たった1つの笑顔   作:粗茶Returnees

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パンクハザード⑥

 

 ルフィとローの目的であるシーザーの誘拐が成功し、現在は海軍を含めての宴の真っ最中。パンクハザードからドレスローザへの直前上の雲は、ベルナートがある程度はらっているため、ドフラミンゴが来ようとしても時間を要することになる。

 海軍と海賊は本来敵同士なのだが、それは今は関係ない。敵味方関係なく入り乱れての宴は盛り上がっており、抜け目なくウタにサインを求める海兵たちもいる。

 

「スモやんの言った通りだったなー」

 

「なー。それだけ麦わらに一目置いてるってことだよな」

 

「そりゃあ東の海から、麦わらを捕まえるために新世界まで来てんだからなスモやん」

 

「? スモーカーさんがどうかしたの?」

 

「ああいや。世間じゃ麦わらが歌姫ウタを誘拐したって騒がれてるんだけどよ。スモやんは麦わらはそんなことしねぇって断言してたんだ」

 

「実際その通りみたいだしなーって話よ」

 

「へ~。スモーカーさんルフィのことよく知ってるんだ」

 

 そもそもベルナートが側にいた状態で誘拐ができるとも思えない。本気で激突すれば、サニー号が大きく損傷して魚人島どころではなかったことだろう。

 しかし形だけ見れば世間の言い分も正解。実際にはウタの方から同行しているが、それは会わないことにはわからない話だ。

 海兵たちにサインを書きながら話をしているウタは、合間を見てベルナートへと視線を向けた。医療処置を終えたモネの側におり、サンジが用意した消化しやすいモネ用の食事をモネの口に運んでいる。

 

(…………)

 

 誰かがやらないといけないことなのはわかる。モネは重傷を負っていて、無理に体を動かさせるべきじゃない。手厚くサポートしてやるべきだ。

 そしてそれをベルナートが買って出るのもわかりきっていることだ。このサインの列がなければウタも手伝うつもりだった。

 しかしそれはそれ。胸の内がざわついた。

 

 

 そのベルナートとモネはと言うと、傍から見た印象とは異なる話を広げていた。はっきりと言ってしまえば、ベルナートはモネにお小言をもらっていた。

 もちろん助けられたことへの感謝はある。今もサポートしてくれていることへの感謝だってある。

 それを差し引いても、ベルナートが宣戦布告したことはモネから不評を受けていた。だがそれもそうだ。モネが最も避けたかった展開になっているのだから。しかもベルナートからそうしている。

 

「モネが傷つけられたんだから、当然だろう? それに、仮にそれがなくたっていずれこうなってた」

 

「……ドレスローザのこと、気にかけていたの?」

 

「ドフラミンゴがただの因縁の相手ならまだよかった。一切関わらないで生きることもできたし。でも、あいつが国王なら話が別だ。オレの嫌いな"理不尽"を振りかざしてる」

 

「その考え方は、革命軍と変わらないわね」

 

 ベルナートが革命軍に入らないのは、戦いが嫌いだからだ。それなのにドフラミンゴへの宣戦布告を済ませている。その一線を超えさせたのは、ヴェルゴによるモネへの粛清。

 なんとも複雑な気持ちだった。ドンキホーテファミリーはドフラミンゴへの忠誠を誓っている。幹部ともなればそれはさらに強まる。それはモネもシュガーも同様だ。

 そしてその忠誠は、今もまだある。

 モネもシュガーも、ドフラミンゴたちに助けられた恩がある。それをそう簡単に捨てることはできない。しかし、ベルナートへの想いも嘘じゃない。まさに板挟みとなっており、だからこそモネは、ベルナートに踏み込んでほしくなかった。

 

「マスターを攫うなら、若様と交渉するつもりよね。つまり次はドレスローザ」

 

「そうだろうな。目的地は一致してる」

 

「……ベルナート。私は」

「そうしたらいいよ。敵対することになっても、やりようはある」

 

 ベルナートはモネの意志を汲んで肯定した。ヴェルゴが連絡できてなかったのなら、モネのことを「裏切り者」としては報告されていない。今ならまだ、味方として戻ることができる。すんなりと話が進むかは別として。

 

「ところでモネ。腕とか脚も人間のやつに戻したんだな」

 

