ギョンコルド広場は、この国の国民なら誰にとっても特別な場所である。かつて国民から愛された王妃オトヒメが何年間も演説を続けた場所であり、そして命を落とした場所でもある。
当時生まれていなかった国民にとっては、近年に歌姫ウタがライブを行った場所という印象のほうが強いかもしれない。
そんな特別な場所にて、ホーディはネプチューン王と3人の王子たちの公開処刑を行おうと言うのだ。これほど皮肉を込めた処刑もないだろう。
「国境で待ち構えられていた時は驚いたが、天の力を授かったおれ達の前には無駄な足掻きだったな」
「姿が変わるほどの量を口にしておきながらよくそんな事が言えるな。お前の力はそれ頼みだ」
「使えるものは使う。当然のことだろう? 何を言おうと綺麗事しか言わないお前達は、おれ達に負けた。それが全てだ」
「くっ……ベルナートに忠告をもらっていたのに……」
「申し訳ございません父上。我々が敗れたばかりに」
「過ぎたことだ。いいんじゃもん」
「ジャハハハ! おかげで助かったぜ。人間共をデッケンに投げさせてはいたが、下等種族頼みじゃあ見込みは不十分だった。だがお前達を先に捕らえられたおかげで、王も城も容易く落とせた」
「フフフ。これであとはしらほし姫を誘き出して消すだけだ」
「ジンベエがいても王族を捕らえているから下手に手出しはできないギャバァン!」
だが気が乱れては鍛錬中の覇気も乱れる。怒りに呑まれて大量にE・Sを服用したホーディの姿が変わり、それに気を取られた隙に幹部たちの攻撃をまともに受け、変貌を遂げたホーディに打倒されてしまった。
これによりホーディ率いる新魚人海賊団は最高の交渉カードを手に入れ、竜宮城を開城させて落とす。さらにはネプチューン王も捕えたというわけだ。
「ジンベエは海の森にいる。そこからの距離を考えれば、策を練ろうと上策は出てこない」
「ジャッハハハハハ! ああ。さらに魚人街にいる7万人と捕らえ続けた3万人の人間の海賊。合わせて10万の兵力だ! いくらジンベエが強かろうと数の前には無力!」
「ホーディ船長! しらほし姫が罠にかかってました! あとジンベエ親分も!」
「話をしたら早速出てきたか」
「キャッキャッキャッ。仕掛けたおれたちが言うのもなんだが、あれに引っかかるとは間抜けだな!」
「「まったくだ」」
やらないよりはマシだろう、くらいの感覚で用意していたネプチューンバルーントラップだ。しらほしはともかくジンベエには通用しないと思っていたのに、まさかのジンベエ付きで成功してしまった。
滑稽な話ではあると同時に、なんとも拍子抜けな結末である。
鎖で拘束されたしらほしとジンベエは、メガロと共に広場に投げ出され、ホーディたちを挟んだ状態で、張り付けにされた他の王族と対面する。
「随分と間抜けになったなジンベエ。おれが好きだった尖ってた頃のあんたなら、そんなことになってねェだろうに」
「ホーディ貴様ァ……老けたな」
「老けてねェよ! これが天に選ばれた者の真の姿だ! 最高の気分だぜ?」
「話に聞いた妙な薬のことか。察するに王子たちに勝てず、それに縋った結果のようじゃな」
「フン。なんとでも言うといいさ。強さに正しさなんてものはない。力は力だ。自分のものにすればいいだけのこと」
ジンベエに何を言おうと、この大戦力は力に屈しない。仁義を貫き通すために生きているような男だ。それがわかっているホーディは、王族だけでなくジンベエの処刑も思い描いている。
解き放っても厄介な存在なのだ。捕縛できている今こそ討ち取る好機である。
懸念すべき2人も捕えた。ならば今こそ明るみに出そう。新国家の在り方を示すためにも。
「お前の家族が死にゆく前に教えてやるよしらほし。愛されて止まなかったお前の母親、オトヒメを殺したのはおれだァ!」
「なんじゃと!?」
「ホーディおのれ貴様ァァァ!!」
広がる動揺も悲鳴も、何一つホーディと幹部たちには響かない。人間と仲良くする者たちすら嫌悪する彼らにとって、実に愚かしい光景が広がっていた。
唯一怒れるネプチューンも、張り付けにされていては何もできず、ホーディに撃水で撃たれて黙らされる。
殺したのは当然、ホーディにとって目障りだったから。それを箱入り娘たるしらほしに突きつける。
だが──
「知っていました」
それはしらほしにとって既知のこと。しらほしの友だちであるサロメが、しらほしにすでに教えていた。
