たった1つの笑顔   作:粗茶Returnees

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パンクハザード④

 

 研究所へ向かうルフィたちを見送り、その場に残るのはチョッパーとナミとウソップとウタの4人。

 ウタは持ち前の歌唱力を存分に披露しており、子どもたちから莫大な人気を集めていた。拘束されている茶ひげも、聴こえてくるその歌声に耳を傾けている。

 

「魚人島でも思ったけど、ウタの歌声綺麗よね~」

 

「世界の歌姫って肩書に相応しいよな」

 

「おれ来月のお小遣いで医学書とウタの音貝(トーンダイアル)買うって決めてんだ~」

 

「それいいなチョッパー。どの歌のを買うか教えてくれよ。おれが別のやつ買うから」

 

「本当かウソップ! おれが今悩んでるのは~」

 

「ふふふっ、ルフィも幼馴染の人気がこれだと鼻が高いわね。そういうタイプじゃないでしょうけど」

 

 だがナミは知っている。魚人島でウタのステージを見ていたルフィが、心底嬉しそうにしていたことを。

 12年ぶりの再会というのも大きいのだろうが、それだけではなさそうだった。ウタが歌手活動していることへの喜び。さらにはルフィに語った夢へと進んでいるその姿。そういったものも含めて、ルフィは嬉しかったのだろう。

 音楽が好きで、じっと大人しくすることが苦手なルフィが、あの時ばかりは静かにステージを見ていた。

 ウタの歌が好きであること。そしてルフィにとってそれだけ大きな存在であることの証だった。意外に思えたその姿に、ナミは強い印象を受けたものだ。

 

「ウタもルフィに影響を与えてたのかもね」

 

「そうなのか?」

 

東の海(イーストブルー)にいた時は、ずっと音楽家を仲間にしたがっていたのよ。ゾロから聞いた話だけど」

 

「そういや、船医より先に音楽家欲しがってたとか言ってたな。ブルックが仲間になった時のはしゃぎようも納得だ」

 

「そうだったのか~」

 

(聞こえてるんだけどなー。……ルフィが音楽家を欲しがってたって……。私が関係してるなら、嬉しいけど恥ずかしくもあるね)

 

 ナミたちの話が聞こえていたウタは、胸の内がむずむずと痒くなりながらも、子どもたちには気づかれないように笑顔で接し続けている。心底音楽を愛して楽しんでいるウタなのだが、営業スマイルも身についている。

 そうやって過ごしているウタたちの耳に爆発音が届き、大きな振動が伝わってくる。子どもたちが悲鳴を上げ、落ち着くようにチョッパーが声をかける。

 

「ヒャホッ! 助けが来たな! ここは雪山、あの2人に違いない!」

 

「あの2人って?」

 

「謎に包まれてる殺し屋イエティCOOLブラザーズ。巨大な獣人であり声は低く、名はスコッチとロック。雪国出身の25歳」

 

「いろいろわかってるじゃない!」

 

「砲撃ってことはまだ距離はあるよな。おれが外の様子を見てくる! チョッパー、ナミ、ここは任せた!」

 

「お、おう!」

 

 偵察のためにウソップが外に飛び出し、屋根の上へと移動する。吹雪の中では視界が悪いが、巨体であると言うなら目立つはず。ゴーグルも使いながらウソップは周辺を見渡した。

 

「ウソップさん大丈夫かな……」

 

「あの音なら少なくともルフィたちも気づいてくれるはず。それまで時間を稼げればいいし、ウソップなら大丈夫よ」

 

「おれたちもせめて自分の体だったらな……」

 

「おねーちゃんこわいよ……」

 

「そうよねモチャ。私も怖い!」

 

「「えええぇぇぇ!!」」

 

「ふふっ、でも今はみんな一緒でしょ? 私たちは1人じゃない」

 

「みんな近くのお友だちと手を繋いでみて」

 

 ウタの言葉に従って子どもたちは手を繋ぎ始める。それはやがて1つの輪となり、前を見ても横を見ても友だちの顔が見えるようになる。

 怖さはある。だが手を繋いでいることで孤独感は消え、恐怖心が和らぐ。自然と緊張も緩み、笑顔が浮かび始めた。

 

「やるじゃないウタ。……っ!」

 

「……あはは、実は私も怖いんだけどね」

 

「なら、私たちも手を繋ぎましょう。チョッパーも」

 

 ウタの右手をナミが、左手をチョッパーが握る。小さな震えがそれで止まった。

 一度は止んだ爆撃音が、再度響き始める。先ほどとは違い、今度のは戦闘音だ。ウソップが外で奮闘しているのだろう。だがウソップは1人で、対するはスコッチとロックの2人組。人数不利だ。

 

