パンクハザードに潜む怪物。半液状のその生物はシーザー・クラウンのペットであり、4年前にこのパンクハザードに蔓延した毒ガスそのもの。封じ込んでいたそれを出したのも、それ相応の実験をするため。そしてシーザーはそれを電伝虫で発信することを決めた。言わば公開実験である。
ベルナートの妨害も無くなり、炎の土地から雪山側へと自身を飛ばしたスマイリーは、用意されていた飴を食べたことにより形状を毒ガスへと戻す。
「シュロロロロ! 成功だ! そうさ、逃げられなくしてやればいいんだ!! これで生存者を0にできる兵器の誕生だ!!」
「でっけぇカエルが消えた」
「あの映像、この島で起きてることよね」
「その通り! お前らの仲間がしぶとく生きてようと、これで外にいるG-5共々終わりだ!」
自身の研究室にいるシーザーは、電伝虫の音声を一旦オフにした。この部屋には、捕えているルフィ、フランキー、ロビン、ロー、スモーカー、たしぎという錚々たる面々が、仲良く1つの檻に入れられていた。
その檻ごと外に出すつもりだが、その前にもう1つ見せしめも必要だ。モネもローも忠告していた麦わらの一味。その反抗の芽を紡いでおく必要がある。
「凶悪な兵器は成功のようだなシーザー」
「おぉヴェルゴ。
「え……あいつ血まみれじゃねぇか。大丈夫なのか?」
「息はあるようだが……、随分と仲間に容赦ないなヴェルゴ」
「仲間だからだ」
ヴェルゴに腕を引きずられて部屋に投げ入れられたのは、シーザーの秘書をしていたはずのモネだった。
「はぁ、はぁ……、げほっ……わたしが……いつうらぎったというの」
「よく言えたなモネ。子どもたちへの覚せい剤
「……くすりは……ひつようない、から……」
「それを決めるのはお前じゃない」
「シュロロロ。実に残念だモネ。だが、天喰いに連絡したところでもう遅い! 歌姫はおれ達の手にある!」
「え、おい! お前たちウタになんかしたのか!!」
「眠っているだけさ。今や歌姫の利用価値は高い。闇の世界の需要も高まってる。慎重に使わねぇとな」
シーザーの部下2人が眠っているウタの両腕を掴んで部屋に運んだ。ウタウタの力があれど、歌は空気中を振動して伝わるものだ。空気そのものを支配できるシーザーとは相性が悪く、真っ先に狙われて意識を奪われた。
海楼石の鎖で縛られているのに、ルフィはその鎖を力で引きちぎろうと暴れる。幼馴染を奪われたままではいられないのだ。
「くそっ! この鎖さえなけりゃぁ! ウタ! 起きろおいウタぁ!!」
「……ん……ぅ……るふぃ?」
意識が浮上し始めたウタだったが、すぐに反応したヴェルゴによって口を塞がれる。片手で両頬を挟まれており、その力の強さによる痛みにウタの表情が歪む。
「お前の能力はその声帯あってこそ。一時的に奪わせてもらう」
「ひっ……!」
「おいやめろ! ウタに手出すな!!」
「くそっ、ウタが近過ぎて攻撃できねぇ!」
フランキーは口から火を放つこともできるが、今放てばウタを巻き込んでしまう。ローは対応できなくもないが、心臓をヴェルゴに抑えられている。下手には動けない。
「させな……あ゙っ!」
(モネ……!)
「明確な敵対行為だぞモネ。JOKERにも伝えさせてもらう」
力を振り絞ろうとするも、ヴェルゴに傷口を踏みつけられた。激痛に意識が飛びかけるも、これまた絶妙に調整されていてそれが叶わない。
「なに。生涯歌えなくさせるわけじゃない。一時的な処置だ。療養すればまた歌えるようになる。歌声は保証できないがね」
(やだ……助けてよ……ベルナート……!)
