5倍差あるので連載形式で頑張ります。それに伴い1話あたりの文字数も減らします。更新ペースは不安定です。
ゴードンはエレジアの国王だ。国民がいなくなった今となっては"元"が着くが、国王として経験してきたことが消えるわけでもない。
国王と一言で表しても、その形は様々である。暴君もいれば暗君もいる。名君と呼ばれる者もいる。しかしゴードンはそれらとはまた違う。彼は国王である前に音楽家だった。音楽を愛する者の1人だった。
とはいえ、それでも役職は役職。相談を受けることは少なくなく、音楽にしろ何にしろ、国民と共に悩んだものだ。
そのゴードンが今、また若者から相談を受けていた。
「音楽の勉強したら良さがわかるようになるかな?」
言わずもがな、
「知識を付ければ関心が増えるかもしれない。しかし感性はまた別の話になる」
「やっぱそうですよねー」
ベルナートがエレジアに来てから1週間は経過した。船の修理は日々行われているが、ウタがライブをするからその進捗は芳しくない。そして何度聴いても「上手いんだろうな」としか感想が出てこない。
「音楽は好きかな?」
「好きなのは好きなんですけどね」
「それなら問題ない。音楽に触れていれば、君の感性も磨かれる。焦らなくていい」
「そういうものですか」
「そういうものだ。何よりウタが宣言したのだから、私が君に手を貸すわけにはいかない。あの子は負けず嫌いだ」
「それはそうですけど。……ところでそのウタは?」
「新曲作りを始めるらしい。ああなると中々出てこないが、食事は持っていけば取る」
「それ持っていかないと食べないってことでは?」
「一度干からびかけていたな。あれは焦ったものだ」
「水すら!? のめり込み過ぎだろ」
「彼女が最も愛しているものが歌なんだ。没入するのも同じ音楽家として理解できる。"新時代"を作曲した時は壁中に書かれていたな」
「若い時に似たことやったけど、壁には書かなかったな」としみじみするゴードンにベルナートは呆れ、ウタの分の水と食料をあとで持っていこうと決めた。
ウタが部屋に篭っているのなら、ゴードンと2人だけで話す時間が確保できるということ。エレジアのことを聞くためには、絶好のチャンスである。
「ゴードンさん、この国の真相を聞いてもいいかな?」
「……この島に着いたのは、やはり偶然ではなかったか」
「ここに来ることが、オレが故郷を出た理由の半分だからな。世界で知られてる情報と真実は違うでしょ? あの人たちはそんなことをする海賊じゃない」
「まるで会ったことがある口ぶりだね」
「返しきれない恩がある。それがあったから、この島での出来事に納得できないんだ。たぶん似た者同士でしょ?」
「……ベルナートくん。君はどこまでこの島のことを知っている?」
「トットムジカってのがこの島に封印されてることなら知ってる。だから予想はできてるけど、それは予想でしかない。当事者から聞かない限り、これは真実にならない」
「そうか……。だが、悪いがその話はできない。この島の真実は、生き残った
「……なるほど」
生存者はたった2人。ゴードンとウタ。
生きている当事者はその2人と赤髪海賊団であり、真実を知っているのはゴードンと赤髪たちだけ。ウタはそれを知らない。
ウタが知らされていないことならば、ベルナートがそれを知れる道理もなかった。そのことを飲み込んだベルナートは、ウタに食事と水を持っていくことにした。
「ベルナートくん」
「はい?」
部屋を出かけたベルナートをゴードンが呼び止めた。
食事を届けるだけだとしても、女性の部屋に入るわけだ。しかもウタは今作曲中でもある。気をつけるべきこともあるのだろうとベルナートは思ったが、どうやらそういうわけでもないらしい。
「事件の話はウタとはしないでほしい。赤髪海賊団のことも極力控えてくれ」
「そう言われたらそうしますけど、いずれ話すんですか? それともずっと隠し続けるんですか?」
「それは……」
「……失礼。部外者が踏み込む話ではなかったですね。でも1つだけ言わせてください。育ての親のゴードンさんからしたらウタはずっと子供でしょうけど、一般的にウタはもう子供じゃない。心配は時に枷ですよ」
