密着することへの躊躇いを、モネは頭から落としているが。

 

「ええっと……とりあえず浮き輪借りてくるね」

 

 ウタは物心ついた時にはすでに能力者だった。泳ぐことなどできないし、ましてや海で遊ぶこともままならない。

 それができるとなると心惹かれるものがあるが、やり方は躊躇いが生まれるものだった。他に方法があるかと言われると、たしかにないのだが。シャボンがあれば話も早かったが、残念ながら誰も持ち合わせていない。

 浮き輪を借りに行くウタを見守っていると、ベルナートは後ろからそっと腕を回された。

 

「モネ……?」

 

「あなたにまた会えて、元気そうでよかった……。ずっと……心配だったから」

 

 ベルナートが振り返って目が合うと、モネはすぐに顔を赤くした。恥ずかしさを堪えて、やっとできたことなのに。至近距離で顔を見合わせるのはキャパオーバーだった。

 そんなモネの頬をベルナートは右手でそっと撫でる。くすぐったそうに目を細める姿に、ベルナートもくすりと微笑んだ。

 前よりも近くなった距離だ。背丈が伸びたという事実は、それだけの年月の証。成長の印の1つ。

 

「モネ。オレは」

「言わないで」

 

「……」

 

「あなたの言いたいことはわかる。嬉しいけれど、それは駄目なのベルナート」

 

「……お前は()()()()()()に就いてるのにか?」

 

「それは……。でも……」

 

 回されている手に力が加わる。子供がぬいぐるみを抱き締めるように。大切なものを手放したくないのだと言うように。力強くそれでいて優しく。

 

「私はもう二度と。……あなたが傷つく姿なんて見たくない……!」

 

「ありがとうモネ。そう思ってくれる人がいるってだけで、オレは幸せだよ」

 

 駄目だ。

 届いていても、それは受け入れられない。ベルナートは最後の賭けをしているが、それでも覚悟自体は固まっている。あとはタイミングだけだ。

 

「過去にもしもなんてない」

 

 もしもベルナートがドンキホーテファミリーに入っていたら。

 もしもモネがドンキホーテファミリーに入っていなければ。

 もしも2人が、もっと早くに出会えていたら。

 もしも…………。

 

 どれか1つでも叶っていたら、今とは違う形になれていた。だが現実は違う。だからこうなっている。

 

「けれど未来にはもしもがある。オレは、どれだけ傷ついても掴みたい。またモネとデートしたいしな」

 

「……っ!? …………ばか」

 

 不思議と今回は照れることがなかった。スッと胸の中に落ち着き、柔らかな温かさを感じる。

 それに感じ入るように、モネはそっと目を閉じて──。

 

 

 浮き輪を借りてウタが戻ってきた頃には、モネはどこかへと行っていた。「これ以上一緒にいると別れにくくなるから」という理由だ。

 だがまだキューカ島自体にはいるらしく、ウタがライブをするのならそれも聴くつもりらしい。それを聞いてウタも、それならやらないとねとライブの決心をしたものだ。

 

「今回はゲリラライブにするね。この島は大きな島でもないし、長居するわけでもないんでしょ?」

 

「なら夜間だな。浮き輪まで借りてきたんだから、まずはウタがこの島を楽しんどかないと」

 

「ふふっ、ありがとう」

 

「なにが?」

 

「ううん。ベルナートはいつも気にかけてくれるから。でも本当によかったの? モネと一緒にいなくて。まだ話すことあったんじゃない?」

 

「……いいんだよ。話し過ぎるのもまずいことになるから」

 

「?」

 

 半分も理解できなかったが、とりあえずウタは流すことにした。モネが予防線を張っていたように、世界には踏み入れるべきじゃない闇がある。ベルナートもモネも、ウタがそこに近づかないように最大限気をつけていた。今になってウタからそこに行くわけにはいかない。

 プールと海のどっちで遊ぶのか。浮き輪借りてるしプールだろうなと予想するも、ウタはどっちもと答えた。プールでは浮き輪を用い、海では使わない。

 

