たった1つの笑顔   作:粗茶Returnees

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 今週のワンピで性癖が歪まされそうになりました。危ない危ない。


水の都ウォーターセブン②

 

 アイスバーグはこのウォーターセブンにおいては英雄的存在だ。市長にして社長である彼は多忙を極めるのだが、その権限もまた強い。「仕事が多すぎて嫌だから今日の予定キャンセル」とか言っても通用するレベルである。その自由な働き方には、ある意味羨ましがられるものがある。

 ガレーラカンパニーの本社は過去のとある事件で一度全焼したのだが、今では新たな建物が完成している。パウリーは電伝虫でアイスバーグに話を通してからそこへベルナートたちを案内した。

 

「ンマー、久しぶりだなベルナート。天竜人の件聞いたぞ?」

 

「オレも聞きましたよ。船の修理はここでやってたみたいですね」

 

「おかげさまでな。幸い誰も連れて行かれることはなかった。そこはお前に感謝だな」

 

「なんで?」

 

「だいぶ頭にきてたらしい。お前と歌姫のことで頭がいっぱいだったんだろう。……ツアーを行うのは結構だが、聖地方面に行くなら気をつけろ」

 

「はぁ。わかりました」

 

 天竜人も諦めが悪いと言いたいところだが、天竜人から恨みを買う人間は少ない。強く印象に残るのも納得のいく話だ。

 しかしベルナートからは一度も手を出したことがないのは事実だ。過去の罪はあれど、今では必要な時に相応の手を打つ。それだけだ。

 

「ンマー。パウリーから話も聞いてる。船の点検なら職員がやるように手配しておこう」

 

「話が早いですね。本当にいいんですか?」

 

「ああ。大方パウリーの借金を立て替えたんだろ。先に恩を作られちゃ断れねぇ。それに、それぐらいの余裕ならうちの社員にある。技量測定に活用させてもらうさ」

 

「ベルナート、技量測定って?」

 

「ここの会社は定期的に職人の腕を確認するんだよ。それでキャリアとかステップアップしていく」

 

「なるほどね。テストなんだ」

 

「そんな感じ」

 

 ガレーラカンパニーに所属しているのなら、まずその時点で腕は保証されてる。それでも社員の中でも階級分けは必要だ。昇給にも繋がり、それらがモチベーションにもなる。

 それのテスト用にベルナートたちの船を活用するのだ。代金の支払いもそれでチャラになる。

 お互いにメリットのある落とし所だ。

 

「船はどこに停めたんだ?」

 

「岬です。新世界にも行くつもりなんで、必要なら改修もしてください」

 

「ンマー。自ら聖地に近づくのか。……魚人島に行くにしても、シャボンディ諸島に数日は滞在しないといけないはずだ。大丈夫なのか?」

 

 アイスバーグはそこに行ったことはない。しかし昔馴染みに人魚のココロがいるし、アイスバーグの師匠は伝説の船大工のトム。彼も魚人である。話くらいは聞いていても不思議ではない。

 

「シャボンディ諸島にも頼れる知り合いがいるんで、なんとかなりますよ」

 

「ならいいが。それはそうとライブはするのか?」

 

「出発の前日にしたいなって思ってるよ。いいかな?」

 

「それは構わないが、見てきた通りこの街は水路が多い。大人数が集まれる場所も、うちの会社のドッグくらいだ」

 

「プールは? そこでBBQしたって前に聞きましたよ」

 

「……たしかにそこがあるが……わかった。使うといい。宿もこちらで用意しておく。追って連絡させるからこの後はこの酒場に行け」

 

 そう言って渡された用紙には、その酒場の名前と簡略的な地図が書かれていた。ベルナートも知っている酒場であり、たしかにここなら安心できる場所だと納得した。

 

「そうだベルナート」

 

「はい?」

 

「技量測定にはお前も混ざれ。パウリーにまたしごかれるといい」

 

「うわ……わかりましたよ」

 

