赤髪海賊団は海賊の頂点に君臨する海賊の1つだ。伝説の時代を生きたカイドウ、ビッグマムに並ぶシャンクスが統べる一味。幹部たちも名を挙げており、「最もバランスの良い海賊団」と海軍から言われている。
陽気かつ温厚な海賊団だが、いざ戦うと決めればそれは鬼神そのもの。世界政府の五老星からは「暴れさせると手が付けられない」と言われている。
頂上戦争直前には、同じ四皇であるカイドウと小競り合いを起こし、その直後には海軍本部にて泥沼化した戦争を終わらせに現れた。
「海賊」と聞いてイメージする集団とは違う彼らは、その陽気さを体現するかのようにラフな格好を好む。
いかにも「南国でバカンス中です」とも言わんばかりの服装が多い……のだが、今はその格好からかけ離れた姿である。真面目な仕事人とでも言いたげなフォーマルウェアに身を包んでいる。
「気持ち悪いから着替えて」
「そんな殺生な!?」
「すまん。ネクタイの結び方を間違えてたか?」
「お頭んなこと言ってねぇで今すぐ着替えなおそう! ウタがとんでもなく嫌そうな顔してる! ルフィが歌ってた時より酷い顔になってる!」
それもこれも11年ぶりに再会する娘のためだったのだが、開口一番にバッサリと切り捨てられて今は着替え直し中だ。貫禄も何もあったものではない。
ウタのことを知らないメンバーは、船長や幹部連中の対応に合わせるしかなく、面識がないが故に最も振り回されていた。
ここはベルナートたちとシャンクスたちが接触した海域の近隣にあるとある島。人の手の入っていない未開の地。ジャングルが生い茂る島を船員たちは調査しながら、宴の準備も始めている。ヤマトは冒険の心の準備を始めている。
さて、そんな再会の仕方になっていたが、ウタの面持ちは重かった。言いたいことも、聞きたいことも多く、何から話せばいいかわからない。それに、シャンクスたち同様、ウタもどう接したらいいかわからないのだ。
「よし、着替え直したぞウタ」
「うん。そっちの方がみんならしいよ」
「せっかく髪も決めたのに残念だったなお頭ー」
「それを言うんじゃねぇよルウ! お前だって腹隠そうとしてただろ!」
「ハハハハ! 手遅れのくせになー!」
「お頭とヤソップ飯抜きな」
「「失礼しました」」
「はぁ。みんな相変わらずバカだね……」
「まあな。ウタは随分と美人になったな」
「そうかな。ありがとうベックさん」
すぐにそういう事を言うのは、彼らの愛娘の成長が故か。それともベックマンの女好きによるものか。両方だろう。
「ベルナート。話がある」
「でしょうね」
シャンクスがベルナートを呼び、それを予想していたベルナートはすんなりと反応した。
新聞にも乗っていたのだ。ウタのツアーのことをシャンクスたちも知っていた。その件も含めて、話したいことがいくつかあるらしい。
それに応じようとするベルナートを、ウタが手で制して止めた。
「まず私でしょシャンクス。ここまで来たんだから、お互い逃げるのはやめよう」
「……そうだな」
「赤太郎もウタの前じゃ形無しだね」
「……なんでその呼び名を知ってる? 2人の友達のようだが只者じゃないな。お前は誰だ?」
「僕はヤマト! カイドウのむすkgぉ!?」
「お前のその口の軽さはなんだ!? 名前だけでいいだろバカ!」
ベルナートが咄嗟に口を塞いで騒いでいるが、それは一瞬遅かった。ヤマトの名乗りが聞こえていた者たちは、カイドウとの繋がりを知ってざわめきだす。
「シャンクスさん。オレは貴方たちに害が及ぶようなことはしない。このバカはまぁお察しの通りだけど、オレの友だちなんだ。誓ってスパイ活動とかもしてない!」
「はっはっは! だろうな。あとでその子とも話をさせてくれ。聞きたいこともある」
「それはもちろん。いいよなヤマト」
「うん! 僕も聞いてみたいことがあるからね!」
「今日は話し相手が多そうだ。ゴードンさん、貴方ともまた後で」
「……ああ」
ウタはシャンクスと共に、赤髪海賊団の船レッド・フォース号の船室へと入っていった。ウタにとっては思い出深い大切な船。実家のようなものだ。
「ベルナート、冒険の匂いがするから待ってる間に行ってきてもいいかな!」
「お前帰ってこないだろ……」
