たった1つの笑顔   作:粗茶Returnees

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パンクハザード①

 

 どういうわけか、麦わらの一味の航海で安定した航海というものは期待できない。魚人島に行く道中にも海底火山の噴火が起き、新世界に向かうための浮上中も白い竜(ホワイト・ストローム)が発生。釣った深海魚マトリョーシカのせいで巻き込まれ、その先でたどり着いた海は火の海。

 そこで鳴った救難信号にルフィがすかさず反応し、信号を発した者がいる島の名はパンクハザード。襲撃者が侍であると聞き、ヤマトは徐ろに反応していた。

 

「救難信号の届く距離を考えると、奥に見えているあの島が限界ね」

 

「侍にパンクハザード、か」

 

「ヤマトは何かわかることある?」

 

「うーん……思い当たることはあるけど、今話せることでもないかな」

 

「ベルナートはパンクハザードに反応してたようだけど、心当たりが?」

 

 鋭い観察眼を発揮するロビンの指摘に、ベルナートは頷いて肯定する。この島のことは知っている。直近のことで言えば、麦わらの一味だって話に聞いた島だ。

 

「パンクハザードは政府管轄の島で、ベガパンク率いる海軍の科学班がいた島だ」

 

「ベガパンク!?」

 

「こんな島でか!?」

 

「4年ほど前まではな。事故が起きてこの島は封鎖。立ち入り禁止の島となり、だからこそ赤犬と青雉の決闘場所に選ばれた」

 

「この島で決闘したのか……!?」

 

「……えっ!? じゃあもしかしてこの火の海って!」

 

「2人の力に大きな差はない。島の奥側は雪やら氷やらがあるだろうな。……島の気候すら変える強さ。それが前体制の海軍の最高戦力だ」

 

「「……」」

 

「まあでも斬られた奴も侍もこの島にいるんだろ? 行こうぜ!」

 

 改めて海軍大将の強さに絶句する仲間をよそに、ルフィは上陸のことをもう考えていた。決闘場所に選ばれた島だろうと、それはもう過ぎた話。この場に赤犬も青雉もいるわけじゃない。特殊な島ではあるが、新世界に来て最初の島だ。冒険する気満々である。

 

「くじを用意するから。それで誰がルフィと行くか決めましょ。ベルナートたちは客人だから抜きね」

 

 ナミがナチュラルにヤマトも除外。ショックを受けたヤマトは膝を抱えていじけた。

 

「はぁ。島までなら連れて行ってやる」

 

「本当かい!? さすがベルナート!」

 

 ベルナートとサンジは空中を動き回れるが、ヤマトはそれができない。ルフィたちがどう上陸するかはさておき、それに並行してヤマトも上陸することが決まった。

 大喜びするヤマトはその勢いのまま飛びつき、早く連れて行けとベルナートにせがみ始める。

 

「まだ麦わらたちがくじ引きしてるところだろ……」

 

「先に島に着いていてもいいんじゃない? 向こうで待てばいいし」

 

「暑いぞ? それに奥まで行くとなると逆転するからコートが必要になる」

 

「侍は暑くないし寒くもない」

 

「強がってないで大人しくコートは持っていけよ」

 

 いらないんだと言い切るヤマトに今回は折れ、必要になったらその時に投げ渡せばいいかと心の内で決定。ヤマトを持ち上げていざ行かんと足を手すりにかけると、サンジがベルナートを呼び止めた。

 

「深海魚を使った弁当を用意してやるから待て」

 

 冒険に海賊弁当は付きもの。ルフィが行くのだからすぐに帰ってくるとも限らない。それに深海魚料理は、いくら一流と言えど初の試み。一口も食わせないなんてあり得ないことだった。

 くじ引きが終わって上陸するメンバーも決まる。ルフィはもちろんのこと、同行するのはゾロとロビンとウソップ、そしてヤマトだ。ヤマトだけ上陸手段がベルナートである。

 

「ベルナートは行かないのか? 歌姫(プリンセス)ウタに同行する前は冒険家だったんだろ?」

 

「ここに誰がいるのか。それ次第だな。ヤマトを送るために一度上陸はするから、その時に島全体を把握して判断する」

 

「どんだけデカイんだよお前の見聞色……」

 

「たしかエネルが似たような範囲だったわね……」

 

 2年前に空島にいた神。心網(マントラ)という呼び方だったが、それは見聞色の別称。神官たちも使えた力であり、エネルはスカイピア全体を把握できていた。

 ベルナートもまた、それに劣らない範囲で把握できるらしい。普段はオフ状態にしているが。

 

「ロビンちゃんヤマトちゃん。お弁当を用意できたよ~~」

 