 ベルナートに直接指導したのはパウリーである。そしてパウリーは、ベルナートをガレーラの正式な職員にしようと考えていた。それほど真剣に取り組み、腕もつけていたのだ。

 それを断って出ていっておきながら帰ってきたのだから、ベルナートはパウリーに一発殴られても文句は言えない。ヘッドロックで許されたのはパウリーの恩情だ。

 当時のことを懐かしく思いながら、ベルナートはウタたちとガレーラの本社を後にした。

 

 

 ウォーターセブンは、巨大噴水を中心に綺麗に円形になっている島だ。しかし海列車の駅があることにより、そちら側が表、噴水を挟んで反対側が裏町と呼ばれる。水上エレベーターで上に行けばそこが中心街だ。

 その裏町側は、毎年ウォーターセブンを襲う高潮"アクア・ラグナ"の被害を受ける。今年の被害は例年の比ではない。裏町のほぼすべてが水面下に沈んだほどだ。

 しかしここは職人の島。どんな被害であれ素早く復旧作業を行ってくれる。そんな裏町の一角に、アイスバーグが指定した酒場がある。

 

「いらっしゃいだわいな」

 

「今はまだ準備中……ってベルナートだわいな」

 

「久しぶりですね。酒場も随分板についてきたんじゃないですか?」

 

「そこは言い切るんだわいな」

 

「まったくだわいな」

 

「アイスバーグさんから連絡が来るまでここにいさせてもらいますね」

 

「なら今日は貸し切りにするわいな」

 

「ザンバイたちも呼ぶから久しぶりに宴だわいな」

 

 とんとん拍子に話が進んでいき、店の扉の入り口にも「本日は貸し切り」と書かれたボードがぶら下げられる。

 ベルナートたちはカウンター席に3人並んで座り、連絡も済ませた2人がカウンターの奥へと立った。ここでようやく、互いに自己紹介が始められる。

 

「挨拶を後にしてすまなかったわいな。あたしはモズ。こっちがキウイ。今は見ての通り2人で酒屋をやってるんだわいな」

 

「今は?」

 

「この後来るザンバイたちも含めて、あたしらは解体屋兼賞金稼ぎをしてたんだわいな」

 

「アニキが海賊になってから一家は解散。アイスバーグに仕事を斡旋してもらったりして、それぞれの道を歩んでるんだわいな」

 

「海賊……。賞金稼ぎって海賊を捕まえたりしてたんでしょ? それなのになんでその人は海賊になっちゃったの?」

 

「……夢のためだわいな」

 

 酒を飲むのは他のメンバーが来てから。代わりにコーラを3人分キウイが用意した。

 モズもキウイも、2人とも僅かに寂しげな雰囲気を持っていたが、それを塗り潰すほどに、誇らしさを持った笑顔になる。

 

「アニキの夢は、自分の船で世界を回ること。それを成し遂げた時にこそ、その船は何よりも輝いている。それがアニキ言う夢の船なんだわいな」

 

「あたしら一家にだけ、アイスバーグがそれを教えてくれたんだわいな」

 

「……それ、詳細まで私たちが聞いてもよかったの?」

 

「ベルナートの連れなら信用できるわいな」

 

 連れだろうと他人の夢を簡単に語るかは話が別だ。しかしそれを踏まえても尚、良いと判断された。

 いったいベルナートがどれだけ信用されているのか。それを測るには十二分な話だった。

 

「その人のこと、なんでアニキって呼んでるのか聞いてもいい?」 

 

「聞きたがりだわいな」

「だわいな」

 

「あ、ごめん」

 

「あたしらがアニキって呼んでるのは──」

「聞いていいんだ!?」

 

 駄目かと思って謝ったが、どうやらその必要はなかったらしい。モズとキウイが楽しそうに笑い、ウタは小さく頬を膨らませてからコーラを口にした。

 

「ガレーラの人気はもう知ってると思うけど、この島じゃ船大工を目指す人も多いんだわいな」

 

