麦わらの一味の魚人島入国はなんともワイルドな不法入国となった。それもこれも新魚人海賊団のせいなのだが、とかく一行はバラけることに。単独で陸に上がった者もいれば、何人かで固まっていた者も。
ベルナートは直前で起きたことで、今はウタと一緒にいる。しかし他には誰もおらず、ヤマトともはぐれてしまった。
「けほけほっ!」
「大丈夫かウタ?」
「……うん。……大丈夫。落ち着いた。それにしてもさっきの人たちは何だったんだろ」
「海獣を従えてた奴らか。……この国が抱えてる問題だな」
「あの人たちが?」
「あいつらがというか、根はもっと深い。その辺は魚人側から説明を聞いたほうがいいだろうな」
「しらほしも知ってるのかな」
「それなりに知ってるだろうが、ネプチューン王に話を聞けるのならその方がいい」
「じゃあ会いに行こうか」
「その前に服をどうにかしないとな」
「服?」
きょとんと小首を傾げられて、ベルナートはなんとも言えない表情になる。言葉にしたほうがいいのだろうかと悩むと、言えと目で語られた。
「濡れてるから服が体に張り付いてる」
そう言われて体を見下ろしてみると、水気をたっぷり含んだ肌がたしかに張り付いていた。ボディラインがわかるような服は普段から着ているものの、張り付くとなると話が変わってくる。
ウタは白い服を好み今も着ているわけだが、端的に言うと肌が透けてしまうのだ。
それを自覚した途端ウタは顔が熱くなるのを自覚し、慌てて腕を交差させて胸元を隠す。
「~~ッ!」
普段から露出が多めの服を着るナミと違って、ウタの着る服は露出控えめだ。脚はそうでもないが、それより上はいつも見せない。
そんなウタにとって今の状況は非常に恥ずかしいもの。涙目になりベルナートを睨みつけた。
「オレのせいじゃないんだけど……。とりあえず乾かすか」
「え!?」
「あー、脱がなくていいぞ。とりあえず風で水気飛ばす。あとは新しい服を調達しに店に行こう」
「……風ってどうやって?」
「そのままそこ立っといて」
ベルナートが刀を振るった途端、ウタの周囲で強風が発生する。思わず目を瞑っていたウタは、風が止むとゆっくり目を開けた。完全にではないが、服は乾かされていた。少なくとも透けることはない。
「器用どころじゃないと思うんだけど」
「
「うん。でもその前に」
「ほぇ……いひゃいれす」
「乾かしてくれたけど、スカートめくらされたからその分ね」
「みへないれす」
「それとこれは別」
嘘はついていない。本当にベルナートは何も見ていない。その言葉を信用することはできる。ただし、見たかどうかよりもめくらされた事自体には文句もつけたい。それなら先に言えと。
「とりあえず、ヤマト探しに行こっか」
「あれ? 買い物は?」
「ヤマトも服濡れてるだろうし、どうせなら纏めて一緒に買いに行こうよ」
「それはたしかに。問題はどうやってヤマトを探すか」
「お得意のでどうにかならない?」
「この国は人口多いからな……」
「なら地道に探すしかないかな」
「どうにかなるけど」
「なるんだ!?」
「ヤマトの気配なら覚えてる。特定するのに時間かかるけど、ビブルカードも使えば早めに合流できるだろ」
「ならよかった。ヤマト何してるかな」
「満喫してることだけは想像できる」
「だね」
□
2人に捜索されているヤマトはと言うと、お菓子工場のある町で魚人島のお菓子を満喫していた。他の面々のことを気にかけはしたのだが、どう動けばいいかも判断が難しい。
それならばもういっそ魚人島を楽しんでおけばいいだろうと判断したのだ。ベルナートが無事なのはわかりきっており、ならばウタのことも心配いらない。合流するのはひとまず後回しだ。
「これも試食していいかな?」
「試食用のはいくら食べてもらってもいいけど、お客さん買う気ある?」
「買いたいんだけど僕今お金を持ち合わせてなくてね。友だちと合流できたら改めて買おうと思ってる」
「今別行動中なのかい? それとも迷子?」
「うーん、ある意味どっちも?」
「どっちもってどういう状況なんだい……」
試食用のを食べ切り、今度は違う商品の試食を始める。かれこれこれで4つ目の商品だ。
「ん~~、美味しい~~。魚人島のお菓子は本当に美味しいね! ビッグマムが縄張りにしたのも納得だよ」
「納めるお菓子の量は多いけどね。専用の工場までできた程さ」
「あっちにある建物のことだね。お菓子で済んでるなら平和な方だよ」
ワノ国と比べれば雲泥の差だ。同じ四皇の支配下にある島なのに。
白ひげの縄張りだった時は、そもそも見返りを求められなかったらしいが、それは白ひげの器の大きさあってのこと。
「このお菓子もよかったなー。どれをベルナートに買ってもらうか悩むな~」
「そろそろ自分の財布を持てよ」
「あ、ベルナート! ウタも! 思ってたより早かったね!」