それを他の誰にも言わずに隠していたのは、亡き母親との約束のため。誰が犯人だろうと憎まないと、そう約束したから。もう二度と新たに交わすことのできない母親との約束だ。しらほしはそれを何よりも大切にしまいこんでいた。
「ジャハハハハハ! お前のその間抜けさが、家族を殺すことになるんだしらほし!!」
撃水は水滴を1つ飛ばすだけの技。それを何発も飛ばす技も存在しており、ホーディはしらほしに見せつけるように振り向いた。
狙いは当然、抵抗のできない王族たち。
「矢武鮫!」
「月時雨」
「キャッ!? なんだ!?」
「フカボシたちの前に誰かいるギャバァン!」
「! あの男は……!」
「ベルナート様……!!」
ホーディが飛ばした水滴は一発の漏れもなく全て斬られ、斬られた後の軌道も調整されたことで4人の王族の誰一人として被弾しなかった。
その剣技をやってのける人間を、王族の他に1人だけ知っている。1年ほど前に接敵したことがあるゼオだけは、その男を知っていた。
「お前が言っていた男があいつか、ゼオ」
「ああ。また来ていたとはな」
「ベルナート……すまない、君の助言がありながら……」
「気にすんな。まだ何も終わってないんだから、これからいくらでも巻き返せるさ」
「随分と王子と仲いいようじゃねぇか、下等種族。邪魔するつもりか?」
「王子たちとは友だちだからな。それに、友だちが処刑されるのはもう懲りてんだ。オレの目の前でそんなことできると思うなよ」
エースの時は、その覚悟がなかった。だがその行動に何度も何度も後悔を重ねた。
そんなベルナートが、この処刑に黙っているわけがない。邪魔する理由は十二分にあった。
「ベルナート様……
「了解」
しらほしの言葉を合図にメガロの中からルフィが現れ、ベルナートは刀を納める。その瞬間にネプチューンたちを縛っていた鎖は切断され、さらには離れていたしらほしやジンベエも同時に解放される。
「いつの間に!」
「この程度の距離は射程範囲だからな」
「チッ。……解放されようとおれ達に勝てなきゃ同じだろうが。なァフカボシィ!」
「船長! 空から船!」
「空だと!?」
ネプチューンの愛鯨ホエと共に広場に突っ込んできたのは、麦わらの一味のサウザンド・サニー号だ。船首にあるライオンの口が開いており、そこから主砲たる空気砲が発射される。
「「うわぁぁぁ!!」」
「「うぉぉぉぉ!!」」
撃たれた側からは悲鳴が上がるが、反対にベルナートと王子たちからは歓声の声が上がった。ギミックには男心がくすぐられるものだ。
「っと、フカボシ。お前たちは一旦ここを離れてくれ」
「なぜだ。我々もまだ戦える! 挽回できると言ったのは君だぞ!」
「
「今は言う通りに離れるんじゃもんフカボシ。デッケンの姿がここにないのも気がかり、少しでも体力を温存するんじゃもん」
「……わかりました。ベルナート、それに麦わらのルフィも!」
「ん?」
「この場は頼む! 力を貸してくれ!」
「ああ、任せろ兄ほし!」
「逃がさないギャバァン!」
「
「ぐおっ!?」
「ドスンさんが力負けしたぁぁぁ!? なんだあの女ぁぁ!?」
ホエによる脱出を阻もうとしたドスンのハンマーを、ヤマトが真っ向から打ち返した。力自慢で知られる幹部に打ち勝たれては、部下たちの驚愕が大きいのも納得できよう。
「失礼だなー。僕は男なのに」
「容姿は女だからな。特にその胸」
「君、僕に対する遠慮がなくなってきてないかい? デリカシーくらいは残しなよ」
「そりゃ悪かった。ウタは?」
「はぁ、サニー号にいるよ。僕らも船に行く?」
「そうするとしよう」
「逃がすかよ、人間」
「ねえベルナート。
「……広場の上には市民がいるんだぞ」
「制御は君次第ってことで」
「無茶苦茶なことを……、いいぞ」
「やった! そうこなくっちゃ!」
ホーディと幹部たちを目の前にしながらも、余裕の姿勢を崩さずに普段と同じノリで会話を弾ませる。その態度にホーディはまた頭に血が上るが、先制を仕掛けるのはマイペースを崩さないベルナートとヤマトだ。
2人揃って武器を構える。鏡合わせのように対象的な構えだ。
巨人族の体躯と洗練された力によって繰り出されるものは『覇国』。それを現四皇の2人が繰り出す場合は『覇海』。
ベルナートとヤマトでは、生まれ持った体格がそれらに及ばない。だがそれに酷似した技を放つことは可能だった。
「「覇龍!」」
