たった1つの笑顔   作:粗茶Returnees

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パンクハザード③

 

 パンクハザードはベガパンク率いる科学班が滞在していた島であり、当然研究所がある。その内の1つは4年前の爆発事故で吹き飛んでいるが、無事な研究所もある。

 ベルナートはモネと共にそこに入り、この島で密かに研究と実験を続ける男の研究室へと入っていく。研究室と言ってもその部屋は広く、中にはソファ。横にはバーカウンターが設置されており、研究室と聞いてイメージするような部屋にはなっていなかった。

 

「お前がM(マスター)、シーザー・クラウンか」

 

「ん~~? そういうお前は誰だ? モネが連れてきたようだが」

 

「やめとけシーザー。お前が仕掛けるよりオレがお前の首を斬り落とすほうが速い」

 

「シュロロロ! 随分なたんかをきっ──」

 

 立場を理解させようと企むシーザーの首元へとベルナートは刀を突き付けた。完全に油断していたとはいえ、刀を抜く動作どころか接近すらシーザーは見切れなかった。

 言動が虚勢ではないことが証明され、シーザーは冷や汗を流す。

 

「お前……何が狙いだ」

 

「今は何も。ウタを捕えたと聞いたが、今はどうしてる?」

 

「……脱走している。他の奴らと一緒にいるのは部下が確認済みだ」

 

「ならいい。ウタに何かあれば、オレはお前を即座に斬るからな」

 

「ぐぬっ! なんて野郎を連れてきてんだモネ!」

 

「あら失礼。彼相手には大人しくするしかないもの」

 

 たった今身を持ってそれを知ったシーザーは、モネへの責任追及も断念させられる。タイミングからして今回の侵入者とベルナートも繋がりがある。ウタのことを言及しているのだから確定だ。

 これで仮にウタがまだ別室の中だったら、人質として利用できただろう。だがそれも叶わない。

 自分の日常の中に突如として放り込まれた巨大なノイズ。それをどう対処したものかと頭を働かせている目の前で、モネはコーヒーを淹れてそれをベルナートに渡していた。

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして。さすがに冷えたでしょ」

 

「まぁな」

 

「和むな! 何を我が家みたいに過ごしやがって!」

 

「まだいたのかシーザー。出ていっていいぞ」

 

「ここはおれの部屋だ!!」

 

 なんか言ってるなとモネに目で語りかけ、くすりと笑ったモネは自分の分の飲み物も淹れてベルナートの隣りに座る。シーザーは完全に眼中から外された。

 

「せめて何か情報を出せ! ここに侵入してきた奴らのこととかな!」

 

「麦わらの一味だよ。それとは別にウタと、オレの親友が1人いる。その2人には手を出すなよ」

 

 ヤマトが負けるとは思えないが、麦わらの一味や海軍の他にもう1人大きな気配がいる。相性次第ではヤマトも厳しいだろう。そしてそれ以上に、ウタはただの歌手だ。戦闘に巻き込まれると危ない。

 ベルナートがその気になれば、いつでもこの研究所を両断できる。シーザーが相手でもそれをしないのは、モネの仕事に関係するからだ。主義と相容れなくとも、極力は手出しをしたくない。モネがベルナートに甘いように、ベルナートもまたモネに甘い。

 

「麦わらの一味と言えば、2年前に司法の島を落とした海賊ね。当時七武海だったクロコダイルも彼らの前に破れてる」

 

「さすがだなモネは」

 

「うふふ、当然よ。船長は史上初のインペルダウンへの潜入をして、大量の囚人が逃げた大脱獄の主犯でもある。頂上戦争にも参加したとか」

 

「シュロロロロ。なかなかイカれた経歴の海賊だな」

 

「2年の潜伏期間もあったから、懸賞金以上の強さだ。ここまでなら教えてやる」

 

「随分とあっさり話すんだな」

 

「すでに海軍とかは知ってることだからな。知らないのはこういう()()()()島にいるようなお前とかぐらいだ」

 

「言ってくれるじゃねぇか。おれは興味がないだけだ」

 

「モネを秘書に置いておきながら情報の優位性を理解してないのは、なんとも愚かしいな」

 

「なんだと!」

 

「まあまあそれぐらいで。あなたも煽らないでちょうだい」

 

