1章がおかしかったんです。(間違いない)
クライガナ島には元々シッケアール王国があった。しかしその国は滅び、今この島には古城があるだけ。その古城にミホークは住んでおり、今は招いていない客人が5人いる。
この古城以外の建物はすべて瓦解している。戦争の末に滅んだことがわかるその瓦礫たちは、撤去されることなく「滅んだ」という事実だけを語っていた。
そんな瓦礫だらけの島でも、比較的瓦礫の少ない場所はある。剥き出しの大地が一定範囲広がっており、ゾロはそこでミホークに稽古をつけられている。
「三刀流の剣士なんて私初めて見た」
「ホロホロホロ。あいつ以外いないだろ。にしてもお前の連れ何者だ?」
「ベルナートは私の
「そういうことじゃねぇ」
じゃあどういうことと小首を傾げられ、ペローナはため息をついた。2人は積まれた瓦礫の上に座っており、そこから眼下で繰り広げられている仕合を眺めている。
ペローナは知っている。ゾロが億超えの賞金首であり、その実スリラーバークのゾンビたちじゃ歯が立たなかったことも。
(私の能力の前じゃ長鼻以外同じなんだが)
自身の能力のことを一旦置いといて考えると、ヒューマンドリルも倒し切ったゾロは相当強い。賞金の額よりも強さは上だと思っている。
そのゾロの剣が、対峙しているベルナートに届かない。ミホークと打ち合っている時を彷彿とさせた。
「ベルナートは鷹の目のことを師匠だって言ってた」
「はぁ!? ロロノアを鍛えてんのもそうだけど、あいつ弟子とるんだな……」
意外な一面があるもんだと驚いているペローナの横で、ウタはじっとベルナートを見ていた。
これまでも極々稀に抜刀することはあったが、ベルナートがまともに戦うところは初めて見る。仕合に集中しているから、その表情もいつもは見ないものだ。
(めっちゃ見られてる)
その視線自体はベルナートにしっかりと気づかれていたが。
しかしベルナートもそっちに気を回す余裕はない。集中していないと押し切られる。
ベルナートがミホークから言われていることは、ゾロの剣技の昇華と覇気の鍛錬に付き合うことだ。そしてメインは覇気の方。この半年とちょっとでどの程度は引き出せるようになっているのか。今はその確認のために仕合をしている。
「だいたいわかった」
「あァ?」
三刀を弾き、わずかに下がって刀を後ろに引く。
「雪月花」
「……っ、ぬぉっ!!」
後ろから前へ。動作としてはそれだけの薙ぎ払いの斬撃を、ゾロは両手の刀を交差させて受け、そのまま後方の瓦礫へと飛ばされた。それはいくつかの瓦礫を崩しながら飛び続け、やがて土煙を上げながら止まった。
「やり過ぎたか?」
「死んじゃったらどうすんのベルナート。ルフィの友達なんだよ!」
「その時は……謝るしかないな!」
「ロロノアならこれぐらいじゃ死なねぇから大丈夫だろ」
「痛えな……人をボールみてぇに吹き飛ばしやがって……!」
「痛いで済むんだ……」
「な? 大丈夫だっただろ?」
良かったという安堵と、なんで痛いで済んでるんだろうという呆れ。ウタは妙な気持ちにさせられた。
それをよそに首を回しながら帰ってくるゾロに、ベルナートはとりあえず刀は1本納めるように指示した。ミホークなら気づいているだろうし、すでに指摘もしているだろう。
ゾロの武装色がまだ不安定だ。
「武器に覇気を纏わせることはできるようになってるみたいだけど、それ自体がまずまだ不安定。3本あると余計にそれぞれがおざなりになってる」
「ああ。鷹の目にも同じこと言われたよ」
「やっぱり。なら、まずは2本からな。2年じゃあ本来短い期間だし、急ピッチでやる」
「その前にその刀気になってるんだが。それ黒刀だよな」
「そうだな。でもロロノアの持ってる秋水みたいな大業物でも、
「……すべての刀は黒刀になり得るって、そういうことかよ」
ミホークからそう聞いていたゾロだが、てっきりそれは武装色での話かと勘違いしていた。
たしかに武装色を纏えば刀は黒くなる。しかしそれは一時的なもので、解除すれば刀も元通り。これはゾロが今も経験していることだ。ところが今目の前に、刀を黒刀へと昇華させた人物がいる。その現物がある。その勘違いも正された。