ヤマトは全力で振り抜き、ベルナートがそれに合わせながら技を制御する。ホーディと幹部たちを吹き飛ばし、クラーケンの下にある壁を一部突き破った。
壁を崩落させない程度。それでいてホーディたち6人を完全に穴の向こう側へ飛ばした。
「初めて実戦に使ったにしては、まあまあか」
「タイミングはよかったね。それに今回は技のコントロールに意識を割いたし」
実践後に振り返りながらベルナートとヤマトは堂々と広場を歩き、麦わらの一味が立ち並ぶサニー号の側へと寄っていった。
サニー号の上にはウタもおり、手を振っているウタに2人も返した。
「開幕から派手にかましやがって」
「あいつらドーピング剤持ってるから、それ摂取して戻ってくるぞ。単純に身体能力を上げる薬だ」
「なら技のキレは荒削りになるか」
「油断はしないほうがいい。タフさは億超え並みになる」
「ベル男はもう戦わねぇのか?」
「しらほしの護衛は必要だろ? ウタもいるし、オレは2人の側にいる」
「そういうことなら頼んだ」
「任せろ」
「僕は参戦するよ!」
ベルナートはウタの隣へと跳躍し、ヤマトはルフィへのアピールをしたくて待ちきれない様子。わかりやすくうずうずしていた。
「おかえりベルナート」
「ただいま。あとでまた離れる可能性はあるけど」
「忙しいね」
「状況が状況だからな」
「……戦うしか、ないのかな」
ぽつりと悲しそうに呟いたウタの言葉に、ベルナートは僅かに息を呑んだ。ベルナートも戦いは好きではないが、ウタはそれ以上だ。
本音を言えば、全員をウタワールドに入れて全員で楽しい時間を共有したいのだろう。
だが、それでは駄目なのだと頭のどこかでわかっている。根本的な解決にはならないと。それをわかっているから、ウタは能力を使わずにただこの場から見ているのだ。
「力だけじゃ幸せになれないとは思う。個人レベルならまだしも、大人数の幸せを考えると無理だろう。でも、幸せのために力が必要になる時はあるんだ。残念なことにな」
「そう、だよね……」
「……麦わらの一味がどういう奴らなのか。それを見るのにも、今回は丁度いいだろうな」
「国のためにもなるから?」
「そういうこと」
暴力ではない。ルフィたちはしらほしとフカボシから頼まれ、クーデター阻止のためにこれから戦う。護るための戦いだ。
だが、結局のところそれは大義名分を得ただけのこと。ウタの心情からすれば、素直にルフィたちを応援することはできなかった。
「ジンベエさんから話は聞いた。この国のことと、人間と魚人の間にある溝のことも。だから、友だちのために戦う姿が、これまでの
「ウタ様……」
否定はしない。ただ、肯定もしづらい。
そんなウタの手をベルナートはそっと握った。彼女に寄り添うと決めたのだから。ベルナートはどんな時でも、ウタの力になる。
「これは言ったら武人の共存の在り方だ。けど、共存の示し方はこれだけじゃない。ウタだから示せる在り方もある。だってウタは歌手なんだから」
「!」
ウタの出番はこの戦いの後にある。ウタにはウタのやり方がある。
現実はそう簡単に思い通りにならない。理想は実現が難しいからこそ理想なのだ。
ウタが今見ている光景は、これからのウタがある意味ライバル視しないといけないもの。果たして世界は武力じゃないと変わらないのか。それともそれ以外の道もあるのか。その一端を知るためにも、この現実から目を逸らすわけにはいかない。
「ウタの力は絶対に必要になるから、今は見届けよう」
「うん。ありがとうベルナート」
「どういたしまして」
ウタの方からもぎゅっと握り返す。重なる手は2人の強固な絆を表す。
前を見やると、薬で変貌を遂げた幹部を引き連れてホーディが広場に戻ってきていた。そのホーディのとある宣言にルフィがぴくりと反応し、1人前方へと歩いていく。
討ち取ろうと敵兵が近づいた途端、その兵士だけでなく離れていた者たちまで次々に泡を吹いてその場に倒れ込んだ。
「覇王色か。半分は倒れたな」
「これが3つ目の覇気……! ルフィも持ってるんだ……!」
「すごいルフィ様……」
「お前がどこの王になろうと勝手だがなァ。海の王者は1人で十分だ!」
魚人島はリュウグウ王国。
その国家存亡をかけた戦いの火蓋が切って落とされた。
ベルナート……王族の処刑回避させたので、見物人モード。必要になったら動く
ヤマト……「この戦いが加入試験ってことでいいかな!」