たった1つの笑顔   作:粗茶Returnees

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 アンケート結果で切符が勝ちましたのでそのように。
 それと毎日更新できてましたが、この週末で途切れると思います。リアルがやばす。


水の都ウォーターセブン①

 

 かつて海賊王の船が作られた島。そして島と島をつなぐ海列車が作られた島でもあり、今では政府からも船の依頼を請け負う世界最高の船大工たちの島。それがウォーターセブン。

 この島は船大工の島としても有名だが、"水の都"としても知られている島である。

 

「ベルナートも来たことがある島だよね」

 

「覚えてたのか」

 

「もっちろん! ベルナートの話は全部覚えてるよ」

 

「全部は言い過ぎだろ」

 

「一言一句じゃないけど、こういう話はしたなーって覚えてるのは本当」

 

 ウタがふわっと微笑むと、ベルナートは無言になって視線を逸した。その反応にウタは、「信じてないな」と思って頬を膨らませる。ベルナートのことをわかってきたようで、やはりまだわからない部分もあるらしい。

 

「ベルナートくん船はどこへ?」

 

「このまま外周を回れば岬があるんで、そこに停めましょう。話をつければその後の移動は向こうがやってくれるので」

 

「了解した」

 

「船を見てもらうんだ?」

 

「念の為にな。前半の海ならオレの腕で作った船でもいいんだけど、新世界はちょっとな」

 

「そんなに変わる? 空島にも行けたじゃん」

 

「だからこそだよ。必要なら修理とか改修とかしてもらうから、しばらくはこの町に滞在することになる。オレの船大工としての腕は最低限だ」

 

 最低限というのは過小評価だが、それも無理からぬことだ。なにせこのウォーターセブンで学んだのである。ベルナートの周りには超一流の船大工たちしかいない。自分の腕がまだまだだと思わないわけがない。

 

「大丈夫なのかね? この島は政府の中枢にも近いはずだが」

 

「大丈夫ですよ。オレたちは客としてこの島に来た。そして会社は客の情報を他に売らない。下手なことをしなければ問題ないです」

 

「じゃあライブも駄目だよね……」

 

「出航前日にやろう。その後はなんとかなる」

 

 全員に聴かせたいというウタの要望に、この島で応えるのは難しいかもしれない。ライブを始めてすぐにウタを狙う人が来るとは思えないが、何日も開催すると危険性も高まる。天竜人の住む聖地からも、数日で来れる距離なのだから。

 やるなら1回だけ。リスクを考えるとこれがベスト。それはウタにもわかった。

 

「ありがとうベルナート!」

 

「ツアーのための旅なんだから、ライブやらなかったら本末転倒だろ」

 

 岬に船をつけると、3人は荷物を纏めて船から降りた。荷物と言っても着替えや貴重品などの最低限だけである。

 ベルナートを先頭にしばらく歩くと貸しブル家が見えてくる。この島では必須の生き物で、外から来た人はこういう店でレンタルするのだ。

 

「ヤガラブル2匹で」

 

「はいよ。前に来たことあるのかい?」

 

「オレはな」

 

「地図はどうする? 必要なら渡すよ」

 

「覚えてるから大丈夫。ありがとう」

 

 店主がヤガラブルに取り付ける椅子を2つ取りに行くために外に出る。ベルナートもそれに続き、ウタとゴードンもベルナートの背を追った。

 

「ベルナート、ヤガラブルって?」

 

「ここは陸路より水路のほうが多いんだよ。ブルは水中の馬みたいなもんで、ヤガラは種類の1つだな」

 

「へ~。水の都ってまんまの意味なんだ。一番上にでっかい噴水もあるみたいだし」

 

「綺麗な街だろう? 海列車ができる前は衰退した街だったんだけど、それを一手に纏め上げて街を今の形にまで発展させたのが、アイスバーグさんなんだ」

 

「1人で!?」

 

「彼は1人の力じゃないと謙遜するがね。彼が作った会社ガレーラカンパニーはおれ達市民の憧れで誇りでもあるんだよ。ここにいて彼を尊敬していない人はいないさ」

 

 その大物に今から会いに行くのだが、ベルナートはそれを伝えていない。妙に騒ぎになりそうなことは、今のうちから伏せておく方針だ。聖地や政府の中枢が近いほどに、警戒は高めておきたい。

