たった1つの笑顔   作:粗茶Returnees

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そして再会

 

 ベルナートの睡眠時間は基本的に短い。しかしそれは海の上での話になる。単独か少人数での船旅ばかりしていたからだ。赤髪海賊団にいた頃なら長時間の睡眠が毎日取れていた。

 要はその時の環境次第というわけだ。

 今回のようにホテルでの宿泊となれば、ベルナートの睡眠時間は長くなる。と言ってもそれはあくまで比較的にそうなるだけ。時間にして7時間から8時間。一般的に健康的とされる長さである。

 

「ふふっ、かわいい寝顔」

 

 こういう環境での睡眠となるとベルナートの睡眠は深くなる。完全に気を抜ける状態だから、寝顔もリラックスした状態のものだ。

 普段の頼もしさを感じさせない寝顔に、ウタは柔らかく微笑んで頬をつつく。

 

「もうそろそろで起きるのかな」

 

 客室にある時計で時間を確認。就寝した時間から考えれば、そろそろ起きる頃合いだろう。ウタが先に目を覚ましたのは、こういう状態のベルナートの寝顔を普段見れないからだ。

 相棒(パートナー)の希少な姿は見てみたくなる。

 ベルナートが寝ている間に着替えを済ませようかとも考えたが、着替え中に起きられると恥ずかしさで死ねる。そういうリスクは犯したくなかった。

 

「ん……」

 

「やっぱり起きた。おはようベルナート」

 

「ああ……おはようウタ」

 

 横を見ると、ベッドに寝そべりながら顔を覗き込んできていたウタが見える。髪を下ろしている姿は、こういう身支度を整えていない時しか見られない。ファンに嫉妬で刺されるかもなと思いながら体を起こし、一瞬止まってからもう一度横を見た。

 

「ん? どうかした?」

 

「いや…………なんでウタと同じ部屋にいるんだっけなって。オレ1人用の部屋にしようとして……」

 

「ヤマトは男だから私と同じ部屋はやめようって話になったでしょ?」

 

「そうだったな。うん」

 

「それで、ヤマトがベルナートと寝るって言うから代わってもらったんだ」

 

「おかしいなそこの記憶だけオレないぞ」

 

「こっそり代わってもらったからね!」

 

「心臓に悪いから先に言ってくれよ……」

 

 先に言われたらベルナートが拒むことは目に見えていた。だからウタは言わなかったし、ヤマトも面白がってウタに加担した。

 実際のところ、事前に言われて拒んだところでウタを説得できるわけもないのだが。ベルナートはウタのゴリ押しを止めきれない。とはいえ戦闘などの危険な状況ならその限りではない。ウタもそこは自重する。

 

「心臓に悪いの? なんで?」

 

 主に彼女の父のせいである。

 それ以外にも理由はあるが。

 

「目覚め一発目に眼前にウタの顔があるとな……」

 

「ひどい! そういう言い方しなくたっていいじゃん!」

 

「ごめんそういう意味じゃなくて」

 

「じゃあどういう意味」

 

「目を覚ましたらかわいい顔が目の前にあるのは心臓に悪いってこと」

 

「かわいいって言ってくれるのは嬉しいけど、なんかなー」

 

「なに?」

 

「ううん。いいよ」

 

「え、気になるやつ……」

 

 紛らわしい言い方をしたのがそんなにまずかったかなと振り返っている姿を、ウタは優しく目を細めて見つめた。

 

(私はベルナートをすぐに見れて嬉しかったのに、なんて言えないや)

 

 なんとなく、急に恥ずかしさを感じたのだ。

 

「2人とも起きたみたいだね。早く着替えてご飯食べに行こうよ。ウタはライブも控えてるんだし」

 

「ノックしろと言いたいが、ヤマトの言うとおりだな。すぐに支度するか」

 

「そうだね」

 

「ノックされないと困るようなことがあるのかい?」

 

「ないけどさ」

 

 自分の荷物を持ったベルナートは、ヤマトが使っていた部屋を一時期的に借りてそっちで着替える。ウタはそのままそこで着替えた。下ろしていた髪のセットも終えると、廊下で待っていたベルナートとヤマトと合流。

 

「ブルックさんとの打ち合わせもあるんだよね」

 

