赤髪のシャンクスは普段温厚な男である。カタギに手を出すことはなく、むしろそういう者たちを見逃さずに打ち破る。海賊であることに間違いはないのだが、普段の行いが海賊らしからぬものなのだ。
とはいえ、聖人にすら思えた白ひげとは異なり、財宝には興味がある。そういった点は、海賊らしいと言えよう。
そんな男ではあるが、実力は間違いなく本物である。四皇であることも伊達ではない。「サシでやれば最強」と言われるほど絶大な実力を持つカイドウを、頂上戦争の直前に食い止めているのだ。
その懸賞金は、40億4890万ベリー。最悪の世代の1人で、世間を騒がせた麦わらのルフィの10倍以上。
「ヤソップさん。シャンクスは?」
「今木がどんどん倒れていってるとこにいるな」
「ベルナートは?」
「同じとこ」
「じゃあ、ヤマトは?」
「あっち側でベックと手合わせしてる」
「ふんふん。なるほどね」
ヤマトとベックマンはともかく、シャンクスとベルナートの方はなかなかに苛烈である。2人の姿は見えないのだが、剣のぶつかり合う音は聞こえてくる。
久しぶりに手合わせかなと最初は思ったウタだが、どうにも度が過ぎているようにも思える。
「ウタ、お頭と何話したんだ? 様子がおかしかったんだが」
「あーそれがね。ベルナートと寝たって話したらシャンクスが部屋から出て行っちゃって」
「げほっげほっ! はぁ!? 寝たってお前……!」
驚き過ぎて咽たヤソップだったが、きょとんとしているウタを見て冷静さを取り戻した。ウタの言っていることと、シャンクスや自分が思ったことにズレがあるらしい。
「確認だが、寝たってそれ子どもを作る的なやつじゃないんだな?」
「こども……こどもっ……!? ちち、ちちちちがうちがう! なんでそうなるの!?」
「ああー、まぁなんだ。大人な言い方ってやつだ。ウタもベルナートも年頃だからな」
「ベルナートとはそんなことしてないよ! 一緒のベッドで寝ただけ!」
「それはそれでまた問題だが……」
顔を真っ赤にして否定する姿からして、どうやら隠しているわけでもないらしい。本当にウタとベルナートは何もしていない。
それを理解したヤソップは、シャンクスを止めに行かないとなと腰を上げた。
「お頭も勘違いしてるから、あれは本気でベルナートと仕合してるぞ」
「え!? 急いで止めなきゃ! ホンゴウさんはどこ!?」
「おーいホンゴウ! お頭のとこに行くから来てくれ!」
「わかった! すぐに行く!」
遠目にウタの様子を見て察したホンゴウは、手当ができるように救急バッグを用意。ウタとヤソップと一緒に、やり過ぎな親バカの下へと向かっていった。
「ベルナート。おれはお前のことを一定は信頼してたんだがな」
「意味がわからない! 目がガチ過ぎる!!」
「見損なったぞ! ウタを連れてきたのも事後報告のためか!」
「事後って何!?」
振り下ろされる一撃を迎え撃つも、その威力は曲がりなりにも四皇の本気。覇王色すら纏った状態で叩きつけられ、受けるベルナートの地盤が先に負けた。
「くそっ! 手が痺れるって……!」
真っ向からはそう何度も受け切れない。それも状況がわからずに集中できてないこと大きい。
しかもシャンクスは覇気の修練度が高い。四皇の一席に着いたのも、
ベルナートが得意とする見聞色。それによる未来予知も、シャンクスの前では封じられる。
そのためベルナートは読み合いに持ち込まれるのだが、経験は当然シャンクスの方が積んでいる。防戦一方に持ち込まれていた。
「お前とウタが
「だからオレとウタは
「なら遊びか? しかも他にもいるとは死ねェ!!」
「荒ぶり過ぎだろ!?」
滅多に口にしなさそうな言葉を言われ、驚愕するベルナートをシャンクスが一刀のもとに弾き飛ばす。いくつかの木を貫いてようやく勢いが弱まり、地面を転がって止まる。
「っつつ……。なーんかすれ違いあるよな」
言動から察せられるものもあるのだが、何ならそれを予想して喋ってもいるのだが、少しばかりシャンクスが暴走気味である。冷静さを取り戻してくれれば、誤解も解けそうだ。
問題はどうやってそこまで持っていくかだが。
「ゲホ……。どうすっかな。!? うおっと!!」
倒れた木々を切断しながら飛んでくる斬撃を躱し、1回攻勢に出るかと意識を切り替える。話を聞いてもらうためにも、まずはまともに話し合える状況に持っていかないといけない。
完全に押されてる今の状況を多少でも盛り返せば、それが叶うはずだ。
「うちのベックも女好きではある。お前もそうだって言うならそこはいい。だが女遊びとなると別だ」
「女遊びをしたことは一度もない!」
「眼中にないとでも言う気か?」
刀に覇気を纏わせ直す。今できる本気の一撃。それでなんとか盛り返す。
