たった1つの笑顔   作:粗茶Returnees

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ウタ②

 

 突如として現れた音楽界の新星にして巨星。歌姫ウタのワールドツアーは話題を呼び、ライブも配信するというスタンスで行われたことで人気に火がついた。

 そんなウタのツアーも、とうとう今日で区切りとなる。

 場所はウタが歌手の技術を磨いた島エレジア。いつもなら次にどこに行くかは言わずに、規則性無く訪れてそこでライブを行っていた。

 しかし締めとなるエレジアだけは別。ここだけはファンに来てもらわないといけないため、ウタはエレジアのライブだけは日程も含めて宣言した。

 

「ふふっ、みんなに島に来てもらってライブするのは初めてだから楽しみだな~」

 

「緊張してる?」

 

「ちょっとしてる。でもそれより、楽しみたいって気持ちが大きいよ」

 

「なら大丈夫だな」

 

「僕も楽しみにしてるね!」

 

「ありがとう2人とも!」

 

 エレジアでライブを行うわけだが、ここで問題となるのが日程の調整だ。

 エレジアは滅んで以降、それらを放置している。大人1人と子ども1人だったのだ。瓦礫の撤去もままならないだろう。

 過去の悲惨さを物語るそれらは、今から片付けようとしても間に合わない。圧倒的に人手が足りない。幸いにもライブステージはその町並みから離れた場所にある。観客が目にすることもない。

 だが、それは客たちが宿泊できないことも意味する。ウタのライブともなれば満員。全員が滞在できるような場所もなく、ウタウタの能力のことを考えると、ライブ終了後にすぐに客が帰れるわけでもない。

 セットリストや演出の調整、やりたい事を考えて時間配分を調整。夕方には全観客が出航できるようにと用意した。

 会場は12時30分。開演は14時。今はその30分前。

 

「今日はみんなと一緒のとこでは聴かないの?」

 

「新世界で一度混ざってるし、僕はチケットを買ってるわけじゃない。今回は舞台袖から楽しませてもらうよ」

 

「そっか。ベルナートは……今回聴いてくれないんだ?」

 

 何を言われたわけでもない。だが、様子から察してウタは残念そうに呟いた。

 

「エレジアでは初ライブだから、見てほしかったんだけどなー。私たちが出会ったこの島で」

 

「……ごめん。聴きたいんだけど、ちょっと無視できないのが混ざってる」

 

「……そっか」

 

「代わりに赤髪海賊団はライブに来てくれてるし、ヤマトもいるし」

 

「ベルナートの代わりはいないんだよ」

 

「いひゃいれす」

 

 頬を膨らませたウタはベルナートの頬を引っ張り、ヤマトはやれやれと肩を竦めた。

 対応を代わろうかと買って出たのだが、ベルナートにそれを断られている。ヤマトはライブ側だ。

 ウタワールドは仮想世界とはいえ、一時的に作られるもう1つの現実でもある。そちらで何かあった時への備えとして、別々に動かないといけない。もっとも、ウタワールド側には赤髪海賊団がいるのだから心配は無用なわけだが。

 

「埋め合わせ、してくれるよね?」

 

「します」

 

「なら今回は許してあげる。言っとくけど、この穴は大きいからね?」

 

「埋めれるまでやるさ。これからだって一緒にいるんだから」

 

「うん!」

 

 小指を絡め合い、指切りをしてそれを確固たる約束とした。

 破るつもりは毛頭ない。この先何が起きようと、誰に狙われようと、ベルナートはウタの隣にいる。ウタを護る。

 いつまでも絡めたままでいられそうだが、それを解いてベルナートはその場を後にした。振り返ることはない。そうしてしまうと、揺らぎかねなかったから。

 

「いいのかい? 何も言わなくて」

 

「いいんだ。信じて私はライブをする。それだけだよ」

 

 強い眼差しで言い切ったウタを見て、ヤマトも力強く頷くのだった。

 

 

 

 

 エレジアでライブが行われるとはいえ、ウタのライブは能力の関係上他のライブとは違う。イントロ、歌い出しこそ現実で歌っているが、それ以降はウタワールドの中で歌われている。

 そこをついてしまえば、最初に歌さえ聞かなければ暗躍を行いやすいのだ。なにせ一般市民たる観客たちは眠っている。見られる心配もない。

 もちろんそのタイミングでウタがまた現実で歌えば、それで相手をウタワールドに入れられる。高性能な耳栓でもされていない限りは大丈夫だ。しかし、それはあくまで()()()()()()()()()()()()

 ウタの認知より早く動かれては意味もなく、ウタの意識外から狙撃されてはウタ本人に手の打ちようがない。

 

「サイファーポールだな」

 

