たった1つの笑顔   作:粗茶Returnees

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 ウタが電伝虫を拾ったのは2年前なのか3年前なのか。40億巻と4/4巻では2冊とも3年前、映画内では2年前。  
 悩んだ結果映画準拠で2年前にします。


サクラ王国①

 

 ──ワールドツアーをやるよ! 

 ──みんなのとこに、全員のとこには周りきれないと思うけど、できるだけいっぱいの島に行ってライブするから!

 ──ツアーの終着点は私が今いる島エレジア。ツアーで会えた人も、会えなかった人もみんな来てね!

 

 ウタがそう宣言したワールドツアーの最初の島に選ばれたのは、サクラ王国。一年中雪が降り注ぐ冬島なのだが、なんとサクラが咲いたことがあるという。

 その島が選ばれた理由を世間は知る由もない。たんに2つの内の1つが、サクラ王国というだけ。

 

「雪が見たい」

 

 そして決め手はこれである。

 雪を知らないわけではない。エレジアでは雪が降らないから、久しぶりに見たくなっただけだ。

 

 

「ねえベルナート。私にも舵をとらせてよ」

 

「いいぞ。今のとこ波も荒くないし、ウタの力でもとれるはずだ」

 

「針路はこれを保てばいいんだよね?」

 

「そう。その赤側が常に前方になるようにしてくれ」

 

「わかった」

 

 ベルナートと交代して舵を握ったウタは、わかりやすく上機嫌になって鼻歌を交え始める。船に乗っていた経験こそあれど、舵をとったことは生まれてから一度もない。人生初の経験というものは心が浮かれる。

 

「ふふっ。こういうの懐かしいな~」

 

「船に乗ったことはあるのか?」

 

「うん。私はエレジア出身ってわけじゃないからね。どこ出身かは自分でも知らない」

 

「なかなかに特殊な生い立ちしてんな」

 

「まーね。私の幼馴染も海に出たがってたなー」

 

「もう出てるんじゃないか? 年がそんな離れてるわけじゃないんだろ?」

 

「私の2つ下だね。ツアー中にばったり会うこともあるかな」

 

「可能性はあるな。その幼馴染がグランドラインに来てるなら」

 

 その名前をウタが言わないからベルナートも気づけないだけで、その幼馴染はしっかりと有名人である。グランドラインにも来ているし、新聞をよく賑わせた新進気鋭の海賊である。

 ウタと、そしてベルナートも嫌いな海賊を元気にやっている。

 

「来てるといいな。あはは、楽しみが増えた」

 

 当時のことを思い出しているのか、ウタの表情はこの上なく明るい。

 出航した時からウタの機嫌自体は良かった。いや、もっと振り返ってみれば、ワールドツアーを行うとウタが決めた時からか。 

 ウタとゴードンも乗せると分かってから、ベルナートも船の修理から改築へと切り替えた。図面を引き直し、部屋を増やすための増築、ウタの要望にも応えられるように頭を悩ませ、完成したのはエレジアに着いてから1ヶ月半。

 日々の歌配信は変わらず行われていたために、そこでベルナートは発想を転換。ウタの能力でどのみち寝るのなら、普段の睡眠時間をそこに充ててしまえばいいのでは、と。

 実際問題、体は確かに休まるが精神面や脳はそうもいかない。意識自体はウタワールドで起きているのだから。

 それでもベルナートはそれを続け、内装はやり方を教えてウタにも手伝ってもらい、そして今に至る。

 

「今の間は休んだらどうだベルナートくん」

 

「出航初日ですから、ウタに任せきるのも不安なんですよね」

 

「夜も起きるつもりだろう? 私もウタも、この海での航海の経験は乏しい。君に何かあってからではツアーどころじゃないんだ」

 

「そう言われると……わかりました。昼寝してきます。何かあれば起こしてください。叩けば起きますから」

 

「叩かずに済むことを祈るよ」

 

