たった1つの笑顔   作:粗茶Returnees

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騒乱の魚人島⑥

 

 ベルナートが仮死状態になった後の顛末は、フカボシの口から説明された。ホーディはルフィが倒したということと、最大の問題だったノアはしらほしが"力"に目醒めたことで無事に止まったということ。

 ベルナートを一刻も早く空気のある環境に戻したい。そのためにはノアをどうにかしないといけない。その焦燥により目醒めたのだろう。

 敵の主力が敗北したことで、末端の兵士たちは降伏。人間の海賊たちも戦わされる理由がなくなり、すぐに矛を収めた。事後処理はネプチューン王家が責任を持って行い、主力は竜宮城の牢へと入れられた。

 

「ベルナート。しらほしのも想定して動いたよね?」

 

「しらほしの?」

 

 ベルナートとウタとヤマトは、3人で長ヒラメに乗っていた。その状況だからこそ、ヤマトはそれを切り出した。他に聞かれても困る内容だ。

 

「最終手段くらいには。もう少しうまくやれたとは思うんだが、海の中は想定通りにはいかないもんだな」

 

「2人とも何の話してるの?」

 

「ノアは海王類が止めてただろう? あれは気まぐれなんかじゃない。しらほしが呼んだんだ」

 

「え!?」

 

「口外しないほうがいい話だけどね。……ベルナートは可能性すら視えてるのかな」

 

「そんな遠いことは無理だ。しらほしのだって、あの力の声がデカイから気づけただけだ」

 

「たしかにあれは大きいだろうけど……。まぁいいや。詳細は教えてくれないだろうし」

 

 細かく聞きたいこともあるが、今聞かないといけないことでもない。ヤマトはこの話をやめて前方にあるステージに目を向けた。

 アナウンスが入って紹介される。そのステージに立っている人物は魚人島No.1歌手。ディーバことマリア・ナポレ。

 

「うそ!? マリア・ナポレさん!? 本物!?」

 

「どうしたのウタ!?」

 

「そういやウタが尊敬してる歌手だったか」

 

「会ったことなかったんだ? ベルナートなら引き合わせられそうなのに」

 

「機会がなかったというか……」

 

「忘れてたんだね」

 

「言い当ててんじゃねーよ」

 

「長ヒラメちゃん! ステージの近くまで行って!」

 

 興奮ぶりを抑えられないウタがお願いし、長ヒラメはそれに応えてステージの前まで移動した。コンサート会場の最前列よりも近い。もはや目の前と言える距離まで近づき、ウタはその生歌に夢中となる。

 いつもウタは見られる側で、魅了する側だ。それが今回は完全に逆側。子どものような純粋な眼差しでマリア・ナポレに見惚れていた。

 

「ウタがこうなるってことは、この人の歌もハイレベルなんだろうな」

 

「ベルナートは音楽音痴だもんね」

 

「ハイレベルなんてものじゃないよ! マリア・ナポレさんの歌声は蕩けちゃうくらい滑らかで優しいの! こんな綺麗な歌い方ができる人なんて他にいないんだから!」

 

「なる、ほど?」

 

「もう!! ベルナートもちゃんと聴いて!」

 

 腕を掴まれてウタの隣へと引っ張りだされる。宴に招待されたはずなのだが、音楽鑑賞をさせられることに。ベルナートにとって、音楽の良さというものは難しいものだが、ちらりと視線を横に向けるとそこには歌の世界に入り込んでいる人がいる。

 それを見せられては耳に意識を集中させるしかない。わからないなりにも、わかろうとする努力をしながらベルナートはマリアの歌を聴いた。

 

「マリア・ナポレさんの生歌を聴けるなんて……!」

 

「あなたはウタさんでお間違いないかしら?」

 

「へ? あ、はいそうです! 蕩ける歌声、感動しました!」

 

「うふふ、ありがとう。私もあなたの歌好きよ。音貝(トーンダイアル)も買わせてもらったの」

 

「本当ですか!? 光栄です! ありがとうございます!」

 

 世界の歌姫と称されるウタが敬服している。まるで憧れの大スターを前にした新人の歌手の姿だ。

 珍しい姿にベルナートとヤマトは顔を見合わせている。

 

「よかったら1曲一緒にどうかしら?」

 

「ええ!? いいんですか!?」

 

「もちろんよ。そうね、せっかくだから国中への配信もしちゃいましょう」

 

 その提案をネプチューンも快く了承し、映像電伝虫をすぐに用意させた。

 

