このスカイピアにはジャヤの半分が飛んできている。島が飛ばされるほどのノックアップストリームなど、常識外れもいいところだ。そんな規模の爆発など、それこそ数百年に1度だろう。仮にその規模自体が何度も起きるのだとしても、島の下に発生する確率など極端に低い。
なんにせよジャヤは空を飛んだ。おそらくは世界で唯一島の半分が空に浮かぶ島だ。今では植生も動物も空の環境に適するように進化を遂げている。
「このサウスバードもそういうことだろうな」
「なんでサウスバード?」
「ずっと南向いてるんだよ。一応世界には東西南北それぞれの方向を向く鳥がいるらしい」
「1種類ずつ飼ったら面白そう」
「ペットの世話できるのか? 簡単じゃないぞ?」
「ちゃんと世話できるよ! ところでこれ、
「どこだろうな~」
呑気に会話をしている2人だったが、現在は長年の進化により巨大化したサウスバードに捕まって飛んでいる。
甲板で食事を取っていたらサウスバードが接近し、その大きさに興奮したウタが触れていると掴まれて飛翔。ベルナートもそのサウスバードの足を掴み、ウタと一緒に飛んでいるわけだ。
「ゴードン大丈夫かな」
「今は島にいる人たちと一緒っぽいな。安心して良さそうだ」
「ならよかった。それにしても木も大っきいね~」
「地上のよりもデカくなってるんだろうな。それでウタ。どの辺りで降りる?」
「降ろしてもらえるの?」
「いや強硬手段」
「それは可愛そうだからだめ」
「じゃあどうすんだよ」
「この子に任せる」
それだとどこまで飛んでいくのか不明だ。半分だけとはいえジャヤはそれなりに広い。ゴードンとも合流して無事を伝えないといけないのだが。
どうしたものかとベルナートが考えていると、前方から別種の大型の鳥がやってきた。その上には人も乗っており、鎧を着込んでいる。その鎧越しに見てもわかるが、その者は老兵らしい。
「いやはや旅行客がサウスバードに攫われたと聞いて急いで来たが、なんとも呆れた落ち着きぶりよ」
「お爺さん誰?」
「うむ。我輩空の騎士。あ、いや、今では元だがな。この鳥は相棒のピエール」
「ピエー」
「私はウタ。音楽家だよ。こっちはベルナート」
「聞いて来たってことは、ゴードンさんが話してくれてたのか」
「その通り。そこまで心配はしていなかったようだがな。そういう事だサウスバードよ。その2人を離してはくれぬか?」
「ジョ」
「あれ?」
空の騎士はサウスバードからも慕われているようだ。大人しく言うことを聞いたサウスバードが、掴んでいたウタを離した。ただし
「ウタ! この鳥後で串焼きにしてやろうか!!」
「かわいそうだから駄目だってば!!」
落下中のウタに注意されながらもベルナートはサウスバードから手を離し、空気を蹴って一気にウタに近寄る。六式と呼ばれる体技の1つ、月歩と同じやり方だ。
その速度はピエールも驚くほど。ピエールの飛ぶ速度は速い方だ。だがベルナートの方が速い。すぐにウタの側に跳んでいき、背と膝裏に腕を回して空中で支える。その後も定期的に空気を蹴っているため、着地までは緩やかなものだ。
「……ベルナートって何者?」
「昔めちゃめちゃ鍛えたんだよ」
「人間辞めてるよこれ」
「それは言い過ぎだろ。……鍛えないとな~、生きていけないんだよ」
「……いつ教えてくれるの? ベルナートのこと。モネと会ったから余計に気になってきちゃった」
「そう言われてもな」
「大丈夫。私はベルナートの側からいなくならないから」
「……!」
「言ったでしょ? 私の歌でベルナートを心から笑顔にしてみせるって」
「あーそういうことね」
「うん?」
「いや、なんでもない。……そうだな、それなら青海に戻った時にでも話すか」
話した方がいいのかどうか。その点で考えると、相手がウタだということも含めれば
