たった1つの笑顔   作:粗茶Returnees

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 この作品のプロットは短編から連載へと切り替わった時に9割吹き飛んでます。どこで何話とかはすべてその時次第です。


スカイピア③

 

 恐怖による支配を行っていたエネルがいなくなり、この空島は新たなスタートを切った。国の名をスカイピア。都市の名はシャンドラ。島の名はジャヤ。

 400年にも及ぶ戦いの末、共通の恐怖にして脅威であったエネルとその配下たちの敗北。この幕引きがあったからこそ、人々は争いをやめることができ、歩み寄るという難しい選択肢を取れた。

 

「ブラハムたちはジャヤにいた人たちの末裔なんだ? なんだか凄いな~。そういうルーツがちゃんと続いてるなんて」

 

「青海では珍しいのか?」

 

「珍しいの? ベルナート」

 

「そこで振るなよ。……国や民族によるな。抗争の末に滅ぼされた一族もあれば、他の一族と一緒になって新たな一族になったとこもあるはずだ。一番長く続いてるのは、天竜人だろうな」

 

「なんだか仰々しい呼び名だな」

 

「青海には170以上の国が加盟している一大組織、世界政府ってのがあるんだよ。それの創造主たる19の一族たちの総称が天竜人。ちなみに天竜人の言うことは絶対だし、逆らえば死ぬこともあるし、手を出すと世界最高戦力が追いかけてくる」

 

「なんだその物騒な話は……。青海の印象が変わるんだが……」

 

「これが現実なんだよ。出会わないのが一番。出会ったら目を合わせずに頭を垂れてやり過ごす。もしくは気付かれないうちに物陰に隠れるか逃走するか」

 

「聞くほど印象が悪くなるな!」

 

「ベルナートは天竜人嫌ってるからね。そういう側面を念押しするんだよ」

 

「聞いてた限り天竜人とやらを好く要素がないけどな」

 

 ベルナートが嫌うのも納得だ。ただ同じ知識を持っているはずのウタとベルナートで、天竜人に対する印象に差がある。それを感じ取ったブラハムは、悩んだ末にそのことを聞いてみた。

 

「私は天竜人を実際に見たわけじゃないからね。ベルナートは何年も青海で旅してるし、天竜人を見たことあるんじゃないかな」

 

「そうなのか?」

 

「まぁ何度か。天竜人が住む聖地マリージョア。その近くにシャボンディ諸島ってのがあって、天竜人はそこに来やすいんだよ」

 

「近いからか」

 

「あとはそこで奴隷を買えるから」

 

「「は?」」

「え?」

 

 ベルナートの発言には、無言で先頭を歩いていたワイパーもが振り返って唖然とした。その言葉の意味は理解できる。はっきりと聞こえもした。

 しかしその現実には驚愕しないわけがない。そんなものがあり得るなど、想像すらしたことがない。

 

「人攫いを生業にしてる連中もいて、捕まると最後。人権なんて消えてこき使われる生活になる。天竜人がその存在を望み続けるから、人身売買が無くなることはない」

 

「……ベルナート。シャボンディ諸島ってたしか、魚人島に行くためには寄らないといけないとこだよね?」

 

「そうだな。海賊を捕まえて売り捌くこともあるぞ」

 

「あー、そこは政府としても助かる面だね……」

 

「随分と詳しいんだなベルナート」

 

 おそらくは集めようとしなければ集まらない情報すら持っている。その事について詳し過ぎる。

 ひょっとしてそれに関係するようなことを、何か経験しているのではないか。ワイパーはその事を懸念して踏み込んだ。もし、加害者側を経験したのなら、この空に停泊させるわけにもいかない。

 ワイパーが本気でその事を考えているとベルナートも察し、笑いながら両手を上げた。そんな事をするわけがないと。

 

「情報屋に寄った時に聞いたんだよ。正確には、その情報屋と一緒にいる爺さんからな。あの人、金が無くなるとわざと捕まって、運営側が持つ金を盗んでるからな」

 

「そんなジジイがいるか!」

 

「いやいるんだって……!」

 

「まぁまぁ。その真相はともかく、ベルナートはそういう事をする人間じゃないだろ。天竜人を嫌ってるなら、その助けになるようなことはしないはずだ」

 

 ブラハムが仲介に入ったことでワイパーも引き下がった。彼の言った通り、嫌っている存在の助けになることは、誰もがしたくないことだ。

 ワイパーがベルナートに問うたのは、集落の目前まで来ていたからだ。青海からの客人だとしても、ガン・フォールが助けた相手だとしても、もし危険性があるのなら入れるわけにもいかない。この土地を守る者として、当然の判断だ。