 だからそこはベルナートが対処する。ウタを守るために。

 

「さすがの見聞色といったところじゃな」

 

「狙いはウタだろ」

 

「そう急くな。今すぐどうこうするつもりはない。わしらも当然この島に眠る魔王のことは知っておる。歌姫が呼び起こさないのなら、わしも手を出す気はないわい」

 

「……随分あっさりと話すんだな。政府の諜報機関のくせに」

 

「おぬしに勝てるとは思っておらんわい。無用な争いはせぬのが吉じゃ」

 

 諜報員カクはよっこらせと高台の上で腰掛け、ライブ会場を遠目から眺めた。

 そうされたところでベルナートが警戒を解くわけもないのだが、カクから戦意が感じられないのも事実だった。

 

「……ウタは魔王を呼び起こしたりなんてしない」

 

「わしもそう思う。仕事がなければライブに参加したかったわい」

 

「意外と庶民的だな」

 

「そういうのも、悪くはないと思っておるからな」

 

 ベルナートは知らないが、カクはウォーターセブンでスパイ活動をしていたメンバーの1人だ。古代兵器プルトンの設計図。それの奪取が任務だった。

 ガレーラカンパニーで職長にまで登り詰め、庶民の生活に馴染んでいた。そこでの生活が楽しかったのだろう。カクはその生活をわりかし気に入っていた。

 

「オレのことは放置でいいのか?」

 

「任務には優先順位がつきものじゃ。今回はウタの方が優先度が高い」

 

「なるほど。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「っ!? ……これは驚いた。想定以上じゃな」

 

 肯定も否定もなかった。

 どう動くのが正解なのか。カクは「勝てない」とは言い切っているが、「負ける」とは言っていない。時間稼ぎならできると、ベルナートに相対した状態で言い切っている。

 話してみてカクの人柄はある程度わかった。嘘もついていない。

 それならばカクは一旦放置でもいい。ウタが魔王を呼び起こさない限り、カクは動かない。世界政府としても、ここまで人気のついたウタを、「危険因子だから」という理由だけでは消しにくいのだろう。ウタが海賊なら、慎重に動くこともなかっただろうが。

 

「海軍が来てないのは救いだな」

 

「じゃろうな。新元帥は"可能性"から対象とする。悪は芽のうちからとな。徹底しとるわい」

 

「その分お前らはましとでも? 正義が闇を名乗ってる時点で終わりだよ」

 

「ははは! 耳が痛いわい。じゃがおぬしなら分かっておるじゃろ? この世は綺麗事だけでは成り立たん」

 

「……個人的にはあんたとは酒を飲み交わせそうなんだけどな」

 

「互いに立場が今と異なれば、叶ったかもしれんな」

 

 14時となりライブが始まる。

 現実でウタが実際に歌うのは最初の僅かな時間だけ。それ以降は現実では歌わない。

 

「そういえば音貝(トーンダイアル)での楽曲販売しておったな。いくらじゃ?」

 

「ファンかよ」

 

「実はな。何を隠そうこのコートの下は先程物販で購入したUTATシャツじゃ!」

 

「仕事どうしたよ!? てか物販で買ったならその時にダイアルも買っとけよ!」

 

「列が長過ぎたんじゃ」

 

「再生産はするって話だったからそれで買えよ。800ベリーだ」

 

「安いの!? それで商売成り立っとるんか!? チケットもそうじゃったがなぜそんな低額なんじゃ!」

 

 こいつ本当に闇の正義の一員なのだろうか。もうただのウタのファンにしか見えない。

 そう思ったベルナートだが、完全に気を許すわけにもいかない。打ち解けることだけは避けようと心を強固にする。

 

「ウタは本当はもっと安く、なんなら無料でやりたいらしい。ウタが一番気にかけてる客層は、海賊とかの被害で底辺の生活をしてる人たちだ」

 

「……なるほど。歌詞のメッセージ性もそういうことか」

 

「政府側がウタをバックアップしてくれたら、大手を振ってツアーもできるんだけどな」

 

「天竜人が先に動いたからのう。お前さんがウタから離れれば可能じゃろうが」

 

「それは無理な相談だ」

 

「ならこの話はなかったことになるの」

 

 実に残念だと2人揃って首を振り、ベルナートは高台から飛び降りた。

 単独で来ているわけがない。それは分かりきっていた。問題は他に誰が来ているかだ。一番厄介なのは、ロブ・ルッチが来ていること。闇の正義の体現者だ。

 もしウタの過去が知られれば、面倒なことにもなりかねない。

 他に誰か来ていることはわかる。しかしどこにいるかはうまく掴めない。何かしらの能力によるものなのだろう。ベルナートはその事を想定しつつ、ステージへと飛んでいった。

 