ゴードンと話したことでエレジアの真実がベルナートの中でほぼ固まる。しかしそれはあくまでまだ憶測でしかない。確定ではないのだと自分に言い聞かせ、ウタの部屋へと向かった。
ベルナートは赤髪のシャンクスと出会っている。彼の人柄を知っていて、赤髪海賊団の気風も知っている。ゴードンの口ぶりと、ウタだけが知らない真実。パズルのピースは9割9分揃った。それでもベルナートは踏み込んでいい立場にはいない。
うっかり言わないようにと心に決め、ウタの部屋をノックする。
「入っていいよ」
集中しているなら聞こえないかもしれないと思っていたが、ウタはノックに気づいた。部屋主の許可も出たことでベルナートはドアを開け、部屋に入ると枕を顔面に投げつけられた。
「やっぱまだダメ! 1回部屋出て!」
「へい」
視界を覆う枕をそのままに、トレーに載せて持ってきた食事に落ちないように顔でキープしながら後退。ウタがドアを閉めた音を聞いてから片手を空けて枕を取る。
「ゴードンさんだったら気にしなかったとかか?」
一瞬だけ見えた部屋はたしかに散らかっていたが、そのほとんどが作詞作曲のためのものだった。楽譜だったり、殴り書きされた詞だったり。
それは熱中している証で、努力の証でもある。見られて恥ずかしいものだとはベルナートには思えなかった。何より作成段階とはいえ、完成すればどのみち披露されるのだから。
だがそれは人それぞれだ。努力しているところ、未完成のものを見せたがらない人もいる。ウタもそういうタイプかもしれない。
「さっきはごめん。今度こそ入っていいよ」
「思ったより早い」
2度目の入室。今度は叩きだされたりはしない。ベルナートはウタに枕を返し、部屋の中を改めて見た。
ピンクを始めとした可愛らしく優しい色が多い部屋で、このエレジアの中でおそらく最も被害を受けてない部屋なのだろう。傷んでいるようには見えない。新築並みとはいかずとも、まだまだ現役だ。
「さっきとなんか変わったか?」
「ちょっとだけね」
作曲に使われている用紙はそのまま。ベルナートの目には散らかったままに見えるが、ウタからすればそれは必要な配置。動かす気はないらしい。
「それよりご飯持ってきてくれてありがとう。ゴードンにまた怒られるとこだった」
「うん。ゴードンさんから話を聞いたから持ってきたんだけどな?」
「あはは。優しいね」
「助けてもらった上に居候させてもらってるんだ。これぐらいする」
「そっか」
「うーん?」
「壁なんて見てどうしたの?」
ゴードンからは「壁に書いて作曲したことがある」と聞いていたのに、ウタの部屋は綺麗そのものだ。壁のどこにも、ましてや天井にも楽譜や詩が書かれていない。
「さすがに自分の部屋では書かないって。崩れちゃってる廃墟に書いたことがあるだけ。そこにいた時にビビッときたから」
「……オレの船には書かないでくれよ?」
「しないってば。そんなに非常識に思わないでよ」
「無知なだけだもんな。いや、無知は非常識に繋がるか」
「あ・の・ね」
「はい」
怒ってますよと態度で表したウタにベルナートは静かに頭を下げる。あまりにも滑らかにその行動を取られたものだから、ウタが固まってしまい、どうしようと次第にあたふたする。
誰かとのやり取りも、一般的な人より遥かに乏しいのだろう。
「えっと、頭を上げて。そんなに謝ることじゃない、と思うし」
「ありがとう!」
「切り替わり早!? もしかしてからかったの!?」
「ははは、いやいやまさかそんな」
「怪しい! ……けどいいや。作曲中だし、これぐらい流してあげる」
「作曲の調子は?」
落ちている用紙をいくつか拾って見てみるも、バツ印が書き込まれているものが多い。楽譜も読めないベルナートでも、それが没になっていることぐらいは分かる。
それらから判断すると、あまり順調とは言えないようだ。ウタの顔をちらっと見ると、ウタも苦笑いを浮かべていた。
「いいのが浮かんだって思ったんだけどね。いざ作り出してみると何か足りないなってなっちゃって」
「難しいものなんだな」
「うん。ちゃんと私自身が納得できるレベルにまで引き上げたいから。妥協なんてあり得ないしね」
