たった1つの笑顔   作:粗茶Returnees

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騒乱の魚人島②

 

 海の森とは魚人島の外れにある場所のこと。シャボンで囲われている場所でもあり、人間でも足を踏み入れることができる。鯨が姿を現すほどに穏やかな場所でもあり、神秘的な光景を目にすることができる。

 麦わらの一味の船のサウザンド・サニー号もそこにあり、フランキーもそこに来ていた。船大工の師匠たるトムの弟デンと会っており、今はコーティング作業をしてもらっていた。

 ロビンはポーネグリフを読むために森の奥へ行き、ジンベエはルフィを待つためにこの場にいる最中。そこにウタとヤマトは合流した。

 

「オウ! ウタにヤマトじゃねぇか! 能力者だから心配してたが無事みてぇだな!」

 

「フランキーさん。うん、ベルナートのおかげでね」

 

「そのベルナートの姿は見えねぇが、別れたのか」

 

「深海で会った海賊いたでしょ? 悪さしてるみたいだから捕まえに行くって」

 

「なるほどな」

 

「フランキー、ジンベエってあの人?」

 

「そうみてぇだな。そろそろこっちに来るんじゃねぇか?」

 

 そう話しているとジンベエがウタとヤマトに気づき、オトヒメ王妃の墓の前から離れた。

 距離はあるがその風格と佇まいはジンベエという男を物語っており、強いと感じ取ったヤマトは武者震いを起こしている。

 

「お初にお目にかかる。あんたが歌姫ウタじゃな」

 

「うん。そう言うあなたはジンベエさんだね。ルフィと一緒に行動してたとか」

 

「如何にもそうじゃ。ルフィのおかげで己の義を通すことができた。結果は……悔やみ切れんものじゃったがな」

 

「ジンベエさんも海賊って感じしないね」

 

「どう受け取ってもらっても構わんが、海賊であることは事実じゃ。そちらの御仁は?」

 

「僕はヤマト。エースとは友だちだったんだ」

 

「なんと……! エースさんの……! すまんかった。わしらの力が及ばんかったが故に……」

 

「ううん。僕は生まれた島から出られなかったし、ベルナートも行かなかったし。ジンベエが謝ることじゃないよ」

 

「ベルナート?」

 

「あ、そっか。あれ偽名なんだっけ。手配書だと……ウタ、ベルナートの本名何?」

 

「え? 覚えてない。ベルナートが覚えなくていいって言ってたから」

 

 本名なんだっけなーと首を傾げ合う2人に大人組は呆れ、とりあえずその人物ことは保留ということにした。

 フランキーは誰かわかるが、本名は知らないのだ。手配書のことも知らず、異名も知らない。ジンベエにヒントを出すことはできなかった。

 

「お前さんらは何故ここに? ルフィと知り合いのようじゃが、仲間ではないんじゃろう?」

 

「ルフィの船に乗って一緒に魚人島に来たんだ。ベルナートにここに向かえって送り出されて」

 

「なるほど」

 

「そういえば、ベルナートが人間と魚人の歴史がどうこうって言ってたんだけど、教えてもらってもいい?」

 

「……その話はルフィが来てからにするとしよう。麦わらの一味にはせねばならん話もあるのでな」

 

「わかった」

 

 それはアーロンについてなのだが、ウタやヤマトには関わりのない話。それでもその話の根本にもまた、人間と魚人の間にある溝が関係している。長く続く歴史の重みと憎悪。その解決は簡単にはいかないが、ネプチューン王家は未来を変えようと呼びかけを続けている。

 

 海の森で過ごしていると、待ち人たるルフィが大型のサメに乗ってやってきた。そのサメの名はメガロ。深海にてルフィがクラーケンを殴り飛ばした時に偶然助かったサメだ。

 そのサメの背にはルフィだけでなく、途中で合流したサンジとチョッパー。さらにはハチとしらほしもいる。

 

「ええええぇぇぇ!!?? しらほし姫ぇぇぇ!!??」

 

「しらほし! 久しぶり!」

 

「お久しぶりですウタ様! お隣の方ははじめまして。しらほしと申します」

 

「僕はヤマト。よろしく!」

 

 しらほしの手に乗せてもらったウタとヤマトはそのまま歓談が始まり、そのすぐ横では負傷していたハチがチョッパーに本格的な治療を施してもらっている。ハチの負傷にはジンベエがまた驚かされていたものだ。

