シャボンディ諸島にある1番グローブとは、かつて麦わらのルフィが天竜人を殴り飛ばすという事件を巻き起こした場所である。
その事件の詳細はともかく、この場所にはかつて人身売買のためのオークション会場があった。その事件以降この場所のオークション会場は潰れ、今ではただの廃墟しかない。
そんな、天竜人が関わった事件現場と知ってか知らずか。これまた天竜人に恨みを買っている男がその場所に佇む。
「お前が天喰いか」
「そう呼ばれてるな」
パシフィスタとこの諸島の全海兵を率いて、戦桃丸はベルナートを包囲した。このシャボンディ諸島はすべて橋で繋がっているわけだが、つまりはそこが唯一の通行手段。この1番グローブにある橋は、すべて海兵たちが封鎖した。
「オレは買い出しの途中だからさ、買い物させてくれないか?」
「生憎とそれを聞く義理はない。お前が海賊でなかろうと賞金首であり、天竜人に恨みを買っている時点でな」
「じゃあいいや。お前ら倒してお前らの駐屯地の冷蔵庫から貰う」
「やり口が質の悪い海賊だぞ!?」
「いいやこれは取り引きだ。お前らが勝てばオレは普通に買い物をする。オレが勝てばお前たちから貰う。完璧な取り引きだろ」
「わいらが勝てば大人しく捕まれ! なんで買い出しができると思った!」
「オレの目的が食料調達だからだ!」
「話以上に無茶苦茶だな……」
ベルナートが刀を引き抜く。戦桃丸も鉞を構え、海兵たちもバズーカを構えた。
「インペルダウンでも使われてるっていう捕獲用か」
「どっからその情報を手に入れたかは知らねぇが話は早えな。能力者って情報はねぇが、鉄製の網だ。一発でも当たりゃあいくらお前でも抜け出すのに手間取るだろ。その間に上から何重にも網を重ねて捕えさせてもらう」
「下手に兵に挑ませるよりは上策だな。良い指揮官してんじゃねぇか」
「うるせぇ! 敵の賛辞は受けねぇよ!」
ベルナートは周囲を確認し、海兵のほとんどがバズーカを所持しているのを把握する。捕獲用バズーカを持っていなくとも、剣を持っているものはいない。ベルナート相手に近接戦をできるとは思っていないようで、代わりに銃を持っている。その潔さにベルナートは感心した。
近接戦を行うのは、戦桃丸とパシフィスタのみのようだ。つまり敵の作戦は、ベルナートへの対抗手段を先にぶつけ、それでも駄目ならバズーカ部隊で捕獲を狙うというもの。
「一応聞いといてやるが、自首する気はあるか?」
「ないな!」
「だろうな。……始めろパシフィスタ!」
戦桃丸の号令とともに、出動してきた5体のパシフィスタが襲いかかる。
元来パシフィスタは、1人の敵相手に集団戦闘を行うような想定はされていない。むしろ想定としては逆だ。パシフィスタ1体で多くの敵を相手にする。
それでも集団戦闘ができないわけではない。敵と味方の識別はあるのだから、敵のみを狙えばいいし、レーザーも味方の間を縫うように撃てばいい。
2体のパシフィスタが左右に展開し、残りの3体がベルナートにレーザーを放つ準備に入る。
「遅い」
3体の内2体は手でビームを撃とうとし、1体だけ口から撃とうとした。ベルナートはその1体に狙いをつけ、口の中へと刀を突き刺す。
「中は外より柔らかいんだな」
口を貫通した刀は、そこから上へと引き裂かれる。
起爆する前にベルナートがそのパシフィスタから飛び退くと、残りの2体からのレーザーが直後に放たれた。大破した味方なら、諸共撃つことになっても敵を狙うらしい。
「口開けてレーザー撃つなんて無防備もいいとこだ。ベガパンクに言っとけ」
「批評なんぞ頼んでねぇよ!」
振り下ろされる鉞を刀で受け止め、
「
「こうか」
突き出される掌底には、
