たった1つの笑顔   作:粗茶Returnees

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ヤマトとウタと

 

「なんで新世界入る前から四皇に目をつけられなきゃいけねぇんだよ……」

 

「お先真っ暗だ……」

 

「深海だしな」

 

「そういうことじゃねぇんだよ!」

「お前は狙われてないから気が楽だろうけどよ!」

 

「はははは! ここはノリがいい奴ら多いな」

 

 2年の修行を経て新世界へ挑戦。初の新世界突入だというのに、麦わらの一味は早速ビッグマム海賊団に目をつけられた。主にルフィのせいで。

 実は爆弾もすでに送り込んでしまっているわけだが、これは一味の誰も知らない。

 さておき、項垂れるウソップとチョッパーではあるが、ツッコミを入れる元気はある。おどけるベルナートにブーイングすらいれており、そのリアクションに当の本人は軽快に笑っていた。

 

「なぁベル男~。お前なんでウタと行動してんだ?」

 

「お? ルフィがそういうのを聞くって珍しいな」

 

「そうか?」

 

「……オレがウタと行動してる理由か。……ウタにワールドツアーを提案したのがオレだからってのがきっかけだな。船もオレの船を使ってたし、成り行きだ」

 

「今は? ツアー中ってわけじゃねぇんだろ?」

 

「ウタのツアーは定義が曖昧だからな……。それ抜きにしても、ウタが行きたがる場所に連れて行くのがオレの役割だ。1年半一緒にいれば、今さら離別するのもな」

 

「実際、ベルナートがウタの側にいる必要はあるだろうからな」

 

「お、ゾロ。なんか知ってんのか?」

 

「天竜人がウタを狙ってる。それに四皇の娘ともなれば、大物海賊に狙われだしても不思議じゃねえ」

 

「天竜人……あいつら嫌なことしかしねーなー」

 

 ケイミーを買い取られかけ、ハチを撃たれた。友人を散々な目に合わせた天竜人がウタにも手を出そうとしていると聞くと、幼馴染のルフィとしては思うところが出てくる。

 

「まあでも、ベル男がウタの側にいてくれるなら安心だな。お前強えもんな!」

 

「さすがに四皇本人に来られるとキツイけどな。能力者狩りをしてる黒ひげなら、ウタの能力のことも耳にしてるだろうし」

 

「たしかにウタさんの力は、戦いに使えば敵を一網打尽にできますからね」

 

「新世界に行くとなるとその四皇がいる海になるわけだが、大丈夫なのか?」

 

 前半の海なら、そこまでの心配は必要ない。そちら側にわざわざ四皇が来ることは基本的にないからだ。戦争が起きた2年前が異例なだけ。

 ウソップのその懸念をベルナートは問題ないと流す。なにせその四皇の1人が、ウタの父親なのだから。黒ひげが動くとなれば、赤髪海賊団も即座に駆けつけてくる。

 

「オレも赤髪海賊団には世話になったからな。面識があるから大丈夫だ」

 

「へ~! シャンクスのこと知ってんのか!」

 

「去年も会ったぞ」

 

「そうなのか!? みんな元気にしてたか?」

 

「元気も元気。大人になろうと上陸も宴も子供みたいにはしゃでいたぞ」

 

「しししし! 相変わらずなんだな~みんな!」

 

「赤髪海賊団に会ったなら、親父にも会ったのか!? ヤソップって言うんだけどよ!」

 

「ヤソップさんにももちろん会った。狙撃の腕も世界で指折り。ウタに披露してたっけな」

 

「くぅ~~! 親父はやっぱすげぇんだな!」

 

 ウソップは父親のヤソップのことを誰よりも尊敬している。狙撃の腕だけじゃない。海賊としても、勇敢なら海の戦士としても。自分が追いかけるべき背中だと捉えていた。

 だが共に過ごした時間は短い。ウタの方がよっぽど長いだろう。 

 妻と子を島に残して海賊となり、その後に帰郷していないと聞けば父親としてどうなのだと言われることだろう。しかし当の妻も子も、恨んでなどいない。1発くらい殴ってもいいだろうに、ウソップにその気は毛頭なかった。

 

「その麦わら帽子はシャンクスさんから預かってんだってな」

 

「ああ。シャンクスの大事な帽子だ。……シャンクスたちにも負けねぇ海賊になって、そしたら会いに行く。それがおれとシャンクスの約束だ」

 

「いいねぇ。四皇を超えるか」

 

「おれが目指してるのは海賊王だからな!」

 

 力いっぱい笑って宣言するルフィを、クルーの誰一人として疑わない。全員が、ルフィこそが海賊王になるのだと信じているからだ。この2年での修行も、そのルフィの力になるために各々が鍛えてきた。

 いい信頼関係だなと、見ているベルナートも自然と笑う。シャンクスが賭け、エースが信じていたのも納得である。

 

「そういえば麦わら。ヤマトのことなんだが、これからも船に乗せてやってくれないか?」

 

