たった1つの笑顔   作:粗茶Returnees

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パンクハザード②

 

 パンクハザードは無人であるべき場所でありながらも、無人ではない。救難信号によりそれは示唆され、ベルナートが一度上陸して把握したことで確定した。そしてここに、世界の裏側、闇が存在することも。

 

「久しぶりだなモネ」

 

「っ! ……ええ。久しぶりねベルナート」

 

「ここにいるのは、さすがにバカンスじゃなさそうだな」

 

「そうね。仕事よ」

 

 ベルナート相手に嘘は通じない。嘘をついても見透かされることをモネは知っている。何よりもモネ自身が、ベルナート相手に嘘をつきたくなかった。

 モネの視線の先には、竜を倒してその肉でバーベキューをしているルフィたちがいる。ロビンとウソップは食べていないようだ。

 

「ここを離れるわね」

 

「悪いけど、ついていかせてもらうからな」

 

「……そう」

 

「仕事の邪魔は……そこまではしない」

 

「あら、譲歩してくれるのね」

 

「モネの顔を立てるためにな」

 

「ありがとう」

 

 モネは翼をはためかせて飛行し、その隣をベルナートが当然のように空を蹴って並行する。皮肉なことに、むしろベルナートの方が速度を合わせているが。

 

「雪山の方に行くけれど、その格好でいいの?」

 

「問題ない。研究所までなら耐えれる寒さだ。ところで、その翼とかモネの能力じゃないよな?」

 

「ふふふ、そうなの。どうかしら?」

 

「鳥が好きなのは知ってたけど、まさか人面鳥(ハーピー)になるとはな」

 

「幻滅しちゃった?」

 

「妖艶さが増して目を奪われた」

 

「えっ、そ、そう?」

 

「おっと」

 

 照れた顔を隠そうとしたことで、モネは翼を閉じてしまった。高度が下がっていくモネをベルナートがすかさず抱きかかえ、そのまま移動を続ける。

 

「かわいいところは相変わらずだな」

 

「なっ……! あ、あなたがそうさせてるのよ……!」

 

「それこそ、モネがそうさせてるんだよ」

 

「~~、もう!」

 

 熱くなる頬を翼で隠し、モネはそっぽを向いた。

 もしモネが仕事中でなければ、ベルナートももっと気楽でいられたことだろう。それこそデートに誘うこともできた。しかしモネは仕事でこの島に来ている。そこからベルナートは、芋づる式に背後関係を読み取っていた。

 

M(マスター)がこの島にいるんだな?」

 

「……ベルナート……」

 

 肯定も否定もできず、困ったようにモネは眉をよせただけだった。その反応から当たりだと確信し、どう動くかを考える。

 モネはドンキホーテファミリーの一員だ。ドフラミンゴがモネを送り込むということは、大仕事に繋がっているということ。今抱えているそれは十中八九カイドウとの取り引き。つまりSMILEの製造。

 SMILEのことはヤマトからも聞いている。ハズレがあることも。

 ここに隠されているのは、その工場あるいは原料となるもの。それを壊した場合、新世界の歯車は崩壊し強制的に時代が加速していく。それを踏まえてどう動くかだ。

 

「政府のチームから追放すらされた男。成功率の低さと必要な技術力からして、そいつしか該当しない」

 

「……ベルナート。あなたは世界の表舞台に出ていないけれど、裏にだって足を踏み入れてこなかった。狭間でどちらも見てただけ。……そのあなたが裏に踏み込むの?」

 

 これに関われば今後がただじゃすまない。因縁のあるドフラミンゴにマークされることは言わずもがな。M(マスター)にもしもが起きれば、裏の人間たちに狙われだしてもおかしくない。最悪の場合はカイドウだ。

 その危険をわかっているだろうが、モネはそれをあえて言うことで、ベルナートを遠ざけようとした。巻き込みたくないのだ。

 

「必要となればそうする。オレの嫌いなものは"理不尽"だから、それが目の前にあれば見過ごすわけにもいかない」

 

「それ先のことを考えてる?」

 

「考えてるよ。世界会議(レヴェリー)も控えてる。今年で世界は大きく動き出す。それに呑まれないために動く」

 

「ウタのために?」

 

「……オレがそうしたいんだ。もう、十分静観してきた」

 