実際には緋桜はもう良業物ではない。黒へと昇華されれば、その刀の位列も上がる。ベルナートはそれは知らないため、自分の刀のことを未だに良業物だと思っているだけだ。
「刀は常に武装させておいて、目も瞑っとけ。見聞色で気配を探りながら、オレの攻撃をピンポイントに防ぐ。難易度は様子見ながら上げてくから頑張れ」
「それだとベルナート、そのまま斬っちゃうことあるんじゃないの?」
「そこは安心しろウタ。相手を斬れない鈍器みたいな斬撃飛ばしてくから」
「どんなだ」
「こんな感じ」
実演としてベルナートがその辺の瓦礫に斬撃を飛ばした。たしかに斬撃を飛ばしたはずなのだが、瓦礫は斬られることなく凹んでいる。
「ベルナートは器用だねー」
「斬るも斬らないもオレ次第。身につけてみると便利なものだぞ」
「……鷹の目の前にまずはお前を超える必要があるようだな。ベルナート」
「覇気をちゃんと修得してから挑んできてくれよ」
覇気無しで戦うとなれば、それは勝負になる。今のゾロでも勝てる可能性はある。それだけのポテンシャルをベルナートは感じていた。いずれ超えられる日も来ると。しかし今はまだその時ではない。
「ベルナート。私ちょっとゴードンのとこに行ってくるね」
「畑仕事手伝いにか?」
「それもやろうかな」
ベルナートと手を振って別れ、ウタはこの島にある畑へと歩いていく。足取りは少し軽やかだ。ベルナートが楽しそうにしてたなと思い、頬を緩めた。
本人は誰かに修行をつけたことなどないから不安だと言っていた。しかし素人目ながらにウタが見ていた分には、問題なさそうに見える。おそらくは自分が受けた修行をベースにしているのだろう。シャンクスが考えそうなやり方だとも思った。
「畑仕事を手伝うとか物好きだな」
「ペローナもやろうよ」
「私はやんねー。これから新しい服作るからな」
「え……作れるの?」
「材料さえあれば。あの城になぜか道具はあった」
「じゃあ今度私にも作ってよ。ライブ用の衣装とか欲しいな~って思ってて」
気に入った服を見つけては購入している。服のレパートリー自体は増えてきている。しかしウタは、ライブ用の服を持っているわけじゃない。別にこだわりがあるわけでもない。気に入っている服でライブするのも楽しい。
しかしそれ用の服を用意できるのならやってみたい。曲数も増えればライブは長くなる。ライブ中の衣装替えとかもやってみたい。ウタワールドならそれも自在だが、それとこれはまた話が別だ。
「なんで私が……」
「だめ?」
作ってほしいなと期待100%の目でじーっと見つめられ、とうとうペローナは折れた。なんだかんだ優しく面倒見のいい女性なのである。
「…………はぁぁ、私のを作った後なら考えてやる。デザインは自分で考えろよ」
「やった! ありがとうペローナ!」
「礼なら今度歌を聴かせてくれたらそれでいい」
この時ペローナはまだ知らなかった。ウタのデザインセンスがなかなかに尖っていることを。
□
"鷹の目"ジュラキュール・ミホークは世界最強の剣士として名高い。しかしそのミホークとの決闘で決着がつかなかった男がいる。それこそが四皇の1人、ウタの父親の赤髪のシャンクスだ。
シャンクスとの決闘は何度か行われているが、そのすべてが引き分け。決着がつくことはなく、やがて宴へと変わる。
だからミホークは赤髪海賊団の幹部たちを覚えているし、娘のウタのことも知っていた。
「ベルナートくんが高名な鷹の目の弟子とは予想だにしなかった」
「昔縁あってな。雨の中重傷を負いながらも刀を振るっていたのを見かけた。目の前で倒れられては無視もできん」
「それで引き取ったのか」
「病院に預けて去るつもりでいたがな」
ミホークは剣士だ。医者じゃない。専門の人間に預けるのは当然の判断である。そしてそこまでしてやれば、赤の他人のやる事としては十分である。
しかし当時のベルナートは、意識を朦朧とさせながらもミホークの服を掴んで離さなかった。
世界最強の剣士が目の前にいるのだ。この広い海で、探そうにもなかなか個人は見つけられない。そのチャンスは逃したくなかった。
──もっと強くなりたい! 鍛えてほしい!
