たった1つの笑顔   作:粗茶Returnees

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 今回ちょっと長くなったけど、分けるには微妙な文字数なので1話にしました。


子どもの島

 

 空島から青海に帰る。安全なやり方でこれをやろうとすると、ハイウエストを目指すのが確実だろう。それ以外の方法となると、それはもう文字通り、"空島から青海へ"降りるしかない。平たく言うと落下である。

 

「きゃああああああ!!!」

 

 空から落下する船と空から降り注ぐ女性の絶叫。船はその衝撃に耐えたが、恐怖体験はウタの脳裏に焼き付いた。

 

「タコバルーンが途中で縮むのは先に言ってよ! 叩くよベルナート!」

 

「もう叩かれてます」

 

「はぁはぁ……無事だからいいけど」

 

「叩いたのに?」

 

「ゴードンは大丈夫?」

 

「無視された……」

 

「私は大丈夫だ。コーヒーが溢れてしまったから今拭いてる」

 

「いつの間にその落ち着きを身につけたの?」

 

 ベルナートとウタと、3人で旅をしている中でゴードンは気づいたのである。世間知らずのウタは当然として、ベルナートもノリで生きているところがあると。 

 即ち、常に一歩身を引いて冷静にいる人物が必要なのである。そしてその役割を、他ならぬゴードン自身がやるしかない。

 だからといって一朝一夕になれるものでもない。ゴードンはひとまず、そういう振る舞いをすることから始めた。コーヒーを飲んでいたのも、気持ちを落ち着かせるためである。

 

「あ、タコバルーン。ここまでありがとうね」

 

 甲板で横になっていたタコを持ち上げ、ウタはそのタコを海へと返す。海雲と青海では違いもあるだろうが、せめてあのタコが健やかに生きていくのを祈るしかない。

 

「ベルナート。ここからどの島に向かうの?」

 

「エターナルポースを使ってどこか行きたいところなんだが……」

 

 ベルナートが望遠鏡で周囲を確認していると、そこから西の方向に島の影があるのを発見する。

 道具に頼って進むのもいいのだが、このツアーは目的地を決めて周っているものではない。すべて成り行きだ。

 今回もそういうやり方で選んでもいい。

 

「西に島があるからそっちを目指そう。海流の流れもあるから、望遠鏡で島の方向を捉え続ける必要がある」

 

「じゃあベルナートが見てて」

 

「ウタが舵を取るのか?」

 

「ううん。私は空島のことを配信で話したいから、舵はゴードンにお願いする」

 

「熱心だな。オレは映すなよ」

 

「わかってるって。ベルナートは恥ずかしがり屋だもんね。配信の時だけ」

 

 早く配信を始めたいのか、軽快な足音を立てながらウタは自室へと入っていく。配信用の電伝虫はウタの部屋に置かれていた。

 しかし配信の場所がいつも部屋の中かと言うと、そういうわけでもない。ウタの配信なら基本的に部屋の中で行うが、ダンスの配信だったり今回のような雑談配信なら、後方の甲板を使うこともある。メインマストの上にある物見台の檣楼(しょうろう)も使う。

 今日は空島で体験したことを話すことになるため、部屋の中で行うだろう。(ダイアル)など実物のお土産も紹介できる。

 

「島が見えているのかね」

 

「遠くに。まだ肉眼で見える距離ではないですけど、そこを目指しましょう」

 

「了解した」

 

 ベルナートが望遠鏡で島の方向を常に監視し、ゴードンが船の進路を調整する。これぐらいならベルナート1人でもできることなのだが、手伝ってもらえるならその方がいい。

 3人で過ごした日数は増えたものの、未だに海の上で3人で過ごした日数は、陸上に比べて少ない。エレジアで1ヶ月半近く過ごしたことが大きい。

 それでも海上にいればほぼ毎日誰もが舵に触ることになる。確実に蓄積されてきた経験は大きく、ゴードンも操作に手馴れてきたものだ。

 