「海列車。あれが初めて走った日は、あたしらもまだ子どもだった頃。あれに影響を受けて、海列車を作った伝説のトムズ・ワーカーズ、その1人が作った会社を目指すのも珍しくなかったわいな」

 

「…………え、アイスバーグさんが伝説の船大工の1人!?」

 

「あ~そう言えばその話はしてなかったな」

 

「ベルナートは知ってたの!?」

 

「……働いていた時期もあるなら、知っていてもおかしくはないな」

 

「わざわざ話すことでもないと思ってさ」

 

「話を戻すわいな」

 

「ガレーラには誰だって入れるわけじゃないんだわいな。入社試験があって、それに受かれば入り口に立てる。あたしらはそれに落ちたんだわいな」

 

 目指していたものになれない。その門を通れない。そのショックは本人にしか分からない、計り知れないものだ。

 多くの職員がいるガレーラカンパニーだが、相応に多くの落第者たちがいる。モズもキウイもそちら側であり、グレて家も飛び出して生活していた。酒場に入り浸り、チンピラ生活。

 そんな2人を拾い上げた者こそ、2人がアニキと称して慕っている男。フランキーである。

 フランキーは裏町でグレていたチンピラたちをまとめ上げ、行き倒れている者たちも拾い上げ、自分の子分にした。そしてその集団こそがフランキー一家。解体屋と賞金稼ぎをしていた者たちだ。

 

「フランキー……って、麦わらの一味の?」

 

「そうだわいな」

 

「そういう人だから、ルフィも仲間にしたんだ……」

 

「麦わらと知り合い?」

 

「えっと……広めてほしくはないことなんだけど、ルフィは私の幼馴染なの」

 

「「びっくり情報だわいな!!」」

 

 モズもキウイもウタのことは知っている。知っているが、それで騒ぎ立てたりはしない方がいいだろうと踏んで黙っていた。そんな配慮をぶっ飛ばすような衝撃情報に、思わず2人揃ってリアクションを取ってしまった。

 それも仕方ないだろう。フランキー一家は、麦わらの一味に大恩がある。今ではフランキーもその仲間となっている一味の頭、麦わらのルフィの幼馴染。

 あの歌姫がだ。

 2人のその反応から、やっぱり言わない方がいい情報なんだなとウタは再認識した。

 

「アニキとの別れは辛かったわいな。けど、麦わらたちのことは信用できるから、あたしらは送り出せたんだわいな」

 

「もしアニキに会うことがあったら伝えてほしいわいな。あたしらは元気にしてるって」

 

「うん。必ず伝えるね」

 

「麦わらには一度会うつもりだしな」

 

「うお! 本当にベルナートが来てやがる!」

 

 話の途中で声を割り込ませたのは、先程連絡を受けたばかりのはずのザンバイたちだ。この酒場にはフランキー一家全員は入れないのだが、そもそも今日来れるメンバーも全員ではない。当日の突然の連絡で来れるかは運次第だ。

 驚きながらもズカズカと入ってくるザンバイたちに、ベルナートも振り返ってにやりと笑う。ガレーラの職員たちとはまた違う付き合いだ。言うなら悪友か。

 

「来るの早くないか?」

 

「お前が来てるって聞いたから仕事切り上げて来たのさ」

 

「働けよ」

 

「うるせぇよ!」

「ギャハハハ! やっぱ言われたなー!」

 

 ザンバイたちはテーブルを寄せ合って席を作り、そこにベルナートも混ざる。モズとキウイが運んできたビールのジョッキを各々が持つと、早速乾杯して賑やかに飲み始める。

 

「いつ来たんだよベルナート」

 

「今日だよ今日」

 

「いなくなるのも来るのも突然だなお前」

 

「ははは! いろいろあんだよ。それよか仕事はどうよ」

 

「仕事は順調に波に乗り始めてきたところだぜ」

 

「解体はお手のモンだがよ。商談はまだ慣れねぇもんだな!」

 

