たった1つの笑顔   作:粗茶Returnees

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ウタ①

 

 赤髪のシャンクスは普段温厚な男である。カタギに手を出すことはなく、むしろそういう者たちを見逃さずに打ち破る。海賊であることに間違いはないのだが、普段の行いが海賊らしからぬものなのだ。

 とはいえ、聖人にすら思えた白ひげとは異なり、財宝には興味がある。そういった点は、海賊らしいと言えよう。

 そんな男ではあるが、実力は間違いなく本物である。四皇であることも伊達ではない。「サシでやれば最強」と言われるほど絶大な実力を持つカイドウを、頂上戦争の直前に食い止めているのだ。

 その懸賞金は、40億4890万ベリー。最悪の世代の1人で、世間を騒がせた麦わらのルフィの10倍以上。

 

「ヤソップさん。シャンクスは?」

 

「今木がどんどん倒れていってるとこにいるな」

 

「ベルナートは?」

 

「同じとこ」

 

「じゃあ、ヤマトは?」

 

「あっち側でベックと手合わせしてる」

 

「ふんふん。なるほどね」

 

 ヤマトとベックマンはともかく、シャンクスとベルナートの方はなかなかに苛烈である。2人の姿は見えないのだが、剣のぶつかり合う音は聞こえてくる。

 久しぶりに手合わせかなと最初は思ったウタだが、どうにも度が過ぎているようにも思える。

 

「ウタ、お頭と何話したんだ? 様子がおかしかったんだが」

 

「あーそれがね。ベルナートと寝たって話したらシャンクスが部屋から出て行っちゃって」

 

「げほっげほっ! はぁ!? 寝たってお前……!」

 

 驚き過ぎて咽たヤソップだったが、きょとんとしているウタを見て冷静さを取り戻した。ウタの言っていることと、シャンクスや自分が思ったことにズレがあるらしい。

 

「確認だが、寝たってそれ子どもを作る的なやつじゃないんだな?」

 

「こども……こどもっ……!? ちち、ちちちちがうちがう! なんでそうなるの!?」

 

「ああー、まぁなんだ。大人な言い方ってやつだ。ウタもベルナートも年頃だからな」

 

「ベルナートとはそんなことしてないよ! 一緒のベッドで寝ただけ!」

 

「それはそれでまた問題だが……」

 

 顔を真っ赤にして否定する姿からして、どうやら隠しているわけでもないらしい。本当にウタとベルナートは何もしていない。

 それを理解したヤソップは、シャンクスを止めに行かないとなと腰を上げた。

 

「お頭も勘違いしてるから、あれは本気でベルナートと仕合してるぞ」

 

「え!? 急いで止めなきゃ! ホンゴウさんはどこ!?」

 

「おーいホンゴウ! お頭のとこに行くから来てくれ!」

 

「わかった! すぐに行く!」

 

 遠目にウタの様子を見て察したホンゴウは、手当ができるように救急バッグを用意。ウタとヤソップと一緒に、やり過ぎな親バカの下へと向かっていった。

 

 

 

「ベルナート。おれはお前のことを一定は信頼してたんだがな」

 

「意味がわからない! 目がガチ過ぎる!!」

 

「見損なったぞ! ウタを連れてきたのも事後報告のためか!」

 

「事後って何!?」

 

 振り下ろされる一撃を迎え撃つも、その威力は曲がりなりにも四皇の本気。覇王色すら纏った状態で叩きつけられ、受けるベルナートの地盤が先に負けた。

 

「くそっ! 手が痺れるって……!」

 

 真っ向からはそう何度も受け切れない。それも状況がわからずに集中できてないこと大きい。

 しかもシャンクスは覇気の修練度が高い。四皇の一席に着いたのも、()()()()()()()()()。あのミホークに並ぶ剣技を持っていたが、片腕になったことでそこは劣るように。しかし代わりとして覇気の練度が高くなっていた。

 ベルナートが得意とする見聞色。それによる未来予知も、シャンクスの前では封じられる。

 そのためベルナートは読み合いに持ち込まれるのだが、経験は当然シャンクスの方が積んでいる。防戦一方に持ち込まれていた。

 