「そうだゴードンさん。本格的にグッズを売るのは、エレジアに帰ってからでしたよね?」

 

「そうだな。あとは製造元を探す必要が出てくる」

 

「運搬もですね。旅しながら探しますか」

 

「それ以外にできることはないな。……君には感謝しているよ」

 

「なんでです?」

 

「私は臆病者だ。ウタの魅力をいつ、どうやって世に知らせるか。それを決められずにずっと過ごしてきた。ベルナートくんが連れ出してくれたから、ウタは今を楽しめている」

 

「……ウタが決めたことですし、ゴードンさんの支えがあってこそですよ。オレは素人だから、ライブのこととかわからない。ウタだって裏方のことはわかってなかった。このツアーが成り立ってるのは、ゴードンさんのおかげです。オレの力じゃない」

 

 だから礼を言われることじゃない。

 ベルナートがやっていることは、ウタに一般的な知識を教えることと必要な時に手助けをすること。これだけだ。前者だっていずれは必要なくなる。

 このご時世を考えれば、護衛を担当することも視野に入るがそれは少し難しい。

 

「それでもだ。年が近い友人というものは、誰にとってもかけがえのない存在になる。ウタが楽しめているのは、君がいてこそだ」

 

「とてもむず痒いのでその辺にしてもらえると……」

 

「ははは。気持ちは受け取ってほしいな」

 

 

 安定して進んで行き、望遠鏡も必要なくなる。肉眼で島が見える距離にまで行くと、配信を終えたウタも部屋から出てきた。

 その島に近づいていくと、一本の大きな煙が立ち上っているのが見えた。何かの工場かと思いきや、そういうわけでもない。その煙は黒く、遠目ながらも火の粉が飛んでいるのもベルナートは捉える。

 

「火山……じゃあないな。煙の出処が低そうだ」

 

 新たな火口の可能性もあるが、そもそもその島に見える山は緑が生い茂っている。昔は火山だったとしても、今は活動していないはずだ。

 

「ゴードンさん、出処が見えるように船を回してください」

 

「それって大丈夫なのベルナート?」

 

「大丈夫。たいていの事なら」

 

 ベルナートの頭を過ぎっているのは、この島の町が襲われているという可能性だ。これまで平和な島を見てきたからゴードンやウタはその可能性を見落としているが、頂上戦争の前後で比べれば海賊の数は増えている。

 その出鼻を海軍が迅速に挫いていったが、それでも海賊は多い。略奪は行われる。

 

「ベルナートあれって」

 

「髑髏のマーク。海賊船だな。ならあの煙も()()()()()()()

 

「海賊が……」

 

「船には……いないな。全員町の方か。行ってくるから2人は船で待ってて」

 

「待ってベルナート!」

 

「ぐえっ!?」

 

 飛び出そうとしたベルナートの首へウタが咄嗟に腕を回した。息が詰まりかけて咳き込むベルナートに謝るも、ウタは回した腕自体は解かない。

 

「危ないから待ってろ」

 

「やだ」

 

「やだってお前な!」

 

「現実を知らないまま生きるのはやだ!」

 

「っ!!」

 

「配信でこういうことがあるのは知ってた。町を襲われるって、親を殺されたり、家族を殺されたりした人もいる。そういうのは知ってる。でも、私は()()()()()()! 自分の目で、耳で、体で知ることが大切。そうなんでしょ? なら私はこれを知らないといけない!」

 

 誰もを幸せにしたいのなら、誰よりもそれを願っている人の現状を知らないといけない。"普通"の下を、すくい上げる対象を、ウタが知らないといけない。

 

「私も連れて行って! じゃないと私は私の目指す夢を叶えられなくなる!!」

 

「ウタ……」

 

「…………了解。でも前には出るなよ。ウタの能力なら相手をすぐに無力化できるけど、その後にウタが寝ちゃうからな。知りたいのなら、この島の人たちから生の声を直接聞いたほうがいい」

