たった1つの笑顔   作:粗茶Returnees

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2nd take
クライガナ島①


 

 王下七武海の1人、"鷹の目"と呼ばれるその男は、世界最強の剣豪でもある。その名は当然広く知れ渡っており、強さを求める剣士たちの目標だ。その実力も期待に違わぬ……いや誰の想像をも超える剣技は、四皇赤髪のシャンクスをも凌ぐと噂される。

 そんな男の住処は、クライガナ島にある元シッケアール王国。7年前まで戦争を行い、そして人が消え去ったこの島にその男は住んだ。他の誰もおらず、のんびりと畑仕事をして平穏に暮らせるからだ。

 この島にはヒューマンドリルという厄介なヒヒたちがいるが、そのヒヒたちもミホークには近寄らない。強さの違いを理解している。

 

「久々に帰ってきたな~」

 

「帰ってこずともよかったのだがな。面倒事を抱えてくるとは……」

 

「それは天竜人が悪い。それにしても、ここも人が増えたんですね」

 

「戦争の件で留守にしていた間に、こやつらが勝手に住み着いただけだ」

 

「好き好んで来たわけじゃないぞ! 私はくまに飛ばされたんだからな!」

 

「くま?」

 

「バーソロミュー・くまのことだぞウタ。七武海の1人で、ニキュニキュの実の能力者。その力ならたしかに相手を飛ばせる」

 

「あ、クマじゃなくて人なんだ」

 

「そういうこと」

 

 一味を救うためとはいえ、問答無用で飛ばされたゾロはともかく、ペローナはしっかりと要望を言って、実際にその通りの場所に飛ばされているのである。自業自得だ。

 

「ゴードンは音楽家と聞いていたが、料理の腕もあるのだな」

 

「鷹の目の口に合ったのなら何よりだ。しばらく厄介になる以上、これくらいはしないとな」

 

「しっかし天竜人に追われるとかお前ら何やったんだ。殴り飛ばしたか?」

 

「ライブしてるだけだよ。世界を旅していろんな島で歌う。そのツアーを始めてたんだけど、配信で天竜人も知ったのかな。私を買うって言うから無理って言って逃げてきた」

 

「逃げてきたって、よく逃げれたな」

 

「そこはベルナートがズバッとね」

 

「天竜人の船のマストを斬っただけな。海軍の大将に追われるのは御免だし」

 

「そりゃそうだな」

 

 麦わらの一味は青雉と黄猿に接敵したことがある。青雉は本気を出していなかった上に、ルフィとの一騎打ちに応じた。そしてルフィを凍らせても、割ることなく立ち去っている。

 黄猿とはもはや交戦にもならなかった。それは青雉相手にも言えたことだが、パシフィスタ相手に連戦。そこに畳み掛けるように現れた黄猿になすすべ無く、ゾロも死にかけたものである。駆けつけてくれたレイリーには感謝してもしきれない。

 それらの経験があるからこそ、海軍大将に追われたくないという気持ちは共感できた。いずれそこも超えられるだけ強くなるとしても、現時点では欠片も足元に届かない。

 

「ねぇねぇ。ルフィの友達なんだよね?」

 

「友達っつうか……まぁそれも合ってるが、ルフィの仲間だな」

 

 手配書があるし、船長が船長だ。知られているのもおかしくはないから、ゾロはそこを隠す気もなかった。

 その反応に好感触を掴んだウタは、ぱっと表情を明るくして身を乗り出しながら質問を始める。

 

「ルフィとはどこであったの? 海賊なのに海賊狩りって呼ばれてるのはなんで? ルフィって普段子供っぽい?」

 

「待て待てそんなに聞いてくるな。1つずつにしろ」

 

「じゃあまずは、あの写真。3D2Yのあの意味って本当?」

 

「……質問を返すようで悪いが、なぜそこまでうちの船長のことを聞きたがる。お前は歌手なんだろ?」

 

「ルフィとは幼馴染だからだけど?」

 

「……は? 幼馴染? ルフィと?」

 

「うん」

 

「あいつ幼馴染いたのか」

 

「そうだよ。だから教えて。なんでルフィが海賊になったのかも、あの帽子を持ってる理由も、知ってたら教えてほしいな」

 

「…………いや、証拠がねぇ」

 

 それは当然の反応だった。ウタが嘘をついているようには見えなかったが、だからといって簡単に信じて船長のことをべらべらと話すわけにはいかない。

 しかし証拠を出せと言われても、証拠になるようなものをおいそれと持ち歩いている者は少ないだろう。

 生真面目な男だな思いながら、ペローナはもぐもぐ食べながら眺めている。

 

「証拠かー。うーんと、あっ! あるよ!」

 

「は?」

 

「そんなのウタ持ってたっけ?」

 

「ベルナートも知ってることだよ」

 

「オレも?」

 

 首を傾げるベルナートにくすっと笑いつつ、ウタは左手の()()を見せた。左腕を包み込む水色のインナー。その袖口に描かれているマーク。

 

「これはルフィが描いた麦わら帽子のマーク」

 

(麦わら帽子? どこが? あれが証拠になんのか?)