「ヤマ男か? 乗せるのはいいけど、お前の仲間じゃねぇのか?」

 

「仲間というか親友だな。オレとエースと3人で」

 

「エース? …………ええ!? お前らエースと親友なのか!?」

 

「あれ? ヤマトはこの話しなかったのか?」

 

 ヤマトのことだからすでに話していると思っていたのに、どうやらそうではなかったらしい。ルフィだけでなく、話を聞いていた他のクルーたちも驚いていた。特にエースとも面識のあるゾロ、ウソップ、チョッパーは目を見開いている。

 ベルナートは1回思考を挟むと、ヤマトを呼んで隣に座らせた。何も聞いていないヤマトは口を横一文字に閉じて、ぱちぱちとまばたきをした。

 

「ヤマトとはワノ国で出会ったんだよ。オレはその前にエースと会ってて、一緒にワノ国に乗り込んだ。あの時のエースはまだ白ひげのとこには加入してなかったから、名を上げるためにカイドウの首を狙っててな」

 

「カイドウって四皇のだろ!? エースも鉄砲玉みたいに突っ込んでたんだなー」

 

「さすがエース!」

 

「あの時はカイドウが本隊を引き連れて遠征中でな。残ってた部下たちをエースが薙ぎ倒してたところ、ヤマトが乱入してきて2人が決闘。そのまんま宴会になった」

 

「なんでだよ!? そうならねぇだろ普通!?」

「ルフィの兄貴だからか!?」

 

「あははは! エースとは戦ってるうちに気が合うってわかってね。それでベルナートも含めて3人でたくさん呑みながら話を弾ませたものだよ」

 

「そうなのか~。いや~、まさかエースの親友に会えるとは思ってなかったなー。戦争で仲間には会ったけどよ」

 

「白ひげ海賊団と面識あるのも大概おかしいからなルフィ?」

 

 元を含めて七武海に友人が2人いる時点で今さらだが、自分たちの船長の交友関係にウソップは驚きすら通り越していた。

 

「……ベルナートはともかく、ヤマトは()()()()()()()()()()? 今の口ぶりからして、カイドウの拠点がワノ国だ」

 

「え? ……あ!」

 

「ヤマトお前、カイドウと関係があるんじゃないのか? うちの船に乗りたいって言うんなら、そこは話してもらわないと乗せられねぇぞ」

 

「そうか? 乗りたいってんなら乗せてやればいいじゃねぇか」

 

「そうはいかねぇだろルフィ。おれ達はビッグマム海賊団に喧嘩を売ってる。その上でもう1人四皇に来られちゃあ分が悪過ぎる! お前が相手の素性を気にしねぇのはいつものことだが、今回ばかりはそうもいかねぇ」

 

「けどよー」

 

 幼馴染であるウタの友だちを疑いたくない。ルフィのその気持ちもゾロには十分伝わっている。ヤマトからは敵意も悪意も感じないのだ。ベルナートのことだって信用できる。エースの友人でもある。信じるに値するものは揃っている。

 それでも、状況が状況なのだ。ヤマトの素性を綺麗に聞き出す必要性は残っていた。

 

「それもそうだね。自分のことを話さずに乗せてくれなんて虫が良すぎた。ごめん!」

 

「いや頭下げろとは言ってないんだが……」

 

「改めて名乗らせてもらおう。僕はヤマト。君たちの懸念通り、カイドウの息子だ」

 

「えええぇぇぇ!? カイドウの息子って……! なんでそんな奴が!?」

「スパイか!? でもそれならもっとデカイとこに潜り込めよ!」

 

「安心してほしい。僕がカイドウの息子であることはどうしようもない事実だけど、クソ親父のために動く気はないんだ。むしろこの手で倒してやりたいくらいさ」

 

「……どうやらヤマトさんにもいろいろとあるようですね」

 

 静かに語っていたが、「倒してやりたい」という言葉には特に力が篭っていた。実の子が親に対してそこまで言っている。そのことにルフィたちも事情を抱え込んでいることは察した。

 

「ヤマトさん。ワノ国と言えば侍が強いことで知られていますが、今は四皇カイドウの支配下にあると?」

 

「うん。そうなんだ」

 

「なぁブルック。侍ってなんだ?」

 

 聞きなれない呼び名にチョッパーが首を傾げた。

 

「侍とはワノ国にいる剣士の呼び名です。ワノ国は世界政府非加盟国。ですが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言われてきた国なのです」

 

「そんなになのか!?」

 

「その侍たちですら、カイドウには勝てなかった。四皇の強さに実感が推し量れるな」

 

「いやそれでわかるのはお前ら剣士だけだぞ」

 

「ワノ国のことはいずれ、機会があれば話そう。今話しても仕方ないしな」

 

 ヤマトが憧れる光月おでんのことも、ワノ国で起きた出来事も。それらはその国にとって大きなことだが、麦わらの一味と関係があるかと言えばない。必要以上の情報は出さなくていいベルナートが判断し、ヤマトが語り過ぎない前に線引きする。

 