 

「……わかった。ベルナートも無茶しないでね」

 

 話が纏まると、ベルナートはウタを背負って今度こそ船を飛び出した。意識はもう切り替えてある。視界に捉えている煙の位置と見聞色で、海賊と思わしき集団の位置も予測が立つ。

 現場から少し離れた位置の上空からそれを目撃した。町よりも規模が小さい。ここは村のようだ。川に沿って作られた村には、放牧用の敷地もある。家畜たちを育てているらしい。何頭もの牛が、火事を目の当たりにして敷地の中を駆け回っている。パニックになっているのだ。

 燃えているのは村の半分の建物。小川を背に、子どもたちが広場に集められ、その正面には海賊たちの姿が。

 

「50人弱か」

 

「多いね」

 

「……子どもたちの右側の建物。ひとまずあそこにウタを入らせるから、ウタはタイミングを見て子どもたちを中に誘導してくれ」

 

「ベルナート、まさかあの人数を1人で相手するの?」

 

「あれぐらいどうってことない。子どもを人質に取られる方が面倒だ」

 

「無茶しないでねって言ったばっかなんだけど?」

 

「これぐらいは無茶じゃない。あいつら弱いから」

 

 理由になってないと言おうとするも、ベルナートが建物目掛けて急降下。ウタは言葉を飲み込むしかなく、結局諦めるしかないらしい。

 建物を挟んで広場の反対側から中に侵入。幸いにもこの建物は両側に扉がある。子どもたちの誘導もしやすい。なおかつ窓もあった。タイミングを見計らうのも簡単だ。

 

「……だからここ選んだわけか」

 

「そういうこと。じゃあオレは行ってくる」

 

「ベルナート!」

 

「ん?」

 

「怪我しないでね」

 

「……はは。うん、わかった」

 

 誰かにそうやって純粋な心配をされるのは、ベルナートにとって初めてのことだった。

 モネとシュガーと旅をしていた時は、互いに互いの実力を知っていたし、怪我はつきものだと考えていた。「怪我するなよ」も「()()()()()()()」の意味になっていた。 

 不思議な気持ちになりながらベルナートは建物を出て、ウタの存在が気づかれないように高速で移動する。広場を挟んでウタの反対側。そこからベルナートは、堂々と広場に足を踏み入れた。

 

「誰だお前」

「船長。なんか1人来ましたぜ」

 

「なあ海賊。村を半分燃やしてるのはなんでだ?」

 

「教える義理はないな」

 

「この村に大人がいないのもお前らのせいか?」

 

「義理はないって言ったろ。ヒーローごっこは最弱の海でやってろ」

 

「死にたくなかったら大人しく縄に捕まってるんだな」

 

「あ~、売ったわけか」

 

 10人が半包囲でベルナートに銃を向けた。どうやらド素人ではないらしい。なんせ包囲して銃を撃つと、誤射で味方を撃つ危険性が高まるからだ。この海賊たちはそれくらいは知っているようだ。

 燃やしている理由は不明のままだが、大人は拉致されたと見ていい。船にもいなかったから、拉致は今日行われたわけじゃない。この海賊たちがここに来るのは2回目、あるいは複数回か。

 

「構えたからには、そういうことでいいんだな?」

 

 ベルナートが怪しい行動を取れば容赦なく撃つ。そのつもりだったらしいが、それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「!? こいついつ刀を抜いて……!」

 

「只者じゃないな……。野郎ども全員でこいつを殺せ! 見せしめに好都合だ!」

 

 

 

 ベルナートが印象のある登場をしたことで、海賊たちの意識は完全にそっちに向いた。その瞬間にウタはドアを開け、子どもたちを手招きする。その多くは海賊同様ベルナートに目を奪われていたが、ウタに気づいた子どもたちは、こそこそと建物の中に次々と逃げ込んだ。