「ふふっ、そうなの。ローに頼んでね。あれも好きだったのだけど、これならこうして、あなたと手を重ねられるでしょ?」

 

 傷のせいで力が弱まっている中、モネは手を震わせながら動かしてベルナートの手を握る。ゆっくりと指を滑り込ませ、絡めさせる。

 いつかの時のようにそうしていると、視界の片隅で赤と白の髪が跳ね上がった。その影はサインペンを握りしめたまま勢い良く駆け込み、モネとベルナートの視線を遮るように手をぶんぶんと振り回す。

 

「そこまで!」

 

「あら、何がかしら?」

 

「え……えっと……。そ、そう! モネは怪我人なんだから、ご飯済ませたら安静にしなきゃ! ここ寒いんだし、サニー号の医務室に行こう! それがいいよ! うん!」

 

「私雪人間だから寒さは平気よ。それに、彼が温かいもの」

 

「いや、でも……。ぅぅぅ、いいからベルナートも離れるの!」

 

 矛先を急に向けられたベルナートは、ウタに威嚇もされて追い出される。気を取り直して肉でも食べるかとおかわりにしに行くと、今度はヤマトに絡まれていた。

 

「彼女はいいの?」

 

 ヤマトは距離感がゼロになってベルナートに接触しているが、それを見てもウタは特に反応しなかった。それを意外そうにモネが指摘すると、ウタはこくりと頷く。

 

「ヤマトは男だから」

 

「…………男? ……そう……」

 

「それにベルナートの親友だし、見てて変な感じしないし」

 

「ふふっ、それってどんな感覚なのかしら」

 

「え……」

 

「私、隠し事は得意よ。潜入が主な仕事だから」

 

 たしかにミステリアスな印象もある。隠し事が得意なのはそうだろう。しかし、どうにも踏ん切りがつかなかった。

 モネが相手だからというのも少し違う。異性相手に話せることでもないし、ならばナミとロビンはどうかと言われても、それも踏みとどまってしまう。

 結局、誰が相手でもこの話は難しかった。不思議と勇気のいるものだ。

 

「……当ててみましょうか」

 

「?」

 

「ベルナートのことでしょ?」

 

「!? な……なな、なんで……!?」

 

「この上なくわかりやすいのだけど……隠してたつもりなの……?」

 

 ガーンとショックを受けたウタは、しばらく固まった後にモネの隣で膝を抱えて座った。幾分かいじけているようでもあり、ちらりとベルナートを見てはすぐに視線を逸して足元の雪を見つめる。

 その姿は随分と愛らしく、モネはくすりと微笑むとウタの頭をそっと撫でる。

 

「慌てなくていいのよ。ゆっくり自分で答えを見つけたらいい」

 

「…………慌てさせてる人に言われても」

 

「うふふ、それもそうね」

 

「モネは……ベルナートのこと好きなんだよね」

 

「いいえ」

 

「へ!?」

 

「彼を愛してるのよ」

 

「ふぇっ……!? あ、あい……っ!?」

 

 その強い言葉にウタは一瞬で頬を染め上げた。その反応をモネは楽しんでいるが、長い髪に隠れている耳はウタに負けじと赤くなっている。

 好きでは収まらない。それを明言しただけなのに、自覚した当時と変わらず鼓動が早くなる。数年間会っていなかったせいだ。

 

「純粋なものではないのでしょうけどね」

 

「純粋って?」

 

「感覚的なことよ。言葉にするのは難しい」

 

「……よくわかんないけど、モネのそれは本当なんでしょ? ベルナートのことが大事で……」

 

「……そうね」

 

「おーいウタ~。ちょっといいかなー?」

 

 ヤマトがウタを呼びに来て、子どもたちがサインを欲しがっていることを説明。ウタの曲を知っていたわけではないが、研究所跡地で生で聴いてファンとなり、海兵たちから世界的スターだと説明されたようだ。もちろんウタはそれを快諾して、サインペンを片手に子どもたちの下へ。

 ヤマトも付いていくと思いきや、今度はヤマトがモネの側に残った。

 

(交代制なのかしら)

 

 モネがそんなことを思っていると、パッと横を見たヤマトと視線が重なった。

 

「君がモネでいいんだよね?」

 

「ええ。そういうあなたはヤマトね。さっきウタから聞いたわ。ベルナートと親友のようね」

 

