たった1つの笑顔   作:粗茶Returnees

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 1話目を投稿した日から1ヶ月経っていたことに驚いてます。


ハラヘッターニャあるいはテーナ・ゲーナ

 

 配信にはリスクがある。美食の町プッチを出航する際、ベルナートたちはクザンからある話を聞いた。

 海列車を作った町ウォーターセブン。そこに天竜人が来ていたという話だ。理由は1つしかない。ベルナートがすべてのマストを斬ったからである。

 あの大きく天竜人が乗る船を修理できるのは、政府御用達の会社ガレーラカンパニーを差し置いて他にいない。

 他の受け持っていた仕事の手を一旦止めてまで、ガレーラカンパニーはその船の修理に従事した。世界最高の船大工たちの巣窟だ。その修理自体はとうに終了している。

 だが天竜人ことチャルロスは、まだ諦めきれてはいないらしい。修理してもらっている間、ウタの情報はないかと聞いていたそうだ。

 

「歌を聴いてくれて好きになってくれたのはいいけど、しつこく追われるのは嫌だね」

 

「悪質なストーカーだからな」

 

「家に戻ってくれてたらいいのに」

 

「天竜人が長期間出かけるのは、国の視察以外はない。帰路についてるとは思う」

 

「配信はしたいけど、控えめにするとはライブの時に言ったから我慢する」

 

 プッチでのライブ後、ウタはたしかにそう宣言した。ファンでいてくれるのは嬉しいけど、その人1人のための存在になるのは嫌だと。明言こそしなかったが、それが天竜人のことを指しているのは、聞いた誰もが理解した。

 配信は居場所を特定させてしまうから、海の上での配信の頻度も減らす。そのことはファンたちも理解してくれた。

 だからウタは配信の代わりになる、海の上での時間の使い方を手に入れた。

 読書だ。

 読書と言っても、何かの図鑑だったり、誰かの冒険記だったり。世界の広さを知るためのものを、プッチでいくつか買い込んでいる。

 今は小さな図鑑を手に、ベルナートの側に椅子を置いてそこで読んでいる。

 

「世界にはいろんな種族がいるんだね」

 

「その本にはどれぐらい書かれてる?」

 

「まずは人間でしょ、魚人に巨人に小人、手長族に足長族。あとはえーっと、ミンク族とじゃくびぞく? あと三つ目族と……まだ書いてる。多いね」

 

「まーな。ビッグ・マムのとこにはほとんどの種族がいるらしい」

 

「ビッグ・マムも四皇の1人だったよね? シャンクスと同じ」

 

「そう。一味の中心メンバーは血縁の子どもたち、その他に傘下の海賊とかがいたりする」

 

「血縁の子どもたち……ルフィのとこみたいな少数精鋭?」

 

「いや、あそこは85人きょうだいだ」

 

「85!?」

 

「夫の数も多いらしいけど、まあともかく、そんなわけであの一家にはほとんどの種族がいるんだよ。正確にはハーフだけど」

 

「私そんなに子ども産めないや」

 

「男すらできてないのに何言ってんだお前」

 

「何か言った?」

 

「いひゃいれす」

 

 失礼なことを言ったベルナートの頬をつねる。だんだんと定番になってきた気がするなとか、頬をつねるのも癖になりそうとか。そんな事を思うと自然とくすりと笑えた。

 つねられているベルナートからすれば、つねりながら笑ってるのがちょっと怖かったとか。

 

「ビッグ・マムか。どんな人なんだろ」

 

「……同じ四皇だからってシャンクスさんみたいな人柄を想像するなよ? 死んだ白ひげとシャンクスさんは、四皇の中で話の通じる人だ。他の2人、カイドウとビッグ・マムは、海賊らしい海賊だよ」

 

「ベルナートは会ったことあるの?」

 

「カイドウ本人には会ってないけど、あそこは実力主義の一味だった。ビッグ・マムの方は接点ない」

 

「じゃあわからないじゃん」

 

「新世界にいれば、あの2人の話なんて簡単に聞ける。どれも評判は悪い」

 

「そうなんだ……」

 

 海賊からすれば、海賊らしい大海賊であるこの2人に魅せられる部分もあるのだろう。一味に入りたがったり、進んで傘下に入りたがる者もいるほどだ。

 それはつまり、市民からすれば恐怖の象徴だ。

 四皇の縄張りにある島は、外敵の脅威からはたしかに守られる。世界トップクラスの大海賊相手に挑もうとする海賊は、基本的にはいないからだ。

 しかしそれが身の安全の保証に繋がるのかは、その四皇次第である。ビッグマムは定期的にお菓子を要求する他、本拠地の住民からは寿命を要求する。カイドウの本拠地にある島は、国が作り変えられた。

 内側が恐怖の権化、ということもあるのだ。悪政のように。

 

「シャンクスさんはともかく、他の大物とは関わらないのが一番だよ」

 

(もう関わったような……?)