 ウタの願いがどうであれ、受け取るのも解釈するのも民衆側だ。他者だ。そして世界に知られていようとも、普段のウタのことは知られていない。歌手としての側面が最も印象強く持たれている。

 配信活動は不定期だが再開していた。ウタという人間を発信してきた。だが、それで思い通りになるほど世界は単純じゃない。

 もしウタが世界中から狙われるのなら。あるいは世界の声に応えろと迫られるのなら。

 ベルナートは世界を相手に戦う覚悟ができている。

 

「そう」

 

 力強い目をしていた。もう決意は強固なものとなっている。

 それがわかるから、モネはこれ以上言っても仕方ないことも理解している。この話は終わらせ、これからどうしようかと思案する。

 ベルナートはこのままM(マスター)に会うつもりなのだろう。最悪の場合、対面させたその時点ですべてが終わりかねない。歯車が狂いだしかねない。

 そうなった場合のことを考えていると、モネが携帯している電伝虫に着信が届いた。ベルナートがいるとはいえ、出ないわけにもいかない。いつもならしないでいい緊張をしながら、モネはそれに応答した。

 

「何かあった?」

 

『海賊船にいた者たちを連行する。人間3人に人間らしき鉄人1人。ペットが1匹。うち1人が、驚くことに()()()()()

 

「……そう。歌姫はあなた達が思っている以上に重たい存在。丁重に運びなさい」

 

 それだけ言ってモネは通話を切る。どのみち報告だけで長電話の必要もないわけだが、一番聞かれてはいけない相手に、聞かれてはいけない情報を聞かれた。そのことにモネの背筋は凍っていた。

 恐る恐るベルナートの様子を窺ってみるも、これといった変化は見られない。ただ空を蹴って移動し続けているのみ。

 

「ウタを連行、か」

 

「危害を加えないようにはさせるから」

 

「モネのことは信じてる。でも他の奴のことは信じられないな」

 

 なにせこの島に潜んでいるのは、政府から追放された科学者なのだから。

 

 

 

 

 

「お前悪魔の実の能力者だったんだな」

 

 火の海を抜け、ケンタウロスとも遭遇し、湖も超えて一段落ついたところで、ルフィたちはヤマトの新情報に関心が向いていた。茶ひげの巡回部隊から上着を奪い取っているルフィたちだが、ヤマトだけは能力で半獣人となり寒さを和らげている。

 現在は従えさせた茶ひげの後ろに乗っており、研究所へと走らせている。

 

「なんとも神秘さを感じさせるお姿ですね」

 

「イヌイヌの実の幻獣種だよ。僕も食べたかったわけじゃないけどね。空腹には勝てなかった」

 

「? カイドウの息子なんだろ? なんで空腹になってたんだよ」

 

「僕が光月おでんを名乗るから、子供の頃から軟禁されたり食事抜きにされたり。戦いを挑んでは殺されかけたり。そんな感じだったからかな」

 

「ひでぇな!? 実の子にそんなことするか普通!?」

 

「光月おでんという存在が、それだけカイドウに警戒されてたからね。でも今は自由だからいいんだ! ベルナートのおかげで外で冒険できてる!」

 

「そのベルナートさんは何やら、モネさんという方にお会いしに出かけていますが、ヤマトさんはご存知ですか?」

 

「モネ? ううん。僕は知らない」

 

 ウタの初めてのワールドツアー。その前半で出会ったのだから、ヤマトがモネのことを知らないのは当然のことだ。

 しかしベルナートがウタの側を離れている。ヤマトがいない上でだ。麦わらの一味がいるとしても、その点がどうにも引っかかる。それをブルックの言葉が解消した。

 

「ウタさん曰く、ベルナートさんの大切な方だそうです」

 

「ベルナートの大切な……。……んーと…………あっ! あの人がモネなのか!」

 

「なんだやっぱり知ってたのか」

 

「会ったことはないよ。話は少しだけ聞いたことがあるんだ」

 

 ヤマトもまた、ベルナートの経歴を大まかながらに知っている人間だ。エースと3人で談笑していた時の記憶を掘り起こし、その中でベルナートから軽く聞いていた内容を思い出す。

 

「まずベルナートって1人旅が普通なんだよね。ウタと出会う前も1人だけで世界を見て回っていたらしいし」

 

「鷹の目のことを考えれば妙な説得力があるな……」

 