「いいのかカク?」

 

 ベルナートの姿が見えなくなり、それからさらに十数秒待ってから空間が開いた。中から出てきたのは大型な男と帽子を被っている美女。

 

「いいも何もドアドアで潜んでいることも気付かれとった。あれは評判の二回りは強いぞ。能力の詳細は掴んでなかったようじゃが、大して有利も取れん」

 

「気づいていると明かしたのも、こちらへの警告でしょうね」

 

「ではもう一つの目標を狙うか?」

 

「そうするしかないの。元国王と接触するとしよう。トット・ムジカ。それの楽譜を回収してしまえば、ウタを警戒する必要もあるまい」

 

「あらあら。甘いのねカク」

 

「殺してしもうたらあの歌声はもう聞けんからの。それに、悪魔の実はまた復活する。消すメリットとデメリットが釣り合わん」

 

 その場しのぎの処置をするより、根本を解決したほうがいい。かつてプルトンの設計図をも狙った世界政府だ。トット・ムジカの鍵の1つを手元に持つように事を運んでもいいだろう。むしろそれが最善でもある。鍵を握ってしまえば悪用される心配もいらないのだから。

 そういう方針でと固まったところで、その場にもう1人諜報員が現れた。素顔を隠すために仮面をつけているが、その仮面は棒がついておりそれを手で掴んで支えている。

 

「この島で事を起こしても成果は得られそうにない。カクの案に賛成だ」

 

「何かあったの?」

 

「レッド・フォース号を見つけた」

 

「「!?」」

 

「四皇がなぜここにいるかは不明だが、下手に動くとこちらが消される。それともう1つ──」

 

 実際にはその本軍の全員が変装していて、現在はウタワールドでライブを見守っているのだが。どうやらそこまでは気付かれていないらしい。

 四皇の本軍が相手では、サイファーポールといえど歯が立たない。カクたちはもう1つの話も含め、慎重に動くことを決めた。

 

 

 

 

 ウタワールドではライブ中だが、現実ではステージ上に1人佇んでいる。そんなウタの下にベルナートは着地し、気づいたウタはぱっと顔を明るくして駆け寄った。

 

「終わった? ライブ聴ける?」

 

「ごめん。まだ終わってない」

 

「……」

 

「今回のは、このライブが終わるまで終わらないと思う」

 

「……そっか。ここに来たのはなんで?」

 

「側にいたほうが良さそうだったから」

 

「じゃあ一緒にいてね」

 

「ああ」

 

 ステージの(ふち)に2人並んで腰掛け、ウタは寄りかかって目を瞑った。

 

「ライブね、盛り上がってるんだ」

 

「そりゃあウタのライブなんだから」

 

「当然じゃないよ。ファンのみんながいてくれるから、ライブは成功できる」

 

「……そうだったな」

 

「最近思うんだ。現実でのライブもやりたいなって」

 

「それは……ウタが能力をもっと制御できるようにならないとな」

 

「この能力、なんとかなるかな?」

 

「ウタならできるさ。練習ならオレもヤマトも付き合う」

 

「あはは、ヤマトは強制なんだ」

 

 頼みを断られるとも思わない。ヤマトの人柄なら喜んで引き受けてくれる。それは短い付き合いのウタにもわかった。

 

「現実バージョンとウタワールドバージョン。2パターンでのライブができたら、もっと楽しいと思う」

 

「そうだな。ところでゴードンさんは?」

 

「ゴードンならウタワールドにいるよ。ライブ終わりに発表するんだって」

 

「なるほど。こっちに来といて正解だったかな」

 

「……。ベルナート、怪我しないでね」

 

 ベルナートの頬に手を伸ばして、目をじっと見つめる。

 それが難しいことはわかっている。ベルナートだって怪我はするのだ。ウタと同じ人間だ。

 それでもウタは、そう言いたかった。怪我してほしくない。それが自分のためだとわかっているからなおさらに。

 

「善処はする。ウタは笑顔のほうがいいからな」

 

「っ! ……ばか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「赤髪がエレジアに?」

 

「なぜあの男がまた」

 

「新世界から動かぬと思っていたが」

 

「今そちらに海軍は動かせんぞ。黒ひげと白ひげ残党に動きがある」

 

「島を再調査させろ。赤髪の所在を確かめ、トット・ムジカの楽譜あるいは()()()()()。どちらかを遂行させるのだ」

 

「……ウタを消すのは中止と?」

 

「チャルロス聖の提言だ。それを抜きにしても、赤髪と繋がりがあった場合手を付けられなくなる」

 

「生かしておけば利用価値も大きい」

 

「……御意」

 

 




 ②で終わると思ったのにな……。
 鼻が長いやつのせいだ!
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