 

 ミホークやクザンはノーカウントらしい。

 

 

 

 とある島へと到着し、船をつけられる場所で停めるとそこから上陸。人の気配こそあれど、あまり活気的な様子は感じられなかった。ミホークの住処たるクライガナ島は、国家が滅亡したが故の静けさだった。しかしこの島には住民がいる。それなのにどこか暗い印象がある。

 

「人はいるんだよね?」

 

「いる。こっち側はハラヘッターニャの方か」

 

「こっち側?」

 

「奥に山が見えるだろ? あれの向こう側は別の国で、そっちに手長族の国がある」

 

「ベルナートは博識だね」

 

「ここに上陸するのは初めてだけど、島の特徴とかは聞いたことがあったから」

 

 人の気配を頼りに進んでいくと、居住地が見えてきた。そこにいる人々は誰もが黒いローブを着ており、顔が見えづらくなっている。

 

「なんか不気味だね」

 

「こういう人たちもいるさ」

 

「あなた方はいったい……。ここには差し出せるものなど何もございませんが……」

 

「いやいや奪ったりとかしないですから。海賊ではないですし」

 

「そうでしたか。ですがごめんなさい。これから悪魔を呼ぶ儀式を行いますので」

 

「悪魔……?」

 

 そのワードにぴくりとウタが反応した。連想で魔王、トット・ムジカのことを思い出したからだろう。僅かに血の気も引いている。

 

「なんで悪魔を?」

 

「……山の向こうにいる手長族から、我々を守っていただくためです。一度お呼びできたのですが、そのお方が捕まえた手長族を、寛大な心で解き放つとそのまま連行されてしまって」

 

「うわっ、手長族さいてー」

 

「ですからまた新たな悪魔をお呼びするのです。パンツで」

 

「……は?」

「なんて?」

 

 ウタもゴードンも、そしてもちろんベルナートも、自分の耳を疑って口をポカンと開けた。

 3人のその様子に、その人は逆に首を傾げた。

 

「ご存知ないのですね。悪魔はパンツで呼べるのです」

 

「呼べねぇだろ!? どんな迷信だ!!」

 

 思わずツッコむベルナートの横で、ウタは自分の服装を改めて見てほっと胸をなでおろした。今日はスカートタイプではなくショートパンツだ。仮に巻き込まれることがあったとしても、恥ずかしい思いはしないで済む。

 

「失礼、話の途中だが1つ聞かせてほしい。その悪魔とやらの特徴はあったのかね?」

 

「紳士的な服を着たガイコツで、アフロでした」

 

「動くガイコツってこと? そんなことあるの?」

 

「あるんだろうな。……ゴードンさん?」

 

「その悪魔とやらは、向こうに見えるあれみたいな?」

 

「はいそうです。まさしくあのお姿が我々が以前呼べたサタン様で…………サタン様!!??」

 

 大きく張りあがったその声に反応し、他の住民たちが次々と外に出てくる。何があったのか、その理由を知るとその者たちも同様に驚きを顕にする。そしてそれは次第にパニックへと変わっていった。

 それも仕方ないのだろう。なにせ手長族によって連れ去られた悪魔王サタンが、手長族と共にこちらへと来ているのだ。

 

「裁きをお下しになられに来たのだ……!」

「我々が何度も他の悪魔を呼ぼうとしたから……サタン様はお怒りに……!」

 

「見た感じそんな印象なさそうだけどな」

 

「何も知らぬあなた方にはわかるはずがない! あのお方は温厚な方ではあるが、いざ戦われるとお強いのだ!」

 

「でもギター持ってるよね」

 

「あの楽器で我々の鼓膜を破られるのだ……」

 

「そんな事しませんよ!?」

 

「うわぁぁ! サタン様ぁぁ!!」

「お許しくだされ。お許しくだされ!」 

 

