その点だけご理解ください。
約束の地
偉大なる航路ことグランドラインには、出口らしい出口はない。入り口こそリヴァースマウンテンなのだが、潮の流れの関係上そこから出ることは不可能だ。そしてグランドラインは両脇をカームベルトに挟まれている。大型の海王類の巣とされるそこを、命からがら通り抜けない限り出るのは難しいのだ。
そんなグランドラインだが、前半と後半の行き来だけはそれに比べてまだ優しい。マリージョア経由なら安全な行き来ができ、魚人島経由でも3割は生還できる。まだ易しい。
前半と後半を結ぶ中継地点。魚人島は人の往来が多いのだが、そこに行くための経由地となるシャボンディ諸島もまた、人が……主に海賊がよく来る場所だ。
「君がウタちゃんか。会うのは初めてだね」
「初めましてレイリーさん。シャンクスがお世話になりました」
「ははは! いやまったくだ」
「ベルナートベルナート。レイリーってあの?」
「合ってるぞ。海賊王の船で副船長してた人だ」
シャボンディ諸島に再度訪れている一行は、伝説の男"冥王"シルバーズ・レイリーと出会っていた。
共通の身内であるシャンクスのことで話が弾んでおり、ヤマトは伝説の男の存在に珍しく緊張を滲ませている。
ここはシャボンディ諸島の13番グローブ。シャッキーのぼったくりバー。シャボンディ諸島に上陸したベルナートたちは、真っ先にここに訪れていた。
「エレジアの再興は順調そうね。これも共同声明のおかげかしら」
「それがでかいでしょうね。ウタが育った島というのも、音楽に興味を持つウタのファンを引きつける要因のようです。何よりゴードンさんの指導があるのが大きいでしょう」
「世界の歌姫を育てた男。フフっ、たしかに音楽家を目指す若者にとってこれ以上惹かれる肩書はないわね」
「ゴードンと一緒に船に乗るのはできなくなったけどね。ご飯だって僕が作ることになってるし」
「待てヤマト。あくまで当番制だろ」
「僕が担当の日が多いんだけど?」
「そこはヤマトが一番料理上手いからだ。正直毎日作ってほしい」
「またそうやって調子のいいことを言う」
そう言われると悪い気はしないが、毎日料理をするのは大変だ。料理のレパートリーもヤマトが一番多いことから、栄養面を気遣うのもヤマトが行っている。ベルナートはまだしも、特にウタのことは気にかけてヤマトはメニューを考えている。
なんだかんだでヤマトの家事スキルは高かった。
「君たちの船はどうするの? レイさんにコーティングしてもらう?」
「いや、ここで預かっててほしいんですよ。ウタとヤマトが麦わらの船に乗り込むんだと聞かなくて」
「僕はずっとそのつもりだったからね。本当ならエースの船に乗りたかったけど」
「わかったわ。責任を持って預かっておくわね。それだと、モンキーちゃんたちの動向も共有してた方がいいわね」
レイリーとウタの会話に終わりは見えそうにない。そのままベルナートとヤマトでシャッキーの話を頭に入れることに。
「2年の潜伏は力をつけるため。みんなバラバラになってたから、ここに集まるにしても日にちのズレは生じる」
「それはそうだね」
「最初に来たのがロロノアちゃんで、その次がフランキーちゃん。ナミちゃんとウソップちゃんも上陸してる。今のところ4人ね」
「会いに行こうよベルナート!」
「全員揃ってからでもいいだろ。もしくはここにいて、麦わらの一味の誰かしらが来るのを待つか」
「ええぇぇ」
「どんだけウズウズしてんだよ……」
「だってー」
「フランキーちゃんは船にいるはずよ」
「鉄人フランキー! よし船に行こう!」
飛び出しそうなヤマトの腕を掴んで抑制する。文句を言いたげなヤマトだったが、誰かこの店に向かって来ていることをベルナートが言うと落ち着いた。
今のタイミングで来るのだ。麦わらの一味の誰かである可能性が高い。
「あれ? お客さんがいる」
「私のお友だちよ。君も無事に着いたのねチョッパーちゃん」
「綿あめ大好きチョッパーだ! 手配書通りの見た目!」
「わわっ!? なんだ!? 誰だ!?」
チョッパーをぬいぐるみみたく抱き上げるヤマトに、当の本人は大困惑。目を白黒させているが、シャッキーもレイリーも笑っているだけで止める気はなかった。
「そんな振り回しちゃ迷惑でしょ」
「あははごめんごめん。ようやく麦わらの一味に会えたから嬉しくて」
「次私の番!」
「あれ!?」
「まずは自己紹介してからにしろよ……」