「そうだな。ご飯を食べ終わったらライブ会場がある33番グローブに向かおう」

 

「僕は一足先に17番に向かっとくね。船に行っとけば麦わらの一味に会えるし!」

 

「面倒なことだけはするなよ。頼むから」

 

「信用ないなー。フランキーには昨日会ってるし大丈夫だよ」

 

 結局昨日はヤマトの方を優先した。チョッパー以外にも麦わらの一味と接触できておいた方が、後々楽だろうと打算もあってのこと。ゾロに会えればいいのだが、どうにも動向が掴めない。

 最悪レベルの方向音痴は、探す側にとって難易度が最上級だ。

 なんにせよフランキーとは打ち解けることができた。チョッパーにもついてきてもらったおかげだろう。これならヤマトを単独で向かわせても、おそらく大丈夫である。

 余談にはなるが、チョッパーとベルナートはフランキーの姿に興奮し過ぎて死にかけた。

 

「それじゃあ僕は行くね」

 

「急いで食わなくてもいいだろうに……」

 

「落ち着かなくてね。麦わらのルフィはいつ来るかな」

 

「今日か明日にでも来るんじゃないか? レイさんの話的にはそうだった」

 

「楽しみだよ。船を移動させるってなったら僕のビブルカードを追ってね」

 

「電伝虫使えよ」

 

 

 

 

 

 

 世界的な歌手として名を知らしめているウタだが、彗星の如く音楽界に現れたのはウタだけではない。

 それがソウルキングと称されるスター。ブルックである。

 その見た目はアフロの生えたガイコツ。そういう特殊メイクかと思いきやこれが本当に骨だけの人間。悪魔の実の能力者であることは、今ではもうすっかり知られている話だ。

 

「お久しぶりですねウタさん。またお会いできて光栄なんだぜ。今ではすっかり世界的な歌姫になられて」

 

「ブルックさんこそ世界的な大スターになってるじゃん。ソウルキング。そう呼ばれるのもわかるよ。ブルックさんのウタは魂に響いてくる」

 

「ヨホホホ、ありがたいお言葉です。では再会できた記念に、パンツ見せてもらってもよろしいですか?」

 

「うん無理」

 

「ヨホホホ! 冷めた目が胸にぐさりと刺さったぜ。私、刺さる胸ないんですけどー!! ヨホホホホ!」

 

「相変わらず陽気な人だね。早速だけど打ち合わせした方がいいんじゃない? 今日のライブは時間早いみたいだし」

 

「ええ。そうですね。今回、ウタさんが歌われることは完全にシークレット。とびっきりのサプライズ出演とさせていただくんだぜ!」

 

 出演するタイミング。コラボして歌う楽曲。今回がブルックのツアーの最終公演であることから、アンコールも当然予想される。それを想定してどの歌を歌うのか。

 そういった詳細を、土壇場ではあるが急ピッチで詰めていった。

 

「ブルックさんのライブなんだし、アンコールの時はブルックさんだけが登壇したほうが良いと思うんだけど」

 

「いえ、ウタさんの出演はライブの後半も後半。観客のボルテージも最高潮になると思うんだぜ。ならここは、そのままウタさんにも付き合ってもらいたいんだぜ」

 

「……わかった。そういうことなら私も最後まで付き合う。いいよねベルナート?」

 

「それはもちろん。思いっきり楽しんでこい」

 

「うん!」

 

「懸念すべきはウタさんの能力ですが……」

 

「あ、大丈夫だよブルックさん。能力を乗せずに歌えるようにもなったし、今回は使う気ないから」

 

「なら安心なんだぜ。では、最高のライブを」

 

「最高のライブを!」

 

 

 

 

 

 

「そういう流れでブルックとウタのコラボライブがあったわけか」

 

「通りで町中ライブの話で盛り上がってたわけだ。行きたかったなー!」

 

「おれも昨日教えてほしかったぞウタ!」

 

 フランキー、ウソップ、チョッパーの話を、ウタは困ったように笑って受け止めた。

 ウタの出演がシークレットだった以上、話すわけにもいかなかった。何よりもブルックのライブはチケットが完売。昨日教えていたとしても、どのみち参加はできなかった。

 

「関係者席とかなかったのか?」

 