「ふふっ、ありがとうサンジ」

 

「ありがとう!」

 

「おら、ルフィたちの分もな。クソマリモのはこれだ」

 

「おう! サンキュー!」

 

 ルフィたちも受け取っていると、サンジの後ろからウタがひょっこり現れる。その手には布で包んだ弁当が握られており、それをベルナートに差し出す。

 

「はい、ベルナートのお弁当。サンジさんに教わりながら作ったから、いつもより美味しくできてると思う」

 

「ありがとうウタ。せっかくだから向こうで食べてくる」

 

「うん。気をつけてね」

 

「行ってきます」

 

 ベルナートの分の弁当もヤマトがその手で抱え込み、今度こそベルナートはヤマトを抱えて船から跳ぶ。弁当のことも考慮し、揺れを抑えめにしての移動だ。

 それに続く形でナミがミルキーウェイを作り、それがあるうちにルフィたちはミニメリー2号に乗って出発した。

 

 パンクハザードは政府所有の島。天才科学者ベガパンクがいた島であり、この島には当然数多くの研究者たちもいた。彼らの居住区だった場所も存在しており、それがあるのが火の海側。

 ベルナートはそこに着地すると、ヤマトを下ろして弁当を受け取る。ルフィたちを待つ時間を利用して、早速それを食べ始める。

 サンジが作ったものと、ウタが作ったもの。ウタの用意した弁当は、一流のコックが側で見ていたのもあって、盛り付けすらいつもより豪勢である。

 

「いただきま~す。 っ!! ん~~、美味しい~! サンジの料理が凄いっていうのは本当だったんだね!」

 

「そりゃよかったな」

 

「ウタが作ったお弁当はどう?」

 

「こっちも美味いぞ。ウタが普段作るやつ以上に」

 

「それ一言余計かもね~」

 

「……たしかに」

 

「味付けは同じかな?」

 

「違うと思うぞ。オレ好みの味になってるから」

 

「1年以上一緒にいたら、好きな味も把握できるもんね」

 

 ゴードンと共にいた時は、ゴードンが基本的に作っていた。それでもベルナートが担当することもあったし、2回目以降のツアー中は当番制。ベルナートの好きな味付けは、本人が作る料理から理解できた。

 

「あ、でもウタが作ってるのに味付けがそうなってるのは初めてじゃない?」

 

「そうなんだよなー。弁当だからか?」

 

「それはあるだろうね」

 

 会話をしながら深海魚弁当を堪能し、食べ終えるとヤマトが落ち着かない様子でいることを指摘した。

 ここに"侍"がいるからなのかと。

 

「……うん」

 

「侍はワノ国から出ないと思っていたんだけど」

 

「基本的には出ないよ。それ自体が罪になるらしいし、やったのは光月おでんくらいのはず」

 

 止めようとしてそのまま出国してしまった者やイヌネコはともかく。

 

「そうは言ってるけど、心当たりはあるんだろ。ここにいる侍に」

 

「直接の面識はないんだけどね。……かつて光月おでんに仕えていた侍たち。赤鞘と呼ばれる9人の侍がいて、その1人かもしれない」

 

「赤鞘は生きてるのか?」

 

「死んだとされてるけど、遺体は発見されてない。それなら生きてると考えるほうが妥当だろう? ワノ国の外にいるから、いくら探してもきっと見つからなかったんだ」

 

「なるほど。……会いたい気持ちは強いだろうが、慎重にな。ヤマトは立場が立場だ」

 

「……わかってる」

 

 ヤマトの憧れの男。その男に仕えていた侍の1人がいる。そう期待を寄せるのはいいが、ヤマトがカイドウの実子であることは消せない事実だ。ワノ国を支配している男の1人、その身内。侍が目の敵にしたっておかしくない。

 信用を得るにしても、素性を明かすにはより一層慎重になる必要がある。ヤマトもそれは頭で理解していて、深呼吸を繰り返して気持ちを抑えていた。

 

「ベルナート」

 

「ん?」

 

「あ……いや……。ううん、やっぱり大丈夫」

 

「? ヤマトが大丈夫って言うならいいけど、あんま1人で抱えるなよ」

 

「君にだけは言われたくないよ」

 

「……」

 

 そんなことないだろと目で訴えると、強い意思で首を横に振られた。

 そうこうしているとルフィたちも到着し、2人と合流。ミニメリー2号に乗っている間に、ウソップ以外は弁当を食べ終えたようだ。

 

「空になった弁当箱はオレが預かる。この後船に戻るからな」

 

「助かるわ。悪いけどお願いね」

 

「サンジに美味かったって言っといてくれ!」

 

「わかった」

 

