たった1つの笑顔   作:粗茶Returnees

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魚人島②

 

 竜宮城は魚人島の上に位置する。そこへの通行手段は通路が1つだけ。しかも開閉式であり、そのスイッチは竜宮城側にある。高い防衛性能を持つこの城には王族が住み、大臣や護衛の兵士たちが行き来する。

 

「よく来たのじゃもんベルナート」

 

「でっかい人魚。このもじゃってしてる人が王様?」

 

「そう。このもじゃもじゃがネプチューン王」

 

「2人とも無礼だぞ」

 

 開口一番に失礼な発言をする2人にゴードンが注意する。初対面だろうとそうでなかろうと、外見的特徴から口にするのはやはり失礼にもあたる。

 しかし当の本人、ネプチューン王は軽快にそれを笑い飛ばした。気にするようなことではないと。2人に悪意があるわけでもない。それがわかるからこそ、ネプチューンも寛大な対応を取りやすい。

 

「前回はお主にろくに礼ができなかったのでな。今日はその分歓迎させてもらうんじゃもん!」

 

「宴会の席を用意させてもらう。その間にしらほしに会ってもらいたい」

 

「あのストーカーまだ捕まらないか。うまく逃げてるな」

 

「奴の能力上場所は関係ないからな。この広い海では特定し切ることも難しい」

 

「たしかに。本人が島に来ない限りは無理か」

 

 ベルナートは王族たちに一旦別れを告げ、硬殻塔へと向かう。ウタもそこに同行し、ゴードンはネプチューンと話をすることに。

 竜宮城の中をベルナートはある程度は把握している。硬殻塔への道も、案内がなくともたどり着ける。

 

「しらほしって誰?」

 

「この国の王女。人魚姫だよ」

 

「部屋にいるんだよね。恥ずかしがり屋なの?」

 

「いや全然。ただ、ストーカーに狙われてるせいで外に出られないんだ」

 

「ストーカー……能力がどうのって話してたし、悪魔の実の能力者なんだよね」

 

「そう。触れた相手をマークして、物を投げると必ずその相手へと進んでいくって能力。昔の大事件の時にしらほしは触れられてて、それ以降物を投げられてんだよ」

 

 初めは意味不明なラブレターだらけだった。しかし次第にそれはエスカレートしていき、今では大型の斧が投げられている。

 いつそれが飛んでくるかわからないから、しらほしは外に出ることができない。他の王族たちも軍を率いて捜索しているが、捕らえることができていない。そんなこんなでしらほしは、10年間硬殻塔で生きている。

 

「それもうストーカーというか、殺人未遂犯だよね」

 

「指名手配してはいるけど、有効な解決策は見当たらないな」

 

 硬殻塔は頑丈な作りとなっている。今でこそしらほしの部屋となっているが、その頑丈さから考えれば元の用途が別にあったことが伺える。

 その硬殻塔が見えてくると、ウタもその光景に絶句した。塔に突き刺さる斧や剣。その数の多さと、それを上回る塔に刻まれている傷。どれほど長い月日に渡って投げ続けているのかが語られている。

 

「ドアを空ければいいんだけど……。ウタ少し離れてて」

 

「? うん」

 

 ベルナートが刀を抜いて跳躍する。それを見ながらウタは後ろに下がり、ベルナートの視線を追った。

 その先にあるのは、今まさに飛来してきている斧だ。塔と斧の間にベルナートが割って入り、それを小さな欠片にまで切り刻む。勢いを失ったその欠片たちは力尽きるように落下した。

 

「これでよしと」

 

「相変わらずすごいねベルナート」

 

「そりゃどうも。それじゃ、中に入るぞ」

 

 今度こそ大きなドアを開け、硬殻塔の中へ。ノックもなにもせずに入るベルナートに、ウタは女性を代表して頬をつねった。

 

「いひゃいれす」

 

「どちら様でいらっしゃ……ぇ、ベルナート様……?」

 

「……なんで様付けで呼ばれてるのかしら?」

 

「いひゃいいひゃい!」

 

 ウタに手を離させて頬を擦りつつ、ベルナートは説明した。しらほしは、誰に対しても様付けで呼ぶということを。別にベルナートと何か親密な関係があるわけではない。

 それを聞いてウタも、ならいいやと溜飲を下げた。

 

「ほぼ1年ぶりくらいか」

 

「はい! ご無沙汰しております。それでそちらの方は?」

 