「なんか動き回ってんな」

 

「どうやらウタさんがマリア・ナポレさんとデュエットするようですね」

 

「ウタのステージってことか! 久しぶりにおれも聞きてぇ~。ヒラメ! 近くまで頼む!」

 

「せっかくだから私たちも行きましょうか」

 

 麦わらの一味を乗せた長ヒラメ2匹もステージ近くへと移動し、それならばとマーメイドダンサーズもバックダンサーとしてステージに上がった。

 個人用のシャボンをウタが受け取り、それを膨らませてそのシャボンの中へ。尊敬する歌手とのデュエットともなれば、ライブに慣れてきたウタもより緊張するというもの。

 

「ウタ」

 

 表情には出ていなくても、付き合いの深いベルナートにはそれも伝わる。ベルナートはウタに声をかけ、右手をグーにして突き出した。

 

「楽しみにしてる」

 

「……! うん! 今日も最高のライブ見せてあげる!」

 

 笑顔を弾けさせたウタも真似て右手を突き出し、こつんと突き合わせたらマリアに手を引いてもらいながらステージに上がった。水中をシャボンで移動するのは、単に泳ぐのと勝手が違う。そもそも能力者であるが故に泳げないウタが、シャボンを使っても水中で手間取るのは当然だ。

 

「配信は責任を持ってこちらが行うんじゃもん」

 

「ありがとうネプチューン王」

 

「ヤマトそれ何用の電伝虫だ?」

 

「これ? 映像を記録しておこうかと思ってね。ゴードンへの土産になるだろ?」

 

「お前天才か? いい考えだなヤマト!」

 

「あはは! それほどでも!」

 

「……むぅ」

 

 ヤマトとハイタッチをしていると、ステージに上がっているウタから視線を感じた。それに反応して目を合わせてみたら、今度は頬を膨らませている。

 

「ベルナート」

 

「はい」

 

「ちゃんと見て聴いててね」

 

「もちろん」

 

「ウタ様のお歌。(わたくし)も楽しみにしてます」

 

「ありがとうしらほし。それで……えっと、どの曲にしますか?」

 

「ナポレでいいわよ。ウタさんの曲の"新時代"を歌わせてほしいのだけど、いいかしら?」

 

「え!? もちろん良いですけど私の曲でいいんですか!?」

 

「ええ。0から歩み直すことを考えれば、これほど合う曲はないわ」

 

 リュウグウ王国で巻き起こったクーデター未遂。それを乗り越えたこの国は、目を逸らしていた魚人街の封鎖を決定。この国の根底に溜まっていた闇に目を向け、亡きオトヒメと目指した"未来"のために歩み直すと決めた。

 0からまた、1歩1歩着実に。しかも今年は世界会議(レヴェリー)が控えている。世界各国の王たちが顔を突き合わせるこのビッグイベントでは、必ず世界が大きく動く。

 すぐそこにまで控えている"新時代"に向けて進むのだ。これ以上の曲はない。

 

「そういうことでしたら」

 

「では配信を始めるんじゃもん」

 

「ベルナート、ルフィに、それに他のみんなも! 今日という日のライブはもう二度と訪れないから。だから、一瞬たりとも気を抜かさせないから」

 

「それでは私ことマリア・ナポレと! 歌姫ウタのデュエットをお聴きください!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁ~~、もう夢みたいな時間だった~。ナポレさんと歌えたなんて」

 

「お疲れ様。すごい楽しそうだったな」

 

「当たり前だよ! 一生の思い出!」

 

「それはよかった」

 

 あれよあれよと盛り上がり、結局1時間は2人のデュエットが続き、これ宴会だろうと左大臣が軌道修正したことで夢の時間は終了。

 今は肩を並べて座り、2人でゆっくりと食事を堪能している。

 

「ヤマトは?」

 

「あっちで麦わらの一味が休んでるから、それに混ざってる。……ニコ・ロビンはネプチューン王と話があるみたいだな」

 

「……やっぱりロビンさんのこと気になってるんだ」

 

「この国にも歴史の本文(ポーネグリフ)はある。それも踏まえての話なんだろうけど、しらほしのことも話に入ってるだろうからな」

 

「海王類と話せるってやつだっけ?」

 

「そう。……あとでフカボシたちと話すかな」

 

「ベルナートはこの国好きだよね」

 

「友だちがいる国だからな。魚人も人魚も好きってのもある」

 

「男の人は人魚好きだもんね~」

 