「じゃあベルナートも一緒に行こうよ!」
「じゃあってなんだよじゃあって!?」
「くくっ、お守りは大変そうだなベルナート」
「ベックさん。ウタとヤマトに振り回されて今は大変ですよ」
「1人でも苦労するってのにな」
「ベックさんも経験が?」
「お頭とウタ」
「そういう……。あ、そうだベックさん。ヤマトを少し鍛えてもらってもいいですか?」
「手合わせ程度なら構わねぇが、そのヤマトならジャングルに突っ込んでいったぞ」
「……ちょっと目を離すとこれだよ……! あのバカ!!」
慌てて追いかけるベルナートの背中を見ながら、ベックマンはタバコの煙をぷかっと浮かべた。
「……デカくなりやがって。子供の成長は早いもんだな」
□
シャンクスとウタに血の繋がりはない。ウタがまだ赤子だった頃、とある海賊によって攫われ、それを知らずにその海賊を打ち破った赤髪海賊団が、ウタを拾ってそのまま船に乗せたのである。
親の下へ返そうにも何も情報はなく、しかし赤子を見捨てるような選択肢もなかった。かつて自身がロジャーたちに拾われたように、シャンクスもウタを受け入れたのだ。
それからの数年間。赤髪海賊団はウタの家族となり、その船長たるシャンクスはウタの親になった。
エレジアでの大事件が起きるまでは。
「……大きく、なったな。ベックも言ってたが、綺麗にもなった」
「……あれから11年だもん。シャンクスは、帽子どうしたの? 大切な帽子って言ってたじゃん」
「ルフィに預けた。……次の世代、新しい時代に賭けたくなってな」
「その……腕も?」
「ああ。悔いもないさ」
「……そう」
懐かしいレッド・フォース号。その中の1室もまた懐かしい。かつてよくいた部屋。つまりはウタに充てがわれていた部屋であり、シャンクスともここで多くの時間を過ごした。
さすがに内装は当時のままとは言えない。赤髪海賊団も大きくなった。だが、面影は残されている。
「シャンクス……ごめんね」
「!? なにを……なんでウタが謝るんだ……!」
「エレジアのこと」
「っ!」
「私、あの日の真相を知ったんだ。私が魔王を呼び起こしたことも、シャンクスたちが罪を被ったってことも。それなのに……私はシャンクスたちを恨んでた。大好きだった海賊を、大嫌いになってた……!」
「それはおれたちが、おれが! そうなるようにしたからだ……! お前に罪を背負わせたくなかった!」
「わかってる! そうしてくれたっていうのもわかってる! だけど……謝りたかった……!」
感情の昂ぶりを抑えられなくなる。涙も溢れ始める。
それを乗せて、ウタは抱いていた気持ちを吐き出す。
「ごめんなさいって……それと、ありがとうって! そう言いたかった! だから、ベルナートにお願いして新世界に連れてきてもらったんだ」
「……ウタ……」
「私が傷つかないように守ってくれて、本当にありがとう
「……っ!!」
「ぐすっ、えへへ。やっと言えた。……まぁ、仕方ないとはいえ置いてかれたことはショックだったけどね」
「うぐっ!! ごめん……ごめんな、ウタ」
言いたいことは、言えた。
伝えたい気持ちも、伝えられた。
やはり直接会うというのは大切なことだ。
次は聞く番だ。シャンクスたちの選択の理由を。本人の口から。
「……ウタが気づいた通り、罪を背負わせないためにおれがそれを背負った。ウタをゴードンさんに預けたのも、おれたちを悪にするためだ。ウタへの説得力も必要だった」
「……うん」
「でも理由はそれだけじゃない。ウタには、表舞台で歌手として生きてほしかった」
1つの海賊団が抱えるには勿体無いほどに、ウタの歌声は最高なものだった。天使の歌声と称される、まさに別次元のもの。
海賊として、悪名を背負ってしまうと世界に歌を届けられない。ライブだって難しい。
ウタにはそうならずに生きてほしかった。シャンクスなりの親心からくる考えだ。
「私……言ったじゃん……! あの日! あの夜で! 私はシャンクスの娘! 赤髪海賊団の音楽家だって! だから船から降りるのは嫌だって!」
「ああ……。だが、お前に背負わせないためには、おれが罪を背負うためには離れるしかなかった……!」
「そう、だけど……!」