「タクシーも拾えたおかげでな。それでどれを買うんだ?」
「どれも捨てがたいから悩んでるんだよ。全部1個ずつにしようかな」
「わりと種類あるんだが……」
「ベルナートのお小遣いからも出して」
「1個ずつだと分けれないだろ。自分の分で欲しいのを買え」
「えー。……ちなみに一通り買うと?」
「小遣い全部使う、なんてことにはならない。残りは少なくなるけどな」
「じゃあ全部買っちゃおうっと」
「いいんだ……。私もどれか買おうかな。……ヤマトのせいで試食残ってないけど」
「ははは! ごめんごめん! 美味しかったからつい!」
その店にあったお菓子をヤマトが全種類買い、ウタは気になったものをいくつか購入。ベルナートの分も立て替えて支払いを済ませていた。
「オレ何も言ってないんだけど……」
「ベルナートはこれ欲しいんだろうなって思って。違った?」
「合ってます」
「この後はどうするんだい? ルフィたちと合流する?」
「その前に服を買いに行くよ。海水でギトギトだし」
「僕は気にならないけど、ベルナートは?」
「ウタの買い物に付き合う。ヤマトも行ってみれば、いくつか服を見繕えるんじゃないか?」
「……合流の仕方もわからないし、ついていこうかな」
「一等地に行くか、モールに行くのもいいか」
「お客さんたち、服屋自体ならこの町にもあるよ。一度見てみてもいいんじゃないかい?」
「そうなの? じゃあ行ってみるね! ありがとう!」
店主に教えてもらい、その場所に移動する。
その店は決して大きな店ではないのだが、品揃えはなかなかに悪くない。ここで気に入ったものがあれば良し。なければ一等地ギョバリーヒルズにあるクリミナルに行くか、店が立ち並ぶモールに足を伸ばせばいいだろう。
店に入るとウタは早速女性物のコーナーに行き、手にとってみては悩んでいる。
「お客様。よろしければ試着もされてみては?」
「あー……うん、そうだね。気になるのを何個か見つけたらそうしてみる」
「畏まりました。お決まりになられましたらお声掛けください」
「うん! ヤマトもどんどん見ていきなよ」
「ここは女性物の場所だろう?」
「男性物は一応あっちにあるみたいだけど」
「行ってくる!」
早速ヤマトは男性物のコーナーに行き、手早く服を見ていってはいくつか手に取る。
後から見始めたのにヤマトの方が早く、何着か手に持った状態でウタとベルナートの下に合流。それからしばらくしてウタも試着するものを決め、店員に試着室へと案内してもらった。
「ウタは何着買うつもりだ?」
「気に入ったやつを買うつもり。たぶん3着とかかな」
「5分の3だな。ヤマトは?」
「着てみてから決めるよ」
2人はカーテンを閉め、着替えを始める。その間にベルナートはこの国全体のことを一度感知し、大きな気配がどこにあるのかだけ把握を済ませる。
「ベルナート。これどうかな?」
「いいんじゃないか? かわいくて」
「似合ってる?」
「似合ってる」
「年相応?」
「実年齢より若干幼く感じる」
「なるほどね~。あとで綺麗系も探してみようかな」
「真剣にいくつか買うんだったら、麦わらの女性陣を誘ってみたらどうだ? 女性の意見も聞けるし」
「それはありだね。それに今は着替え用に見繕ってるだけだったもんね」
「2人ともこれどうかな?」
そう言ってヤマトもカーテンを開ける。ウタは一度試着室から出て、ベルナートと一緒にヤマトの格好を確認した。
ヤマトはいつもワノ国の衣装を着ている。そのためいわゆる一般的な衣装というもののイメージと結びつかなく、新鮮味どころか珍しさすら感じられる。
ヤマトのセンスは悪くなかった。それ自体は悪くなかったのだが……。
「プリントが伸びてるな」
「そりゃあ……ねぇ?」
「……ヤマト。正直な感想言ってみろ」
「デザインすごく好きなのに胸が苦しい」
「「だろうね(な)」」
「男性用と女性用はそういうとこで違いが出てくるからな……」
「僕は女性用のは着ないぞ! いつも着ている服だってワノ国の男衣装だ!」
「知ってるけどさ……」
「私が見た感じだと、そういう系のデザインはこの店の女性物にはなかったと思う」
「麦わらの一味と合流したらモールの方に行ってみるか? 店が多いなら、女性用のでも似た系統のデザインの服はあるだろうし」
「……そうする」
わかりやすくテンションの下がるヤマトを宥めながら、ウタも再度着替えを始めた。ヤマトはもう試着自体を諦め、ベルナートと一緒にウタの他の服を見ることに。
「ズボンとかなら男性物でも着れるだろ」
「今はもういいんだ……。優しさが胸にしみるよ……」
「……」
気に入った男用の服が着れない。ヤマトの受けた衝撃はベルナートに推し量れるものでもなく、下手に何か言うのも控えて押し黙る。ウタのファッションショーと化した現状に、2人とも甘んじることにした。