「うん。なんだけど、ベルナートは過去に一度だけ、他の人を船に乗せたことがあるんだ。細かいことは知らないけど、ベルナートが会いに行くほどの仲なら、その時乗船してた人がモネなんだろうね」

 

「……ベルナートの人柄と交友関係を考えると、どうにも1人旅が引っかかるんだが。仲間と一緒に冒険をしたっておかしくなさそうだよな」

 

「それは……僕の口からは言えないかな」

 

「?」

 

「彼の性格と過去を考えれば、それもおかしくないのよ」

 

 疑問を抱いたウソップだったが、ベルナートの過去を知るロビンがやんわりと悟らせた。ベルナートもまた、この世界によって波乱万丈な人生を歩んでいる者の1人だ。

 

「生い立ちも環境も経歴も、重なるものはほとんどないのだけれど、彼はある意味私と同じ」

 

「ロビンと? 頭いいとこが?」

 

「ふふふ、違うわルフィ。世界のタブーを犯していること。この一点で世界政府に追われる身であること、そして革命軍の方から接触を図る点ね」

 

「……ロビン。あまりベルナートの過去は話さないでほしい。彼自身が話さないことだから」

 

「そうね、これ以上のことは言わないわ。……ふふっ、彼も周りに恵まれているのね」

 

 この世で1人ぼっちはあり得ない。かつて親友に言われたことを、ロビンは再度実感した。

 ただ人と接点があるわけじゃない。ベルナートはしっかりとその点から絆という線へと昇華している。その中でも強固な線を持つ者の1人であるヤマトは、研究所の方へと目を向けて僅かに心配そうにしていた。

 ブルックと合流する前の電伝虫でのやり取りで、ウタを含めて他の仲間たちが攫われたことは把握済み。

 だがヤマトが懸念しているのは、ウタよりもベルナートのことだ。ウタのことはたしかに心配だが、麦わらの一味と一緒にいる。ある程度安心はできた。それよりも気になるのは、ウタが攫われたと知った場合のベルナートの行動。

 

「ベルナート……キレてないといいんだけど」

 

 

 

 

 

 

 ベルナートやルフィたちがパンクハザードに上陸している一方で、もう1つの勢力もこのパンクハザードへと来ていた。

 海軍本部第五支部。通称G-5。そこに所属し、中将となっていたスモーカーは、東の海(イーストブルー)からずっと麦わらの一味を標的としてきた海兵だ。

 東の海、アラバスタを経て、この新世界ではG-5にいることで麦わらの一味を待ち構えていた。ルフィの思考を読み、魚人島から辿れる航路の1つライジン島にいたのだが、救難信号に応えているルフィの無線を傍受。パンクハザードへとすぐに軍艦を進ませた。

 

「魚人島から浮上してきた海賊たちによりますと、あの天喰いが麦わらの一味に同行している可能性が高くなりますが……」

 

「そっちは無視だ。この戦力で麦わらと天喰いを同時に相手なんてできねぇ。あの男に関しちゃ四皇赤髪と同じ対応でいい」

 

「こちらから手出しさえしなければいいと」

 

 地雷さえ踏まなければいいし、挑みもしなければいい。戦桃丸はシャボンディ諸島にいたせいで戦うしかなかったが、ここはマリージョアから離れている。何よりもスモーカーは、上の指示にそこまで従順ではない。己の正義を貫くだけだ。

 

 海軍を追い払うために撒かれた毒ガスを抜け、氷塊も砲撃で突破。

 研究所の入り口近くまで軍艦を進め、部下と共にスモーカーも上陸。律儀にインターホンを鳴らすと中からは七武海の一席に座った外科医、トラファルガー・ローが現れる。

 そこで問答をしている最中にローの後ろから大勢の人間の声が響いてくる。ロー本人も内心驚きながら後ろに目を向けると、奥から駆け込んできた者たちが勢い良く扉を押し開けた。

 

「スーーーパーーー!!」

「きゅうきょくだー!!」

 

(大ダヌキ冬のビキニ大きなガキ共にロボ。極めつけは……)

 

「さむっ!?」

 

「麦わらの一味!? それに彼女はウタ!?」

 

「う、う……歌姫ウタぁぁぁ!?」

「誘拐だぁぁぁ!!」

「麦わらの一味が誘拐したってのは本当だったんだぁぁ!!」

 

 

 




ベルナート……おこゲージ上昇中
モネ……はらはら中
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