「お前とウタが()()()()()()だと言うのなら、それなら飲み込んださ。お前になら任せられる。だがさっき言ったな? 違うと」

 

「だからオレとウタは相棒(パートナー)であって、男女の関係ではないんだって!」

 

「なら遊びか? しかも他にもいるとは死ねェ!!」

 

「荒ぶり過ぎだろ!?」

 

 滅多に口にしなさそうな言葉を言われ、驚愕するベルナートをシャンクスが一刀のもとに弾き飛ばす。いくつかの木を貫いてようやく勢いが弱まり、地面を転がって止まる。

 

「っつつ……。なーんかすれ違いあるよな」

 

 言動から察せられるものもあるのだが、何ならそれを予想して喋ってもいるのだが、少しばかりシャンクスが暴走気味である。冷静さを取り戻してくれれば、誤解も解けそうだ。

 問題はどうやってそこまで持っていくかだが。

 

「ゲホ……。どうすっかな。!? うおっと!!」

 

 倒れた木々を切断しながら飛んでくる斬撃を躱し、1回攻勢に出るかと意識を切り替える。話を聞いてもらうためにも、まずはまともに話し合える状況に持っていかないといけない。

 完全に押されてる今の状況を多少でも盛り返せば、それが叶うはずだ。

 

「うちのベックも女好きではある。お前もそうだって言うならそこはいい。だが女遊びとなると別だ」

 

「女遊びをしたことは一度もない!」

 

「眼中にないとでも言う気か?」

 

 刀に覇気を纏わせ直す。今できる本気の一撃。それでなんとか盛り返す。

 その気迫に応じるように、シャンクスも剣に覇気を纏わせた。

 

「大雪月花!」

神避(かむさり)!」

 

 纏わせた覇気をも斬撃に乗せて飛ばす大技。ベルナートのその一撃に対して、シャンクスも同様の形で剣を振り抜いた。

 飛ばされた斬撃同士が衝突。轟音が鳴り響くも、()()()()()()()()()()()。シャンクスの一撃がベルナートの斬撃を押し退け、そのままベルナートを吹き飛ばした。

 

「だぁぁもう! やっぱまだ届かねぇか!」

 

 飛ばされはしたが、威力を弱めることはできていた。防御も間に合っていて、外傷らしい外傷はない。多少斬れてはいるが軽傷だ。

 ベルナートの雪月花は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。振るい方自体は同じ。だが神避の領域にまでは届かないため、自己流を混ぜて別の技としている。

 はっきり言うとダウングレード版なのだ。それもこれも、覇王色が関係してくるわけだが。

 

「いや驚いたな。だいぶ強くなったんじゃないか?」

 

「わりと今完敗中なんですけど?」

 

「お前がその気なら、ここまでじゃないだろうさ」

 

「いたーー!! ベルナートに何してんのバカシャンクス!!」

 

 ウタの怒声にビクッと肩を震わせたシャンクスは、呆れた様子のヤソップとホンゴウも視界に捉えて剣を納める。やり過ぎだったと今認識したようだ。

 ウタはベルナートの下に駆け寄り、ホンゴウの手から奪っていた救急バッグを開いて手当を始める。ただし素人処置。

 

「大丈夫ベルナート? 傷痛いよね。ごめんねシャンクスが」

 

「いやこれぐらいなら大丈夫。ヤマトに骨折られたときの方が痛い」

 

「あれ? ヒビじゃなかったっけ?」

 

「え? あっ……」

 

「ベ・ル・ナ・ー・ト?」

 

「あ、あの時嘘ついてました……。ごめんなさい……」

 

「そうやって隠すなら、余計に心配するようになっちゃうじゃん」

 

「はい……」

 

 ホンゴウの指示も入り、ウタは適切な処置をしていく。それが終わると、ウタはベルナートを庇うように寄り添い、シャンクスを威嚇する。

 

「あのねシャンクス。ベルナートと寝たって言ったけど、こ、こどもができるようなやつじゃないから!」

 

「そんな話してたのか……」

 

「待てウタ。それだとお頭はまだ誤解する」

 

「一緒のベッドで仲良く就寝しただけらしいぜ? 抱いたわけじゃないんだと」

 