 そうして近況を話し合っては飲んでいるベルナートの姿を、ウタもビールを飲みながらカウンター席から見つめた。

 今のベルナートの姿は、どう見ても遠慮も配慮も一切ないものだ。それを見ると、彼がパウリーと話していた時と同じように靄を感じる。

 

「ベルナートが気になるんだわいな?」

「そうなんだわいな?」

 

「……気になるわけじゃないよ。私といる時と違うなーってだけ」

 

「ヤキモチだわいな」

「妬いてるわいな」

 

「妬いてない!」

 

 顔を赤くしながら否定されても説得力がないが、モズとキウイは気づいた。この赤面は感情によるものではなく、酒によるものだと。

 つまり、ウタはたった1杯で……しかも飲み干してすらいないのにもう酔っているのだ。信じられないほどの弱さである。

 

「ベルナートはわたしのあいぼう(パートナー)で、わたしもベルナートのなのに…………ベルナートがとおい」

 

 それを聞いた2人は顔を見合わせ、それはないないと手を横に振って真顔で否定した。

 

「勘違いしてるわいな」

 

「ウタはベルナートに大切にされてるわいな」

 

「ベルナートの他人の分け方は2つだわいな。1つは敬意を払う相手とか店員とか、一定の距離を必ず取る相手。もう1つは何も気にせずに話す相手。友だちの距離感がこっちだわいな」

 

「あたしらの印象からしたら、ウタは()()()()()()()()()()

 

「気楽に話す相手だけど少し距離も開ける相手。ベルナートにとって大切だからこそ、特別な分け方になるんだわいな」

 

「……」

 

 ぐびっと残っているビールを飲み干す。ぼんやりとする頭でも、話は大方は理解できた。

 ふわふわする感覚を楽しんでいると、ぽんと頭に手を置かれた。振り返ると件の男、ベルナートが後ろに立っていた。ウタはぼーっとしながら見上げている。

 

「ウタ酔ってない?」

 

「……ほぇ?」

 

「そんなに弱いなら先に言ってほしかったわいな」

 

「そうだわいな」

 

「オレも知らなかったんですよ。……少し風に当たらせるか」

 

「そうするといいわいな」

 

 ふらつくウタを支えながら店の外に出て、陸路の端に並んで座った。重ねていた手は指を絡められ、離すことは諦める。

 裏町と言えど人は多く住んでいる。店で騒いでいるザンバイたちの声はもちろん、生活音も聞こえてくるし、ヤガラブルの鳴き声も時折聞こえる。耳を傾けていれば、静かな波の音も拾えた。

 

「ベルナートはとおいね」

 

 いつぞやの時のように、肩に寄りかかりながらウタはそう呟く。

 

「隣にいるだろ」

 

「ううん。とおい」

 

 どうやら物理的な話ではなかったらしい。ベルナートはウタが何を言おうとしているのか考える。「とおい」という言葉が何を指しているのか。それがつかえる表現を考えていき、やがて重なっている手を握り返した。

 

「やっぱ近いよ。オレはウタの相棒(パートナー)なんだから。ウタのことをいつも考えてる。……でも、それで逆にウタが気になってるなら、それはごめん。行動を見直すから」

 

「…………あえ? 何の話だっけ?」

 

「…………………………まじですか?」

 

「あ、あはは……ごめん」

 

「オレは飲みに戻らせてもらうからな! ウタは飲むなよ! 主にオレに被害があるから!」

 

 珍しく顔を赤くしたベルナートが、駆け込むようにして店へと戻っていった。中の様子がさらに賑わいをみせているあたり、だいぶ勢い良く飲んでいるのかもしれない。

 それを背に受けて感じながら、ウタは膝を抱えて熱くなった顔を隠す。

 

(私何言っちゃってるんだろ……)

 

 記憶はすべて残っているウタは、ベルナートの言葉を思い出してさらに熱を上げた。

 それが収まるまでにかかった時間は、ウタだけの秘密である。

 

 

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