「……謝って許されるとは思っちゃいないさ。おれは、お前の気持ちを知りながらそこから目を逸らしたんだ……! どれだけ傷つくか、家族と別れる辛さを知ってたのに……! すまないウタ……本当にすまない……!!」
「シャンクス……」
頭を抱えるにしながら声を絞り出すシャンクスに、ウタはそれ以上何もその事に言及できなかった。
バギーの予想通りだ。シャンクスはウタのことを愛している。でなければ、11年経っているのにこれほどの苦悩を未だに抱えているわけがない。海軍がいち早く駆けつけ、じっくりと考える時間もなかった。身を切るような選択を、すぐにするしかなった。
許すか許さないか。そんな話ではない。許したくても、半生を孤独とともにし、死んだように生きてきたのだ。簡単にはいかない。
だけど、これだけは言える。
"
「シャンクス」
名前を呼んで、昔よくしてもらってたように頭をぽんぽんと撫でる。シャンクスが顔を上げると、豪快にニカッと笑ってやる。
「辛い時間が長かった。生きてる意味もわからなくなるくらい、世界は暗かった」
「っ……」
「でも、今は違うんだ。ベルナートに出会って、いっぱい話して。外に連れ出してもらって冒険してる。ワールドツアーだってしてる」
シャンクスたちとは行かなかった島も訪れている。船の舵を取ることもある。出会いと経験。多くのことを学び、刺激を受け、それを元に新たな曲を作ったりもしている。
ウタは胸を張って言える。
「私は今幸せだよ! 辛い過去も全部今に繋がってる。私の一部になってる。そういうのがあったから、ベルナートに会えた」
「……」
「だから、今度は今のことに対して言うね。ありがとうシャンクス」
「そうか……そう、か……。幸せでいてくれてるなら……よかった……!」
胸中は複雑なものがある。置いていってしまったことは事実。それで傷つけたことも事実。
だが、それがあったからこそ今の幸せに繋がっていると言われたのだ。その幸せを祝い、喜びはするが、素直にそれだけを考えることはできない。
「ツアーもね、これからも何回だってやるつもりなんだ。とりあえず1回エレジアに戻って、今回のツアーの締めのライブをしようとは思ってるけど」
「そういう形を取るのか」
「うん。厄介なファンもいるからね~」
無論天竜人のことである。シャンクスもその事情は聞き及んでいた。
「大丈夫なのか?」
「ベルナートがこれからも側にいてくれるから大丈夫だよ。何回ツアーしても、何年かかっても、力になってくれるって」
「そうなのか。たしかにベルナートがいるなら大抵のことは大丈夫だな」
「うん! 私の頼もしい
エレジアを出て経験してきたことをウタが楽しそうに話し、シャンクスはそれを嬉しそうに聞いていた。
恨まれていて当たり前だと身構えていた。どの面下げて再会できるんだと思い、ウタに何かあるまでは会いに行くことを諦めていた。
たとえウタが真実を知ったとしても、ウタ1人エレジアに残したことは事実。結局は恨まれるとも思っていた。
だからウタの方から来ることは予想外もいいところ。直接その姿を見るまで気持ちはずっと落ち着かず、幹部共々そわそわしていた。
それが蓋を開けてみたらどうだ。ウタは立派な大人となり、今はこうして自分の旅の話をしてくれている。自然と目頭が熱くなるのを感じ、シャンクスは胸の内の気持ちを噛み締めた。
「でねでねシャンクス! そしたらベルナートがね!」
話を聞き続けて気づいたことがあるとすれば、ウタの話でベルナートの登場頻度が高いことか。しかしゴードンも含めての3人での旅が大半。2人で行動することが多かったのだから、それも当然かと頭の片隅で考える。
「ベルナートは随分とウタに優しいんだな」
「みんなに優しいよベルナートは。怒ることも滅多にないし」
「争いが嫌いだもんな」
「うん。だからそこそこわがままが通ったりするんだよね~」
「あまり困らせてやるなよ……」
「気をつけるけど、この前なんて私と寝てくれたんだ~」
「!? いまなん……!?」
「でも先にヤマトが寝てたから、ズルいなーって思っただけ。もうさすがにしないと思う。……シャンクス?」
「ベルナートに話ができちまったな」
静かに、だが速やかに退室したシャンクスに、ウタはこてんと首を傾げた。