「否定はできないな……」

 

 好きという度合いの差こそあれど、たいていの男は人魚が好きだ。なぜかと聞かれても答えに困るもので、そういうものなのだと言うしかない。ロボに魂が惹かれるようなものだろう。

 じとっとウタに見つめられ、ベルナートは困ったように笑うしかない。何を言っても意味をなさない気がしたし、そもそも言い訳をするようなことでもない。

 ウタはいつも付けているヘッドホンを外すと、ベルナートの胸に耳を押し当てる。そこでたしかに聞こえる鼓動に安心して目を閉じた。

 

「本当に心配したんだから。怪我してないからって、あれで帰ってこられても怖いよ」

 

「……ごめん。もっとやり方はあったはずなのに、あれしかできなかった。オレの経験不足だ」

 

「違うよベルナート。わかってないよ……!」

 

「ぇ?」

 

「自分のことをもっと大事にして! ベルナートがいなくなったら……私……()()()()()()()()()()()……!!」

 

「っ! ウタ……」

 

「約束、破らないで……。これからも側にいてくれるんでしょ……?」

 

「そうだな。……ああ、もうこういうやり方はしない。場合によっては怪我する日も来るけど、でも必ずウタの隣に帰ってくるから」

 

「……うん。私も待ってるから」

 

 耳を離したウタが柔らかく微笑んで見上げ、ベルナートも優しくも力強い目で見つめた。自然と手が重なり合い、指がゆっくりと絡められていく。

 

「ベルナートさんスイーツはいかが?」

 

「わっ!?」

 

「スイーツって何がある?」

 

 そんな2人の下にに、マーメイドダンサーズの1人イシリーが寄ってデザートの案内を始めた。ベルナートがまだデザートを食べていないのは把握済み。なにせヤマトとひたすら主食しか食べていなかったのだから。

 身体も髪も飛び跳ねさせて驚いているウタには、くすくすと揶揄うような笑いをプレゼント。イジワルな事するなーと同僚たちには呆れられている。

 

「ケーキにプリンにパフェ。ブリュレもあるよ」

 

「じゃあケーキで。ウタは?」

 

「……私も同じの」

 

「種類は別のものにする? それならウタちゃんと分け合えるし」

 

「いいね。それで頼む」

 

「はーい。あ、ベルナートさんが選ぶ?」

 

 そう言ってベルナートの腕に手を絡めたイシリーをウタが牽制する。それは駄目だとその目が語っていた。

 

「ウタちゃんとベルナートさんは相棒(パートナー)と聞いてるんだけど」

 

「だから変なことしないで」

 

「変って、ケーキ選んでくるだけだぞ?」

 

「ベルナートは黙ってて!」

 

「はい」

 

「あらあら、どうして駄目なの? いつの間にか恋仲に?」

 

「それは違うけど。なってないけど……!」

 

 ベルナートもそうだそうだと無言で頷いている。ウタに黙っていてと言われたから素直にそうしているのだ。

 

「ならいいんじゃないかしら?」

 

「ぅぅぅー……! 駄目ったらだめ! ベルナートは私の……!」

 

「ウタちゃんの、何かしら?」

 

 相棒(パートナー)なら、そこまで反応しなくてもいいだろうと言外に込められている。それがわかったからこそ、ウタは言葉を詰まらせ、何も言えずにただベルナートを握る手を強めた。

 

「ふふっ、うふふふふ。ごめんなさいウタちゃん。からかい過ぎたわね。ベルナートさんには助けてもらったから、お礼がしたいだけなのよ。さっきは途中で終わっちゃったから」

 

「…………それなら………………待って。さっきって何? どういうことベルナート?」

 

「マーメイドカフェでスイーツを奢ってもらってただけです……。あーそろそろフカボシと話しないとなー」

 

「逃げないの。ね? ベ・ル・ナ・ー・ト?」

 

「……やましいことは何もないんです。本当に」

 

 正座させられているベルナートを発見したヤマトが大はしゃぎで絡み、最近距離感近すぎるよねとウタに言及されてヤマトも並んで正座させられた。許された時には、ヤマトはともかくベルナートは足が痺れて動けなかったとか。

 

 その間にルフィたちがビッグマム海賊団と接触したらしいのだが、ベルナートたちがそれを知ったのは出航直前である。

 

 

 




フカボシと話したこと……ネプチューン軍全体に覇気を習得させよう
しらほしとの約束……いつかエレジアに連れて行く
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