ウタの喉元へと突き出そうとした左手に風穴が開く。ウタを掴んでいた右手はウタを手放し、防御に回すもそれよりも先に突き出された拳がヴェルゴの顔に叩き込まれた。飛ばされたヴェルゴは壁をも突き破り、研究所の外へと投げ出される。
「…………ッ!!」
「白蛇駆!」
「ごぉぉっ!?」
殴り飛ばされるヴェルゴを見て驚愕しているシーザーを、共に来たヤマトが殴り飛ばした。覇気を纏っての攻撃はしっかりと効いており、シーザーが痙攣している姿もちゃっかり公開されている。
「大丈夫かウタ?」
「ベルナート……! ヤマトも……!」
「ゾロたちと走ってたらベルナートに担がれてね」
安堵により流れるウタの涙をベルナートがそっと拭き、ルフィたちの檻を切断。殴り飛ばすついでにヴェルゴから奪っておいたローの心臓を本人に投げ渡すと、ローも自分で鎖を解いて心臓を戻し、ルフィたちを解放する。
その様子を見ることなく、ベルナートはモネの側に寄ると慎重に抱き寄せた。
「モネ」
「……ベルナート。間に合って、よかった」
「間に合ってない。ヴェルゴのことを予想できてたらモネが傷つかなかった」
「相変わらずね」
「あとでいっぱい話をしよう。だから、死なないでくれ」
ウタとヤマトには背を向けていて、顔を伏せているからルフィたちにも表情は見えない。モネだけが今のベルナートを見ていて、モネだから見せるベルナートの弱い部分を、優しく支える。
優しく頬に手を伸ばして、少しだけ撫でる。子どもをあやすように、弟を慰めるように。あるいは、想い人に寄り添うように。
「大丈夫……だから。自分に課した、誓いを破らないでね」
「っ! ……うん」
「天喰い屋。心臓の件の借りだ。モネの治療はおれが受け持つ」
「助かる。モネ、トラファルガーから心臓は返してもらってたから、渡しとくな」
「! ……気づいていたのね」
「当たり前だろ」
モネに心臓を返し、モネをローに託す。治療のためには設備が必要だ。そこまでモネを運ぶのはロビンが買って出た。
「ルフィ。おれはサニー号が心配だからそっち行くぞ」
「頼んだフランキー。シーザーはおれがぶっ飛ばす!」
「ぶっ飛ばすな!? 狙いは誘拐だと説明しただろう!」
「……スモーカー。研究所の下の方に弱ってる気配が1つある。おそらく子ども」
「あァ? なんでそれをおれに言いやがる」
「この研究所には誘拐された子どもたちがいるのはわかってるだろ? 見捨てるのがお前の正義だって言うならそれでいいけどな」
その子供がいる場所までの穴をベルナートが作り出した。そこを通って一番下まで行けばその子を助けられる。その意図を汲み取ったスモーカーは、ローに入れ替わりを戻してもらうとたしぎに指示を出した。
「チッ。たしぎ、部下たちの指揮を取れ。外にいる奴らを中に入れて誘拐されたガキたち
「はい! あの、スモーカーさんは?」
「この穴を見ればわかるだろ。地下にいるガキはおれが回収しておく」
「白猟屋、麦わら屋に天喰い屋! 用を片付けたらR棟66と書かれた扉を目指せ! そこに唯一、迫りくる毒ガスを避けて海岸まで出られる道がある!」
「ウタはヤマトと一緒にそこを目指しててくれ。あとで必ず合流する」
「そううまく運ばはっ!」
「公開実験だかなんだか知らねぇけどよ。おれたちの邪魔をするな」
シーザーをルフィに任せたベルナートは、ヴェルゴを殴り飛ばしてこじ開けた穴から外に出ていった。
外では竹竿を携えたヴェルゴが待ち構えており、ベルナートが着地するとそれを武装色で固めて構える。
「ローにも言ったことだが、随分と大きくなったものだな。ゼルセナス・リチャード」
「生憎と今はベルナートって名乗ってんだよ。厭味ったらしく呼ぶなヴェルゴ」
「炎の土地にいたようだが、随分と早く戻ってこれたものだな」
「足の速さには自信があるんでね」
「ふっ。……うちの野犬も来ると思っていたものだが」
「別件を任せた」
スモーカーとしては本来、ケジメをつけに来るべきところだった。それをベルナートに譲ったのは、赤の他人であるスモーカーが譲るほどに、ベルナートの怒りが心頭しているからだ。
「君のその怒りは何によるものだ? 歌姫を痛めつけようとしたことか? それとも昔の女を傷つけられたことか?」
飛ばされた斬撃を竹竿で逸らす。僅かに遅れたことでヴェルゴの頬には小さな切り傷が生まれた。
「それを防げない自分にだよ」
なぜ強くなるのか。ウタにそう問われた時にベルナートは迷いなく答えていた。「何も失わないためだ」と。
それは別に、相手が生きてさえいればいいのではない。守りたい存在、失いたくなくて、大切な存在には傷ついてほしくない。そのために鍛えてきた。そのために得た力だ。
