たった1つの笑顔   作:粗茶Returnees

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麦わらと深海と

 

「んでー、なんでウタがここにいるんだ?」

 

 今はもう海の中。海軍が迫ってきていたがために出航するしかなく、ヤマトの加入申請やらウタとの再会やらは一旦後回しにされた。その上でフランキーの口からバーソロミュー・くまの話も終わり、落ち着いたところでルフィが改めてウタに聞いている。

 

「久しぶりにルフィに会いたいな~って思って。その胸の傷は?」

 

「これか? これは戦争の時に赤犬にやられたやつだな。おれ意識飛んでたから後から聞いたけど」

 

「……聞くだけで壮絶だったのが伝わってくるね」

 

「いろんなやつのおかげで助かったからなー。会ったら礼を言おうと思ってる」

 

「それがいいね」

 

「久しぶりの再会で積もる話があるのもわかるけどよ。まずは紹介してくれねぇか? 2人がいつ会ったとか」

 

 ウソップに促され、そうだなと頷いてルフィはさらっと暴露した。ウタがシャンクスの娘であることを。

 

「ルフィの恩人の娘!?」

 

「あの赤髪に娘がいたなんて聞いたことがないわね」

 

「血が繋がってるわけじゃないからね。フーシャ村を拠点にしてた時期があって、私はそれでルフィと出会ったの。いろいろ勝負したなー」

 

「ウタが183連勝中だったか」

 

「違う! おれが183連勝中だ!」

 

「でた! 負け惜しみ~」

 

「双方の認識の違いが大きいわね」

 

「ウタは今何してんだ?」

 

「おまっ! 知らねぇのかよ! 歌姫(プリンセス)ウタは世界的に有名なアーティストだぞ!」

 

「ワールドツアーを何度も行うことでも知られてるわね」

 

「おれサインもらったんだ!」

 

「へ~。すげえなウタ! ()()()()()()()()()()()()()!」

 

「っ! ……うん、まあね」

 

「?」

 

 ルフィはシャンクスから「ウタは音楽家になるために船を降りた」と聞いている。そして今こうして音楽家として有名になったウタとの再会だ。ルフィがそう思うのも無理はない。

 ウタとしては、「ルフィはそう聞いてたんだ」と内心で思うしかないが。

 

「それにしても不思議ね。ウタは海賊嫌いとして知られてるのに、四皇シャンクスの娘で、うちの船長とは幼馴染だなんて。しかも今も仲いいみたいだし」

 

「いろいろあったんだ。でも海賊嫌いなのも本当だよ。暴力とか嫌いだもん」

 

「相手によるというわけね」

 

「まーおれたちのことをどう思うかは自由だしな」

 

「……ウッ……いつの間にか気を失ってたみたいだな。出航までは記憶あるんだが……」

 

「サンジお前、船が沈むのに合わせて気絶してたぞ」

 

「うちの船に美女が増えてる夢を見たんだが」

 

「美女だってヤマト」

 

「僕は男だから君のことだよウタ」

 

「いや両方だろ」

 

「ブハッ! ここが……楽園……!?」

 

「サンジーー!! お前血を流し過ぎだぞ! 輸血の予備が足りなくなるからリハビリ始めるぞ!」

 

 サンジを担いだチョッパーはそのまま医務室へと引っ込む。刺激の少ない女の写真を使って、少しずつ女に慣れさせるらしい。

 

「女性大好きのサンジさんの身に何が……」

 

「……あぁ、女好きなのにカマバッカ王国いたらそうなるのも、無理はない……かな?」

 

「なんでお前がぐる眉の飛ばされた場所知ってんだよベルナート」

 

「ちょっとした縁でな」

 

「縁?」

 

「革命軍ね。カマバッカ王国の国王は革命軍幹部のエンポリオ・イワンコフ、そこ繋がりということかしら」

 

「イワちゃん知ってんのかベル()!」

 

「直接の面識はないけどな」

 

「革命軍のボスは、一度くらい顔を出しに来てほしいと言っていたわよ」

 

「そう言われてもなー」

 

「ロビンは父ちゃんのとこにいたのか?」

 

「ええ。いろいろと学ばせてもらったわ」

 

 世界的大犯罪者たるドラゴンと接触していたなど、ビッグニュースもビッグニュースなのだが、ルフィはそういうことは気にしない。どういう奴なんだろうなーぐらいしか考えていなかった。

 それとある意味対象的なのはウタだ。どういうことだとベルナートに詰め寄っている。

 

「なんで革命軍と? タイミング的に、私と会った後だよね?」

 

「……元々革命軍からは勧誘を受けてたんだよ。断ってるけどな」

 

「じゃあなんで今も繋がりがあるの? ……側にいてくれるって言ってたのに」

 

「それは守る。革命軍に入る気は今もない。ただ、協力できることは協力することになった。と言っても情報共有が基本で、あとはその場に居合わせない限り応じない」

 

「……」

 

 素直に納得しきれる話ではなかったが、ベルナートを束縛するのも違う。ウタはこの話から引き下がることにした。

 話題を切り替えたのはフランキーだ。初対面というていを感じさせないゾロに引っかかっており、そこを掘り下げることに。

 