ガビーンとショックを受けているチョッパーを見兼ねて、ベルナートが2人に落ち着くように促す。それもそうかと納得した2人は、チョッパーをカウンター席に座らせて自己紹介へ。
「僕はヤマト。男だ」
「え…………え? ……おれはトニートニー・チョッパーだ。よろしく」
チョッパーは思考を放棄した。
「よろしくねチョッパー」
「私はウタだよ。ワールドツアーをよくしてるんだけど、知ってるかな?」
「本物なのか!? ファンですサインください!」
「知ってくれてるんだ! いいよ書いてあげる!」
「やったー!!」
「あーあと、そこにいるへんてこりんがベルナート。私の
「へんてこりんってどんな紹介だ……」
しかもチョッパーはサインを書いてもらおうとカバンの中を漁っている。その紹介のことは耳に入っていなかった。
医療道具が大半を占めるそのカバンの中に、都合よく色紙があるわけでもない。シャッキーが代わりに色紙とペンを用意して、そこにウタはサインを書いた。「チョッパーへ」というおまけ付きで。
「ありがとう! これおれの宝にするな!」
「あはは! それだけ喜んでもらえると私も嬉しいな~」
サインを大事そうに掲げて目を輝かせている。その可愛らしい姿に、ウタは我慢ができなくなってチョッパーを抱き締めた。
「手配書でも思ってたけど本物はやっぱり思ってたよりかわいい~!」
「ど、どうしたらいいんだおれ……!」
「ウタの気が済むまでそのままでいてやってくれ」
「サンジに知られたら怒られそうだ……」
「ねぇねぇレイリー。おでんのこの日誌ってどこまでが本当?」
「! 君が持っているのか。……おでんは嘘を書くような男ではないが、多少誇張した表現はあるだろうな。ほぼ全ては本物と思っていい」
「そうなんだ。じゃあこのページの──」
ウタとレイリーの会話が途切れたことで、ここだと言わんばかりにヤマトがレイリーと話を始める。話の内容はおでんの日誌に沿ってだ。
それを横目に、今度はウタとチョッパーを交えて4人で会話が回っていく。チョッパーには現状で麦わらの一味がどこまで集結しているかも話した。
「ねえチョッパーちゃん。私たちも船に乗せてくれない?」
「え!? おれは嬉しいけど……船長じゃないし……」
「チョッパーちゃんからも後押ししてほしいんだ。ルフィなら断らないと思いたいけど」
「ルフィのことも知ってるのか?」
「うん! だって私とルフィは幼馴染だもん」
「ええぇぇぇ!? ルフィとウタが!? なんで!?」
「その話はルフィと会ってからかな。で、どうかな? 提案してみてくれる?」
「……わかった。やるだけやってみるよ」
「やった! ありがとうチョッパーちゃん!」
「そんな礼だなんて、嬉しくねぇぞこのやろ~」
「嬉しそうだな……」
表情が完全に緩みきっている。照れくさそうにもしており、褒められることに慣れてないのかもしれない。
ウタもくすりと笑い、思い出したようにサクラ王国に行ったことをチョッパーに伝える。
「サクラ王国?」
「ドラム島だよ。ドルトンさんが国王になって、国の名前はサクラ王国にしてる」
「ドラムにも行ってたのか!?」
「Dr.くれはも元気にしてたよ」
「そうなのか~! よかった。おれちゃんとお別れは言えてなかったから」
「どこに行っても、チョッパーちゃんが医者の本分を忘れてなければそれでいいって」
「サクラ王国の国旗も、サクラと髑髏を描いたやつだったぞ」
「え……!! 本当か!?」
「うん! 偉大な医者の意志を継ぐんだって」
「ドクターの……。ぅぅぅっ……!」
かつてヤブ医者と呼ばれ、国民から厄介者扱いされていた男。だが誰よりも患者のことを想い、誰よりも国のことを憂いていた。チョッパーに名をあげ、育て上げた男。チョッパーの父親。
その彼が掲げていたものこそ今の国旗となっている髑髏。不可能を可能にするマークだとチョッパーに教えたあのマークだ。
それを伝えられて胸に何も来ないわけがない。誰も信じられなくなったチョッパーが心を開き、今の優しさを取り戻させた彼のことを、何も思わないわけがない。
ぽろぽろと落ちる涙を、見られないようにと俯いたチョッパーは、しばらくしてから涙を拭いて顔を上げた。
「教えてくれてありがとな」
「いいよこれくらい。それにお礼は、船を守ってくれた彼らに言ってあげて」