 店主が準備を終えると、代金を払ってヤガラブルに乗る。手綱はあるにはあるが、ヤガラブルは賢い生き物だ。行きたい場所を言うと連れて行ってくれる。

 

「あとで私にも前に座らせてね」

 

「今座るか?」

 

「今は後ろの気分なの」

 

 わがままだなと呟きながらベルナートは前に乗り込み、その後ろにウタが座る。もう1匹のヤガラブルにゴードンが乗り、その後ろに荷物を置いた。

 

「1番ドックまで頼むよ」

 

「ニー!」

 

「この子たちかわいい~!」

 

 ヤガラブルが力強く泳ぎ出す。意外と揺れはないもので、乗り心地は抜群だ。安定して進むヤガラブルに安心したウタは、ベルナートの肩に手を置いて身を乗り出す。

 

「船とは違って新鮮! この子たちもいいね!」

 

「落ちるなよ」

 

「大丈夫だよ。落ちそうになってもベルナートが助けてくれるから」

 

「……」

 

 信頼は嬉しいが笑顔でそう言われるとむず痒い。ベルナートは押し黙って視線を前に向け、ウタはくすりと笑ってベルナートの頭を撫でた。

 数ヶ月はともに生活しているが、髪を触るのは初めてだ。濃い青がほのかに見える黒髪。自身も珍しい髪だが、ベルナートの髪も珍しいなとまじまじと見つめる。

 

「坂上がるぞ。席につけ」

 

「あ、うん」

 

「話聞いてた?」

 

 人に背負ってもらう時のように、ウタは後ろから腕を回した。座ってヤガラブルの背を満喫するのもいいが、わんぱくなウタは極力そうはしたくないらしい。

 坂を上がり切ると見晴らしもよく、ウタはその景色に目を輝かせる。感想を口にしようと開きかけるも、上がったら次は下るだけ。その事が頭から抜け落ちていたウタは、咄嗟に腕を締めた。

 

「ぐぇっ!?」

 

「あ! ごめん!」

 

「何をしてるんだ……」

 

 ヤガラブルの案内に任せているとそのまま商店街に出る。そこは水路の大通りとなっており、このウォーターセブンの中でも指折りの活気づいてるポイントだ。

 そこに出ると2匹のヤガラブルは嬉々として寄り道を始め、好物である水水肉の店に寄った。

 

「水水肉?」

 

「柔らかくてうまい肉で、ヤガラブルの好物だ」

 

「へ~。人も食べれるの?」

 

「人間の食べ物だからな」

 

「じゃあ私もほしい! ゴードン!」

 

「そうだな。では7個いただこう」

 

 ヤガラブルにそれぞれ2個ずつ。人間は1人1個ずつで計7個。ゴードンが支払いをして、水水肉を受け取った。

 水水肉と言うだけあって肉からは水が滴り、噛んでいると口の中でもちゃぽちゃぽと水が広がる。

 

「やわらか~い」

 

「これはまた珍しい食べ物だな」

 

 ゴードンは自分の分を食べながら、乗せてくれているヤガラブルにも水水肉を食べさせている。ベルナートもそれに同じだ。

 その様子を見たウタは、水水肉を堪能しつつもペースをあげて、ベルナートが持つ水水肉を1つ奪い取った。

 

「私も食べさせたい!」

 

「子どもか!」

 

「ニー」

 

 また後ろから身を乗り出し、ヤガラブルに水水肉を食べさせようとするが少し遠い。無理に手を飛ばしていくも厳しそうだ。

 ベルナートはウタを一度持ち上げ、自身がいる前方席へと立たせた。1人用のスペースに大人2人は当然狭い。ほぼ密着状態となるもウタは気にせず、そのままヤガラブルに水水肉を食べさせていた。その食べている様が気に入ったのか、嬉しそうににこりと微笑みながらヤガラブルの頭も撫でた。

 

「じゃあオレ後ろの席に行くから」

 

「うん! ありがとうベルナート!」

 

 ベルナートは身軽にひょいと後方に行き、椅子に座る。ウタも席に座って手綱を握ると、ヤガラブルは元気よく泳ぎだした。

 

 このウォーターセブンの顔とされる造船会社ガレーラカンパニーは、すべてで7つのドッグを所有している。それぞれに職員の数も多いわけだが、その中でも1番ドッグには主力たる船大工たちが集結する。他のドッグはすべて同程度に整えられているが、この1番ドッグだけは異なる。それ故に1番ドッグを目標とする職員もいるのだ。