ウタがワールドツアーをやると言った時から、話さないといけないことはわかっていた。しかしそれと同時に、その当時のウタ相手には話すこともできないと判断していた。視野が狭く、世間を知らない箱入り娘になっていたからだ。
視野が十分に広がったかと言えば、まだ不十分だろう。知らないことはまだまだ多い。それでも、ウタが信じてくれるのならば、ベルナートも踏ん切りをつけることができる。
「その時は私の秘密も話すね」
「別に交換条件でもないし、話さなくてもいいぞ。秘密なんだから」
「いいんだって。ベルナートには話せる。……ううん、知っていてほしい。私のこと。じゃないと不公平だしね」
「ウタがそう言うなら……」
「うん! ところでそろそろ降ろしてくれない?」
「そうだった」
地面へと着地したものの、未だにウタを抱えたままだった。それをすっかり忘れていたベルナートは、ウタの要望に従って降ろす。
そのタイミングを見計らってでもいたのか、空の騎士とピエールが木々の間を通って2人の前に現れた。
「すまんな。まさかサウスバードがその場で放り投げるとは思わなんだ」
「ベルナートが助けてくれたからいいよ。お爺さんたちも助けてくれようとはしてくれてたみたいだし」
「その男が信じられん速さで追いかけたので度肝を抜かれていたがな。名をベルナートと言ったか。青海の者がこの空気の薄い空で、あれだけ動けるとは恐れいった」
「私もびっくりしたよ。人って飛べるんだね」
「普通は飛べぬはずだがな」
「なんで人を化物みたいに見てるんだよ。れっきとした人間だぞ」
「常識はずれの、が付くがな」
実際問題として、月歩を使える人間はある程度いる。体技を極めている世界政府お抱えのCPとか。新世界にいる強者とか。
それでも世界の人口からすれば極少数という事実は変わらないのだが。
空の騎士ことガン・フォールが、ベルナートとウタを集落まで案内することを買って出た。この島で最高責任者の立場に就任しているのもあり、これぐらいは当然とのことだ。ただし大人3人がピエールに乗れるわけもなく、陸路を歩くことになる。
「空の騎士って神様なんだ。神様って実在するんだね」
「そういう名の役職に過ぎんよ。私とてお主らと同じ人間だ」
「そこはちょっと残念。ところで、空島に土があるのは珍しいんだよね? 本当なら島雲ってとこで生活するって聞いてるんだけど、それはどこにあるの?」
「ふむ……かつてはこの国にもそれはあった。ある男によってその島、エンジェル島は跡形もなく消されたがな」
「え!? それってどこかの海賊!?」
「いやいや、当時その男を倒した者こそが海賊だった。……別の空島から現れ、この国の神の座に君臨していた者が犯人だ。時が経てばまた島雲の上での生活もできるが、今はまだ十分な量にはなっていない」
「そっか……」
「そういう事情なら仕方ないな」
「じゃがこの島にも島雲はある。青海人にとってそれが珍しいのも承知だ。観光地として加工したものが集まっている場所もあるので、そちらに行くといい」
「絶対行く! 明日には行こうベルナート!」
「そうだな。それはそうとガン・フォールさん、この島には先住民がいなかったのか?」
「当時も、そして今もおる。400年に渡って戦い続けてきたが、今は矛を収め手を取り合っている。そうなったのもあの海賊たちのおかげだがな」
どっかで聞いたことあるパターンだなと2人は思ったが、さすがに今回は違うだろうと顔を見合わせる。もし当たっていたとしたら、縁のあるツアーどころじゃない。
「この島はかつておうごんとやらが多かったそうだ。しかしそれらは先代神エネルによって回収され跡形もない。青海はそちらの方が価値があるようだな?」