 

 どっからどう見ても麦わら帽子には見えない絵。はっきり言うとど下手な絵だとペローナは思った。

 

「ルフィの仲間なら、ルフィの絵の酷さを知ってるはず」

 

「たしかにこりゃあ……ルフィの酷い絵だな」

 

「ほんとに証拠になった!? お前これで納得していいのか!?」

 

「いいも何もルフィの絵だからな」

 

 麦わら海賊団は何もお絵かき海賊団ではない。誰かがイラストを描くこと自体珍しい。しかしゾロは知っている。ルフィが描いた海賊旗は酷かった。自分たちのはその後ウソップが描き直したが、フォクシー海賊団のは酷い絵のまま。船大工のイラストも壊滅的だったものだ。

 そのルフィが幼少期に描いたというのなら、そりゃあさらに下手な絵だろう。今のルフィは昔に比べたら、少しは成長したのかもしれない。

 

「私はルフィとフーシャ村で出会った。これも証拠になる?」

 

「そうだな」

 

「あーあとビビとも会ったよ。ビビも3D2Yには気づいてた」

 

「そこまで話したのかよ。……あと1年半もないが、おれ達はそれぞれの2年で力をつけてシャボンディ諸島に集結する。それがルフィの決定だ」

 

 敵ではなく、仲間であるビビとも出会って話をしてある。そしてルフィの幼馴染。すべてを赤裸々に話す気はゾロにはなかったが、最大限譲歩して話せることは話すつもりだ。

 まずはあの新聞の話から。

 

「おれ達は全員バラバラに飛ばされたからな。戦争があったことも知らなかったが、ルフィはそこに参戦してた。お前も会ってたんだろ鷹の目」

 

「……ああ。軍艦とともに空から降ってきたな」

 

「何してんのルフィ?」

 

「インペルダウンへの潜入と囚人大量脱獄の主犯だからな。奪える船も軍艦だけ。空からってのはわかんないけど」

 

「白ひげの起こした大津波、その波に乗っていたのだろう。そしてそれは青雉が凍らせていた」

 

「それで空からか。ルフィらしいっちゃらしいな」

 

「ルフィ変な方向で成長したのかな……」

 

 今まで聞いていた話と若干のズレが発生している。しかしウタはまだ知らない。身内の人間から話を聞けば聞くほど、今のウタが持つイメージと現物のルフィはギャップがあることを。

 

「ともかく、ルフィはその戦争を経て一旦立ち止まることを決めたんだ。今のおれ達じゃ新世界に及ばねぇ」

 

「本来、覇気の修得に2年は短いとされているがな」

 

「あー、一味の誰も覇気使えないんじゃたしかに新世界は無理だな」

 

「そうなんだ?」

 

 新世界は四皇が統べる海。ルーキーだらけの前半の海とは大きく違う。強者共が競い合い、潰し合い、消えるか逃げるか四皇の下につくか。現海賊たちの頂点が待ち構える海に、勢いのままでは無謀というものだ。

 

「次はルフィと一味がどんな感じか教えてよ。君はルフィとどこで会ったの?」

 

東の海(イーストブルー)だな。ルフィとおれ、ナミとウソップとエロガッパの5人はそこだ」

 

「あれ? カッパって一味にいたの?」

 

「お前らの一味にそんな奴いたか? 私の記憶にもいないぞ」

 

「ぐる眉のエロガッパだ」

 

「あいつか! ホロホロホロホロ! エロガッパって、お前」

 

 ウケがよかったようでペローナは咳き込むほど笑い倒し、そのヒントでも今いちピンとこないウタに、ベルナートは手配書を見せて笑わせた。

 

「このっ人がエロガッパ、あはははは!」

 

「よく手配書を今持っていたな」

 

「不意打ちでウタに見せるとこうやって笑わせられるからな」

 

「忍ばせんなよ……」

 

「冗談で、本当はここに麦わらの一味がいるとは思ってなかったからな。七武海の師匠(せんせい)なら何か知ってるかと思って船から持って降りただけだ」

 

 とはいえ、王下七武海でまともに仕事をしている者などいない。ミホークだって暇潰しに海賊を斬りに行くことはあるが、基本的には畑を耕して生活している。

 何か知ってたらいいなぐらいの期待値だった。現実は期待以上だったわけだが。

 

「はぁ~おもしろ。それでなんで海賊になったの?」

 

「ん、ああ。海賊になる気はなかったんだがな。へまして海軍に処刑されそうになってたところを、そのまま処刑されるか海賊になるかの2択でルフィに迫られた」

 