それでもモネに重傷を負わせてしまった。完璧を望み過ぎるなとモネに言われたこともあるが、それを望みたくなるのがベルナートだ。
ヴェルゴはその目を見据えると、おもむろに電伝虫を取り出して電話をかけた。その相手は言うまでもなく闇のブローカーであるJOKER。王下七武海の1人であり、モネとヴェルゴのボス、ドンキホーテ・ドフラミンゴだ。
「……ドフラミンゴ」
『フッフッフッフ。久しぶりだな若僧。そこにいるってことは、
「ああ、そうだな。お前らドンキホーテファミリーはオレが潰す」
『フッフッフ、その宣戦布告を受けてやろう。お前がドレスローザに辿り着ければの話だがな。ヴェルゴ、小僧共を叩きのめした後は』
その指示が出される前に電伝虫を気絶させる。ドフラミンゴにこの島の状況をこれ以上教えさせないためだ。
ベルナートは知らないが、これによりドフラミンゴはモネのこともまだ知らない。裏切り行為のことが伝わっていない状況だ。
ヴェルゴはため息をつこうとして、振り下ろされた刀を竹竿で受け止めた。その衝撃により積もっていた雪が躍り上がり、それに紛れたベルナートは雪越しに嵐脚を放つ。
それを武装色で弾きながらヴェルゴは竹竿を加えて息を大きく吸う。
「大雪月花!」
吹き出された空気の弾丸を両断。そのまま竹竿も真っ二つに裂け、斬撃はヴェルゴの体にまで届く。
その傷を確認しながら裂けた竹竿にも目をやり、やれやれとヴェルゴは肩を竦めた。
「……二刀流は趣味じゃないんだがな。またやるのも悪くないか」
「お前剣士じゃないだろ」
「そうだった。おれは剣士ではなかった。実力を上げたようだが、それで我々に勝てるとでも? その低い算段は昔と変わっていないな。我々に手も足も出ずに惨敗したあの時と」
「……」
「モネとシュガーの懇願により取り留めたその命。次はもうないぞ」
「そんな機会いらないんだよ。足を止めたお前たちはもう打ち止めだろ」
すでにヴェルゴの左手は負傷している。二刀流などと言っても、風穴を開けられた手では満足に振れない。
ヴェルゴが左手の調子を確かめた瞬間に、ベルナートが突きを放つ。武装した竹竿を交差させて防ぐも、左手のせいで衝撃を抑えきれない。ヴェルゴはわざとその衝撃に身を任せ、岩に当たる前に身を捻って岩に足をつける。
すかさずベルナートが距離を詰めて刀を振り下ろし、ヴェルゴがいた岩を切断。斬撃はその後ろに聳える山にまで届き、衝撃で雪崩が発生していた。
「逃げんなよ」
回避したヴェルゴに連撃で斬撃を飛ばし、ヴェルゴは竹竿でそれを防ぐ。その攻撃の勢いを殺し切ると、跳ぶついでに竹竿を1本投げつけた。
飛来する竿を最小限で避けたベルナートは、接近してきたヴェルゴの踵落としを腕で受け止める。
骨が軋むのを感じる中、沈む地盤に刀を突き刺すと、空いた両手で足を掴んでヴェルゴを地面に叩きつけた。追撃とお返しとして宙返りからの踵落としをするも、それは寸前で回避される。
「幹部の程度を再認識できてよかったよ」
悠々と剣を拾うと、ベルナートは一度それを納刀して居合の構えに入る。
「傷つけた報いは受けてもらうぞ。モネがいたから世界を見て回る気になれた。モネのおかげで今のオレがある。ヴェルゴ! オレは絶対にお前を赦さない!!」
「お前の赦しなど不要だ。この地に沈め若僧!」
武装色で強化したヴェルゴは鉄よりも硬くなる。覇気の修練を積み上げた結果だ。そのヴェルゴが覇気を全身に回して拳を振りかざす。
「居合・秋桜の太刀」
ベルナートが
「算段が低いのはお前らだ」
一瞬にして叩き込まれた8発の斬撃。覇気の鎧の上からでも関係なくその斬撃はヴェルゴの体を斬り刻んだ。
膝から崩れ落ちて倒れるヴェルゴを見下ろし、ドフラミンゴに連絡されないように電伝虫だけは没収。その場を後にしようとすると、数歩歩いたところでヴェルゴの声が聞こえた。
「甘いな……。殺さないのか」
「……それがオレの誓いだ。ま、毒ガスから生き延びれるかは自分でなんとかするんだな。モネを傷つけたお前に手を貸す理由はない」
研究所へと戻ろうと歩いていると、一度研究所どころか山も切断されて浮いた。ローの能力によるものなのは明白で、ここにあった製造機が破壊されたのだと察する。
つまりローもまた、ドフラミンゴに喧嘩を売ったというわけだ。
さらに言えば、モネの治療も済んだということである。
「あとでトラファルガーの狙いでも聞いとくか」
モネの下に行くことを、ベルナートは何よりも優先するのだった。
ベルナート……ぶっ殺レベルまでキレてた
モネ……ベルナートに冷静さを戻させた(ファインプレー)
モモの助……ヤクザみたいな海兵にめっちゃ怯えた「この顔は海賊でござる!」