 モネが仲裁に入ることで場を収める。ベルナートは人としてシーザーのことをすでに嫌っている。モネはそれがわかっているから、程々のタイミングでのみ止めている。

 

 コーヒーを片手にモネとの会話を楽しみ、外の様子を感じ取ったベルナートは席を立った。モネを部屋に残し、単独で部屋の外へ。研究所の入り口から一直線に向かってきている人物へと、ベルナートもまた一直線に進んで対面する。

 

「……天喰い屋。歌姫がいたからまさかとは思っていたが」

 

 その人物こそ、研究所入り口でスモーカーたちと戦闘を行っていた七武海。この島に潜んでいた者の1人。ルフィや黒ひげと同じく最悪の世代と称される海賊だ。

 ベルナートはローのことを情報で知っているが、ローもまたベルナートのことを知っている。その実力の高さも。

 なぜこの研究所内にいるのか。気になることはあるが、戦闘になることは避けたい。ローは慎重な姿勢を見せ、ベルナートは値踏みするように視線を鋭くした。

 

「トラファルガー・ロー。お前にちょっと用がある」

 

 

 

 

 

 

 

 ヤマトたちは研究所から脱走した麦わらの一味たちとも合流し、今は過去の爆発事故により廃棄された研究所に潜伏している。一緒についてきた子どもたちの数も多いのだが、これで全員というわけではないらしい。ナミとチョッパーは子どもたちを助けると決めているため、もう一度研究所に行く必要はあった。

 しかしローの能力によって、体の持ち主と中身が入れ替わっている。フランキーinナミ、サンジinチョッパー、チョッパーinフランキーそしてナミinサンジである。一緒にいたがウタは何もされていない。

 

「足が戻ったでござる!!」

 

「世の中にはいろんな能力があるんだね~。ルフィを助けてくれた人が犯人なのは複雑だけど」

 

「そうか? あいつは良いやつだぞ?」

 

「待て待てお前ら! 一旦情報を整理するぞー!」

 

 自由気ままに各々が過ごしていたところ、ウソップが呼びかけて情報共有を始める。救難信号が誰に向けられてのことだったのか。パンクハザードにいた侍がなぜローにバラバラにされたのか。そもそも侍がなぜこの島で敵を斬りまくっていたのか。

 それらの情報を共有したところで、ヤマトは深く考え込み始めた。

 

(モモの助は光月おでんの息子……。やっぱり生きてたんだ)

 

「ヤマト? 寒くなってきたの?」

 

「あ、ううん。それは大丈夫だよウタ」

 

 人獣型もやめて人の状態に戻っていたヤマトをウタが気遣う。体を寄せることで少しでも暖を取れるようにし、そんなウタにヤマトは穏やかに微笑んだ。

 

「気になっていたのだがお主、その装いはもしやワノ国のものではないか?」

 

「……うん。そうだよ」

 

「ヤマト……」

 

「迂闊でござった……! ワノ国の装いをしている者がいながら息子の名を出してしまうとは……!」

 

 警戒心を高めていくその侍を前に、ウタに離れてもらったヤマトは深く頭を下げた。膝を折り、額を地面につけている。

 

「っ!?」

 

「ヤマト!?」

 

「おいヤマ男! なにしてんだお前!?」

 

「おいクソ侍! ヤマトちゃんに何させてやがる!!」

 

「止めないでくれ!!」

 

 そこまでのものは見過ごせないと割って入ろうとしたサンジを、ヤマトがはっきりと拒否した。ウタも驚いてビクッと体を直立させている。

 

「僕の名はヤマト。20年前、オロチと結託して光月おでんを処刑したカイドウの息子だ」

 

「あの男の……! ではお主らまさかカイドウの傘下のものか!」

 

「おれがそんなのになるわけねぇだろ! カイドウも他の四皇もいずれおれがぶっ飛ばすんだ!」

 

「彼らは関係ないんだお侍さん。……ベルナートにはあとで怒られそうだけど、だけど、僕は僕の憧れるお侍さんたちに、光月おでんに恥じるような生き方はしない!!」

 

「……っ!」

 

「父のことを許してほしくて頭を下げてるんじゃない。僕はお侍さんが好きだ。光月おでんが好きだ。ワノ国は僕にとっても故郷だ。それを支配する父を僕だって倒したい」

 

 実際過去に何度も挑んでいる。その度に死にかけてきたが。

 