「なんだそうだったのか。それならそうと言ってくれればよかったのに」

 

「聞く耳持たなかったのあなたですよね!?」

 

「シャンクス。反省して」

 

「ごめんなさいでした」

 

 娘の前では形無し威厳なし。四皇の一角が深々と頭を下げていた。

 

「誤解させちゃったのは私だけど、飛躍して早とちりし過ぎだよ。ヘンタイ」

 

「ガハッ! へん、たい……?」

 

 愛娘による変態呼ばわりは、父親をワンショットキルする威力を秘めていた。膝から崩れ落ちて倒れたシャンクスを、ヤソップとホンゴウが苦笑いして連行していく。この2人にも刺さっていたようだ。

 

「ベルナート、他に怪我はない? 隠してない?」

 

「隠してない隠してない。何なら見て確認するか?」

 

「そこまではいい。ベルナートが嘘ついてないなら」

 

「ついてないって。……ふぅ、ウタのおかげで助かった。ありがとう」

 

「あはは……、元はと言えば私のせいだし」

 

「オレたちも戻るか」

 

「そうだね」

 

 手を繋いで戻ると、ベルナートはシャンクスに覇気を浴びせさせられたがそれはまた別の話。

 

 

 

 

 

 

 大人同士、父親代わり同士で話し合う案件もある。

 ゴードンはシャンクスから「音楽家として育ててほしい」とウタを預かった。あの夜に誓ったことを、ゴードンは1ミリたりとも忘れていない。シャンクスの要望通り、持てる限りの知識と教養を、ウタに教え込んだ。

 その結果はちゃんと出ている。ウタの人気は広がっており、話題性もあって知名度も上がっている。ライブだってどこでも成功を収めてきた。

 

「ありがとうゴードンさん。ウタを育ててくれて」

 

「私は誓いを果たしたまでだ。音楽家としての成長はさせてあげられたが、人としての成長はベルナートのおかげだ。彼が連れ出し、刺激を与え続けた」

 

「それでもさ。ウタから話を聞いたよ。明るく振る舞い続けてくれたって。あんたはウタをギリギリのところを繋ぎ止め続けてくれた。感謝している」

 

「……」

 

 ウタとの再会。そして和解。

 宴という形で赤髪海賊団もそれを盛大に祝い、ウタを知っている者たちは我先にとウタと話そうとしている。明るく笑いながらそれに応えているのも、大前提としてゴードンが繋ぎ止めていたからだ。

 決してベルナートだけの力じゃない。

 

「……あの子の成長を見ていると、私も踏み出さねばなと思えてくるんだ」

 

「新しく何か始めるのか?」

 

「いや、0からまたやり直そうと思ってね」

 

「まさか……」

 

「私は音楽の島エレジアを再興させる。また世界一の音楽の島として、あの島に最高の音楽を響かせる。それが、あの日命を落とした者たちへの何よりの手向けになるはずだ」

 

「……ははは。たしかにそれはこの上ないものになるな」

 

「そこで1つ頼みがある」

 

 エレジアの再興にあたって、これから障害も出てくるだろう。まずは人が集まらねば始まらない。そこはゴードンにも考えがあるからいいのだが、問題は外側だ。

 ウタは最初に宣言していた。エレジアに戻ってライブをし、それをワールドツアーの締めにすると。

 出発地もまたエレジアだと知られているのだ。つまり「ウタの拠点はエレジア」だと知られている。

 そしてこれから、ウタを狙う者たちも現れてくる。

 

「赤髪海賊団の海賊旗を借りたい」

 

 四皇の海賊旗となれば、それは縄張りの証明。相手が海賊だけだったら、ガープに頼ることもできただろう。しかしガープの力があったとしても、立場は海軍の人間だ。天竜人への抑止には少し弱い。たとえガープが天竜人嫌いと知られていたとしても。

 だがこれにはこれで、更なる問題点が生まれる。

 

「貸したいのは山々だが、おれ達がエレジアを滅ぼしてるんだ。それは難しくないか?」

 

