10万人対12人で始まった戦闘は、開幕の段階では5万人がルフィの覇王色の覇気で脱落。半数になったとはいえ5万人は5万人。その数自体はやはり厄介なものだ。
しらほしの体は大きく本来なら格好の的となる。ところがベルナートが護衛に回っていることで、敵は手出しできない状態になっていた。バズーカを構えては瞬時に遠距離で両断され、空から攻めようにもバブルをすぐに斬られる。斬撃を飛ばされるがために近づくことすら叶わない。
「そろそろ向こうも諦めてきたな」
「近づけないならそうなるよ。相手の幹部も抑えられてるし」
「黒足もしらほしの護衛に回ってくれてるしな」
「しらほしちゃんに危ねぇもん向ける輩はどいつだァ! 3枚におろしてやる!!」
剣で斬りかかっても蹴りで折られてそのまま足技を叩き込まれる。銃を向けても避けられ、盾を用意しても意味がない。何をしても足技で返されるため、魚人たちはだんだんとサンジから逃げ回り始めている。
ホーディはルフィが抑え、他の幹部たちも完全に圧倒されていた。E・Sで覚醒していようとも、魚人島1の剣士であるヒョウゾウはゾロが。強烈な牙で穴を掘りながら戦うダルマは、ウソップとチョッパーのコンビが。厄介な槍を持つイカロスにはフランキーが当たり、力自慢のドスンはジンベエが相対する。
透明化という厄介な特殊能力を持つゼオには、張り切っているヤマトがぶつかっていた。
「ヤマトなんだか生き生きしてるね」
「友だちのために戦えるってのは、ヤマトにとって初めてのことだからな」
頂上戦争の時は何も知らなかった。鎖国国家ワノ国では情報が入りづらく、さらにはカイドウによってヤマトはなかなか外の情報を得られない状態にいた。
エースの時には、手錠のこともあって何もできなかった。
しかし今は何のしがらみもない。たとえ出会ったばかりだろうと、しらほしとは友だちになったのだ。そのために戦えるという喜びは、誰よりも強いものがある。
「厄介な武器を使うのは良いけど、練度が足りてないよ。鳴鏑!」
「がふっ!?」
「なんだ!? あいつ今何打ったんだ!? ゼオさんが吹き飛ばされたぞ!」
「……ベルナートが言ってた通り、タフさだけだね。彼の見聞色はどうなってるんだか」
規格外に足を踏み入れている親友に呆れながら、ヤマトはゼオが起き上がるのを確認した。もろに受けてダメージも入っているはずだが、その足取りはまだしっかりしていた。
「なんだと言うのだ。貴様も、あの男も。海賊でもない人間風情が、我々の邪魔をするな!」
「ベルナートも言ってただろう? 友達のため、それが理由だよ。しらほしに用があるならまず僕を倒せばいい! 負ける気はないけどね!」
「ならばここで死ぬがいい!」
「……消えた」
目の前にいたはずなのに、すっかりその姿を見失ってしまった。目で捉えられないほどの高速移動でもない。完全な透明化だ。
「カムフラージュ・カーペット!」
「えい」
「ぐっ!」
「……バカなの? せっかく透明化してたのになんで声を出すのさ」
声で位置を特定したヤマトが、棍棒をすくい上げるように振ってゼオを打ち上げる。衝撃を加えたからなのか、透明化も解けて姿を現したゼオは、仰向けで地面に落下する。
ダメージの蓄積もあり、呼吸が荒げていたゼオはそれを静かに整えていく。ゼオはプライドの高い男だ。魚人街の貴族を自称しており、新魚人海賊団では参謀のようなポジションについている。
呼吸を落ち着かせると頭も冷静になっていく。倒れた状態のまま、ゼオは再度透明化した。逃亡などではなく、奇襲するため。透明化による優位性はそこにあるのだから、それを活かさない手はない。
(どれだけ強かろうと人体の弱点は変わらない。その細い首を折ってやる)
透明化したゼオは地面を這い泳ぎ、ヤマトに近づくとその首目掛けて端に分銅の付いた鎖を投げる。
背後から狙ったその奇襲。それをヤマトは自分の棍棒に巻きつけさせ、そのままゼオの一本釣りをした。
「君自身が透明化しようと武器は透明にならない。それに背後からの奇襲は定番中の定番だよ」
「おのれェ……!」
「雷鳴八卦!!」
「……ッ!」
「うわぁぁぁ!! ゼオさんがやられたぁぁ!!」
肩慣らしも兼ねているゾロとは違い、ヤマトは初めから技を叩き込み続けていた。いくらタフになったとはいえ、覇王色の覇気すら纏ったヤマトの攻撃を何度も受けては限界が訪れる。完全に意識を飛ばされたゼオは倒れふし、完勝したヤマトは少し残念そうにしていた。
一度ベルナートとウタと合流しようと船の方を見て、ぎょっと驚かされる。戦いに集中していたのとベルナートを信じていたために、そっち側のことは意識しておらず気づかなかった。
いつの間にやらクラーケンことスルメと大入道のワダツミが味方についていた。
「なんで?」
時は少し遡り、新魚人海賊団の幹部たちが麦わらの一味に抑えられ始めた頃。