「プロ意識ってやつか。それじゃあオレはここに長居しない方がいいな」
「船の修理したいだけでしょ」
「それもある」
「もうちょっと話していこうよ。詰まっちゃった時は気分転換が一番!」
「はいはい」
ウタ1人の部屋なのだから、当然2人分の椅子はない。ウタがベッドに腰掛け、ベルナートがウタの椅子を借りてそこに座った。
「今度は逆だね」
「ウタは元気そのものだけどな」
「あはは、私病気にもなったことないからね」
「そりゃ羨ましい限りだ」
「ベルナートはあるんだ?」
「たいてい一度くらいはあるもんじゃないか? 病気とまではいかずとも風邪とか」
「風邪もない。ね、ベルナートのはどんな病気だったの?」
「内緒」
「えーー。ベルナートって自分のこと秘密にし過ぎ」
「ウタも秘密くらい持ってるんじゃないか? 秘密って他人に言わないから秘密だしな」
「……それもそっか」
そこを突かれるとウタも何も言えなくなる。ベルナートからウタの素性を聞いたことはないが、ウタも聞かれたとしても秘密にして答えないつもりだ。見事にお互い様である。
それなら違う話に変えないとなとウタはベッドに寝転び、天井を眺めて何を聞くか考える。まだ聞きたい話はいくつかあって、そのうちのどれにしようかと足をパタパタ動かしながら。
「……裾短いんだからさ。そうしてるとパンツ見えるぞ」
「~っ!! へんたい! ばか! えっち!!」
「見てはない! 断じて見てはないから!!」
「じゃあ色を1つ挙げてみて」
「…………白?」
「やっぱ見たんじゃない!!」
「ぶへっ……!」
素早く振り抜かれたウタの右手が、ベルナートの左頬に鮮やかな紅葉を作った。それで終わりかと思いきや、再度枕が登場してベルナートの顔に何度も叩きつけられる。彼の目には見えないが、ウタの顔は髪に負けないほど赤くなっているとか。
(まさか服の色と一緒だったとは……)
ウタの息があがってきたところでその手は止まり、肩を上下させながらウタはベッドに戻って腰を落とす。今度は寝転ばない。
「はあ、はあ。次やったら許さないから」
「不可抗力だ……」
「……ベルナートは次どこに行くか決めたの? エターナルポースが何個か残ってたんでしょ?」
「何個かというか、4つだけな。1つは故郷のだから論外」
「嫌いなの?」
「好きだぞ。好きだから、まだ戻らないんだ」
「?」
「そんなこと聞いてどうしたんだ? 進捗悪いからどうせまだ1ヶ月はこの島にいるぞ」
「前にベルナートが言ってたこと、やってみようかと思ったの」
「何言ったっけ?」
この1週間だけでもウタと会話をしていた時間は多い。どの話のことをウタが今話しているのか、ベルナートには見当がつかなかった。
それが若干不服なようで、ウタの髪の高さが下がり気味だ。ウタの気持ちに連動するというのは、ゴードンから聞いてる。
「ワールドツアーのこと」
「あ~~! あれか! ……まじで?」
「まじで。ライブは配信でもできるからいいけど、それならエレジアに留まり続ける理由もないでしょ? 世界を旅しながら歌って、最後にまたここに帰ってくる! いい案だと思わない?」
「オレは案を言っちゃった側だから何も言えないけど、ゴードンさんにも話は通せよ?」
「わかってる。でもゴードンにも着いてきてもらわないとね」
「あの人が1人になるから?」
「それと、私たちだけだと餓死しそうだから」
「……たしかに!!」
ゴードンは料理人ではなく音楽家なのだが、この2人の頭の中ではゴードンは音楽家兼料理人らしい。
「最初の島はベルナートの持ってるやつから決めよ」
「水の都ウォーターセブン。砂漠の国アラバスタ。冬島前ドラム王国ことサクラ王国。どれがいい?」
「ウォーターセブンって船大工のとこだよね」
「そう。政府の中枢に近い方だから、グランドライン全体で見ると中間に近いな」
「それならそこは先のお楽しみにするとして」
どっちにしようかなと悩み、髪もひょこひょこと動く。面白い髪だなとベルナートはそれを眺め、やがてそれがピタリと止まった。
どうやら決まったらしい。
「最初の島は──」
ベルナート……トットムジカとウタウタの実が連動することだけを知らない。
ゴードン……勝手に決められちゃった苦労人。