「なぁおいベルナート。島のこと探ったんだろ?」

 

「一応な。でも、冒険なら言わないほうがいいだろ?」

 

「しししししっ! ああ! もちろんだ!」

 

「それじゃあベルナート。また後でね!」

 

「楽しんでこいヤマト」

 

 情報をくれと泣きつくウソップを一蹴。何も伝えないベルナートにルフィは満面の笑みでサムズアップし、ウソップに腕を巻きつけて連行する。

 立ち入り禁止となった島に堂々と足を踏み入れていくルフィたちを見送り、大手を振りながら同行するヤマトにも手を振り返した。

 程々に見切りをつけると、ベルナートはウソップの分以外の弁当を抱えてサニー号に帰還。暑さで蕩けているチョッパーに風を送ってやるも、それは焼け石に水のようだった。

 

「美味かったって麦わらが言ってたぞ」

 

「一流だからな。ルフィが満足してんならよかった」

 

「ベルナートも食べた?」

 

「食べた。美味しかったぞ。味付けまで好みのやつにしてくれてたな」

 

「あはは、気づいたんだ? なんか恥ずかしいね」

 

 気づいてほしかったポイントではあるが、気づいてくれたことを教えてもらうと面はゆい。頬を掻きながら目を逸らしたウタは、ベルナートの手から空っぽの弁当箱を強奪。洗うためにキッチンへと走っていく。

 

「洗い物ぐらいするのに……」

 

「弁当は皿に乗せるのとはまた違うからな」

 

「と言うと?」

 

「皿に盛るのと違って、弁当は空になろうとも蓋はしてあるだろ? それを開けて目に入るその人の食べっぷりは、作る側として嬉しいものさ」

 

 これまでも何度も弁当を作ってきたのだろう。思い出すように、感慨深くなりながら話すサンジの言葉には、実感が篭っていた。

 

「お返しに今度オレも作ってみようかな」

 

「……まぁ、それもいいだろうが、他のもありなんじゃないか?」

 

 料理向上を目標にしているウタに、弁当をお返しに用意する。たしかにそれは等価なのだろうが、これで変に影響を与えてしまうのは非常にまずい。料理はあくまで本人のペースで、学んでいくべきだ。

 ウタは「ベルナートのために」と取り組んでいる。ならばベルナートは、お返しをするのなら他の形でやった方がいい。サンジはそう判断してやんわりと誘導していく。

 

「他の……。オレがウタにしてやれることなんて全然ないんだけどな……。他のか……」

 

(このコンビまじか……)

 

 どうやら「自分は何もしてやれてない」と思っているのは、お互い様らしい。いっそ一度を場をセッティングしてやった方がいいのだろうかとサンジは頭を悩ませた。

 

「島の反対側に船を回しておきましょう。ここじゃルフィたちが戻ってこれないわ」

 

「あの小船はどうする?」

 

「そうか。ルフィたちが奥に進んで行くならミニメリーの回収が必要だな」

 

「ロビンが子電伝虫を持ってるから、頃合いを見て確認を取りましょう。サニー号で内側に行けたらその方が楽だし、移動してる間はそこ確認しといて」

 

「それでいいならオレが回収するのはやめとくか」

 

「ベルナートまた島に行く気なんだ?」

 

 弁当を洗い終えたウタがキッチンから出てくると、ベルナートの顔を見てそれを見抜いた。

 麦わらの一味は全く気づけておらず、そうなのかと反応を示している。ベルナートはそれに頷き、パンクハザードを見やる。その目はその方向を見ているだけであって、島を見ているわけではない。明らかに特定の何かを見ている。

 止められないことも理解したウタは、震えそうになった口を強く結んで、ベルナートの後ろに回ると背中にそっと手を添えた。

 

「帰ってくる?」

 

 どこにかも、具体的なことは言えなかった。

 

「帰ってくるよ」

 

 悩んだ節はなかった。間は──少し開いた。

 ウタの瞳は小さく揺らぎ、ベルナートの背中をトンと押した。

 

「ならよし! あんまり遅くならないでね」

 

「……ウタも気をつけろよ。ここには世界の闇がある」

 

「闇……?」

 

「少しの間、ウタのこと頼んだ」

 

 ヤマトがいないのと弁当を持っていないことで、今度は瞬く間にその姿が小さくなっていく。

 移動を開始する船の上で、ウタはただただその背を見つめていた。

 

「ウタちゃんを置いて上陸するなんて、何考えてんだあの野郎」

 

「…………きっとモネがいるんだよ」

 

「モネ?」

 

「ベルナートの…………たいせつなひと」

 

 言葉にするのと同時に、胸が小さく締めつけられるのをウタはたしかに感じた。

 

 

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