そうやって3人で過ごしていると、何やら店の外が騒がしくなる。ウタが購入も着替えも済ませてから、外の様子を見に行く。
「まさか来ていたとは驚いた。君の入国は私の耳に届いていなかったぞベルナート」
「あれフカボシ。なんでここに?」
「少し用があって外回り中なんだが、君の気配を感じてね。君たちはいつ入国を?」
「今回は訳有りで不法入国した」
「……ふむ、麦わらの一味と何か関係が?」
「まあ、成り行きで船に乗ってたんだよ。魚人街の連中に入国の邪魔をされて、不法入国しか手段がなかった」
「……ここ最近人間の入国が減っていたのはそういうことか」
「ルフィたちに何か用事?」
ベルナートとは友人であり、ウタもしらほしと友人である。しかし麦わらの一味との関係もたった今示唆され、フカボシは一度熟考してから教えることにした。
ベルナートは基本的に海賊嫌い、それはウタも同じ。もしルフィがシャーリーの予言通りの行動を取った場合、ベルナートは間違いなく魚人島側につく。ならば先に懸念事項を教えていても問題ないわけだ。
「マダム・シャーリーの予言で、麦わらのルフィが魚人島を滅ぼすと出た」
「なっ!? ルフィはそんなことしない! 私の幼馴染なんだよ!?」
「!? ……ウタの言葉を信じたいが、マダム・シャーリーの予言の的中率も無視はできない。彼女の的中率は君たちも聞いているだろう?」
「もし何かあればオレたちが何とかするとして。それ以外にも何かあったみたいだな」
予言のことを聞いて俯くウタの頭をぽんぽんと撫でながら、ベルナートはさらなる情報をフカボシに求める。その慧眼さにはもはや驚きも出ず、フカボシはそれも話した。
人魚たちが行方不明になっているということ。これは麦わらの一味の入国とタイミングが重なるため、最重要参考人として麦わらの一味が疑われている。
そしてルフィ宛てにジンベエから伝言があるということ。
1つはホーディと戦うな。もう1つが海の森で待つというもの。
「ルフィたちは誘拐もしない」
「落ち着けウタ。状況的に疑われるのは仕方ない。海賊だしな」
「そうだけど……。だってケイミーとハチのために天竜人を殴ったんだよ? 誘拐なんてありえないじゃん!」
「ケイミー……たしか入り江の人魚たちが言っていた人魚のことファラシド~」
「ふむ……、では真犯人は別にいると」
「ところで、ジンベエってたしか元七武海だよね? 戦争の時に七武海を辞めたって新聞で見たよ」
「ん? ああ。彼は仁義に厚い人でね。七武海を辞めた今はただの海賊だと言って、国の中には入らないんだ」
「ルフィと接点あるんだ」
「それも戦争の時なんだろうな。……今の状況はある程度把握した」
それならば行動方針も決まってくる。今この国が抱えている憂いと問題。
すべてを同時に手を付けては人手が足りなくなる。やるなら順序をつけて、手際よくだ。
「ウタとヤマトは海の森に行ってくれ。麦わらの一味がそこに集まるだろうから」
「ベルナートは一緒に来ないの?」
「オレは人魚行方不明の件を片付けとく。犯人に目星はついてるからな」
「それは本当か!?」
「まあな。オレたちが持ち込んだ問題でもある。こちらの不手際はこちらで片付けさせてくれ」
「……ああ、そういえば彼のこと忘れてたね。どういう実かは知らないけど、
「そういうこと。捕まえたら連絡する。それと魚人街の動向に注意しといた方がいいのと、麦わらの一味相手に戦わない方が身のためだ」
「我々も強くなったと言いたいところだけドレミ~」
「アッカマンボアッカマンボ、ベルナートが断言するならそうなんだろうな~」
「忠告痛み入る。だが我々にも立場はある。状況次第では挑まざるをえない」
この国の最高戦力は、この国を治めている王族たちだ。政治面だけでなく、武力面でも国を守らないといけない立場。それ故に、たとえ無謀な戦いとなろうとも背を向けるわけにはいかない時がある。
それはベルナートにも理解できるもので、止められるわけもなかった。すぐに実力行使に移らないことを願うしかない。
「それでは我々は一度竜宮城に戻る。また後ほど」
「ああ。無理するなよ」
王子たちが竜宮城へと帰っていくのを見送ると、今度はウタとヤマトと一旦別れる番だ。
タクシー乗り場へと2人を連れていき、やることをやりに行こうとするとウタに手を掴まれた。
「待ってベルナート」
「どうした? あいつ相手なら正直苦戦もしない。安心してていいぞ」
「ううん。ベルナートのこと信じてるからそこは大丈夫」
1ミリも心配していないわけではない。大丈夫だと信じていても、怪我しないかなと心配はしてしまう。
だが今ウタが言いたいことは、そういうことではない。
両手でベルナートの手を包んだウタは、花のような笑顔を咲かせる。
「行ってらっしゃい」
「っ! うん。行ってきます」
原作との相違点
・カリブーは樽に入っていない状態で入国
・三兄弟は覇気の鍛錬中