「そういった席は用意していませんでしたね。私が麦わらの一味の人間ということは、今日知られたわけですし。ウタさんは海賊嫌いで知られていますし」

 

「それもそうか」

 

「それにしても驚いたわ。まさかあのウタがルフィと幼馴染だっただなんて」

 

「ふふっ、ルフィはそういう話しないものね」

 

「ええっと、ナミさんとロビンさんだよね。手配書と少し違うだけで会ってるかわからなくなってくるや」

 

「手配書は2年前のものだものね~。ルフィももう上陸はしたみたいだし、再集結までもう少しね」

 

「チョッパーお前迎えに行くって言ってなかったか?」

 

「そうだった。それじゃあおれ行ってくるよ」

 

「僕も行っていいかな!」

 

「大人しく待てこのバカ!」

 

 早くルフィに会ってみたいヤマトが同行しようとし、それをベルナートに抑え込まれる。互いに覇気を使っているあたり、今回は本気のようだ。

 人様の船で暴れるなとウタが2人を抑制。戸惑いながらもその間にチョッパーは、トリノ王国で仲良くなった大型の鳥に乗ってルフィたちを迎えに行った。

 

「僕は早く仲間に入れてもらいたいんだ!」

 

「わかってるって。直接交渉は麦わらとお前でやればいい」

 

「……引き止められないのはそれはそれで複雑だよ」

 

「ヤマトの自由と意思を尊重したいだけなんだが……」

 

「そういうとこだよベルナート」

 

「ええ……」

 

 ウタにもダメ出しされてしまったベルナートなのだが、麦わらの一味はそれどころではない。ヤマトが加入したがっていることを、たった今聞いたからだ。

 ルフィの幼馴染。その友だちという認識しかなく、言ってしまえば素性をほぼ知らない相手だ。打ち解けてはいるものの、そうすぐに受け入れられるものでもない。

 

「ルフィさんならOKを出しそうですけどね」

 

「「たしかに」」

 

 初対面なのにブルックを勧誘していたり、初めは敵対していた相手を仲間に入れていたり。その懐の深さは、麦わらの一味がよく知るところである。

 

「何にしてもルフィが来ないと始まらないわね」

 

「じゃあ待ってる間に1曲歌っちゃおうかな」

 

「うおぉぉ! 歌姫ウタの生ライブ! いいのか!?」

 

「もちろん! ブルックさんもよろしく」

 

「お任せあれ!」

 

 船に乗せてもらおうというのだ。歌でお礼くらい安いものである。少なくともウタはそう考えているし、世界一の歌姫の生歌を聴けることに一味も大喜びである。

 人気が高くなっているウタのライブは、チケット完売が当たり前となっている。ワールドツアーを何度も行うことを宣言していても、我先にとチケットを欲しがる者は多い。特にエレジアでのライブはそうなる。

 そんなウタの歌を聴けるともなれば、ファンであるウソップの喜びようも頷けた。

 

 そうやって時間を使っていたところ、ヤマトと並んで座っていたベルナートが腰を上げて空を見上げた。ヤマトもそれに気づき、ウタも空を見上げる。

 まだそこには何もないが、耳をすませると鳥の羽ばたく音が聞こえる。この音は先程聞いたものと同じだ。

 

「久しぶりだなーお前らー!! ん? 知らねぇ奴も混ざってんな」

 

「び、びびび美女ーーー!!」

 

「うおおっ!? サンジが鼻血で飛んだぁー!?」

 

「あれは……なんであいつらも船にいるんだ」

 

 盛大に鼻血を撒き散らしながら船に墜落したサンジを、チョッパーが慌てて止血し始める。もちろん鳥にちゃんと礼を言ってからだ。

 ルフィとゾロも船に降り立ち、これでとうとう麦わらの一味が再集結した。

 麦わらの一味にとって、2年ぶりの再会。

 それを上回る年月ぶりの再会となる彼女は、フランキーの姿に目を輝かせているルフィに飛びついて抱き締めた。

 

「なんだなんだ!?」

 

「背は高くなったけど、相変わらずみたいだねルフィ。久しぶり!」

 

「……ぇ……ウタぁ!?」

 

 

 




「あの小娘ルフィと抱擁を交わしておらんか?」
「……我々は何も見えてませんわ蛇姫様」
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