 そしてその1番ドッグこそが、ベルナートが船大工の知識と技術を得るために所属していた場所でもある。顔見知りや飲み仲間も多い。

 

「でっかい扉~。横の柵は低いんだね」

 

「見物人が多いからな。市民たちも職員を誇りに思うから、中に入ることはない」

 

「しかしこれからどうする? 事前に何も言ってないのだろう?」

 

「知り合いがいると話もつけやすいんですけど……あー、良い相手がもうすぐ来ます」

 

「良い相手?」

 

 ベルナートが遠方を眺めていると、そっちから全速力で走ってくる男が見えた。その後ろからも人が走っており、何やら追いかけられている様子だ。

 

「事件かな?」

 

「いいや。()()()()()()()

 

「へ?」

 

 周りにいる市民たちも、その男を見つけては声をかけるだけ。心配の声は一切聞こえない。

 どういうことなんだろうとウタが首を傾げていたところ、その男がベルナートのことに気づいて一直線に向かってくる。

 

「よくもおめおめと帰ってこれたなベルナート!!」

 

「相変わらず借金取りに追われてるみたいですね!」

 

「うるせぇよ!!」

 

 伸びてくるロープを軽く躱して、その男の足を止めさせる。借金取りがそれで追いつくが、ベルナートが代わりに立て替えることで話をつけた。

 

「立て替えちゃっていいの?」

 

「後々役に立つから大丈夫」

 

「戻ってきたかと思えば女連れとは……って何だその女!?」

 

「え、なに?」

 

「足を出し過ぎだ足を! ハレンチな格好するな!」

 

「えー。このミニスカート可愛くて好きなのに」

 

「この人むっつりなだけだから気にするな」

 

「誰がむっつりだバカ野郎!!」

 

 ギャーギャーと騒ぎ始める男2人を、ウタはぽかんと口を開けて見ていた。そのウタの気持ちもわかるが、ベルナートの気持ちもわかるゴードンは温かく見守っている。

 これまでのベルナートは、ウタやゴードンを支えるために動いてきた。長との話し合いはゴードンが請け負っているものの、ベルナートも話をすることはある。そうやって、常に気を配ってきた。ウタがベルナートのことを「いつも頼りになる」と感じていたのはそういうことだ。

 しかし今はどうだ。ベルナートのことを知る相手と気さくに話している。モネの時とはまた違う。今回は相手が男だからだろう。男だけのノリは確実にあるし、ウタが置いていかれる要因でもある。

 

「ふふっ、よかったねベルナート」

 

「うん? なにが?」

 

「ベルナートが楽しそうだなって。その人友だちなんでしょ?」

 

「友だちじゃねぇ! こいつは技術を盗むだけ盗んで会社を出て行きやがった恩知らずだ!」

 

「痛い痛い! ヘッドロックはきつい! そうだウタ。この人パウリーさん。この1番ドッグの職長の1人ね」

 

「余裕じゃねぇかベルナート」

 

「ぐあぁっ!」

 

「あはは、パウリーさんも楽しそうに見えるけど?」

 

「はぁ!? 何言ってやがっ……! だからその足を隠せハレンチ娘!!」

 

「いやこんなとこで着替えられないよ」

 

「公衆の面前で女に着替えさせようとするとかパウリーさん変態ですねぇぇ、いたい!!」

 

「頭回ってなかっただけだ!」

 

 ベルナートが本気ならヘッドロックから抜け出すことは簡単なのだが、それをしない辺りこの2人のこういうやり取りも、いつものことだったのかもしれない。

 自分の知らない一面。世界を旅してきた男だ。ウタの知らない彼の知人、交友関係はある。それはいつも見てきたもの。

 わかってはいることなのに、こうして見せられると寂しいと思う気持ちが湧いてくる。

 ウタは瞳を伏せ、一度2人を自分の視界から外した。

 

「そうそうパウリーさん、船を見てもらいたいんですよ。あとアイスバーグさんに会わせてほしい」

 

「厚かましいなお前!?」

 

「借金立て替えてあげたじゃないですか」

 

「ぐっ……! はじめから狙ってやがったな……! …………わーったよ両方とも引き受けてやる!」

 

 

 

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