たった1つの笑顔   作:粗茶Returnees

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 麦わらの一味には、そのうち会うこともあるんじゃないかなぁと。そういう予定です。


サクラ王国②

 

 ウタがサクラ王国を選んだ理由は、「雪が見たい」という理由だ。しかしそれを正直に配信で言っているわけでもなく、どこに向かうかも言っていない。

 言えばその島は湧くことだろう。近隣の島からファンも来るだろう。そして、ファン以外も来るだろう。 

 初めのうちはその心配はないかもしれない。それでも、ツアーを続けていけばファンも増えて話が広まる。いずれウタを狙う者たちも現れる。それをベルナートが初めから警戒し、配信で言わないようにウタに説いた。

 

 さて、サクラ王国から始まるとなると違う理由を考える者も現れる可能性がある。意味があるはずだと。

 やがてそれはこう紐付けられる。「海賊に多大な被害を受けたから」だと。

 

「え? この国って海賊の被害を受けたの?」

 

「オレも国の名前が変わったとしか知らなかったけど、何か関係してるんですか?」

 

「始まりはそれだったとは言えるな。直接関係しているわけではない」

 

 ドルトンの案内でビッグホーン村に来た2人は、彼の住居へと通されそこで話を聞いていた。ゴードンもいずれここに案内される手はずだ。

 

「あの一件から1年は経ったか。今ではその名は全世界に知られているが、当時はまだ無名。しかしその強さは本物だった」

 

「まさか……」

 

「え? 誰?」

 

「頂上戦争でかの白ひげからその能力を奪った凶悪な海賊、黒ひげマーシャル・D・ティーチ。当時はたった5人だったが、ドラム王国は歯が立たなかった」

 

「くろひげ?」

 

「白ひげ海賊団にいた男で、仲間を殺し、自分が所属していた隊の隊長を倒して海軍に引き渡し、頂上戦争を起こさせた。犯罪者たちを閉じ込める世界最大の監獄インペルダウンから、何人もの極悪犯罪者を連れ出してる」

 

「…………そんな人が、いるんだ」

 

「新世界に乗り込んでるから、こっち側で会うことはないぞ。それはともかく、あの黒ひげに襲撃されたとあれば納得はできます」

 

「あれ? でもそれが直接の原因でもないって言ってたよね?」

 

「以前はドラム王国という名前でね。その当時の国王が悪政を敷いていたんだ。国民の声には耳を傾けず、自己中心的な王だった。何よりも黒ひげ海賊団の事件時、その王は誰よりも早くこの国から出ていった」

 

「は?」

 

「国民を、見捨てたってこと?」

 

 驚愕しながら確認するウタに、ドルトンは静かに頷いた。

 今となっても、当時のことは鮮明に思い出せる。失望も怒りも、何もかも。自然とぐっと手に力が篭り、数秒後に息を吐いて気持ちを落ち着かせる。

 

「その後は数ヶ月"名もなき国"となっていたのだがね。その王は帰還し、同時期に来訪していたとある海賊との戦闘の末敗北。その後にこの国はサクラ王国としてまた歩みだしたんだ。海賊がきっかけで滅び、海賊に救われたのは皮肉だがね」

 

「そのとある海賊から被害は?」

 

「何もなかったよ。実に気のいい人たちでね。彼らの仲間が病に冒されていて、医者を探してこの国に訪れただけだった」

 

「船医がいなかったんだ……」

 

「思えば彼らも少数だったね。でもこの国を出るときに、1人仲間が加えていた。偉大なる医者たちの立派な弟子を」

 

「それは脅迫されたとかでもなく?」

 

「ああ。彼本人が望んで出ていっていたよ。っと、話が長くなってしまったね」

 

 空になったコップにコーヒーを足す。ベルナートがもう1つコップを頼んだ数秒後に、案内されてきたゴードンが入室した。

 

「ロングコートまで貸してもらってすまない。感謝する」

 

「構いませんよ。それで貴方方が訪れたのは補給のためですか?」

 

「それもあるが我々は」

「ライブのためだよ」

 

「ライブ?」

 

「そう! いつもは電伝虫で私の声を届けてるんだけど、生でできたらいいなって! それでここは最初の島!」

 

「なるほど、君があの。私はまだ聴いたことはなかったんだが、君のファンはこの島にもいる。ぜひとも開催してくれ」

 

「その件で国王と話がしたいんですけど」

 

「ん? ああすまない申し遅れた。及ばずながら私がこのサクラ王国の王を務めている」

 

「はぁ!?」

「あ、じゃあもう開催はできるね! 早速明日にでも」

「いやいやいや待てウタ! ステイ!」

 

「子供扱いしてない?」

 

「してない! ……国王なら先に言ってほしかったというか、なんで国王が我先に来訪者のとこ行ってんだとか、いろいろ言いたいことはありますけど」

 