「大金と交換できるからな。特に海賊なんかは、財宝を求めて旅をしてる奴ばかりだ」
「やはりそうか」
「むしろそれが無くなってるなら、それはそれで都合いいんじゃない? 財宝目当ての海賊が来ても肩を落として帰るだろうし」
「その時が来たとして、大人しく帰ってくれればよいがな。気の良い海賊は少ない。長年生きているが、私の知る限りそれは2つの海賊団だけだ」
「海賊は普通犯罪者集団だからな」
むしろそういった海賊は、海賊の中で異例だ。2組もの気の良い海賊団と出会えたのなら、それは運が良い方だ。しかもここは空島。豪運を語ってもいいレベルである。
「あ、そうだガン・フォールさん。島が消えたって言ってたけど、この空島の
「
「
「ふむ、後ほど確認するとしよう」
音楽家と名乗ったウタがいて、音貝を可能な限り多く持って帰りたいとベルナートが言っている。そこを結びつけて考えれば、何を目的にそう言っているのかは想像しやすい。
ベルナートたちは海賊のように奪いに来たのではない。交渉して貰う。もちろん売買も視野だ。ガン・フォールもそう思っているから、正確な数を把握してからその話をするつもりだ。
「2人こっちに来るな。しかも速い」
「え?」
強さも感じ取れる。一応の警戒をしていると、2組の男が一行の前に現れた。相手に敵意がないとわかると、ベルナートは刀から手を離した。
男たちはベルナートとウタを一瞥すると、視線をガン・フォールに移す。次の瞬間には説教が始まっていた。
「神のてめぇが何真っ先に飛び出してんだ! 立場ってものを考えろと何度言えばわかる!」
「いやしかしサウスバードに攫われたと聞くと空からも探すべきだと」
「
「すまんかった」
「ベルナート。神様が怒られてるよ」
「身軽に動いてるなとは思ってたけど、やっぱ駄目だったのか」
「ワイパーその辺にしておこう。客人の前だ」
「まだ言い足りねぇが……仕方ねぇ」
「ふむ。お主らに見苦しいとこを見せてしまったな」
「「
「ぬおっ!?」
護衛を行っている者たちなのだろう。その気苦労も察せられる。たしかに国のトップに気軽に飛び出されてはたまったものではない。サクラ王国のドルトン然り。
「お前ら勘違いするな。このジジイは普段からこうってわけじゃねぇ。青海人に何かあった時、特に緊急性が高いと判断した時にピエールに乗って勝手に出ていくだけだ。ピエールも止めろって話だがな」
「ピェー……」
「お前らの連れは村で待ってる。案内はおれ達が引き継ごう」
「一度引き受けたからにはわしが最後まで行うぞワイパー」
「ピエールで先に戻ってろ。酋長が呼んでたからな」
「むぅ……ならば仕方あるまい。ベルナート、ウタすまんな」
「ううん。ここまでありがとう! また後で!」
ウタが笑顔で手を振り、気を良くしたガン・フォールはピエールに変形するように指示した。せっかくだから見せてやろうとのサービス精神である。
ピエールは鳥にしてウマウマの実を食べた鳥と馬の融合体。変形すればどちらのも要素を取り入れる。
「すなわちペガサス!」
「ピエーー!」
(うわぁ微妙~)
「うわっ、いかすなピエール」
「ピエッ!」
「ほんとに?」
「え、うん」
上機嫌で飛び去るピエールにベルナートが手を振り、見えなくなったところでワイパーともう1人の男ブラハムが2人に近寄った。ベルナートに対しては、何か信じられないものを見るような目だ。
「お前さっきの正気か? ガン・フォールに洗脳されてねぇか? ピエールのアレは全員口揃えて微妙って言ってるんだぞ」
「そう言うなワイパー。上空10,000mまで来てんだ。正常な判断ができてないのかもしれねえ。大丈夫か青海人? 酸素足りてるか?」
「オレの脳は正常だわ!」
「いやベルナートは駄目かも」
「ウタ!?」