 魚人島の重鎮たる男が振り回される姿は、中々お目にかかれない。

 

「ウタ様とヤマト様はお友だちなのですか?」

 

「そうだよ。ヤマトがベルナートの友だちで、その繋がりで仲良くなったんだ」

 

「まあ、ベルナート様と。(わたくし)もお友だちにならせていただいているので、お揃いですねヤマト様」

 

「あはは! たしかにね! ん?」

 

 人魚姫に歌姫に鬼姫。

 姫の呼び名を持つ、あるいは持っていた者同士が共通の友人の話で盛り上がっていたところ、しらほしの後方から巨大な斧が飛んでくる。それに気づいたヤマトは、素早くしらほしの後ろへと跳んでそれを叩き落とす。

 

「よっと。なんで斧が?」

 

「ヤマト様もお強いのですね。ありがとうございます! この斧はバンダー・デッケン様のマトマトの呪いによるものです。どこにいてもこうして物が飛ばされてしまって」

 

「そのせいでしらほしは外に出られなかったらしいんだけど、ルフィが連れ出したのかな」

 

「はい! ルフィ様がお散歩に連れ出してくださって、お守りしていただいているのです!」

 

「そっか。破天荒なルフィらしいや」

 

「弱虫お前墓に用があるんじゃなかったか?」

 

「そうでした」

 

「お墓?」

 

「お母様のお墓がそちらにあるのです。マトマトの呪いがあって、葬儀にも出られず一度も訪れられなかったので」

 

「しらほしのお母さんのお墓か。なら私もお墓参りさせてもらおうかな」

 

「ありがとうございます。(わたくし)もお母様にお友だちを紹介したいです」

 

「うん! けどその前に」

 

 一度しらほしに降ろしてもらったウタは、ルフィに近づくと頬を思いっきりつねった。今しがた聞き捨てならない発言があったからだ。

 

「なんでしらほしのことを弱虫って呼んでるの」

 

「だってよ。こいつデカイのに弱虫で泣き虫だから」

 

「体の大きさなんて関係ないでしょ! 生まれつきなのはどうしようもないの! 大きかったら強くないといけないの!? それに人のことを弱虫なんて呼んじゃ駄目!」

 

「んにににに……しょれは……」

 

「しらほしに謝って。あのねルフィ。私の友だちのことをそんな呼び方で呼ばないで。いくらルフィでも怒るよ」

 

「……わかった。ごめんなよわほし」

 

「い、いえルフィ様にはこうして連れ出していただいてますし……」

 

「それとこれは別だよしらほし。あとルフィよわほしって……」

 

「あだ名としてはギリギリじゃないかな」

 

 ルフィの言い分を理解することはできなかったが、ウタとルフィの意見の折衷案としては悪くない落とし所でもある。

 ヤマトがそうして仲介に入るとウタも渋々引き下がり、しらほしと一緒にオトヒメの墓へ。ヤマトもそれに付き添った。

 墓参りをしている最中にナミとケイミーが合流。竜宮城が陥っている状況を共有していた。

 

「お待たせしましたジンベエ親分様」

 

「なんのなんの。積もる話もございましたでしょう」

 

「おかげ様でいっぱい伝えられました」

 

「しらほしちゃんにウタちゃんにヤマトちゃ~ん! 3人にもお茶を用意させてもらったよぉ~~ん!」

 

「サンジの症状が治ってよかった」

 

「これが普通なんだ……。お茶ありがとう」

 

 しらほしとウタは若干引きながら用意されたお茶を受け取り、ヤマトはけらけらと笑いながら受け取る。

 場も落ち着いたところで、ジンベエは麦わらの一味に謝罪を始めた。

 曰く、東の海で暴れていた魚人アーロン。その原因が自分にあるという。七武海にはいくらか恩赦があり、その1つがその海賊の仲間も無罪となること。これにより捕まっていたアーロンは釈放され、東の海に行ったのである。

 

「赦されるとは思っておらん。じゃが、謝罪と話はさせてほしい。そうなった起点。魚人と人間の歴史。この国が抱えておるものを」

 

 

 

 

 

 

 ウタたちがジンベエからこの国の話を聞いている一方、ベルナートはカリブーを捜索していた。

 ヤマトやウタなら気配を覚えているためすぐに見つけられるのだが、興味もないカリブーの気配は覚えていない。

 まずは人魚が消えたという入り江に向かい、そこで情報収集をしながら島全体を感知。デカイ気配の数と場所を把握すると、それらの位置からいくつかは除外。相手は単独なのだから、デカイ気配同士で固まっているとは思えない。