「無駄な抵抗だぞ。あの2人は依頼を必ず成功させるプロだ。お前らはもう殺しのリストに入ってんだ!」

 

「お前もそのリストに入っている」

 

「なんて大きさ……!」

 

「え!? シンドあれ見て!」

 

「あ! あれは……! 伝説の雪男!?」

 

「すごーい!! 本物だー!!」

 

「ねぇねぇ雪男って何食べるのー?」

 

「どうやって生活してるのー?」

 

「仕事中だから後にしなさい子どもたち」

 

「面倒みいいんかい!!」

 

 大男たちの銃ともなると、それはもはや大砲と変わらない。その銃口を茶ひげに向けているスコッチは、子どもたちを離れさせると狙いを定め直した。と言っても至近距離。外すほうが難しい。

 

「き、聞き間違いか? 助けに来たんじゃないのか?」

 

「お前はもう用済みだそうだ」

 

 そう言ってスコッチはシーザーとのやり取りを再生させる。ウタたちは知る由もないが、茶ひげと子どもたちはその声を知っている。間違いなくM(マスター)ことシーザーの声だ。

 そして、その音声は疑う余地もないほどに、はっきりと茶ひげも始末しろと指示を出していた。

 

「うそだ……! マスターぁぁぁぁ!!」

 

 敬愛していた存在からの裏切り。絶望に突き落とされた茶ひげは、拘束されているせいで抵抗することすらできない。とめどなく溢れ出す涙を見ようと、殺しのプロは一切の情をかけない。

 そう()()()()()()

 

「えっ!?」

 

「大男が勝手に倒れたぞ!? なんでだ!?」

 

「ナミさん、チョッパーちゃん。茶ひげさんの鎖を外してあげるから手伝って」

 

「ウタ?」

 

「ベルナートがここには闇があるって言ってた。子どもたちと今のを見たら私でもわかる。M(マスター)って人がそうなんだ。茶ひげさんも、他の人たちも利用されてるだけ」

 

「でもそいつだって海賊なんだぞ!? ウタは海賊が嫌いなんじゃ……!?」

 

「私が嫌いなのは、略奪や強奪をする人たち。虐げる人たちだよ。茶ひげさんもそうしてたのかもしれない。だけど、この人の中にある優しさは本物だよ。私はそれを信じたい」

 

 心が寸分の狂いもなく悪に染まっているのなら、優しさを持ち合わせていないのなら。今の大泣きはできない。人を信じられるのは、優しさを持つ証だ。

 ウタのその言葉に茶ひげがさらに大泣きし、拘束が解かれたあともしばらく泣いていた。

 茶ひげを縛っていた鎖は、今度はスコッチを捕らえるために使われている。

 

「スコッチさんには眠ってもらってるけど、これは私の能力でウタワールドに精神を移させただけ。その世界の維持に体力を使うし、私が寝るとその世界が解けるから、その後のことはお願いね」

 

「そういやそういう能力だったな。でもそれならなんでおれたちは無事なんだ? 歌を聴いた人が対象のはずだろ?」

 

「スコッチさんにだけ狙いを定めたからね。ベルナートとヤマトに能力の制御訓練に付き合ってもらって、できるようになったの」

 

「ウタはすげぇな~!」

 

「ありがとう。……本当はこういう使い方、したくないんだけどね。でもそれ以上に許せないって気持ちもあったから」

 

 共に信望を集めているという点だけは、ウタとシーザーは同じだ。意図してそう振る舞ってきたのか否か。その違いこそあれど、築かれた形はそう変わらない。周りが勝手にそうしているだけ。

 しかしそれ以外は全く違う。茶ひげたちがなぜシーザーを慕っていたのか。それを聞いたあとでこの仕打ちは、ウタの逆鱗に触れていた。

 

 

 

 

 

「……? 茶ひげはどこに消えた? 大勢いた子どもたちも」

 

「ここにはいないよ。いるのはスコッチさんと私だけ」

 

「歌姫ウタ。お前には手を出すなと指示されている。邪魔をしないでもらえるか」

 

「それは難しいかな。茶ひげさんがあんな仕打ちされて、黙って見過ごすことはできないよ」

 

「あの男もお前の敵のはずだが?」

 

「敵じゃないよ。一緒に歌を楽しんだ仲で、私のファン。酷いことをするって言うなら、私がファンを守る」

 

 真っ直ぐ力強い眼差しでスコッチを見上げてそう宣言した。

 仕事内容からして、現場での独断ではウタへの対応を変えられない。スコッチはどうするべきかと腕を組んで考え始める。

 ここには他の誰もいないと言われた。間違いなく研究所の跡地なのに、たしかに他に人がいない。ウソップと戦闘中のロックの砲撃音すら聞こえてこない。

 わりとお手上げだ。

 