 そう。真実はともかく、世間で知られているのは赤髪海賊団の仕業だということ。

 エレジアの再興を目指しているのに、その赤髪海賊団の海賊旗を掲げるのは世間体がよくないだろう。

 

「天竜人の件はおれも聞いてる。……力にはなりたいが……」

 

「何の話をしてるんだい赤太郎?」

 

「ヤマトか。ベルナートと飯食ってなかったか?」

 

「ベルナートならウタともうすぐこっちに来るよ。赤太郎に話したいことがあるんだって」

 

「ほう?」

 

 2人揃ってから来るという点にピクリと眉をひそめたが、そういう話ではないのだろうと予想できる。

 念の為身構えつつ、シャンクスは2人が来るのを待った。

 

「話があるんだってな」

 

「話というか、お願いというか」

 

「お願い? ウタが?」

 

「うん。あのね、シャンクス。ライブに来てほしいんだ」

 

「……!」

 

「エレジアでのライブに来てほしい。今の私を見てほしい」

 

「おれ達が行くと他の観客が怯えるんじゃないか?」

 

「そこは特別席用意して、なんとかするから。それかシャンクスたちが仮装して」

 

「いや……だがな……」

 

「……来てくれないんだ。そっか…………」

 

「行かないとは言ってないぞ。もちろん変装して忍び込むさ」

 

「やった!!」

 

「親バカ」

 

「何か言ったか盗人男」

 

「何も盗んでないんですけど!?」

 

 ウタはぴょんぴょんと飛び跳ね、全身で喜びを表す。話してみてよかったなとベルナートも安堵した。

 

「それで赤太郎。ゴードンと何か話してなかったかい?」

 

「ああそれな」

 

 話してもいいのかとゴードンに目を向けると、ゴードンは静かに頷いて許可した。今隠しても仕方のない話だからだ。

 シャンクスが3人にゴードンの目標を説明し、それを達成するために生じる障害のことも話した。

 

「四皇の旗の効力は僕も知ってるよ。赤太郎の旗があればたしかに心強いけど」

 

「たしかに滅ぼした張本人の旗があると邪推の余地しかない。国を作ったビッグマムみたいに、赤髪海賊団も国を作ろうとしているなんて思われかねない」

 

「最悪そう思われてもおれはいいんだが、ビッグマムとの違いは国民だ。現時点で国民のいないエレジアに、海賊の国を作ろうとしても人は集まりにくい」

 

「集まったとしても、それはゴードンさんが望むような人たちじゃない。荒くれ者の方が集まるでしょうね」

 

「うーん、要は私が問題なんだよねこれ」

 

「いやそういうわけじゃなくてなウタ!」

 

 責任を感じることじゃないと男衆が全力でフォローに走り、その温かさにウタは目を細めた。

 だが事実は事実。

 そして()()()()()()()()()()()()()。ウタにはその確信があった。

 

「私に考えがあるから任せて。エレジアでのライブで発表したいこともあったし、丁度いいと思う」

 

 その中身をベルナートは察し、気づいたウタは強い目でくすりと笑った。

 心配しないでと。

 

「ドンッと任せてよ。私は新時代を作る女、赤髪のシャンクスの娘ウタなんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 正義とは決して1つではない。価値観の違いは正義の違い。

 その在り方もまた1つではないのだ。たとえ正義を掲げる海軍でも変わるもので、同じ秩序側の世界政府でも違う。

 世界は綺麗事だけでは片付かないから。秘密裏に危険因子を排除することで、世界の維持を保つことも是としている。

 

「エレジアにあるというトット・ムジカは封印されとるのじゃろう?」

 

「それを解く鍵がウタウタの能力者。何事もなければそれでいいのだけれど、もし彼女にその兆しがあれば、その時は仕事の時ね」

 

「天竜人が絡まなければいいんじゃが……」

 

 彼らはそれを「闇の正義」という。

 

 




 手記の中の人間、シャンクスとバギーと話せてヤマトはほくほく。
 赤髪海賊団との和解ができてウタはにこにこ。
 赤髪海賊団の視線が刺さりまくってベルナートはへとへと。

 神避はシャンクスが使えたら熱いなと妄想しました。1個くらい技名あるやつやってよシャンクス!
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