 

「ここがおれ達の住処シャンドラだ。お前たちの連れなら今酋長たちと話をしているはずだ」

 

「ならそこに行こうかな。空の騎士が伝えてくれてるとは思うけど」

 

 その場所を聞いたウタとベルナートは、ワイパーたちと別れてそこに向かった。シャンドラはワイパーたち先住民の都市の名前であり、そこからもじったジャンディアが彼らの呼び名である。黄金都市としてもその名は青海の記録に残っている。

 現在では空島の人たちと共存しているが、島自体は大きい。シャンディアにはシャンディアの集落。空の者には空の者の集落がある。ここはその中間地点で、ガン・フォールや酋長などが暮らしている。

 その一画にこそシャンディアの長、酋長の家がある。その中にはガン・フォールとゴードンの姿も。

 

「2人とも無事だったか。よかった。2人もこのかぼちゃジュースを貰うといい。美味しいぞ」

 

「「めっちゃくつろいでる!」」

 

 かぼちゃジュースはガン・フォールが育てているかぼちゃで作られたものだ。それを振る舞われて飲むのはわかる。ベルナートでもウタでも飲む。

 しかしそれだけではない。ゴードンは今島雲で作られた椅子に座っており、その独特な柔らかさを堪能していた。話し合いはどうしたのだと言いたくもなる。

 

「話なら今しがたついたところだ。そちらの娘がウタだな。君のライブとやらもやってもらって構わない。音貝(トーンダイアル)を優遇するという形で、チケット代にさせてもらうつもりだ」

 

「私は何でもいいよ。ゴードンがそう決めたならそれでいいし、空島を楽しませてもらいたいし。ベルナートもそれでいいよね?」

 

「そうだな。そういう形で話がついたなら十分だ」

 

 (ダイアル)は空島でしか手に入らない代物だ。青海でもそれを売る商売人がいるにはいるが、値段は割り増し。その商人だって仕入先は空島。結局は空と交渉する。

 何よりも空と青海では通貨が異なる。青海ならベリーだが、こちらはエクストル。しかもその価値は大きく異なり、1ベリーで1万エクストルだ。その違いを考慮すれば、ライブ代にお金を貰うよりも貝を貰ったほうがいい。

 

「ゴードンその椅子そんなに気持ちいいの?」

 

「青海では味わえない心地良さだ」

 

「へ~。ベルナート。この椅子って持って帰れないかな?」

 

「他人の家の椅子だぞ!?」

 

「そうじゃなくて! 買って帰れないかなってこと! わかってて言ったでしょ」

 

「もちろん」

 

「その椅子は青海では使い物にならんはずだ」

 

「そうなの? なんで?」

 

「雲だからな。海雲も島雲も、この空の環境だからあるだけで、一定の高度から下はその性質を保てない」 

 

「消えちゃうってこと?」

 

「そうなるな。昔持って帰ったらそうなった」

 

「実体験なんだ」

 

 実体験である。ベルナートだって島雲の心地よさを堪能した。堪能し尽くし、名残惜しいからと購入もした。そしてそれが無駄な出費となって膝から崩れ落ち、モネに慰められた過去がある。

 懐かしい記憶でありつつも、恥ずかしい話でもある。主に最後の部分が。

 ともかく、ベルナートのその実体験があるとわかれば、ウタも島雲椅子の購入を諦めるしかない。残念だと肩を落とす。ゴードンも項垂れた。

 

「あれ? もしかしてベッドも島雲なの?」

 

「うむ。お主らに泊まってもらう部屋のものもそういう作りだ」

 

「やった! ねぇ部屋見てきてもいい!? 場所どこ!?」

 

「はっはっは。元気な娘だ。アイサ、そこにいるなら案内してあげなさい」

 

「ぎくっ、バレてたんだ……」

 

「お前が隠れる時の癖は直っておらんようだからな」

 

「あたい隠れる時癖あるの!?」

 

 それがどういう癖なのかは酋長も教えなかった。昔からコソコソと1人で危ない行動を取る子がアイサだ。生まれながらにして心網(マントラ)を使えることも相まって、こっそり動くことが得意になっている。

 その少女アイサが案内し、部屋に入った途端ウタがベッドに飛び移った。反発力も持ち合わせており、飛び跳ねることも可能だが、力を加えずに寝そべれば心地よく受け止められる。干したての布団よりもふかふかで気持ちいいと、青海の者たちは口々に言う。

 

「子どもみたい」

 

「お前と同じだな」

 