 ベルナートの寝室は前方甲板の真下だ。部屋の天井にはハッチがあり、そこから甲板に出られるようになっている。何かあればすぐに舵をとれるようにだ。

 ゴードンの部屋は甲板後方。1階にあるDKのすぐ近く。ウタは2階で、作曲用の別部屋も用意されている。

 ベルナートは部屋に入り、机の上に置いてある日誌に目を向ける。いつも寝る前に書いているもので、今回はどうしようかとぼんやり考えた。寝るとはいえ、昼寝(仮眠)である。書いてから寝ると、1日が終わったような気分になりかねない。

 悩んだ末に、ベルナートはわざと文章を書きかけにして、日誌も開いたままベッドに体を投げる。

 

(なにか……忘れてるような)

 

 そんな感覚があれどそれがなにかはわからない。限界を超えていたベルナートの心身は、気持ちの安らぎを悟った瞬間眠りへとアクセルを全開にした。

 

 どれだけ疲労が溜まっていようと、ベルナートはグランドラインを1人で逆走してきた男だ。睡眠時間を決めて寝れば、ロボットのようにその時間に起床する。 

 今回決めたのは3時間。

 仮眠にしては長いが、それだけ寝られれば疲れも大幅に取れる。回復の早さが彼の売りだった。

 

「何もなかったか?」

 

「甲板のそこが開くって今知って驚いてるとこ」

 

「そりゃ結構だ。島にそんなすぐに着くわけでもないから、交代してウタも休んだらどうだ?」

 

「今日の配信まで時間もあるし、そうしようかな」

 

「ツアー宣言したのに配信は続けるのか」

 

「当然でしょ。歌を楽しみにしてくれてる人たちもいるんだから」

 

「そりゃたしかに。…………あ!!」

 

 ゴードンに椅子を持ってきてもらおうとウタが振り向くと同時に、ベルナートの大きな声が響いた。その声に驚いたウタはビクリと肩を震わせ、大きくなる心臓を鎮めるように胸に手を当てながらどうしたのかを聞く。

 

「配信はできれば部屋でやってくれないか? ウタワールドに入っちゃうと船をどうすることもできないからな」

 

「たしかにそうだけど……。それだとせっかく海にいるのにそれを活かせないでしょ。波の音、広くて青い海、吹き抜ける風を感じながら歌うのも気持ちいいのよ?」

 

「……わかった。じゃあオレが耳栓使うから、歌う前に教えてくれ」

 

「ベルナートが聴かないのは意味ないじゃん。私が言ったこと忘れたわけじゃないわよね?」

 

「覚えてるけどさ」

 

「ウタ。あまり彼を困らせるんじゃない。このツアーは彼の航海術が頼りなんだ」

 

「……わかった」

 

((絶対納得してない))

 

 頬を膨らませたウタに男2人は察し、そのうち航海中でもベルナートに聞かせるんだろうなと先のことに耽る。

 とはいえ、実際に多くの島を周って行くのであれば、いずれウタもゴードンも心得が身についていくことになる。そうなってからなら、ベルナートがウタの歌を聞くのも有りだ。

 ぷいっとベルナートから視線を反らしたウタは、ゴードンが椅子を運んできていることに気づいた。頼もうとしていたことを読まれたのかと驚いたが、どうやらそうでもないらしい。

 ゴードンもウタの視線に気づき、くすりと笑って主張するように椅子を持ち上げた。

 

「ここでデザートを食べるのも良いんじゃないかと思ってね。ウタも手伝ってくれ」

 

「ナイスアイデア!」

 

「チョロい」

 

「ベルナート何か言った?」

 

「いんや何も」

 

 船の行く先だけを見ているベルナートに、ウタは肩パンしてからゴードンの手伝いへと向かった。

 ばっちりと聞こえていたらしい。

 

 

 

 

 

「ベルナート起きて。ベルナート!」

 

「んー。リズミカルに叩くのはやめような?」

 