その気迫に応じるように、シャンクスも剣に覇気を纏わせた。
「大雪月花!」
「
纏わせた覇気をも斬撃に乗せて飛ばす大技。ベルナートのその一撃に対して、シャンクスも同様の形で剣を振り抜いた。
飛ばされた斬撃同士が衝突。轟音が鳴り響くも、
「だぁぁもう! やっぱまだ届かねぇか!」
飛ばされはしたが、威力を弱めることはできていた。防御も間に合っていて、外傷らしい外傷はない。多少斬れてはいるが軽傷だ。
ベルナートの雪月花は、
はっきり言うとダウングレード版なのだ。それもこれも、覇王色が関係してくるわけだが。
「いや驚いたな。だいぶ強くなったんじゃないか?」
「わりと今完敗中なんですけど?」
「お前がその気なら、ここまでじゃないだろうさ」
「いたーー!! ベルナートに何してんのバカシャンクス!!」
ウタの怒声にビクッと肩を震わせたシャンクスは、呆れた様子のヤソップとホンゴウも視界に捉えて剣を納める。やり過ぎだったと今認識したようだ。
ウタはベルナートの下に駆け寄り、ホンゴウの手から奪っていた救急バッグを開いて手当を始める。ただし素人処置。
「大丈夫ベルナート? 傷痛いよね。ごめんねシャンクスが」
「いやこれぐらいなら大丈夫。ヤマトに骨折られたときの方が痛い」
「あれ? ヒビじゃなかったっけ?」
「え? あっ……」
「ベ・ル・ナ・ー・ト?」
「あ、あの時嘘ついてました……。ごめんなさい……」
「そうやって隠すなら、余計に心配するようになっちゃうじゃん」
「はい……」
ホンゴウの指示も入り、ウタは適切な処置をしていく。それが終わると、ウタはベルナートを庇うように寄り添い、シャンクスを威嚇する。
「あのねシャンクス。ベルナートと寝たって言ったけど、こ、こどもができるようなやつじゃないから!」
「そんな話してたのか……」
「待てウタ。それだとお頭はまだ誤解する」
「一緒のベッドで仲良く就寝しただけらしいぜ? 抱いたわけじゃないんだと」
「なんだそうだったのか。それならそうと言ってくれればよかったのに」
「聞く耳持たなかったのあなたですよね!?」
「シャンクス。反省して」
「ごめんなさいでした」
娘の前では形無し威厳なし。四皇の一角が深々と頭を下げていた。
「誤解させちゃったのは私だけど、飛躍して早とちりし過ぎだよ。ヘンタイ」
「ガハッ! へん、たい……?」
愛娘による変態呼ばわりは、父親をワンショットキルする威力を秘めていた。膝から崩れ落ちて倒れたシャンクスを、ヤソップとホンゴウが苦笑いして連行していく。この2人にも刺さっていたようだ。
「ベルナート、他に怪我はない? 隠してない?」
「隠してない隠してない。何なら見て確認するか?」
「そこまではいい。ベルナートが嘘ついてないなら」
「ついてないって。……ふぅ、ウタのおかげで助かった。ありがとう」
「あはは……、元はと言えば私のせいだし」
「オレたちも戻るか」
「そうだね」
手を繋いで戻ると、ベルナートはシャンクスに覇気を浴びせさせられたがそれはまた別の話。
□
大人同士、父親代わり同士で話し合う案件もある。
ゴードンはシャンクスから「音楽家として育ててほしい」とウタを預かった。あの夜に誓ったことを、ゴードンは1ミリたりとも忘れていない。シャンクスの要望通り、持てる限りの知識と教養を、ウタに教え込んだ。
その結果はちゃんと出ている。ウタの人気は広がっており、話題性もあって知名度も上がっている。ライブだってどこでも成功を収めてきた。
「ありがとうゴードンさん。ウタを育ててくれて」
「私は誓いを果たしたまでだ。音楽家としての成長はさせてあげられたが、人としての成長はベルナートのおかげだ。彼が連れ出し、刺激を与え続けた」
「それでもさ。ウタから話を聞いたよ。明るく振る舞い続けてくれたって。あんたはウタをギリギリのところを繋ぎ止め続けてくれた。感謝している」
「……」
ウタとの再会。そして和解。
宴という形で赤髪海賊団もそれを盛大に祝い、ウタを知っている者たちは我先にとウタと話そうとしている。明るく笑いながらそれに応えているのも、大前提としてゴードンが繋ぎ止めていたからだ。
決してベルナートだけの力じゃない。
「……あの子の成長を見ていると、私も踏み出さねばなと思えてくるんだ」
「新しく何か始めるのか?」
「いや、0からまたやり直そうと思ってね」
「まさか……」
「私は音楽の島エレジアを再興させる。また世界一の音楽の島として、あの島に最高の音楽を響かせる。それが、あの日命を落とした者たちへの何よりの手向けになるはずだ」
「……ははは。たしかにそれはこの上ないものになるな」
「そこで1つ頼みがある」