 少なくとも3人で固まっているのは王子たちだ。カリブーの可能性を真っ先に排除できる。

 

「……あっちもこっちも問題だらけだな」

 

 王子たちと思わしき気配の近くにもまた、いくつか大きめの気配がある。そっちも気になるのだが、人魚誘拐事件の解決を自分で買って出たのだ。それを片付けるまでは他のことに手を出すべきではない。

 人間と魚人の溝は大きく深いものだ。ネプチューン王家と交流があるとはいえ、身の潔白を証明できた方が動きやすい。

 

「しらほし姫が麦わらといたのは本当か?」

 

「そういうふうに話題が広まっているねぇ。しかし姫様を見間違える国民もいないだろう。まず間違いないよ。バンダー・デッケンを麦わらが撃退したあとどこかに行かれたそうだけど」

 

「デッケンも島にいるのか」

 

「とうとうしびれを切らしたのか。なんにせよ、人魚誘拐の件も麦わらの一味の仕業とされているね」

 

「憶測だけで決めつけるのは視野を狭めるぞ。それに、姫はともかく他の人魚は別に犯人がいる」

 

「そうなのかい?」

 

「居場所もわかったしすぐに捕まえる。電伝虫を用意しといてもらっていいか? 捕まえたら軍に引き渡す」

 

「わかったよ。無事に救出してくれたら、あんたの好きなデザートでお礼をさせておくれ」

 

「なら新商品で頼むよ、シャーリー」

 

 マーメイドカフェの店主、予言を的中させることでも有名なマダム・シャーリーと別れたベルナートは、ある場所へと一直線に跳んだ。

 大きな気配がいくつも動いてくれたおかげで、浮いた"点"が発生した。その場所を考慮すれば、それが犯人であると見て間違いない。

 そもそもこの国の人口は多いのだ。町中で人魚を攫うことは難しい。ならばひと目の少ない海岸沿いが怪しくなるのだが、少し前までは海岸沿い辺りにいくつか気配があった。絞り込めなかったわけだが、それが今では1つだけ。

 原型を留めない自然(ロギア)の能力者だろうと、人攫いをしてるのなら人目を避けたくなるもの。皮肉にもそれがベルナートに特定される要因となった。

 

「楽しい時間はそこまでだルーキー」

 

「うおぉっ!? どうして居場所がァ~?」

 

「それなりに自信があってな。さて、その形状を見るに泥か沼か。人魚たちはお前の体の中のようだな」

 

「ケヒヒヒ。お前さんにはお見通しにされちゃうかァ~。その通りィよ! おれに手を出したらァ~、中にいる人魚たちがどうなっちィまうかァ~」

 

「お前を気絶させれば出てくるだろ。生憎と隠し事も嘘も見抜くのが得意でな」

 

(っ! なんだってのよォこいつはァ~!)

 

 勝てないと本能で理解させられている。そんな相手に使える手は、人質がいるぞという脅しだけである。それで対等に、願わくば有利に話を運びたかったカリブーだが、ベルナート相手にそれは通用しない。

 普段は自分で抑えているだけであって、ベルナートはその気になれば内心まで見通せる。それがあるから、世界への期待も薄れていたわけだが。

 

「痛い目に遭わずに人魚たちを解放するか、もしくは痛い目に遭って解放するか。選ばせてやる」

 

「……舐めてもらっちゃァ~困っちゃうぜェ~! おれは海賊よォ! ヌマヌマの」

「遅いぞ」

 

「ぶへらっ!?」

 

 奇襲で機関銃を放とうとしたカリブーを、先読みしたベルナートが先制して殴り飛ばす。

 国全体が思わしくない状況だ。すぐに片付けられるものは、手短に終わらせたい。そう思って刀を抜くことすら惜しんだ。

 

「打たれ弱いんだな。能力に頼りきってたらそうもなるか」

 

 ぴくぴくと痙攣しながら意識が飛んでいるカリブーを見て、やれやれと肩を竦めた。この分ではどのみち新世界に行っても通用しない。どこかの勢力の下に付くか、ぬらりくらりと蝙蝠(こうもり)のように生きるなら別だが。