「鬼かな?」

「酷いねルフィ」

「麦わらってそんな鬼畜な奴だったのか」

 

「ルフィは強情だからな。心底気に入った奴がいたらしつこいぐらい勧誘する。チョッパーとかフランキーとかそうだったな」

 

 パンツを奪った話はさすがに控えた。

 

「チョッパーって綿あめ大好きな子だよね! かわいいよね~」

 

「ああ見えて頼りになる船医だぞあいつは。手配書の額に本人は怒ってたっけな」

 

「へ~。それで、フランキーって鉄人だよね」

 

「そうだな。自分で改造したらしい」

 

「え……」

 

 さらっと言っているが、それは相当な精神力がないと不可能だ。局部麻酔を打ちながら徐々にカイゾウするなら、痛みも感じないだろう。それでも自分の体を自分で改造するのは精神的に重たい行為だ。

 この場の誰も知らないことだが、それをフランキーは麻酔なしで行っている。死にかけの状態だったから、それで痛みすら感じてなかったのかもしれない。その状態のおかげで、かえって精神状態も安定したのかもしれない。

 なんにせよ、それは簡単にできることではないのだ。

 

「麦わらの一味って少数精鋭だよな?」

 

「狙ってそうしてるわけじゃないけどな。基本うちはルフィが気に入った奴に声をかけてるから、こうなってるんだろ」

 

「入りたいって言って入った人は?」

 

「ロビンとブルックだな。どっちもいろいろと経緯はあるが」

 

 ウタからの質問は食事が終わった後も続いた。その様子にゴードンは微笑ましく思ったとか。

 

 

 

 

 食後、ミホークは自室へと戻り部屋に置いてあるワインをグラスに注いだ。それを堪能しながら、部屋にいるもう1人の人物、自分の弟子でもあるベルナートに視線を飛ばす。

 

「お前はもう居場所を決めたものだと思ったいたが、まだ世界を周っていたのか」

 

「革命軍からスカウトは受けましたけどね。最後のひと旅として、エレジアに行ってたんですよ」

 

「……やはりあの2人がエレジアの生き残りか」

 

「気づいてたんですか?」

 

「ああ。何があったかも聞いている」

 

 ミホークは基本的に新聞で情報を得ているが、何も情報筋はそれだけではない。あまりにも個人的な話しかしない情報筋もあるのだ。ルフィのこともそこから聞いていた。

 

「ウタの夢が眩しくて、今はそれに賭けてるんです。この世界は1人の大きな夢を許容するのか、それとも拒むのか」

 

「……その結果次第で革命軍に入るのか。世界会議(レヴェリー)も控えている。時代はお前を待たないぞ?」

 

「それはそれ。まずはウタの力になることに注力しますよ」

 

「そうか。決めているのならもう何も言うまい」

 

 鍛えていた頃のベルナートではない。この世界でどう生きるのか、まだ身の振り方に迷っていた弟子ではない。

 ベルナートはベルナートなりに、やりたいことを見つけられたらしい。今のその生き方は、革命軍に入ることよりも本人が生き生きとしている。少なくともミホークの目にはそう見えた。

 

「しかしこの島も死臭が消えて生活しやすくなりましたね」

 

「お前とここに来た頃に比べればな」

 

「懐かしいですね。よく殺されかけました」

 

「人聞きの悪い。お前が未熟だったからだ」

 

 剣士の頂点に立つ男からすれば、並大抵の剣士などその程度だろう。しかしミホークは別に、当時のベルナートを弱いと思ったことはない。剣技の練度が浅いだけだった。だからミホークも真面目に仕合をしていた。その結果ベルナートが毎回死にかけていただけである。

 それも良い思い出……と言えるかはともかく。それらもベルナートの血肉に間違いなくなっている。

 

「部屋もちゃんと掃除してるんですね。この城も広いのに」

 

「生活に使う範囲はな。都合のいい小間使いがいなくなればそれぐらい当然やる」

 

「はいはい。空いてる部屋掃除してそこを使わせてもらいますね」

 

「そうしろ」

 

 実は食事前から掃除は行っている。事後報告になっているが、師弟ともなるとその辺りはなあなあで許されていた。

 数年ぶりに姿を見せた弟子に、ミホークは文句の1つも言いたくなる。押しかけてくるのは100歩譲って許せる。師弟のよしみで許そう。しかし連れてきた人物が人物だ。

 

「……まさか赤髪の娘を連れてくるとは思わなかったぞ。ベルナート」

 

「赤髪の娘、ウタのことですか?」

 

 「たしかに赤い髪をしているけど半分は白色だろ」とかベルナートは思っていたが、ミホークの話はそういうことではない。

 

「本人は覚えてはいまいが、あの時の娘が大きくなったものだ」

 

「…………え!? 赤髪って……は!? ウタってシャンクスさんの娘!?」

 

 

 

 




ミホーク(余計なことを言ったやもしれん)
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