「胸を張って君たち侍の横に並んで! 共にカイドウに立ち向かいたい!」

 

「……我々はカイドウとオロチを討つために生きている。実の父を殺めるやもしれんのだぞ」

 

「構わない! 信用できないというのなら、()()1()()()()()()()()()()()()()!」

 

「っ!」

 

「ヤマトそれは!」

 

 実際にはおでんのアレは熱湯どころではないのだが、何にせよそれだけの覚悟をヤマトは持っている。

 

「だからどうか──」

「もうよい!!」

 

 頭を下げ続けるヤマトをその侍が止めさせる。見るに耐えないのではない。その覚悟を受け取ったからだ。

 

「お主の言葉、思いが本物であることは伝わっておる。まだまだ討ち入りどころではないが、その時が来れば力添え願いたい」

 

「うん! ありがとうお侍さん!」

 

「それと申し遅れておったな。拙者の名は錦えもん。おでん様に惚れ込み家臣となったものだ。……今は胴がないがな」

 

「あはは、それも探さないとね。ベルナートがいてくれたら、特定してくれそうなのに」

 

「そういやあいつ、まだこっちに合流しねぇんだな」

 

「ベルナートなら研究所にいたみたいだけどね」

 

「そうなの? どこかにいたかしら……」

 

 一緒に行動していたナミには心当たりがなく、サンジたちも同様だった。それよりもナミたちがきになったのは、氷漬けになった人間たちを見て、ナミやチョッパーと一緒に絶叫していたウタが、ベルナートが研究所にいると把握していることである。

 あれが演技だったとは到底思えず、周りを見ているような心の余裕もなかったはずなのに。見聞色の覇気なのかと思いたいところだが、ウタは覇気が使えない。修行もしていない。

 

「なんとなくわかるんだ。ま、ビブルカードを使えば方向だけは一発でわかるし」

 

「ウタたちはどうすんだ? ベル男に合流しに行くのか?」

 

「うーん、今は研究所にいなさそうだし、このままルフィたちといるよ。子どもたちと歌って遊んどくのもいいね」

 

「遠足気分か!? M(マスター)が必ず戦力をここに向けてくるぞ! おれが捕まってるのと、治療中の子どもたちのためにな!」

 

「チョッパー。体が大きくなる病気ってあるもんなのか?」

 

「ないとは断言できないけど……。ちゃんと検査しないことにはわからないよ」

 

「ルフィ、ウタ。僕は錦えもんの胴体探しに行ってくるね」

 

「ん? いいのかウタ?」

 

「もちろん。行ってらっしゃいヤマト。ベルナートを見かけたらここのこと話しといて」

 

「わかった」

 

「待て待てヤマトちゃん。この極寒の中闇雲に探す気か? ブルックはたしか胴体見かけたんだよな。案内頼めるか?」

 

「ヨホホホ。もちろん。あ、ところでサンジさん。あとでパンツを見させてもらってもいいですか?」

 

「おお、いいぞ」

 

「いいわけあるか!!」

 

 邪な気持ち全開なサンジの妨害としてゾロが送り込まれ、錦えもんの胴体探しチームは錦えもん、ヤマト、サンジ、ブルック、ゾロの5人となるのだった。

 

 

 

 

 

 ベルナートが研究室を出ていった後、パンクハザードに数ヶ月滞在していたローが部屋へと入っていた。海軍との戦闘が起きたことで、シーザー共々立場が危うくなっているのだが、スモーカーの心臓を抜き取り、たしぎと中身を入れ替えたことで時間を作っていた。

 

「天喰い屋がいるとは聞いてねぇぞ」

 

「その文句はおれじゃなくてモネに言うんだな」

 

「彼をこの島に招いていないのに? 地雷さえ踏まなければいいのよ。言ってたでしょ。ウタと彼の親友に手出ししなければいいと」

 

「親友?」

 

「ええ。麦わらの一味でもなくウタでもない。そうやって絞り込めば特定できるわ」

 

(あの白髪のやつか)

 

「ところでロー。あなたに話があるのだけれど」

 

「お前もか」

 

 ベルナートの次はモネ。ローには次から次へと用事が入っていった。

 だがローはまだ知らない。この後、同盟を結ぶ相手に散々振り回されるということを。

 

 




ベルナート……シーザー邪魔であんま話せなかったな
ウタ……モネと楽しんでたみたいだね
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