 全員が入ったことを確認し、ウタは扉を閉める。窓からチラッと顔を覗かせてみると、呆れてしまうほどにベルナートが余裕そうに1人また1人と無力化していっていた。

 

(心配の必要なかった……)

 

 しかしウタは知らない。ウタのその純粋な気持ちが、今回ベルナートの力になっていることを。

 

「お姉ちゃんたちだーれ? なにものー?」

 

 ほっと胸をなでおろしていると、安全になって気が緩んだ子どもがウタに近寄ってきた。突如現れた相手は、やはり興味が惹かれる存在なのだ。

 

「私はウタだよ。今あっちで海賊と戦ってるのはベルナート」

 

「あのお兄ちゃんつよいよね!」

 

「そうだね。私もびっくりしてるとこだよ。っ!?」

  

 安心させるようにニコッと笑っていると、今まで一切聞こえてこなかった銃声が鳴り響いた。それも一発ではなく何発も立て続けにだ。

 子どもたちは悲鳴を上げ、ウタは心臓を握られたような感覚に陥った。

 

(大丈夫……ベルナートなら大丈夫)

 

 心の中でそう何度も呟いた。小さな子どもたちが目の前にいるのだ。年上の自分が取り乱すわけにはいかない。まずは自分の気持ちを落ち着かせる。

 そう努めていると、扉がギィと鳴りながら開けられた。弾かれるようにそこを見ると、なんともないようにしてるベルナートがいた。

 

「ベルナート……!」

 

「うおっ! なんだどうした!? 子どもに泣かされたのか!?」

 

「「いやお兄ちゃんのせいでしょ」」

 

「なんでだよ!?」

 

 飛びついてきたウタは顔を伏せており、状況が飲み込めないベルナートはただただ困惑した。さくっと無力化できたから入ってきたらこれである。わからないのも仕方ない、かもしれない。

 

「だって……銃声が何回もして……」

 

「あ~。全部斬ったから怪我1つないぞ。……心配してくれてありがとう」

 

「うん……、……やっぱベルナート人間辞めてると思う」

 

「辞めてないってば……。あの海賊の船長が賞金首っぽいから、海軍に引き渡して報奨金貰う。そのお金はここに渡すって流れでいいよな?」

 

「もちろん。それがいい」

 

「じゃあ行ってくるから、ウタは子どもたちと交流でもしといて」

 

 そう言ってベルナートはすぐさま建物を出た。燃えていたはずの建物も、いつの間にか鎮火済みである。それを覗き見していた子どもは、未だにぽかんと目と口を大きく開けたままだ。ある意味嵐のような男である。

 脅威が去った今、ウタのやることは子どもたちとの交流だ。この時代になって広まる被害。その実例を目の当たりにした。辛いことではあるが、可能なら話も聞きたい。

 

「海賊がパパもママも連れてったの」

「食べ物とかも奪われた!」

「定期的に来て、物資が足りなかったら見せしめに燃やされてたんだ!」

 

「そう、なんだ。……ごめんね、私にできることは全然なくて」

 

「ううん。お姉ちゃんは何も悪くないもん!」

「お姉ちゃんってどういう人なの? なんでこの島に来たの?」

 

「私は音楽活動しててね、今はツアー中なんだ。電伝虫で配信もしてるんだけど、見たことない?」

 

「ない。だってこの島に電伝虫いないから!」

「それも海賊のせい!」

 

(電伝虫がない島もあるわけか)

 

 その可能性については、完全にウタの想像の中になかった。ウタの配信は電伝虫がなければ成立しない。受信する側にも必要だ。

 しかしそれはその島次第。受信できる環境にない者は、ウタのことを知れるはずがない。

 「みんなを幸せにする」──この目標のためには、そういう環境の人々のことも考えないといけないわけだ。

 