「私はウタ。ワールドツアー中の音楽家だよ」

 

「音楽家様でいらっしゃいましたか! (わたくし)はしらほしと申します。よろしくお願いしますウタ様」

 

「様付けじゃなくていいんだけど……そういう性格ならいいか」

 

「ベルナート様がお友達を連れて来られるのはお久しぶりですね。今回はゆっくりしていかれるのですか?」

 

「いや今回も短い滞在になる」

 

「そう、ですか……。1ヶ月くらいでしょうか?」

 

「それ長いだろ」

 

「うぅ……。お話聞きたいです」

 

「あ~、ベルナートはいろんなとこ行ってるもんね。いつも話してあげてるんだね」 

 

「まーな」

 

「なら1週間くらいここにいようよ」

 

「ぜひお願いします!」

 

 ウタとしてもせっかくの魚人島だ。ゆっくり滞在したい。しかもここの王族とベルナートが親しい。ライブだって思う存分行える。それこそ、当初掲げていた「みんなに聴いてもらう」という目標をまた再開できるかもしれない。

 この国の人口は知らないが、何日も滞在できるのならそこは問題にもならない。そしてしらほしのお願いにも応えられる。しばらく滞在することは、まさに一石二鳥なのだ。

 

「1週間ならまあ……。それ以上は滞在できないぞ。あとウタ。配信はやめといて」

 

「それは残念」

 

「ベルナート様、本日はここにお泊りになってください。いっぱいお話したいです」

 

「わかったわかった。あと、そうだ。食事の席にはしらほしも行こう。バンダーデッケンがなんかしてきても対処するから」

 

「はい! ありがとうございます!」

 

 一国の王女と同じ部屋で一夜を過ごすのは駄目だろと、それはウタでも思うことだった。しかし2人の様子を見ていると、特に心配する必要も感じられない。

 そもそもウタはベルナートを信じている。「おもしろそうだから私も混ざろうっと」とか考えている真っ最中だったりする。

 

「あれ? ベルナートがいるなら城の外に行くこともできるんじゃないの?」

 

「その辺は他の王族の判断だ。あとバンダーデッケンの件は国中に知られてる。国民が気を遣って疲れるだろうし、なかなかできないもんなんだよ」

 

「そうなんだ。なかなか簡単にはいかないんだね」

 

(わたくし)も行きたい場所はあるのですが、お許しいただけないので……」

 

「……」

 

 どこに行きたがっているのかはベルナートも知っている。そこに何があるのかも。しかしそれはまだ叶わない。もしベルナートがもっと強引な性格だったら、それはとっくに叶っているだろう。良くも悪くも、いつも一定のラインを保つ人間だ。

 だから外に連れ出すことはないし、やったとしても城内のみ。根本的な解決が最も望ましい。

 

「……いつか行ける日が来るさ。本当に待ち切れなくなったら、その時は同行する」

 

「……! ありがとうございます。ベルナート様」

 

「そういうとこがベルナートって感じだよね」

 

「? なにが?」

 

「ううん。なーんでもない」

 

「あの、お二人はどういう関係でいらっしゃるのですか?」

 

「「相棒(パートナー)」」

 

 2人は口を揃えて即答したが、しらほしはそれを飲み込みきれずに戸惑った。ベルナートは冒険家を名乗っており、ウタは音楽家だ。それぞれ分野が違う。それなのに相棒(パートナー)と言っている。

 

「わかりやすく言うと特別、かな。あはは、こう言うとなんか照れくさいね」

 

「特別……。それはとても素敵だと思います」

 

「ありがとう。ねぇ、しらほしはベルナートとどう知り合ったの?」

 

(わたくし)はですね──」

 

 ウタの興味が完全にしらほしへと移った。それを見て判断したベルナートは、女性だけの時間を作るために硬殻塔を出る。

 

(そこまで気を使わなくていいのに……)

 

 やれやれと首を竦め、そのことを頭の隅へと追いやる。今はしらほしの話に集中だ。

 しらほしにとっても、ベルナートはある意味特別な存在だ。その相手の話をできることが嬉しいようで、しらほしの口は止まらない。

 曰く、ベルナートはしらほしを守ったことがある。初めてバンダーデッケンから凶器を飛ばされた日、それを防いだのがベルナートだ。しばらくラブレターが飛んでこなかった頃があり、油断してしまって城の外に出た時のことだった。

 