エレジアの再興にあたって、これから障害も出てくるだろう。まずは人が集まらねば始まらない。そこはゴードンにも考えがあるからいいのだが、問題は外側だ。
ウタは最初に宣言していた。エレジアに戻ってライブをし、それをワールドツアーの締めにすると。
出発地もまたエレジアだと知られているのだ。つまり「ウタの拠点はエレジア」だと知られている。
そしてこれから、ウタを狙う者たちも現れてくる。
「赤髪海賊団の海賊旗を借りたい」
四皇の海賊旗となれば、それは縄張りの証明。相手が海賊だけだったら、ガープに頼ることもできただろう。しかしガープの力があったとしても、立場は海軍の人間だ。天竜人への抑止には少し弱い。たとえガープが天竜人嫌いと知られていたとしても。
だがこれにはこれで、更なる問題点が生まれる。
「貸したいのは山々だが、おれ達がエレジアを滅ぼしてるんだ。それは難しくないか?」
そう。真実はともかく、世間で知られているのは赤髪海賊団の仕業だということ。
エレジアの再興を目指しているのに、その赤髪海賊団の海賊旗を掲げるのは世間体がよくないだろう。
「天竜人の件はおれも聞いてる。……力にはなりたいが……」
「何の話をしてるんだい赤太郎?」
「ヤマトか。ベルナートと飯食ってなかったか?」
「ベルナートならウタともうすぐこっちに来るよ。赤太郎に話したいことがあるんだって」
「ほう?」
2人揃ってから来るという点にピクリと眉をひそめたが、そういう話ではないのだろうと予想できる。
念の為身構えつつ、シャンクスは2人が来るのを待った。
「話があるんだってな」
「話というか、お願いというか」
「お願い? ウタが?」
「うん。あのね、シャンクス。ライブに来てほしいんだ」
「……!」
「エレジアでのライブに来てほしい。今の私を見てほしい」
「おれ達が行くと他の観客が怯えるんじゃないか?」
「そこは特別席用意して、なんとかするから。それかシャンクスたちが仮装して」
「いや……だがな……」
「……来てくれないんだ。そっか…………」
「行かないとは言ってないぞ。もちろん変装して忍び込むさ」
「やった!!」
「親バカ」
「何か言ったか盗人男」
「何も盗んでないんですけど!?」
ウタはぴょんぴょんと飛び跳ね、全身で喜びを表す。話してみてよかったなとベルナートも安堵した。
「それで赤太郎。ゴードンと何か話してなかったかい?」
「ああそれな」
話してもいいのかとゴードンに目を向けると、ゴードンは静かに頷いて許可した。今隠しても仕方のない話だからだ。
シャンクスが3人にゴードンの目標を説明し、それを達成するために生じる障害のことも話した。
「四皇の旗の効力は僕も知ってるよ。赤太郎の旗があればたしかに心強いけど」
「たしかに滅ぼした張本人の旗があると邪推の余地しかない。国を作ったビッグマムみたいに、赤髪海賊団も国を作ろうとしているなんて思われかねない」
「最悪そう思われてもおれはいいんだが、ビッグマムとの違いは国民だ。現時点で国民のいないエレジアに、海賊の国を作ろうとしても人は集まりにくい」
「集まったとしても、それはゴードンさんが望むような人たちじゃない。荒くれ者の方が集まるでしょうね」
「うーん、要は私が問題なんだよねこれ」
「いやそういうわけじゃなくてなウタ!」
責任を感じることじゃないと男衆が全力でフォローに走り、その温かさにウタは目を細めた。
だが事実は事実。
そして
「私に考えがあるから任せて。エレジアでのライブで発表したいこともあったし、丁度いいと思う」
その中身をベルナートは察し、気づいたウタは強い目でくすりと笑った。
心配しないでと。
「ドンッと任せてよ。私は新時代を作る女、赤髪のシャンクスの娘ウタなんだから」
□
正義とは決して1つではない。価値観の違いは正義の違い。
その在り方もまた1つではないのだ。たとえ正義を掲げる海軍でも変わるもので、同じ秩序側の世界政府でも違う。
世界は綺麗事だけでは片付かないから。秘密裏に危険因子を排除することで、世界の維持を保つことも是としている。
「エレジアにあるというトット・ムジカは封印されとるのじゃろう?」
「それを解く鍵がウタウタの能力者。何事もなければそれでいいのだけれど、もし彼女にその兆しがあれば、その時は仕事の時ね」
「天竜人が絡まなければいいんじゃが……」
彼らはそれを「闇の正義」という。
手記の中の人間、シャンクスとバギーと話せてヤマトはほくほく。
赤髪海賊団との和解ができてウタはにこにこ。
赤髪海賊団の視線が刺さりまくってベルナートはへとへと。
神避はシャンクスが使えたら熱いなと妄想しました。1個くらい技名あるやつやってよシャンクス!