「あたいあんなに子どもじゃない!」

 

「ちょっと! 私が子供確定で話進めないでくれる!?」

 

「そのベッドに寝転んでみろよウタ」

 

「わっ」

 

 ベルナートに肩を押されて寝転がされたウタは、ふかふかな島雲ベッドに目を細める。

 

「きもちいい~」

 

「これでよし」

 

「やっぱ子どもだ」

 

「ベルナートもねころんでみよーよ」

 

「オレは別にいい……っておい!」

 

 腕を掴まれてそのまま抱き寄せるように引っ張られた。抵抗するのも面倒そうだなと思ったベルナートは、そのままウタのいるベッドに横になる。呆れたようにウタを見ると、当の本人は緩まった表情で笑いかけてくる。

 

「ね? きもちいいでしょ?」

 

「そりゃそうだけどさ」

 

 

 アイサが酋長に頼まれたのは部屋への案内だけ。役割はもう終わっているのだが、アイサは青海からこの2人に興味があった。もう1人は酋長たちと話し続けているし、年齢が大きく離れている。

 少しでも年の近いベルナートやウタの方が、アイサとしても話しかけやすいものだ。

 

「青海ってどんなところ?」

 

「興味あるのか?」

 

 ウタによる腕の拘束は、ベッドに横になった時にすぐに解けている。ベルナートは体を起こし、アイサと向き合った。

 

「うん。だって行ったことないし、この大地(ヴァース)だって青海から来たんでしょ? あたいたちの先祖の故郷の青海から」

 

「そうだな。……簡単な概要で話すか。青海ってのは大きく分けて5つの海があるんだよ」

 

 世界唯一にして長大な大陸レッドラインと、それに交差するように長く伸びている一本の海グランドライン。この2つによって分けられている東西南北の4つの海。これで5つであり、グランドラインの両脇は無風地帯のカームベルトがある。大型の海王類の巣だ。

 

「かいおうるい?」

 

「大型の海王類は、島よりでかいのもいる」

 

「えっ!? そんなのが青海にいるの!?」

 

「うようよいるぞ。基本的にはそこ通らないから、気をつけとけば出会うこともない」

 

「青海って怖い」

 

「気をつけとけば大丈夫だって。んで、島は多いぞ。みんな船を使って、島から島へと移動する。今は困ったことに海賊が多いなー」

 

「海賊って悪いの? あたいが知ってる海賊は良い人たちだったよ?」

 

「そりゃ例外だ。海賊ってのは犯罪者集団。捕まっても処刑されても文句は言えない」

 

「ええ……」

 

 好き好んで海賊になる者は、自由を求める者だったり、支配を目論む者、略奪や財宝に重きを置く者といろいろいる。反対に、「他に道がなかった」という者もいなくはない。あるいは海軍による偽装海賊か。

 なんにせよ、海賊となり本気で財宝を狙うものは皆が共通して1つの財宝を求める。

 かつて海賊王の一団のみが到達した最果ての島ラフテル。そこに眠るとされる"ひとつなぎの大秘宝"、ワンピース。

 

「海賊王ロジャーの処刑から始まったのが今の大海賊時代。その一幕を閉じた上で次を開いたのが、海賊王のライバルだった白ひげ。おかげさまで今は狂乱の時代だ」

 

「海賊王ロジャー…………あ、昔この島に来たっていう人のことか」

 

「そう。その…………海賊王がこの空に来たのか?」

 

「らしいよ。あたいは生まれてなかったけど、ロジャーって人の名前が、大鐘楼の土台あたりに刻まれてるんだ。よくわからないけど、あたいたちの一族が守り続けないといけなかったやつの役割も、その人が終わらせてくれてたんだって」

 

「そういや大鐘楼もこっちにあるんだったな。明日見に行くとするとして、それどうやって知ったんだ? 青海とのやり取りなんて早々できないだろ」

 

「ナミの仲間に刻まれてる文字を読める人がいて、その人が教えてくれたんだって」

 

「ナミ?」

 

 その名前が聞こえた瞬間、ウタが跳ねるようにベッドから立ち上がった。アイサにはよくわからなかったが、ベルナートにはわかる。ナミという名は、麦わらの一味の1人の名前と一致する。ウタが反応するのも無理からぬことだ。

 

「ルフィってこの島に来たの?」

 

「え、なんでルフィのこと……」

 

「ルフィは私の幼馴染だから。それよりアイサ、ルフィもこの島に来てたの?」

 

「う、うん」

 

「教えてくれる? ルフィがこの島で何をしたのかを」

 

 

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