「わっ、寝起きいいんだね」

 

 航海にウタとゴードンも慣れてきた頃、いつも通り仮眠を取っていたベルナートはウタに叩き起こされた。頬をドラムかシンバルに見立てての叩き起こしも、ベルナートの起床とともにぴたっと止まる。

 

「何かあった?」

 

()()!!」

 

「……なるほどな」

 

 ウタが感じているものは、当然ベルナートも肌で感じる。窓の外に目を向け、ベルナートは確信を抱く。使っていた毛布でウタを包み、部屋の扉から外に出る。

 今はゴードンが舵を取っているようだが、そのゴードンも寒さに体を震わせている。

 

「代わるんでゴードンさんも毛布を取って来てください。あとウタに温かい飲み物でも」

 

「助かる。急に気温が下がってね。雪も降ってきている」

 

「冬島の気候に入ったんでしょう。このまま進めば日が出てる間に島に着きそうです」

 

「! そうか。いよいよか」

 

「島に着くの!?」

 

「あと数時間でな」

 

 ウタの初生ライブを行う場所。それが目前とあってゴードンは神妙な面持ちになり、対象的にウタは笑顔を弾けさせた。

 

「加速しようよ加速!」

 

「無茶言うな!? そんな機能ついてない! それに、着く時間とか着いてからのことを考えたら、ライブは早くても明日。順当にいけば明後日だ」

 

「なんで明後日?」

 

「今日はまず無理。夜はもっと冷えるし。1つの地域でのライブならそこの長と話せばいいから、その場合は明日にもできるとは思う。けどその国中に宣言してのライブなら国王と話す必要があって、交渉とかも考えれば明日はそこに費やすことになる」

 

「そうなるんだ。なんでそういうのも知ってるの?」

 

「いろんな経験があるんだ」

 

「あー、またそうやってはぐらかすんだから!」

 

「……必要になったら話すよ。ワールドツアーともなれば、いずれ話さないといけないだろうから」

 

「? ……でも無理には話さないでよ? 嫌な思いにさせたくはないから」

 

「大丈夫。だから今は話してないんだし」

 

 けろっと言ってのけられ、ウタは毛布をさらに握る。2ヶ月弱一緒にいて、話すことも当然多い。それでもベルナートの心境を察することは難しかった。本人が隠していて、そしてそれはウタも同じ。だから互いに一線を引いていて、それが"理解"にたどり着かせない。

 

「なんにせよ、どういう形でライブするかは着いてからじゃないと決められないな。オレも初めて行く島だ」

 

 その言葉にウタは意外だなと思った。エターナルポースがあるから、この島も上陸済みだと思っていたからだ。

 ベルナート曰く、旅の途中でエターナルポースを見つけてはとりあえず買うらしい。その島のものを買えることもあれば、他の島のものを買えることもある。今回のは後者というわけだ。

 ゴードンが飲み物を淹れ、ウタはそちらに行って暖を取る。そうして時間を費やしていると、錨が降ろされる音が2人の耳に届いた。どうやら島に着いたらしい。

 

「わっ! すごいよゴードン! 一面真っ白!!」

 

「ああ。冬島のイメージ通りだな」

 

「はは! うん、この島でライブするのは寒そうだね!!」

 

「エレジアにあったホールみたいに、屋内ライブができるといいんだが」

 

「そういう場所があるかも、これから国民に聞いてきます。上着も買ってくるんで、2人ともしばらく待っててください」

 

「すまない」

 

「待って! 私も行く!」

 

「いやウタは冬用のコートとか持ってないだろ」

 

「毛布で耐える。私だって上陸したい!」

 

 船番は退屈だ。

 ウタは誰よりもそれを知っている。

 

「……わかったよ。じゃあウタがこれ着ろ」

 

 ウタの強い眼差しにベルナートが折れ、用意していた上着をウタに投げ渡す。それを受け取るも、それだとベルナートの分はどうするんだと困惑。その間にベルナート本人は島へと跳び移っていた。