「ゾロもベルナートと知り合いだったのか?」

 

「まあな。おれがいた島に1ヶ月ほど滞在してたんだよ。そっちのヤマトはその時いなかったけどな」

 

「思い返すと懐かしいな。あの時より数段も強くなったようだ」

 

「再戦といきたいところだが」

 

「コーティング船の上で暴れてもな。下手したら全員溺死になる」

 

「よかった。うちのバカたちと違ってまともな人で」

 

 ほっとナミが胸を撫で下ろした。フランキーの姿に興奮するあたりはルフィたちに感覚が近そうだが、常識はちゃんと備わっている。

 

「ウタとベルナートはいつ知り合ったの? ゾロの話だとヤマトは後からみたいだけど」

 

「1年半前かな? ベルナートが漂流して死にかけで浜にいたところを、私とゴードンで助けたのがきっかけ」

 

「ゴードン?」

 

「エレジアの国王のことね。ウタに音楽の指導をした人としてもその道で有名な人よ」

 

「私もお会いしたことがありましたが、音楽への理解と愛の深い方でしたよ。いつかエレジアに行きましたらぜひとも合奏してみたいものです」

 

「へ~。すげー人がいるんだな」

 

「エレジアは世界政府への加入も済ませていたわね。一度滅んだ国が再興するのは並外れた難しさがあるものだけど」

 

「そこはウタのファンのおかげだね。グッズ代はすべてそっちに回ってるし、音楽好きもエレジアにまた集まってる」

 

「上奏金も最近払えたからな。ガープさんとバギーの助けもあったし」

 

「じいちゃんとバギー?」

 

 情報をまったく持っていないルフィにとって寝耳に水の話ばかり。初めは疑問を持っていたり驚いたりとしていたのだが、だんだんと容量がパンパンになっていった。

 

「いろいろ話したけど、要はベルナートは私の大切な相棒(パートナー)ってこと」

 

「なるほどな~」

 

「……後ろから誰か来るな。海獣に船を引かせてる」

 

「え?」

 

「うおっ! 本当だ! 後方から海賊船!」

 

 ウソップが報告し終えた頃に接敵。相手側の船から乗り込もうとしてくるのだが、ベルナートはウタを下がらせながらケラケラと笑っている。未来視でこの後の展開が見えているからだ。

 

「野郎ども~! ガトリング銃で~~皆殺しにしちゃっ──」

 

「君の部下の船なら離れていったよ?」

 

「て…………え!?」

 

 その男、カリブーが捕まえていた海獣の名はモーム。かつて東の海にいた海獣であり、麦わらの一味とはちょっとした……踏んだり蹴ったりな因縁があった。それはもはやトラウマレベルのようで、ナミとルフィの姿を見た途端泣きながら逃げたのである。

 

「ルフィあの子に何したの?」

 

「さぁ? 覚えてねー」

 

「絶対いじめたでしょ。あんなかわいい子を」

 

「どうだったっけな……」

 

「ルフィ?」

 

「ほんとに覚えてねーんだって」

 

「振り回して投げ飛ばしてたな」

 

「ルフィ!!」

 

 ウタが叱り、逃げるルフィを追いかける。完全に子どものやり取りなのだが、麦わらの一味は誰も止めずに笑いながらそれを見守っていた。ベルナートとヤマトも同様だが、カリブーへの警戒は緩めていない。

 

「さてと。自然(ロギア)系だからってタカを括るなよルーキー」

 

「な、なんのことだかァ……」

 

「ウタを捕まえて売ろうなんて考えられた日にゃあ、オレはオレを抑えれる自信ないぞ」

 

 カリブーににこやかにアイアンクローをしているベルナートだったが、その目は一切笑っていない。覇気のことを知らないカリブーでも、下手なことをしたら命が危ぶまれると心底思い込まされたレベルだ。

 隣で見ていたヤマトもやれやれと肩を竦めている。ベルナートほどでなくとも、ウタに何かされるならヤマトも黙っていない。止める気はなかった。

 

「そいつどうすんだ?」

 

「海楼石でもあれば楽なんだが、さすがにないだろ?」

 

「ねぇな」

 

「縄で縛っとこ。もしその縄から抜けたら敵意有りと判断すればいい」

 

「そんな物騒なことしちゃわねぇでよ~」

 

「ガトリング銃とか言ってた奴が何言ってんだ。ヤマトその時はよろしく」

 

「僕?」

 

「そいつぐらいなら大丈夫だろ。オレは寝る」

 

「あ、仲間にしてもらうために貢献ポイント増やせってことか。わかった!」

 

「うちポイント制だったか?」

 

「あとそろそろ寒くなるから上着着とけ」

 

「侍はそんなの寒くないよ」

 

「いいから着ろ」

 

 ため息をつきながらコートでヤマトを包む。「寒くないのに」と頬を膨らませているが、ただの痩せ我慢になることは目に見えていた。ベルナートはヤマトの言い分を無視して袖を通させる。

