たった1つの笑顔   作:粗茶Returnees

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 長くても1つの島で3話って……。なんでこうなったのでしょう……。



シャボンディ諸島④

 

 シャボンディ諸島は、数多くの海賊が寄る場所ではあるが観光地でもある。ボンチャリやコーティング船のように、シャボン文化は世界を見渡しても珍しい。それ自体を目的として来る者もいれば、海賊好きだからこそ前半の海で暴れたルーキーを一目見ようとする者もいる。

 政府の中枢が近いのに、諸島の半分ほどが無法地帯なのは悲しい現実か。人間の闇の歴史、人身売買。それを黙認するともなれば、無法地帯が放置されるのも納得だ。

 それはさておき、諸島の外縁部のほとんどは安全だ。軍の駐屯地、ホテル街、民間の出入り口に職人街。そしてシャボンディ諸島を代表する名所シャボンディパーク。

 

「ゆうえんちって何?」

 

 それがあるということを聞いたウタがベルナートに聞く。響きからして面白そうと思っているようで、わからないのにわくわくした表情だ。

 ソファに寝転んでいたベルナートは体を起こし、半覚醒状態の頭でどう説明するか考える。

 知らないのなら、話しても想像がつきづらいだろう。実際に見たほうが早い。

 

「いろんなアトラクションがあって、それに乗って遊ぶとこだ。行くか?」

 

「今から? いいの?」

 

 諸島に入る時にはフードを深く被らされた。自分の存在を知られないためにだ。

 それを理解しているからこそ、コーティング作業の間はこの店に滞在し続けると思っていた。外に出ることはないと。そのことにも納得していたから、ベルナートのその誘いにウタは目を丸くする。

 

「ずっとここにいても退屈だろ? 出かけよう。今ならなんとでもなるからな」

 

「やった! ありがとうベルナート! すぐに準備するね!」

 

「急がなくていいぞー。ゴードンさんはどうします?」

 

「私も行こう。乗るかは別としてね」

 

 ゴードンも準備しようと席を立つのと同時に、奥にある扉が勢いよく開きウタが飛び出した。

 

「行こう!!」

 

「「早過ぎ!!」」

 

 結局出発したのは、そこから10分後のことだった。

 

 

 シャボンディパークは32、33、34番グローブの3つを使用して建設されている大型の遊園地だ。

 観覧車やジェットコースターなど、定番のアトラクションはどれも揃えてある。中には店もあり、この遊園地の中で食事を済ませるのも可能。正真正銘、1日遊び倒せる夢のような場所だ。

 ボンチャリでそこにたどり着くと、はやる気持ちを抑えられなくなったウタがベルナートの腕を引っ張る。

 

「早く入ろうよ! 時間が勿体ないよ!」

 

「全部回る時間はあるから引っ張るなって……」

 

「あそこで入場券買えるみたい!」

 

「話聞いてないな!?」

 

 引っ張られるがままにベルナートも駆け足となり、入場券を3人分購入する。支払いを済ませるとウタが3枚の入場券を持ち、またベルナートを引っ張る。ゴードンと合流してすぐさまシャボンディパークへと入場した。

 

「すご~~い!! 面白そうなのがいっぱい!! どれからにするか迷うな~!」

 

「ぐるっと一周回って、片っ端から乗ればよくないか?」

 

「それはなんか面白くないからやだ」

 

 そのやり方だと、どこか作業感がある。ウタはそれを却下して、最初に目に入ったアトラクションへ向かうことに。

 そのアトラクションは船に乗り込むもの。航海するのではなく、起点を中心に大きく揺れるものだ。俗に言うバイキングである。

 

「まずはこれね!」

 

「どういうやつか知ってるのか?」

 

「ううん。知らない! でも船だから楽しいと思う!」

 

「船への信頼度高いな!?」

 

 最初の1つ目ということもあり、3人でそのアトラクションに乗ることに。待機列に行ってみると、何やら見たことのある顔がそこにはあった。

 