 話してる間に目の前まで来たサタンに、住民たちは平伏して許しをこい始めた。この島の内情を知らないベルナートたちはその様子を見るしかなく、平伏されたサタンはギターを鳴らしてから優しく声をかける。

 

「顔を上げてくれだぜ」

 

「サタン様……」

 

「私はあなた方にライブを聴かせに来ただけなんだぜ」

 

「我々の絶叫を!?」

 

「違います! 純粋にただ音楽を楽しんでほしい。音楽には敵も味方もない。平等に届く素晴らしいものなんだぜ!」

 

 有無を言わせずにそのサタンは演奏を始めた。聴かせたほうが伝わると判断したのだろうか。ついてきていた手長族たちも、何も手を出さずにサタンの演奏に意識を向けている。

 

 そのサタンの演奏は、ウタが行うライブとは少しジャンルが違う。ゴードンがかつて教えていたものともさらに違う。しかしそれもまた音楽であることに変わりなく、その演奏にウタとゴードンは自然と拍手を送っていた。

 サタンもウタたちの存在に気づき、時間を作って歩み寄る。

 

「ヨホホ、あなた方は初めましてですね」

 

「あ、喋り方変わった」

 

「こちらが素ですから。さっきのはロックミュージシャンとしてです」

 

「ロックか。バンドは組まないのかね?」

 

「今後はその予定ですよ。ゆくゆくはダンサーズもつけたいですね~。っと申し遅れました。私、ブルックと申します」

 

「ウタだよ。こっちはゴードンで、こっちがベルナート。ねえなんでガイコツ?」

 

「ヨホホホホ。事情がありまして」

 

「悪魔の実の能力か?」

 

「そうなんですけど、ガイコツの理由は他にもあります。ですがそれは秘密ということで」

 

「秘密なら仕方ないね!」

 

「お気遣いありがとうございます」

 

 サタン改めブルックは、丁寧にお辞儀をしてから身嗜みを整え直した。紳士的というのは、どうやら本当の事らしい。

 

「これでも音楽業界に身を置いてますから、あなたの事も知ってますよウタさん」

 

「本当!? 嬉しい~」

 

「実はライブの配信でお聴きしたことありましてね。一度お会いしたいと思っていたのですよ」

 

「ブルックさんのさっきの演奏だって凄かったよ。心に、ううん。魂に直接響いてきた!」

 

「ヨホホ! あなたにそう言っていただけるとは! それにしても配信よりもやはりお綺麗ですね」

 

「あはは……、ありがとう」

 

「パンツ見せたいただいてもよろしいですか?」

 

「え、無理」

 

「迷信の原因これか」

 

 1歩下がってベルナートの斜め後ろに隠れるウタに、ブルックは軽快に笑って流した。ウタの中でのブルックの評価は、急上昇からの急降下を見せている。

 

「悪魔という前情報とは大きく違う実態だな」

 

「ヨホホホ! 良くも悪くもタイミングがピッタリだったようで。こちらも秘密話ですが」

 

「手長族と捕まったと聞いていたが、なぜ今は演奏を?」

 

「見世物にされていたんですけどね、演奏する日々を送っていたら外に出ることになり、ミュージシャンとして進出していこうと話がついたのです」

 

 ハラヘッターニャの方に来たのは、音楽を聴かせるため。そしてもう1つの目的が、テーナ・ゲーナとハラヘッターニャの間で和議を生じさせること。搾取するされるの関係をやめて手を取り合う。それが叶えば理想的だ。

 

「そんなことが可能なのか? 音楽で?」

 

「可能だと信じています。音楽には力があるのですから!」

 

「……それ、私にも協力できることあるかな」

 

「ウタ?」

 

「少ししか滞在できないけど、私もここでライブをしたい。音楽の力を、私も信じたい」

 

「ヨホホホホ! 素晴らしい心がけですウタさん! ぜひやりましょう! 天竜人との件も聞き及んでいますがウタさん。音楽にもあなたの歌声にも罪はありません。音楽は自由です! 胸を張って音楽家を名乗り続けましょう!」

 

「……! うん!」

 

 この後の協議で決まった歌姫ウタと、後のソウルキングことブルックのコラボライブは、伝説のライブとしてファンの間で語られることとなるのだった。

 そしてこのライブは、ウタの目指す"新時代"という夢へ、大きく背中を押したのだった。

 

 

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