「スコッチさんは音楽好き?」

 

「COOLなものならな」

 

「COOLか~。うん、じゃあそういう系統の曲を歌ってあげる」

 

「は?」

 

「スコッチさんは依頼を受けてるだけだから、スコッチさんに怒りをぶつけるのは筋違いでしょ? だから歌を聴かせてあげる」

 

「何も繋がっていなかったが……」

 

「殺し屋とか辞めてほしいけど、そこまでは私が強制させることでもないし」

 

「言うことを聞く義理もないからな」

 

「そうだね。だから、ここでどう時間を使うか考えてみて、歌しかないなって」

 

「許可が下りていれば、その必要もなかったわけだが」

 

「この世界じゃ私には勝てないよ。なんだったら、試してみる?」

 

 体格差もある。得物を使わなくてもいい、なんならその方が寸止めもできて、依頼内容の違反にはならない。

 この世界という発言から、現実とは別なのだろうと推察はできた。いつ解かれるかもわからない世界だ。ちょっとした暇つぶしとして、興じてもいい。

 そう判断したスコッチは敢えてウタのその提案に乗り、見事に完敗することになる。

 

 

◇□

 

 

 

 ウタたちの下に刺客が送られてからさらに後。ベルナートは炎の土地に再度足を踏み入れていた。その土地にいる者たちの気配を頼りにその場所へと趣き、何かが閉じ込められている扉の前までたどり着く。

 そこにはケンタウロス部隊の一部がおり、シーザーの指示に従ってまさに扉を開けるとこである。

 

「何者だお前! 止まれ!」

 

「……お前ら今すぐにここから逃げた方がいいぞ」

 

「は? 何を言って」

 

「ギャアアア!!」

「なんだこの怪物!!」

 

「おいお前らどうし……た……?」

 

 ベルナートに銃を向けていた男が背後を見ると、そこにはなんとも形容しがたい半液状の怪物が現れていた。

 その姿に絶句している男の横を、強風が過ぎ去る。その風は巨体の怪物に直撃し、背から倒れさせる。怪物から溢れ出すガスも風で吹き払い、ベルナートはケンタウロス部隊に走れと言い放つ。

 

「す、すまねぇ! 誰だか知らねぇが助かった!」

 

「お前ら、もし防護スーツがあればそれを着とけ。仲間にも絶対に脱ぐなと言え。あれはベガパンクが作ったスーツだ。毒ガスも防ぐ」

 

「そうなのか!? だがあれはおれ達は持ってねぇんだ! それよりお前なんでそんなこと知ってるんだよ!?」

 

「いいからさっさと行け。オレを信じるか、シーザーを信じるかはお前たち次第だ」

 

 持ってないのなら自力で逃げるしかない。そのスタートを稼がせるため、最難関たる湖を超えさせるために、ベルナートはケンタウロス部隊1人1人を風で吹き飛ばした。

 要領は斬撃飛ばしと同じ。ただし何も斬らないように刃をコントロールして行っている。

 全員分が終わると今度は再度怪物へ。こんな存在を相手するのはベルナートも初めてだ。風でガスを後退させつつ、探り探りに打てる手を考える。

 

「海に叩き落としても海がやられそうだな」

 

 燃やすのもいいのかもしれないが、この土地で燃え続いている炎では火力不足なのだろう。この巨体に通じているようには見えない。

 

「……あいつらが研究所に逃げ切れるまで稼げればいいか」

 

 終わりが見えないし、ここにずっといる気もない。タイムリミットの設定は不可欠であり、ベルナートはそれを決めると時間稼ぎを再開する。

 いっそこの土地の端まで追い込んでやろうか、とも考えて攻撃の手を加速。前進しようとする怪物をむしろ後退させていると、電伝虫が鳴き始めた。

 

「持ち出した記憶ないんだけどな……」

 

 モネがベルナートのポケットに忍ばせていたのだろう。片手間に怪物の相手をしながら応答すると、電話主はやはりモネだった。

 

『ベルナート今すぐに研究所へ戻って!』

 

「やばそうな怪物のことなら、今丁度相手してるとこなんだけど」

 

『怪物……スライムのこと? 出かけたと思ったらあなた……。いえそれよりも重要なことよ。M(マスター)()()()()()()

 

「……は?」

 

『危害が加わらないようにするけれど、あなたは早くもどっゔッ……!』

 

「モネ……? モネ!!」

 

 電話が切れる。子電伝虫は何事も知らないのだとすやすや眠っている。

 

──ブチッ

 

 ウタとモネ。2人の身に何か起きたと知ったことで、ベルナートは自分の中で何かが切れる音がハッキリと聞こえた。

 

 

 

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