「今でもはっきり覚えているんです。魚の群れみたいに飛んできたナイフを、すべて弾いてくれたベルナート様のことを」

 

「王族と仲良くなったのはそれがあるからなんだ」

 

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「……え、最初?」

 

(わたくし)のお兄様たちにお稽古をつけてくださったこともありますし、白ひげ様がお亡くなりになられた時も、乱暴をされる方たちから国民の皆様を守ってくださったと聞いています」

 

「いろいろやってるね。ネプチューンさんがお礼できなかったって言ってたけど、それはいつのこと?」

 

「戦争の後のことです。ベルナート様が守ってくださっていたのですが、ある日他の四皇の方が来られたのです」

 

「四皇ってシャンクス?」

 

「いえ、ビッグマム様です。ご本人は来られなかったそうですが、今この島はその方の縄張りとなっていて、それで治安が守られているのです」

 

 そして四皇ビッグマムは、ベルナートが唯一接触したことがない勢力である。ビッグマム海賊団の情報力は随一だ。ベルナートの存在自体は知られている。そしてベルナートも、ビッグマムの癇癪等は知っていた。

 関わりを持ちたくない相手であり、その時も接触を避けたことで、ネプチューン王家はベルナートに礼をするタイミングをのがしたのである。

 

「国が海賊の縄張りっていうのは、なんだかもやもやするけど。……それが必要なくらい、この島には海賊が来るんだもんね」

 

「はい……」

 

「……ま、その話は置いとこっか。しらほしは国の外にも行けるようになったら何をしたい?」

 

「国の外でございますか?」

 

「そう! しらほしは大っきいし、何よりもかわいいから目立つだろうけど」

 

「かわ……! い、いえ(わたくし)なんてそんな……ウタ様の方がお綺麗でいらっしゃいますし……」

 

「こーらっ。自分をそういうふうに卑下にしない! 自信持ちなよ」

 

「む、むずかしいでございます……」

 

「あはは、まあすぐにはできないよね」

 

 話しながら1つ納得する。彼女は純粋な心を持っていて、それでいて健気で謙虚だ。立場に甘んじている様子もない。これならたしかに、ベルナートも甘めの対応になる。

 

(ベルナートも男だね~)

 

「あ、あの……」

 

「うん?」

 

「外に出ることができましたら……お森に行ってみたいです」

 

「森?」

 

「はい。魚人島には海の森がございますが、地上のお森はもっと木々が多いとお母さまが仰っていましたので」

 

「森か~。そこもいいね」

 

「ウタ様はどこかおすすめの場所がございますか?」

 

「私のライブ」

 

 迷うことなくそう言ってみて、ウタは「ちょっと待って」としらほしの反応を止めさせる。10年間ここに住んでいて、国の外にも行ったことがない少女が相手だ。それ以外の答えを言うのが道理だろう。

 

「……難しいな。一番はいろんな島に行けることだと思うし」

 

「ウタ様はワールドツアーをされておられるのでしたよね」

 

「うん。それもベルナートのおかげだけどね。……私もね、10年間ずっとエレジアにいたんだ」

 

「エレジア?」

 

「音楽の島って呼ばれてた島。……今はもう国が滅んでて、いろいろ事情があって、私は育ての親と2人で10年そこにいたの。そうやって生活してたら、ある日ベルナートと出会って、ツアーをすることにしたんだ」

 

 10年間、外のことをろくに知らずに生きてきた。その点だけを見れば、しらほしとウタは似た者同士だろう。

 ベルナートに出会わなければ、ウタは今もエレジアにいた。冒険の楽しさを思い出した今では、戻りたいとは思えない生活だ。

 

(わたくし)がウタ様くらいの身長でしたら、ベルナート様も連れ出してくれたでしょうか……」

 

「身長よりは立場じゃないかな……」

 

 身分を知らなければ連れ出すこともあったかもしれない。しかし一国の王女を連れ回すようなことを、ベルナートはしない。王族の許可がなければだが。

 

「ウタ様もお冒険をされているのですよね? お話を聞かせてもらってもよろしいですか?」

 

「もちろん! 友だちに話せるの楽しいし!」

 

「おともだちですか? よ、よろしいのですか?」

 

「私は友だちだと思ってる。嫌だった?」

 

「いいえ、いいえ! ふつつか者ですがよろしくお願いします、ウタ様!」

 

「友だちなんだからもっと対等でいいのに。こちらこそよろしくねしらほし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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