「ねえねえウタお姉ちゃん。さっきの人の名前、ベルナートさんって言ってたよね?」

 

「うん? うん。それがどうかしたの?」

 

「兄ちゃんお礼言わなきゃな!」

 

「それもなんだけど……」

 

「どうしたの?」

 

「あのお兄ちゃんと()()()がそっくりだから気になっちゃって」

 

「…………ぇ?」

 

 

 

 

 

 ベルナートは賞金稼ぎをしていた時期がある。それを行う時に決まって呼び出すのは、ベルナートが海軍の中でも信用できる数少ない海兵の将校。

 「生きる伝説」であり「歩く伝説量産人間」であり、市民と海兵の憧れ、英雄ガープである。

 

「わしは引退したんじゃぞベルナート」

 

「表向きにはまだでしょ。あなたの引退は亡くなったときですよ」

 

「ぶわっはっはっ! 言うてくれるわい」

 

「センゴクさんが元帥を退いて赤犬が就任。青雉は離れましたから、海軍の大将は黄猿1人。ここに来てガープさんまで引退したら、世間の海軍への信用が落ちますしね」

 

「理詰めで言うでないわ。ったく、コングにも似たようなこと言われたのを思い出す」

 

 やれやれと鼻息を鳴らすガープにベルナートもけらけらと笑って流した。

 ガープがこんなにも早く来れたのは、単純に近くを通っていたからである。ベルナートに捕まった海賊たちはガープの軍艦を見た瞬間絶叫していた。

 

「急じゃったから金は用意できとらんぞ。5000万ベリーのうち、わしの軍艦にある金じゃとせいぜいが300万ベリーじゃ」

 

「なんで300万あるんすか」

 

「わしの煎餅代」

 

「多すぎでしょ! ……ここの島は大人たちが売り捌かれたみたいで、子供しかいないです。お金は全部子どもたちのために用意してください」

 

「……なるほどな。ならわしの看板も立てておくか。子どもたちの面倒はわしらが責任を持って見る」

 

「ありがとうございます」

 

 ガープの指示に従い、海兵が看板を港の正面に打ち付けた。その看板があってもここを襲う場合、それはガープへの挑戦状を意味する。頂上戦争ですら奮戦し、黒ひげ海賊団相手に1歩も引かなかった姿が撮られていたガープだ。老兵だからと侮る海賊はいやしない。

 ベルナートがこうして海賊を捕まえ、海軍に引き渡し、その報奨金をすべて島に渡すのはいつものことだ。

 これを行う時に連絡する相手は、ガープ、お鶴、青雉。センゴクは元帥についていたため対象外だが、今はそこを退いているため連絡することは可能である。

 ベルナートがなぜ相手を選んで行うのか。それはひとえに、

 

「そうじゃベルナート。今朝の新聞を見たか?」

 

「いえまだです。空島から帰ってきたばっかなんで」

 

「なら一部渡してやる。差し込まれてるそいつを見てみろ」

 

「……あらら」

 

「天竜人が腹いせに()()()()()()()()()()()

 

 ベルナートが賞金首だからである。

 

「5億になっちゃったよ」

 

「海兵の義務としては、お前を捕まえる必要がある」

 

「ガープさんの正義(道徳)では?」

 

「見逃す。あのクズどものために働く気はないわい。もしお前が市民を襲えば、わしの最後の仕事としてどこまでも追うがの」

 

「ガープさんが追うのはロジャーだけにしてください」

 

「死人を追っかけてたまるか」

 

「「はっはっはっは!」」

 

 2人でゲラゲラと笑っているが、他の海兵たちからすれば気が気ではないだろう。ガープの正義にベルナートが違反していないだけであって、海兵なら誰もがベルナートを捕まえようと挑む。それが海兵の義務だ。

 しかしガープには事前に何もするなと言われている。何年もガープと共に過ごしてきた者たちは理解できるが、新米はそうもいかない。戸惑いを顕にしている。

 そんなところに、村の方から1人の女性が息を切らせなざら走ってきた。言うまでもなくウタだ。そしてウタの配信はガープの部下たちも見ている。

 