「ほら、彼もこう言ってるんですからドルトンさんは真っ先に体を張るのをやめてください」

 

「お前たちいつの間に……。だが後方でただ待つというのは落ち着かなくてな……」

 

「すまないドルトン王。ライブのことに話を戻したいのだが」

 

「あ、ええそうでした」

 

「ベルナートくん。ここからは私が受け持とう」

 

「わかりました。ウタと少し外に出ますね。村の中にはいます」

 

 餅は餅屋。音楽の島エレジアで国王を務めたゴードンなら、ライブをどう開催すべきかもすでに脳内で描いてある。

 不安はあれどウタが世界に羽ばたき出す第一歩だ。その歌声を響かせる最初の場だ。ウタを育てた養父として、何よりも音楽家として、最高の形を用意したい。

 その他にも、国王を務めた身としてもドルトンと話せることはあるはずだ。

 

「ライブの話を詰めるなら、私もいたほうが良いんじゃないの?」

 

「それ以外の話もあるんだろ。生憎と国王って立場はオレもやったことないからな。ゴードンさんならではの視点がある」

 

「ふーん?」

 

「それよりウタ、寒さはマシか?」

 

「この村の人たちのおかげで。ところで、私たち注目されてる?」

 

「たちじゃなくてウタだろ。ドルトンさんもウタのファンがいるって言ってたし」

 

「あ、あの!」

 

 視線を感じるなと話していたら、ぬいぐるみを抱き締めている女の子が、緊張を顕にしながらウタに話しかけた。

 ウタはその子に視線を合わせるためにしゃがみ込み、柔らかく笑って声をかける。

 

「どうしたの?」

 

「えとえと、わたし……ウタちゃんの歌が好きで……」

 

「聴いてくれてるんだ! ありがとう!」

 

「! あの、よかったら…………さ……」

 

「さ?」

 

「サインください!」

 

「サイン!? もちろんいいよ!」

 

 女の子は表情を明るくさせ、周りで聞いていたファンたちも沸き立ち、

 

「……ぁ、でもまだ考えてなかったや」

 

 全員がその場に転んだ。

 

「あははは! ごめんごめん。でも出航までには考えて必ず書くから、もう少し待っててくれる?」

 

「うん!」

 

「ベルナート予定は?」

 

「ライブだけじゃなんだからな。少しはこの島を楽しんでから出よう」

 

 何日になるかは、ライブの詳細が決まってから確定させる。ウタもそれに納得し、長くても1週間かなと予想は立てた。長居すると出航しにくくなるものだ。

 

「今日はライブもできないし、日が暮れるまでそんな時間もないから、みんなで雪合戦でもしない?」

 

「おおおお!! っていやいや! ウタちゃんには投げられないよ!」

「もし怪我でもさせたら!」

 

「雪像作りでいいだろ。定番は雪だるまだな」

 

「それもいいね! じゃあそれで!」

 

「それならお手の物よ!」

「冬島育ちの技術を見せたる!」

「ウタちゃんのために一番綺麗なの作るから楽しみしててくれ!」

「何をう! 俺のほうが上手いの作るわ!」

「じゃあ誰が一番ウタちゃんに合うものを作れるかで勝負じゃあ!!」

「「乗った!!」」

 

「なんか勝負始まっちゃった……」

 

「ははは! いいんじゃねぇの? 楽しそうにしてるだろ」

 

 ベルナートが言った通り、雪像作りを始めたファンたちは誰もが笑顔だった。喧嘩が始まりそうな雰囲気もなく、和気あいあい……とはならずとも場は明るい。

 「自分のために」と宣言されているから落ち着かない。むず痒い気持ちを抱いてそわそわするウタの頬に、ベルナートは雪をそっと当てた。

 

「ひゃっ!?」

 

「ぼーっとすんなよ。ウタも何か作ろうぜ」

 

「……、うん! ねぇベルナート。私たちも勝負しようよ」

 

「なんの?」

 

「どっちのほうが大きな雪だるまを作れるか」

 

「オレの方が力あるからやめとけ。雪だるまで勝負なら、どっちのほうが綺麗な円の雪だるまができるか、とかはどうだ? もちろん小さ過ぎるのは駄目」

 

「ベルナートがそれがいいならいいよ。ふふっ、私に負けても拗ねないでよ」

 

「そっくりそのまま返してやるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、ベルナートくんが負けたのか」

 

 ファンたちとの雪像作りを終え、ベルナートとウタはゴードンと合流して村にある酒場へと来ていた。中央の席に座ると騒がしくなるからと店主の配慮で、店の端にある席に座っている。それでもファンが酒場に足を運んでいるが、節度を守って距離は保たれている。事前にドルトンが釘を刺したようだ。

 酒を片手にベルナートは項垂れ、ウタはにこにこと嬉しそうに食事を取る。どういう展開になったのか、ゴードンにも予想はできたが一応聞いてみた。

 