ウタが向いた方向には、包帯ぐるぐる巻きになっていていかにも大怪我しましたと物語っているハンサム、デュバルがベッドにいた。彼の部下の一部も側にいる。
「うおぉぉぉ!? その怪我大丈夫なのか!? 医者ぁぁぁ!!」
「お前だろ」
「そうだった!」
「病院で治療は受けてるけどね。チョッパーちゃん、経過観察してもらっていいかしら?」
「もちろんだ!」
チョッパーがデュバルの下へと駆け寄る。チョッパーはトリノ王国に飛ばされていたため、薬学の知識がより深まった。戦闘面はもちろん、治療面でも頼もしさが増している。
「こんなボロボロになるまで……ありがとうなデュバル」
「いいってことよ。大恩人のためならこの負傷も名誉ってもんだ!」
「お前らだけでサニーを守ってくれてたのか?」
「いやいや。他にも協力者はいたぜ。魚人のハチとか」
「ハチも? ハチは大丈夫なのか?」
「ハチなら魚人島で療養している。君たちが集まるまでここで船を守れなかったことは、悔やんでいたがね」
「そうなのか。会ったらハチにもお礼言わなきゃ」
「さて、ベルナート。君たちはこの後どうする?」
「そうですね……麦わらの一味とは一応接触できたし、明日にはソウルキングに会うから、適当にどこかで時間潰します。今回はこの諸島のホテルに泊まるので」
「そうか。ルフィも近いうちに上陸するだろう。彼のいる島からここはそう遠くないからな」
「なんでレイリーが知ってんだ?」
「ふふっ、レイさんはモンキーちゃんに修行つけてたのよ」
「すげぇ!!」
「ふふふ、私が教えたのは覇気の基礎だがね。2年では期間が短い。半年前に私はここに戻ってきたから、その間にルフィがどれだけ成長したか楽しみだ」
そういえば覇気の修行は難しいんだったなと、ウタもクライガナ島でのことを思い出してうんうんと頷く。ベルナートもヤマトもすでに身につけているため、その事がすっかり頭から抜け落ちていた。
「そういえば町で妙なチラシありましたね」
「妙なチラシ? おれ見てねぇぞ?」
「麦わらの一味が仲間を募集してるってやつね」
「そうなのか!?」
「なんでチョッパーちゃんが驚いてるの……。偽物がルフィの名を語ってるんだよ。ほら、2年間活動してなかったから、死んだとも噂されてるの」
「偽物……そんな奴らが出てくるなんて……! おれたち有名人みたいじゃねぇかこのやろ~」
「嬉しそうだな」
ウタにサインのコツを聞くチョッパーを見るに、純粋に捉えているらしい。嘘に弱いことが明かされた。レイリーやシャッキーはそんなチョッパーを温かい目で見守る。
「ほんと、ルフィの名を騙る人が出てくるなんてね」
「あ、ウタとしては怒るポイントなんだね」
「私よりルフィが有名人みたいじゃない! 私の偽物まだ出てきてないのに!」
「そっち!?」
「お? ウタそれ負け惜しみか?」
「違う!」
「いひゃいれす」
ニヤニヤしていたベルナートの頬を摘んで黙らせる。ウタとしては、負けたなんて微塵も思っていない。ルフィに183連勝中の歌姫なのだ。知名度だって負けてるなんて思わない。
「ウタの偽物は出ないんじゃないかな」
「なんでよヤマト」
「だって君の歌唱力に並ぶ人はいないだろ? 今じゃもう世界一の歌姫と評されてるんだし」
「…………まあそうだよね~。私の方がルフィより上だもんね~」
「あれ、そう受け取るんだ……」
世界一は誰かが成りすませるものではない。つまり成りすましが出てきているルフィはまだまだ。ということで、ルフィより上にいる。私の勝ち。
これがウタの脳内で弾き出された結論である。察したベルナートはやれやれと肩をすくめ、反対の頬もウタにつねられた。
「ホテルで休むにしてもまだ時間があるでしょ? 町にショッピングでも行くか、シャボンディパークにでも行くか。何にしても早いうちに動いたほうが時間も多く使えるわよ」
「シャボンディパーク! また行こうよベルナート! 再全制覇!」
「遊園地!? おれもまた行きてー!」
「その前に鉄人フランキーに会いに行こうよベルナート! シャボンディパークはその後に行ける! 改造人間を早く見てみたいんだよ!」
「いててて! 待てお前ら腕を引っ張り合うな!」
「あらあら、人気ねベルナート」
「ふふふ、いい縁ができたじゃないか」
「楽しんでないで止めてもらっていいですか!?」
料理スキル事情
ウタ……簡単なものしか作れない
ベルナート……好きな料理しか作れない
ヤマト……ゴードンに頼まれてレパートリー増やした