「僕は侍が好きなんだ。その侍たちを嵌めて、殺した父を僕は許さない。だからスパイとかではないんだ」

 

「だってよゾロ」

 

「ああ。そういうことならこれ以上は聞かねぇ」

 

「この船にこれからも乗っていいってこと?」

 

「そういうことだろうな。よかったなヤマト」

 

「うん! あ、でもまだベルナートたち側だからね!」

 

「気にしなくていいのに」

 

「僕は気にするんだよ! ベルナートには借りを返せてないんだから」

 

「あれは交換条件だったろ」

 

「僕にとっては大きな借りだよ。君が来てくれなければ、僕は未だにワノ国から出られてなかったんだ」

 

 同行するだけでチャラになるなど、それは話が良すぎる。ヤマトにとっては人生のターニングポイントだったのだ。本格的に麦わらの一味に加入するには、そこの精算を済ませておきたい。それではじめて、ヤマトは堂々と海賊になれるというもの。

 ヤマトが海賊になることには、ウタは大変渋い顔をしそうだが。

 

「精算が済むまではよろしくね、ベルナート」

 

「……はぁ……、好きにしたらいいさ」

 

「うん! ところで深海の魚って食べられるのかな。一緒に捕まえようよ」

 

 友だちと面白そうなことをする。無邪気な子供のように、ヤマトはベルナートの手を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 ヤマトたちがそういうことをしている間、ウタはサニー号の船室にいた。その場所はキッチンとダイニングが合わさった場ことダイニングキッチン。長テーブルが設置されている隣にはバーカウンター。その奥にキッチンがある。

 そこを切り盛りするのが、この船のコックであるサンジだ。東の海(イーストブルー)にある海上レストラン"バラティエ"。そこで料理の腕を磨いていたサンジは超一流のコックと言って差し支えない。さらにはカマバッカ王国にて「攻めの料理」も習得してきている。

 

「サンジさんがコックなんだ? いつもみんなの分を?」

 

「ああ。それがおれの仕事なんでね。ルフィがよくつまみ食いするもんだから、そこは困ったもんだけどね」

 

 今はサウザンド・サニー号に乗っているが、それまではゴーイングメリー号で旅をしていた。その時は冷蔵庫に鍵がついておらず、ルフィの盗み食いにより食糧難になることも多々あったとか。

 サンジの夢の中に鍵付き冷蔵庫が出てきたとは本人談である。その夢から醒めた時の絶望感もまた大きかったようだが。

 

「ルフィったら、子どもなんだから」

 

「昔からそうだったのかい?」

 

「子どもっぽいって意味なら、昔は実際がきんちょだったし。今は想像以上に強くなったみたいだけど、普段の調子は相変わらずって印象かな」

 

「へ~。ルフィは自分のことも他人の過去も気にしない奴だからさ。ルフィの昔のことを聞けるのは新鮮だな」

 

「私も、ルフィの友だちにルフィの話をできるのは新鮮だよ。ところでサンジさん、お願いしたいことがあるんだけどいいかな?」

 

「ウタちゃんのお願いとあらば喜んで」

 

 内容を聞く前からサンジが快諾。女性にとことん甘い男である。

 ウタは気恥ずかしそうに視線を横に逸らし、僅かに頬を染めていく。その姿に一度目をハートに変えるも、真面目な話だと察してすぐに戻した。紳士になることもできるのだ。

 

「私に料理を教えてほしい」

 

「料理を? ウタちゃんが?」

 

「……私、いつも支えられてばかりだったから。みんなに……特にベルナートに」

 

 航海もベルナート任せ。料理だって当番制で、護衛すら担っている。

 それを当たり前だなんてウタは一度も思ったことはなかった。自分にできることは歌うことだけ。それでしかベルナートに応えられない。本人はそれで良いと言うだろうが、ウタが納得できない。

 だから、できることを増やしたかった。

 

「私の能力の世界なら、戦闘もどうにかなるけどそれは現実とは違う」

 

「ベルナートもそれは望んでないだろうね」

 

「そう、だから他に何があるか考えて、料理だなって思ったんだ。サンジさんの料理は最高だってみんな言ってたから、お願いしたい。ベルナートの力になりたくて! ベルナートを私も支えたいから!」

 

「……わかった。君の心意気は理解した。どれだけの間教えられるかわからないけど、時間の許す限りウタちゃんに教え込む」

 

「ーーっ! やった!! ありがとうサンジさん!」

 

「どれだけモノにできるかはウタちゃん次第だ。気を抜かないでくれよ」

 

「わかった! ふふっ、ベルナートに美味しいって言ってもらえるようになるんだ」

 

「相手を想うその気持ちが一番大切だ。必ず上手くなるよ」

 

 渾身の紳士スマイルで背中を押しているサンジだったが、内心ではベルナートへの嫉妬で怒り狂っているのだった。

 ゾロとも面識があると聞いた瞬間には、ゾロを蹴りに行って喧嘩が始まったとかなんとか。

 

 

 

 

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