互いに弾かれて距離が空き、ベルナートには捕獲用のバズーカが放たれる。それをさらに飛び退くことで回避したベルナートは、今度は上へと跳躍してパシフィスタの出方を窺った。
さっきの一幕で学習したのか、口を開けてレーザーを撃とうとするパシフィスタはいない。4体ともが手を上空に構える。
「覇王色使う奴はこういう時いいよな……」
バズーカ部隊を気絶させられるから。
「月歩くらいは使えるんだよ」
パシフィスタの4本のレーザーも、バズーカ部隊による砲撃も、空中で躱して急降下する。
戦いはいつだって数が厄介だ。そして今回は海軍側が上手く作戦を組んでいる。脳死で突撃してくれたら、ベルナートも一気に数を減らすことができた。しかし戦桃丸はそうはさせずに、ベルナートへの牽制に徹しさせている。
しかも、あわよくばそれで決着をつけられるような、そんな装備をさせてだ。
これによりベルナートは周囲を警戒しないといけない。その上でパシフィスタと戦桃丸の相手をしている。仮に先に周りを片付けようとしても、パシフィスタたちに背を向けることになる。リスクが大きい。
「それはそれでありだけど……パシフィスタ減らしとくか」
「させるかよ!」
作戦……と呼べるほどではないが、ベルナートは方針を決めた。あえてパシフィスタの近くにいることで、周りの海兵がバズーカを撃ちづらい状況を作る。そしてパシフィスタの破壊を始めれば、戦桃丸を誘き出せる。
戦桃丸が鉞を振る直前に、ベルナートは斬撃を飛ばしておいて利き腕を斬る。
「戦桃丸さん!」
(こいつまさか……!)
「咄嗟に武装色使ったか。優秀だな、ベガパンクのボディーガードは」
近くによってきたベルナートをパシフィスタが捕らえようとするも、ベルナートは見向きもせずにカウンターで両断した。さすがの硬さに真っ二つとまではいかないが、最初に斬ったパシフィスタよりも損傷が大きい。
「間違いねぇ……! お前……未来まで見えてやがるのか……!」
「「え!?」」
見事に見抜いた戦桃丸を、ベルナートはにやりと笑って肯定した。得意な覇気の色は見聞色だ。その方面においては、ベルナートは深く身につけている。
その事に驚愕した海兵たちは、しかしそれが本当だと理解できた。彼らが
「パシフィスタの動きが遅いのもベガパンクに言っといたら? 攻撃を受ける前提かもしれないけど、この強度を上回る攻撃力を持つ相手には無力だぞ」
「だから批評は頼んでねぇっての!!」
戦桃丸による攻撃も、パシフィスタによる攻撃も、未来視によってすべて躱される。パシフィスタの数が減ったことで、さらにベルナートは動きやすくなった。追い打ちをかけるようにもう1体斬ったところで、戦桃丸の間合いに入って刀を突きつけた。
「この辺りで手打ちとして撤退してくれないか? 買い出しが長引くとウタに不審がられるからさ」
「お前の要望に応える義理はない!」
戦桃丸は覇気の修練を積んでいる。武装色の覇気も、ワノ国で言うところの
その戦桃丸の攻撃を、パシフィスタの攻撃も躱しながらベルナートは受け切っている。レーザーは直線だ。シンプルな進路は、わかっていれば難なく避けれる。
指揮官である戦桃丸だってわかっている。ベルナート相手にこの島の戦力では勝てないと。それは最初からわかっているし、5体の内3体ものパシフィスタも破壊された。人的被害は未だ0なれど、これ以上味方の被害が増える前に引いておきたい。それが指揮する者としての本音だ。
しかしここは聖地の近く。他の大物海賊ならまだしも、ベルナートとなると天竜人が煩い。そして海軍は"正義の軍隊"だ。「逃げられた」ならまだしも「逃げてきた」は選べない。せめて「敵わなかった」が言い訳に使える。
「パシフィスタ全機破壊して、お前を倒すしかないのかな。戦桃丸」
「わいが負けようと、尻尾巻いて逃げるような根性なしの海兵はここにはいねぇ!」