「ウタのファンが全員ウタに票入れた。公平性もあったもんじゃない」

 

「なーにベルナート? 負け惜しみ?」

 

「公平な勝負じゃなかっただろ」

 

「負け惜しみ~。ふふっ、勝ち負けでどうこうってわけじゃないんだからいいじゃん」

 

「勝った側はそりゃ気分いいだろうよ」

 

「ベルナートも結構負けず嫌いだね。ほら、私のこれ食べさせてあげるから機嫌直してよ」

 

「食い切れないだけだろ……。貰うけどさ」

 

 店主がウタのことを気に入ったようで、サービスで料理が大盛りになっていた。せっかくそうしてもらったのだからとウタも頑張って食べていたのだが、さすがに全部は食べられないようだ。

 ウタは料理を皿ごとベルナートに渡し、手を上げて店主を呼ぶ。

 

「すみませーん! デザートください!」

 

「まだ食えるんかい!!」

 

「え、デザートは別腹でしょ」

 

「女ってわからん」

 

「私はベルナートがわからないけどね~」

 

 運ばれてきたデザートを堪能しつつ、ウタはゴードンにドルトンと話したことを聞いた。この旅の目的はツアー。この島に来たのはライブをするため。そしてその話をドルトンと詰めていたのはゴードンだ。

 演者として、決まったことを聞く権利がある。そしてゴードンも、それを話す義務があった。

 

「一応聞いておくがウタ。リハーサルは?」

 

「必要ないよ。いつだって最高のパフォーマンスができる」

 

「やはりそうか。ウタウタの能力も考慮して、開演は明日の15時。場所はドラムロッキーの中央にある城だ」

 

「ドラムロッキー?」

 

「いくつか大きな山が見えていたな? アレの名前だそうだ。その中央の山の上に城があり、そこにあるホールで行う。国民全員が入れるわけではないから、配信も行う予定だ」

 

「なるほどね。うん、いいね。楽しみになってきた。でも、それならライブは何日かやりたいかな」

 

「……国民全員が聞くまでか? それはやめとけ」

 

「なんでよベルナート。せっかくのライブなのに」

 

 音楽は門外漢だからと黙っていたベルナートだったが、ウタの意図を察してそれを制する。水を差された気分になったウタは、目をきつくしてベルナートを見つめた。

 

「この島は国民がそう多くない。だから可能は可能だ。でも大きな国に行けばキリがない。何個の島を周るかも決めてないんだぞ?」

 

「でも私はやりたい」

 

「あのな」

 

「わかってる。ベルナートが私の負担を心配してくれてるのはわかってる。……ちょっと考えさせて。方法を一点張りしなければいいんでしょ? 2人が納得できる代案を考えるから」

 

「……はぁぁ。わかった。オレはウタのプロデューサーでもマネージャーでもないしな」

 

「そうそう。ベルナートは私の…………私のなに?」

 

「知らんけどウタのモノになった覚えはないからな?」

 

「あはは、それもそうだね。ゴードンもそれでいい?」

 

「わがままを折る気がないことはもう伝わっている。その代案をちゃんと考えてくれたらいい」

 

「ありがとう!」

 

 デザートも食べ終えたウタは、一足先にドルトンの家へと戻った。空き部屋があるらしく、そこを提供してくれるらしい。

 残ったベルナートは酒を飲みつつ、最長で何日滞在するかをぼんやり考えた。どのみちウタと話し合わないと決まらないことだが、何も考えないよりは話が早い。

 

「ベルナートくん」

 

「うん?」

 

「我々の役割分担を明白にしておこう。そのほうがこれから先楽になるはずだ」

 

「それはたしかにそうですけど。……ん~、完全には二分できないと思いますよ」

 

「重なる部分は臨機応変に。状況はその都度変わるものなのだから」

 

「はは、旅の経験はオレが多くても、人生経験は流石に勝てないですね」

 

「そこも劣れば私の立つ瀬がないよ」

 

 2人でひとしきり笑い、ベルナートはちらりと窓の外に目を向ける。その方向にはドルトンの家があり、ゴードンもベルナートの視線に気づいた。

 

「どうかしたかね?」

 

「いや……、夢があるっていいなと。ウタが眩しく見えるだけですよ」

 

「冒険家というのは君の夢に関係するものではないのか」

 

「ウタみたいに夢があるわけじゃないんですよ。それしかないから、そうしてるってだけ。ああでも、今はおかげさまでオレも楽しいですよ。ははは」

 

「……君は……」

 

 

 窓の側。壁に背を預けていたウタは、雪の止んだ夜空を見上げる。

 明日、ライブを行う山の上。中央のドラムロッキーを視界に捉えながら。

 

「大丈夫だよベルナート。君にとっても、最高のライブにするから」

 

 

 

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