義理はなかった。しかしミホークはその手を振りほどくことはできず、それを了承してベルナートの退院の後このクライガナ島に来たのである。
「赤髪にも鍛えられていたと知ったのはその後だがな」
と言ってもシャンクスたちは覇気をメインで教えていた。剣の腕はともかく覇気がしっかりと身についているというのは、剣士として実におかしな成長だ。これにはミホークも笑った記憶がある。
その過去の思い出しついでに、ミホークは過去にシャンクスが話していたことを思い出した。東の海の愉快な少年の話ではなく、娘と離れた話を。
「あの男が悪酔いした時に一度だけエレジアの話は聞いた」
「……では君は真相も知っているのか」
「そうなるな。罪を己で背負ったことは、実に赤髪らしい」
「……」
ゾロへの修行は一旦ベルナートに任せて、今は畑の世話をゴードンと行っている。ゾロに今身につけさせるべきことは覇気だ。それを引き出す部分はすでに芽が出ている。だが未熟なところがあり、制御が覚束ない。ベルナートに任せるのはそこだ。
ミホークはベルナートに一定の信頼をおいている。シャンクスたちのもとで覇気を覚え、ミホークのもとで剣技の研鑽を行った。刀も黒刀にしている。1ヶ月程度しか滞在しないのだ。ゾロにも良い刺激になるだろう。
「あの娘は真相を知らぬようだな」
畑仕事に一区切りをつけ、適当な岩にミホークは腰を下ろし、ゴードンも対面の岩に座った。鍬を杖代わりにして、じっとそこを見つめる。
「私に……話す勇気がないんだ」
コブラに言われたことが脳裏を過ぎった。国家存亡の危機を経験し、分裂しかけた大国をそれでもなお1つに纏め上げて前進させている王の言葉を。
──過去は事実だ。悲惨な事実を子供に突きつけるのは、たしかに酷ではある。それを隠すのも優しさになろう。
──しかしだゴードンよ。それは停滞にも繋がってしまう。彼女の成長を信じ、すべてを伝えることも大切ではないか?
──過去を知り、
いつまでも隠していい話かもしれない。何も知らずに生きるのも、それはそれで幸せになれるかもしれない。
少なくともシャンクスは、ウタは何も知らずに歌手としての道を歩んでほしいと願ったのだろう。海賊の音楽家ウタではなく、世界一の歌姫ウタになってほしいと。だからゴードンに預けた。
ゴードンも、恩義があるシャンクスの頼みを引き受けた。ウタの歌唱力を、持てる限りの力で育て上げた。そして今はツアーを始めている。
もう、走り出してしまっている。
果たして話してもいいのだろうか。あの日の真相を。
「……ゴードンと赤髪の間で決めたことだ。このままというのも不義理にはなるまい。だが、あの娘が真相を知りたがれば、その時こそ話さなくてはなるまい」
「……あぁ、それは……もちろんその通りだ。……しかし、ウタは酷く傷つくだろう。自分を責めるだろう。自分の歌が原因で国が滅んだなど知ったら……! ウタは歌えなくなるかもしれない……!」
ぐっと鍬を握る手に力が篭ったゴードンの耳に、小石がこつこつと転がる音が
慌てて後ろを振り返ると、走り去っていくウタの背中が見えた。
ペローナ「これがライブ衣装のデザインはやべーだろ。修正させよ」