なぜなら彼らは、"正義"をその両肩に背負っているからだ。
これは最後までやるしかないかと、半ば諦めて目を細めた時だった。
「双方そこまでじゃ」
予想だにしなかった人物がこの場に割って入った。
未だその影響力と発言力が大きい自由人にして正義の味方。モンキー・D・ガープである。
「ガ……ガガ、ガープ中将!? なぜここに!?」
「部下たちの休暇を兼ねて来ただけじゃ。ほれここ、シャボンディパークがあるじゃろ」
「それで中将も他の方も私服なんですね……」
「駐屯地に寄ってみれば誰も居らんかったのでな。ついでに様子見に来たんじゃが。ふん、まあこうなるわな。戦桃丸、全員を撤退させろ。パシフィスタもじゃ」
「正直ガープの旦那がいるんだったらベルナートを捕まえられると思うんだが」
「その場合人的被害が出るぞ。まだ死者が出とらんうちに拳をしまえ。それにわしらは休暇に来たんじゃ。働く気はない!」
「「えええぇぇぇ!!」」
「ガープ中将堂々とそれ言うのやめましょうよ……」
後ろを向いてふんぞり返っているガープの背中には「はたらかない」と書かれている。本当に仕事をする気がないのだと、誰の目にも明らかだった。
もし相手が、厄介な海賊であれば手を貸しただろう。しかしベルナートが相手だ。ガープは休暇でなくとも手伝う気がない。
「ほらお前ら撤退じゃ撤退。壊れたパシフィスタはわしらが預かる。どうせ休暇のあとに新世界に行くんでな。ベガパンクのところに送っといてやる」
「だけど天竜人にはどう説明するんだよ……! 見逃したって言うのか!?」
「戦桃丸お前さん真面目じゃのう。逃げられたと言えばいいんじゃ。……そっちもわしが預かる」
ガープの口から説明してしまえば、いくら天竜人とて強くは出れない。なにせガープは露骨に天竜人を嫌っている人間であり、市民からの人望が厚いからだ。
味方にするとこの上なく頼もしいものの、自由人なところが上の立場の人間たちにとって傷か。
「大仕事に張り切るのはいいが、肩肘を張りすぎるな。無謀な挑戦で味方に被害を出させるのは愚策じゃ。戦争のような必ず被害が出るときであってもな」
ガープは取り出した煎餅をぼりぼり食べ始め、戦桃丸にも1つ分ける。その後にベルナートへと近づき、ベルナートにも1つ差し出した。もちろんベルナートはそれを食べる。
「前に馬鹿どもがちょっかいかけたようじゃな。もう少し早く言えたら回避できたんじゃろうが……」
「いえいえ。むしろ海の上で助かりましたよ。島に来られてたら、ガープさんたち相手に戦う羽目になってたでしょうし。……ならないか?」
「ならんな。ぶわっはっは!」
ベルナートが天竜人を斬れば話は別だが、そうじゃないなら何もしない。もしもが起きてたとしても、特に問題はなかったようだ。
「ウタは無事に活動を再開したようじゃな」
「民衆が受け入れてくれたおかげで。ここでは断念してますけど」
「そこは仕方ないの。まぁ、いずれできる日も来るじゃろ」
「そうですね。っと、そろそろ買い出し済ませてさっさと戻らないと」
「なんじゃ買い出し中じゃったのか。なら駐屯地から必要なもの持っていけ」
「旦那!?」
「「ガープ中将!?」」
「あのまま続けとったら負けとったんじゃ。手打ちとしてそれぐらいはくれてやれ」
ガープのその発言により、ベルナートの買い出しは特殊な形で完了した。駐屯地へと立ち入ったわけだが、もちろん歓迎はされない。
ベルナートはその事を気にも止めず、必要な食材を受け取るとガープや戦桃丸たちに別れを告げてシャッキーの店へと戻るのだった。
「おかえりベルナート!」
「ただいま。エプロンかわいいな」
「だよね? ありがとう!」
貴重なウタのエプロン姿は、ベルナートの
戦闘書くの疲れるから嫌ですね。