 

「集落ぐらいまでなら耐えれる。奥に人の手が入ったものも見えるから、そう遠くはなさそうだ」

 

「ちょっ、いろいろと待って! まずこっちはベルナートみたいに人間離れした身体能力してないからね」

 

「……そうだった」

 

 ウタもジャンプすれば、ベルナートの補助もあって上陸できるだろう。しかしゴードンはそうもいかない。しばらく待機になるとはいえ、先に用意しておくにこしたことはない。

 船と岸を繋ぐための渡り板を設置し、ウタもそれで安全に上陸。手を振り合ってゴードンと一旦別れ、2人は人のいる場所を一路目指す。

 

「もっと奥まで船を入れてもよかったんじゃない?」

 

「念の為な。頂上戦争以降海賊は増えたから、中まで行って海賊がいましたじゃあ面倒だ」

 

「……そっか。海賊のことも気にしないといけないんだね」

 

「そういうのはオレが引き受けるから、ウタはライブ以外あんま気にすんな。それに、今はいないと思う」

 

「じゃあやっぱりもっと奥でよかったじゃん」

 

「海賊が増えてるってことは、警戒も強くなってるってことだ。あんま刺激してもな。ってか……あーそっか」

 

「何納得して、え? ちょっと、おろして! 大丈夫だから!」

 

()()()()()()()()()()()()()()()。そこまで頭働かせてなかったオレもオレだけど、下手したら欠損するんだぞ。体を大事にしろ」

 

「ベルナートに言われても説得力ないんだけどな……。でも、ありがとう」

 

 頼んではみたものの、ベルナートはウタをおろす気がないらしい。今の年にもなって他人に背負われるのは恥ずかしいものがあるが、どうやらそれを飲み込むしかなさそうだ。

 ウタは思考を切り替えて周囲へと目を向ける。

 基本的に一面が雪で真っ白な島だ。吹雪いてはいないのが幸いか。おかげで遠くまで見える。

 

「んー?」

 

「5、6……8人こっちに来るな」

 

「見えてる?」

 

「いや? ウタは今視点が高いから見えるんじゃないか?」

 

「うん。なんでわかるの?」

 

「気配でわかる。1人強いのがいるな」

 

「そこまでわかるんだ。何かの能力とかじゃないんでしょ? ベルナートは泳げるし」

 

「そうだな。覇気ってやつの一種だ」

 

 相手はソリで向かってきているようだ。トナカイたちが雪を踏み鳴らす足音が、だんだんと聞こえてくる。

 武装はしているようだが、ベルナートたちを囲うこともなく、銃口を向けることもない。真っ先にソリから降りた大柄な男性を守るように、他の7人が後に続いた。

 

(護衛か。守られる側のほうが強いってのはなんとも……)

 

「君たちだな? 岬に船を停泊させているのは」

 

「下手に奥まで入るよりはそちらを刺激しないと判断しました。頂上戦争から半年経ったとはいえ、海賊が増えたのは事実。まだ安定化には至っていないと思った次第です」

 

「配慮に感謝する。この先にある港まで船を進めてもらって構わない。だが、その前に済ませることはありそうだ」

 

「ははっ。お気遣い感謝します」

 

 コートは着ているが、靴が冬に対応できるものではないウタと、靴はともかく他が非対応なベルナートにその男は苦笑して横にいる護衛に指示を出した。

 どうやら先に集落に行って、ウタとベルナート用の服装を整えてくれるらしい。それを理解してベルナートは慌ててもう1人分のも頼む。もう1人が船番をしていることを説明し、当人の船の心得が乏しいことも。

 

「では船に慣れているものを向かわせよう」

 

「ありがとうございます」

 

「君たちに悪意がないこともわかった。我々は君たちを歓迎しよう。私の名前はドルトン。ようこそサクラ王国へ」

 

 

 

 

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