「本気で言ってるのか?」

 

「うん。モネにオススメされたし、ベルナートなら大丈夫。パンツ見られたけど」

 

「いつの話だよ。……見てねぇけどな!?」

 

「おそいって……」

 

 プールか海かでは海が先だ。そっちで遊んだあとに、浮き輪でゆったりとプールを楽しむ。ベルナートもついているのだから、気楽にできる方をあとに回したい。

 そんなわけで、借りた浮き輪は一旦ビーチに置いておき、ウタは飛び込み台に駆けてそこから海へと飛び込んだ。

 

「はぁ!?」

 

 慌ててベルナートも海に入り、沈んでいくウタを掴んで一旦海面へ。

 

「げほっ、けほ。あはは、はやいねベルナート」

 

「心臓に悪いんだが!?」

 

「ごめんごめん。ここからは、おねがいね」

 

「ったく。オレ普通の服なんだけどな」

 

「あ、ほんとだ。……どんまい!」

 

 いい笑顔でウタが首に腕を回し、ベルナートも仕方ないかと諦めてウタの背に腕を回す。

 3秒のカウントダウンを入れてから、ベルナートはウタを連れて海中へ。ウタもカウントに合わせて大きく息を吸っておいた。

 能力者にとって海は天敵。昔から泳げなかったウタにとっては恐怖とそう変わらない。さっきも1人で海にいたら怖かった。

 

(けど今は怖くないや)

 

 ベルナートといることで余裕が生まれ、ウタは海の中を初めて綺麗なものだと感じていた。泳いでいる魚たちも愛らしい。

 近くまでベルナートが寄せていき、ウタの手を伸ばさせて触れさせる。

 初めて触れる海中の魚。ぬるっとしたような気がして、驚いた魚はすぐさま泳ぎ去っていった。そっちを目で追いかけると、他の種類の魚たちも見える。美しく、雄大な海。

 海の印象がまた変わった瞬間だった。

 

「ぷはっ! はぁはぁ、ふふっ、あははは! はぁぁ、きれいだった~」

 

「楽しんでくれて何よりだ」

 

「ありがとうベルナート。いっしょうのおもいでになったよ」

 

「……これからも好きな時に潜ってやるよ」

 

「……、これからもいっしょにいてくれるんだ?」

 

「期間は成り行き次第で」

 

 少なくともこのツアー中は共にいる。その後どうなるかは、その時次第だ。

 出会いがあれば別れもある。それは誰もが知っていることだ。けれどウタにとって「別れ」は、良い意味を持たない。

 順当に考えればいずれベルナートとも別れる。これまでのツアーで会ったファンのように。しかしベルナートはファンではない。ベルナートは……。

 

(ベルナートは……なんだろう)

 

 うまく当て嵌められる言葉が出てこない。

 

「どうせまだツアーは続くんだ。そんなのはその時に考えればいい」

 

「そう、だね。ベルナート、もういっかいもぐって」

 

「楽しんでくれてるのはいいけど、ライブできる体力は残しとけよ」

 

「だいじょうぶ!」

 

 根拠のない自信だったが、ウタの笑顔に負けてベルナートはもう1回海中へと潜った。

 なおライブはウタが浮かれたために水着で行った。ライブ配信もあり、ファンもさらに増えたが、水着姿に魅了されたガチ恋勢も発生したとか。そんな人たちが発生したとは、ウタが知る由もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある一室にて、その男は映像を見ていた。その話は外出した時に耳にした。どんなものかといつでも品定めするように、映像を受信できる電伝虫は部屋に配置させておいた。

 その部屋に置かれているものはどれもが最高級の一品ばかり。どんな王族よりもワンランクは上のものが揃っている。

 

「おいお前」

 

「はっ」

 

「この女を買いに行くえ」

 

 




 ベルナートが初めて人助けをできた相手がモネとシュガー。いろいろと特別な相手らしいです。
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