「あ、どうも」

 

「たしかガープさんとこにいた2人だよな?」

 

「はい。鍛えてもらってるんです。僕はコビーと言います。こちらはヘルメッポさんです」

 

「海兵なんだ。なんでここにいるの?」

 

「新世界に行く前に、休養がてらこの島に寄ってるんです。ガープ中将のはからいで」

 

「おいコビー。そんなペラペラと喋んなよ」

 

 ゴードンとウタ相手ならまだしも、この場には賞金首のベルナートもいる。本来なら相容れない相手だ。今が非番だからといっても、海兵が自分たちの動向を言うべきではない。

 

「すみませんヘルメッポさん。ウタさんに聞かれたのでつい」

 

「気持ちはわかるけどよ……」

 

 そんなことを言っているヘルメッポだが、彼も歴としたウタのファンである。ウタが目の前にいるからこそ、立派な海兵たらんとしてコビーに注意しているのだ。立場を忘れていいのなら、ヘルメッポがめちゃめちゃウタに話していただろう。

 

「お互いにお忍びってわけだね。騒がれないようにしようね~」

 

「騒ぎが起きるとしたらそっちだろうけどな。頼むから起こしてくれるなよベルナート」

 

「オレかよヘルモップ」

 

「ヘルメッポだよ!」

 

「も~。わざと人の名前間違えるのはよくないよ?」

 

「いひゃいれす」

 

 ウタがベルナートの頬を引っ張り、それに免じてヘルメッポも流した。

 順番が回ってきてアトラクションに乗り込む。安全バーが固定されたのをスタッフが確認すると、緩やかに動き出した。

 

「案外緩やかなものだね。私としてはこれぐらいがありがたい」

 

「え~。私はもっと動いてほしい」

 

 ゴードンの期待を裏切るためか、それともウタの期待に応えるためか。どのみち同じことではあるが、船の揺れは加速度的に大きくなっていく。

 

「あはははは! すごーーい!!」

 

「……」

 

「ゴードンさん大丈夫ですか?」

 

「ああ。ノックアップストリームほどではないからね」

 

 空島の経験がこんな形で役に立つとは。世の中わからないものである。

 ゴードンの好みは緩やかなもののようだが、それはそれとしてこれも楽しむことができる。ベルナートはその事に安心し、ウタの方に目を向けてぎょっと驚く。いや、むしろもっと早く気づくべきだった。ベルナートも遊園地に浮かれていた。

 ウタの今日の服装はワンピースタイプである。しかも裾が短め。つまり、風で捲れてしまう。そして絶賛アトラクションを楽しんでいるウタは気づいていない。

 

「ったく!」

 

 ウタに言うと水を差してしまうことになる。ベルナートはウタに気づかれないように、ウタのスカートを手で押さえる。体に当たると気づかれるし、かと言って手を離しすぎると意味がない。そのバランスにベルナートは終始気を使うことになった。

 

「うーん! やっぱり船だから面白かったね!」

 

「船だからか……?」

 

「船だからだよ! ね、次はあれ乗りたい! あの速く動いてるやつ!」

 

「ジェットコースターか」

 

「私は待っておこう」

 

「ゴードンも行こうよ!」

 

「……席の大きさが合わないだろう」

 

「「あぁ……」」

 

 バイキングならなんとかなったが、ジェットコースターではそうもいかない。体の大きなゴードンではなかなかに狭い。

 至極真っ当な意見にウタも引き下がり、ベルナートとともにジェットコースターへ。これもまた待機列があるが、回転率が高い。長時間待たされるようなことはない。

 

「これなら大丈夫か?」

 

「なんの話?」

 

「オレ口に出してた?」

 

「うん。何が大丈夫なの?」

 

「こっちの話。ウタが気にすることじゃないぞ」

 

 気にしたところでもう手遅れなのだから。着替えも持ってきているわけがない。それならば今日1日ウタは気づかずに遊び倒して、心底楽しんでいてほしい。ベルナートの今日の目標が定まった。