新たな兵器を乗り回していたフランキーが、もう1つ兵器をも使って
「カッケェェなぁぁフランケン将軍!!」
それを見て大興奮している男が、サニー号の上にもいた。主戦を他人に任せられるだけでなく、しらほしの護衛をスルメも担うようになった。それにより、とうとう完全に
そんなベルナートの様子にウタはつまらなさそうに目が冷めており、ベルナートの頬をつねってフランキー将軍から目をそらさせる。
「いひゃいれす」
「楽しそうだねベルナート」
「ろほはろみゃん」
「うん。ベルナートが、ロマンを感じるものが好きなのは知ってるよ。空島でもピエールの変身体好きって言ってたもんね」
ペガサスはいわば空想上の生物。そこにはロマンが詰まっており、その姿になれるピエールを気に入らないわけがなかった。ウタもゴードンも共感はできなかったが。
それはともかく、ベルナートはそういうものが好きだ。それをウタもよく知っている。知っているが、この興奮っぷりはおもしろくない。
「
「……。…………ッ!! いやいやいやいや!」
にっこりと笑っているのに目が1ミリたりとも笑っていない。
まさかまさかの切り口にベルナートは一度理解ができず、言葉を脳内で反芻させてから理解。どっと一気に冷や汗が流れ始め、否定しながら1歩下がった。
間髪入れずに1歩前に進んだウタは、頬から離れた手で今度はベルナートの腕を掴む。
「否定するなら、離れる理由ないよね?」
「えーっと……なんか……はい。ごめんなさい」
「ん? なんで謝るのかな? 私は、楽しそうだねって言っただけだよ?」
「……フランキー将軍のことは好きだ。見てて楽しいし。でも……ウタの方がもっと好きだ。誓って本当だぞ」
「…………? ……え?」
「音楽のことはまだ正直理解できてないけど、ウタが楽しそうにしてるのを見るのが、最近何よりも好きになってる」
言葉を作りはしない。ただ紡いでいく。
「言い訳がましくなるけど、フランキー将軍とウタじゃ方向性が違うからさ。そのことは理解してほしい」
「……はい」
「? ウタ?」
「なんでもないよ」
なんで敬語が挟まったんだろうと疑問を抱くが、ベルナートは弾かれるように頭上を見上げ、それを睨みつけた。
ウタもそれに釣られ、しらほしも倣って上を見る。
「……ぇ」
空に見えるのは、あまりにも巨大過ぎる船。魚人街に鎮座していたはずの帆もない巨船が、たしかに魚人街本島の上にある。
そこから1人の大男も落下してきており、豪快な音を響かせた。バンダー・デッケンの部下の1人の大入道ワダツミである。大してダメージもないのか、すぐに起き上がっていた。
「おおきい~」
「あれ? もしかしてウタちゃんら?」
「そうだけど、私のこと知ってくれてるの?」
「おいら知ってるら! ウタちゃんのファンなんら~! サインしてほしいら!」
「いいけど……」
今そういう状況じゃないのではとウタは言い淀む。その隣りでベルナートは、これを活かそうと画策した。
「交換条件だ大入道。ウタのサインのお礼としてこの戦いの間ウタを守れ」
「ベルナート!」
「あの船はデッケンの仕業。オレが対応するからここを離れるし、この巨体が敵に回るのも面倒くさい。……ごめん、ウタ。最低な判断をした自覚はある」
「それれいいんならおいらがんばるら! おいらワダツミって言うんら!」
「よろしくなワダツミ」
「デッケンの部下が速攻で買収されてやがる!? 何しに来たんだあの大入道!!」
サイン1つで面倒な敵が味方になる。これほど好条件な取引もないが、ウタはベルナートの頬をまたつねった。この件はまたあとで"埋め合わせ"してもらわないとわりに合わない。
「埋め合わせしてねベルナート。私の気が済むまで!」
「もちろん。いくらでもそうする」
「ベルナート様。デッケン様の狙いは
状況から察したしらほしは、恐怖を堪えながら事実確認のためにベルナートに問う。その言葉をベルナートが肯定すると、しらほしはバブルを膨らませていく。
「しらほし何をする気!?」
「デッケン様の狙いが
「しらほしはオレが守る。ノアの方は……何か考えないとな」
「ですがベルナート様。外は……」
「大丈夫。オレもバブルは用意してあるから」
「……2人とも、気をつけてね」
「はい! ウタ様もお気をつけて!」
バブルで高度を上げていくしらほしに付き添うベルナートは、ゼオを打ち倒したヤマトと視線を重ねた。
それだけでヤマトは理解して頷き、これでベルナートも心置きなく厄災級の事件に向き合える。
しらほしを10年間硬殻塔にいさせた元凶。軍が探し続けても捕らえられなかった陰湿なストーカー。そのバンダー・デッケンが姿を現したという好機を逃さない手はない。
「約束するしらほし」
誰よりも優しく強い心を持つ姫のため。
外の世界に憧れる少女のために。
「今日、お前を縛っていた呪いを解く」