 カリブーが気絶したからか、取り込まれていた人魚たちも体から出てきた。人の体から人が出てくる光景は奇妙なものがあるが、事件を解決できたのだから良いだろう。

 

「あれ……私たち……」

 

「沼に引きずり込まれて、それで……」

 

「意識もあるようで安心した。動けるか?」

 

「あなたは……?」

 

「オレはベルナート。王子たちとは友だちでな。動けるならシャーリーのところに戻ろう」

 

「え、ええ。助けてくれてありがとう」

 

「気にしないでくれ。落ち度はこっちにある」

 

「?」

 

 疑問を抱いた人魚たちだったが、詳しく聞くのも野暮かと思ってそれを流した。さて、あとは人魚たちと町に戻るだけなのだがここで1つ問題が発生する。

 人魚は30歳を超えると二股になって魚人のように歩けるわけだが、その前は陸上の移動がままならない。シャボンを使うことで空中を泳いで移動するのだが、彼女たちは今それを持っていなかった。そしてベルナートも持っていない。

 

「……持ち上げるしかないか」

 

「じゃあお願いね」

 

「判断早いな!?」

 

「あ! ズルいわイシリー!」

 

 イシリーと呼ばれた長い黒髪を1本に纏めている女性人魚は、ベルナートの一番近くいたこともあり、這いよるとベルナートの首に腕を回して抱きついた。驚きはするもベルナートもそれしかないと分かっているから、落ちないようにしっかりと抱えている。

 

「ふふ、早いもの勝ちよ。マダムのところに行ったらバブルを持ってくるわ」

 

「いいわよ!? 私も抱いてもらうから!」

 

「私も!」

 

「え、5人全員?」

 

「「「よろしくねベルナートさん」」」

 

「いいけどさ……。最初はカリブー(こいつ)も連れてくから1人だけだけど、あとは2人ずつ運ぶからな」

 

「それも仕方ないわね。よろしくね~!」

 

 カリブーを残して行っては人魚たちも気が気でないだろう。ベルナートはカリブーの足を掴むと、マダム・シャーリーのいるマーメイドカフェまで跳んでいった。

 

 カフェの裏口から入り、カリブーは一旦箱の中に押し込んで厳重に蓋をする。軍への連絡をシャーリーに頼んだ後はまた現場へと戻る。そこから2往復で攫われた人魚たちを全員カフェに連れ戻したら、ベルナートは席へと案内された。

 

「助けてもらったお礼におもてなしさせて」

 

 そう言われては断ることもできず、ベルナートは新商品のスイーツを堪能。人魚たちとの会話も楽しむ。

 そうしているとシャーリーが神妙な面持ちで席へとやってきた。

 

「マダム?」

 

「軍との連絡がつかないわ……」

 

「え!?」

 

「何かあったのかしら……」

 

「……」

 

 空気が重くなった中、ある人物から国全体への映像配信が始まった。店の中でもその配信は見ることができ、ベルナートは静かに目を細める。

 その者の名はホーディ・ジョーンズ。ジンベエからルフィへの伝言で言及されていた人物だ。()()()()()()()()()()()と、見るからに凶暴性が滲み出ている。

 新たにこの国の王になるという宣言。さらには竜宮城にて天竜人の書状と多くの署名を手にしたということ。そこにある者たちを後ほど「消す」と宣言した。

 

「そんな……!」

 

「どうしよう……! 私も署名してるのに……!」

 

 動揺が広がる店内で、恐怖に震える人魚をそっと落ち着かせながらベルナートは映像を見続けた。

 竜宮城に入れたということは、完全にもうそこは陥落しているということ。軍と連絡が取れないのも、そういうことだろう。

 懸念すべきことが生まれたわけだが、その答えはすぐに出た。()()()()()()()()()()()()姿()()()()()。ルフィと共にいるしらほしだけは無事なようだ。

 

「王子たちが!」

 

『2時間後、ギョンコルド広場でこの王族たちの首をはねる。それをもって生温い旧竜宮王国は終わり、新たな竜宮王国の誕生だ!!』

 

「処刑、ね」

 

 スイーツを食べ終え、ベルナートは腰を上げた。

 その処刑を見過ごせないが故に。

 

 




ウタ……本当はベルナートの本名を覚えてる。覚えなくていいと言われたから覚えてないことにしてる。

「ベルナートがなにか楽しんでる気がする」
「なんか寒気が……」
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