 しかしそう言われると気になってしまうのが人の性。ウタはじーっとベルナートの目を見つめる。

 

「…………まあいいや。聞かないであげる」

 

「助かるよ」

 

 不満そうにはしているものの、これまでも無理に聞き出すことはしなかった。子供っぽいのにこういう時に大人っぽさも出る。ウタの良いところだ。

 順番となり、スタッフの指示に従って2人で並んでコースターに乗る。発進して最初はゆっくりと上っていくだけだ。

 

「ねぇねぇベルナート」

 

「どうした? 怖くなってきたとか言う?」

 

「それはないよ。そうじゃなくて、勝負しようよ」

 

「どうやって!?」

 

「度胸勝負! どっちの方が長くバーから手を離して、手を上げていられるか!」

 

「子どもかよ」

 

「子どもじゃない! それともそれが負け惜しみ? もう降参?」

 

「そんなわけあるか。負けても泣くなよ」

 

「こっちの台詞」

 

 

 果たしてその結果は、無論ウタの圧勝である。ベルナートに勝ち目などない。降下が始まるのと同時にベルナートは片手をカモフラージュのために安全バーへ。反対の手でウタの裾を守っていた。勝負には負けたが試合には勝っていると言えよう。

 その後はゴードンと合流し、食事を挟んだりコーヒーカップやメリーゴーランド。お化け屋敷などを楽しみ尽くして最後に観覧車へ。

 

「遊園地って楽しいね!」

 

「そうだな。他の島でもなかなかないからな」

 

「そうなんだ。ふふっ、コーヒーカップの出禁は笑っちゃったね」

 

「ははっ、そうだな。まさか麦わらが出禁リストにいるとは」

 

「回し過ぎて壊しちゃったって……。ルフィらしいっちゃらしいけどね。……相変わらず子供なんだから」

 

「……」

 

「何か言いたそうだね」

 

「いえ別に」

 

 ウタも子供だけどなと言うと頬をつねられる。見聞色を使わずとも見える未来をベルナートは回避した。

 そう思われてるんだろうなとは、ウタもわかっているのだが、頬を膨らませるだけで済ませる。けれどそんな小さなことは別に良いのだ。ささっと水に流して、ウタは柔らかな笑顔を浮かべる。

 

「ありがとうベルナート。遊園地に連れてきてくれて」

 

「なんだよ急に」

 

「だってすっっごい楽しかったし、すっっっっごい嬉しかったんだもん」

 

「楽しいはわかるけど……嬉しい?」

 

「うん! 初めて来たんだよ? 嬉しいに決まってるじゃん!」

 

「……それもそうだな。ウタがそれだけ喜んでくれてるならオレも嬉しいよ」

 

(嬉しいのは、それだけじゃないけどね)

 

 向かい合って座っていたところを、ウタはベルナートの隣に移動してニッと笑う。その意味は掴めなかったが、なんだかくすぐったくてベルナートはゴンドラの外へと目を向けた。

 

(私が遊べるようにしてくれてたんだもんね)

 

 誰から聞いたわけでもない。しかしウタはその事に気づいている。

 この島には人攫いがいることを聞かされていた。それなのに今日、ベルナートはボンチャリを漕いでいる時も周りを気にしなかった。無法地帯を抜けていくにも拘わらずだ。

 それは警戒の必要がないとベルナートが知っているから。それではなぜ知っているのか。買い出しから帰ってきた時、少し気疲れしていたのもそこに繋がる。

 点と点しかなかったが、ウタは直感でそれを結びつけて確信を得た。

 

「ベルナート」

 

「なに?」

 

「呼んだだけ~」

 

「なんだそりゃ」

 

 不器用なところがあるその優しい相棒(パートナー)を歌で幸せにしたい。

 最初に決めた時よりも、もっと深くウタはそう思った。

 

 

 

 

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