「「「歌姫(プリンセス)ウタぁぁ!!??」」」

 

「随分可愛らしい子じゃの。話には聞いていたが見るのは初めてじゃわい」

 

「うわっ大っきな軍艦。しかも犬」

 

「海軍で一番有名なガープ中将の軍艦だよ」

 

「ただの老兵じゃ」

 

「ガープ?」

 

「モンキー・D・ガープ。麦わらのルフィのお祖父ちゃん」

 

「ルフィの!?」

 

「なんじゃルフィの知り合いなのか」

 

「うん。私はルフィの幼馴染だから」

 

「「「ぇ…………ええええぇぇぇぇ!!!!」」」

 

「だからウタ……!」

 

「あ、言っちゃ駄目なんだっけ?」

 

「お前ら今の駄目らしいから無しじゃ」

 

「「「ええええぇぇぇ!!!」」」

 

 反応いいなあと2人で感心していると、これでよしとガープが腰を落ち着かせた。自由奔放な英雄に普段から振り回されている海兵たちだ。ガープが「無し」と言えば全員それを必ず口にしない。徹底して口が固い。

 ガープから煎餅を貰い、3人でぼりぼり食べていると、ガープの側近が何やら耳打ちした。

 それを聞いてしばらく思案顔になり、ガープは重くため息をついた。

 

「ベルナート。今すぐ出航するんじゃ。面倒なことになる前にな」

 

「よくわからないけどわかりました」

 

「今からでは手遅れかもしれんが、可能な限り北西を目指せ」

 

「了解です」

 

「え、もう行くの? ルフィのお祖父ちゃんともっと話してみたかったのに」

 

「ウタちゃんだったな。そのまま活動を続けなさい。民衆を味方につけて名を大きくさせれば、わしらが警備をしよう。うちの部下共もお前さんのファンが多いのでな」

 

「ありがとう! その時に話もしようね!」

 

「あ、そうだ。音貝(トーンダイアル)を2個投げ渡すんで、1個はこの島に。もう1個はガープさんの軍艦にでもどうぞ」

 

「私の歌が録音されてるから、みんな仲良く聞いてね!」

 

「うああぁぁぁぁ!!」

「ありがとうございます! ありがとうございます!!」

「ウタ様ぁぁぁ!!」

「天使! まじ天使!!」

 

「お前ら仕事が不抜けるようになったらわしが壊すぞ」

 

 脅された瞬間海兵たちは直立して敬礼。そのままウタたちを見送った。

 賞金首のベルナートとともにウタがいるのは不安だが、それは見守るしかない。ガープに止められている以上、部下たちにできることはなかった。そもそも挑んでも勝てない。

 

 

 

 

 ガープの指示に従い、一路北西を目指す。島の影も見えなくなったところで、ウタは舵を握るベルナートの服を小さく摘んで引っ張った。

 どうしたのだろうと後ろを振り返り、ベルナートは呼吸を忘れた。ウタの手に、自分の手配書が握られていたからだ。

 

「子どもたちがね、これベルナートと同じ顔だって……」

 

「……」

 

「ねぇベルナート……、っ……」

 

 違うよねと、そう言いたかった。けれど言えなかった。

 ベルナートが困ったように、弱々しく笑っていたから。

 

「海賊じゃあ……ないんだよね」

 

「それは違う。絶対に」

 

 それは否定できる。憧れすら抱かないものだ。違うと言い切らないといけない。

 ウタは手配書をくしゃりと強く握り、訴えかけるようにベルナートの胸を両手で叩いた。力の篭っていない、叩くというよりも当てるという方が正しい強さで。

 

「ねぇ……べるなーと……。きみの……べるなーとの、ことは、()()()()()……!」

 

 

 

 

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