 それが終わるとベルナートは芝生の甲板で早速寝始めた。その就寝の速さはゾロにも並ぶことだろう。剣士が身につける技なのかとウソップもツッコみたくなったとか。

 

「あれ? ベルナート寝てるんだ」

 

 ルフィを追いかけ回すのも終わったウタは、自分の上着を着ながら甲板に戻ってくるとベルナートの側に寄っていく。

 

「その侵入者をどうするかだけ決めて寝たわね」

 

「そうなんだ。まあもしこの船が本当に危なくなったら、その時は起きてくれるよ」

 

「ベルナートって強いの?」

 

「強い、どころじゃないわナミ。彼の懸賞金は5億ベリーだけど、実力はその倍以上と言われてる」

 

「つまり10億超え!?」

 

「ええぇぇ~~!? なんでそんな怪物がこの船にいちゃうわけェ~~!?」

 

「ヨホホホホ。ウタさんにSPなどがいないのも納得ですね。彼以上のボディガードはいないでしょう」

 

 ブルックは手長族の会社に所属していた。それは社会的な立場を守るものでもあり、ブルックを外敵から守る鎧ともなっていた。

 しかしウタは未だに単独。海軍中将や王下七武海との繋がりを明かして抑止力を作っているが、ウタを直接側で守る存在は明言されていない。

 その謎も今の話が納得の回答となる。ウタにそれは必要ないというだけのこと。

 

「ベルナートは海賊じゃないんだけどね~。過去が過去だから賞金首になってるだけ」

 

 ぺたりと女の子座りしたウタは、寝ているベルナートの頭を自分の膝に乗せた。ベルナートの前髪をそっと横に撫で、その顔を見えやすくする。

 ウタだからこそわかることだが、ベルナートは今回深めの睡眠に入っていた。それこそウタの言った通り、相応の危機がない限り起きないだろう。

 

「あははっ。お邪魔させてもらってるのにくつろぎまくってるね」

 

「いいわよそれぐらい。ウタの大切な人なんだし、いてくれるだけで心強いし」

 

「ありがとうナミさん。……私もヤマトも航海術があんまなくてね。ベルナートの負担がどうしても大きくなっちゃうんだ」

 

「ベルナートが航海士なのね」

 

「そんな感じ。それに、1人旅の時期も長かったみたいだから。こうして船の上で完全に他人に任せられる環境なのは、たぶん10年ぶりとかなんじゃないかな」

 

「10年……!?」

 

「たぶんね。……だから、私もゆっくりさせてあげたい」

 

 膝の上ですやすやと眠るベルナートの髪を、ウタは慈しむようにそっと撫でる。

 休ませられる時に、ちゃんと休ませてあげたい。自分だけではそれが叶わないという事実は、ウタにとって悔しいところだ。

 

「まあでもよかったよ」

 

「なにが?」

 

 にかっと笑顔を浮かべるルフィに、ウタだけでなく全員が首を傾げた。突拍子もないことを言うのは今に始まったことではないが、付き合いがあっても真意までを察するのは難しい。

 

「ウタにも大切な仲間ができてよ。しししし!」

 

「仲間……まぁルフィの言い方ではそうなるのかな」

 

「ウタがシャンクスの船を降りたって聞いた時は驚いたけど。音楽家になってウタの仲間もできたのがなんか嬉しいな」

 

「……ま、私もベルナートに会えて良かったって思ってる」

 

「歓談中悪いが、下降流が見えてきたぞ」

 

「うぉぉ!! すげぇ!! 巨大な滝みてぇだ!!」

 

 舵を取るフランキーの言葉を聞いて、ルフィやナミたちは前方甲板へ。深層へと下るための海流に興奮を見せる。

 だがそこに待ったをかけたのは、捕縛されているカリブーだ。その海流の先に、伝説上の生物が居座っている。

 

「クラーケン!?」

 

「あんなのいなかったよね?」

 

「私たちが通った時はいなかったね。最近ここに来たんじゃないかな」

 

歌姫(プリンセス)ウタもヤマトもよく落ち着いてられるな!?」

 

「興奮を抑えてるだけだよ。あんな生物初めて見たもん!」

 

「ベルナートが寝てるから、クラーケンぐらいなら大丈夫ってことだし」

 

「ぐらいってあれ怪物なんですけど……」

 

 ヤマトからすればクラーケンは脅威には思えない。ここが深海であることは問題だが、それ以外は何も問題にならない。父親たるカイドウのほうがよっぽど怪物だ。

 ウタの場合はベルナートに全幅の信頼を寄せている。その彼が未だに眠っているままなら、ルフィたちで対処可能だということ。ちょっと手持ち無沙汰だなと思ってベルナートの手に触れながら子守唄を歌いだしている。

 

「いいこと考えたー! あいつ手なづけよう!!」

 

 聞こえてくる幼馴染の発言は、相変わらずの様子を感じさせながらも頼もしさも同時に感じさせる。

 

(少しはあの帽子が似合うようになったのかな)

 

 

 




・スルメがペットになったぞ
・ベルナートは魚人島に着くまで起きなかったぞ
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