「そうだよ。僕とエースとベルナートの3人は親友。ベルナートからはモネのことを、家族みたいな相手って聞いたけど」

 

「家族、ね。……ある意味それも合ってるわ。あの頃はたしかに、そういう距離感でもあったから」

 

「ふーん? ね、なんで子どもたちに覚せい剤を投与しなかったのか聞いてもいい?」

 

「まずそれをどこで知ったのかしら」

 

「子どもたちから聞いたよ。シーザーがそう言ってたって。あの子たちは、モネさんに守ってもらってたんだーって言ってたね」

 

「……守ってなんかないわ。そう言われる資格、私にはないもの」

 

 逃がすこともしなかった。ただ接していただけで、目の前で行われているものに見えないふりをしていただけ。黙認していただけ。

 それは加害者と変わらない。シーザーと同じ側として扱われるべきだ。

 

「大人ならそう思うよね。でも、子どもたちの目からはそうなってた。当事者たちがそう言うんだから、その気持ちは受け止めてあげないと」

 

「客観的に見れば、あなたの視点からはそうなのでしょうけど。それでも私はそんな言葉をかけられるべき人間じゃないのよ」

 

「……僕はそう思わないかな」

 

「だからそれは……!」

 

「だってベルナートが信頼してる人なんだもん」

 

「……っ!」

 

「僕は細かいことは知らない。君自身が納得できないのも、大きな理由があるんだと思う。それでもベルナートを見てれば断言できる。君は、君が思ってるほど悪人になれてない」

 

 ヤマトの目からしても、モネはそう映っていた。ワノ国を力と恐怖で支配するカイドウ。悪政を敷いているオロチ。彼らを知っているヤマトは、"悪"を知っている側だろう。それでもモネは彼らに並ばない。その域に届いていない。

 それはひとえに、そうならない枷があるからだ。モネの出会いがベルナートを形作ったように、モネもまたベルナートと出会ったことで成りきれなくなっている。

 

「ええ。……そうね。……だって、ベルナートに嫌われたくないもの」

 

「あはは! うん、わかるよ。彼はそうさせる男だ。本人は否定するだろうけどね」

 

「ところでそのベルナートは? さっきまで一緒にいたわよね?」

 

「ベルナートならローとなんか話があるんだって。……また抱え込もうとしてるから、あとで話させないとね~」

 

「彼、親しくなると隠し事がバレやすくなるってまだ気づかないのね」

 

「ベルナートってわかりやすいのにね」

 

 2人揃ってやれやれと首を横に振り、どちらからともなく声をあげて笑った。ベルナートにとって、ウタもヤマトもモネも大切な人だ。だがそれぞれとの関係性はカテゴリーが異なる。

 その内の2人は、共通の知り合いを通してすぐに打ち解けあっていた。ヤマトが裏表のない人間なのも理由か。

 

「ヤマト。あなたはなぜ男として生きることにしたの?」

 

「ワノ国の偉大な侍に憧れたから。あ、錦えもんじゃないよ」

 

「純粋なのね。なんだか羨ましいくらいだわ」

 

「そうかな? 僕は自分に素直なだけだよ。やっと外の世界を楽しめてるし、全力で当たっていこうってね!」

 

「……自分に素直」

 

 そう生きる人生もあっただろうか。

 振り返ってみると今もなんだかんだで素直に生きている方だが、捨てたものだってある。それを拾うにしては、もしかしたらもう遅いのかもしれない。

 

「っと、宴もそろそろ終わりみたいだね」

 

「……麦わらのルフィ。彼もまた不思議な男ね」

 

「なんせエースの弟だからね!」

 

 ヤクザのような集団G-5の人間に、「海賊なのにこいつらのこと好きになっちまう」と言われているのは、それだけ魅力の溢れる人間だからだ。白猟のスモーカーが一目置き、その器を認めているのも納得の行く話。

 子どもたちはタンカー船に乗り、一足先に天才科学者Dr.ベガパンクの下へと向かうらしい。たしぎと一部の部下もその船に。それを確認した後、麦わらの一味も出航。その後G-5基地からの軍艦が到着次第、スモーカーと残りの海兵、シーザーの元部下たちが出航となる流れだ。

 

「モネさーん!」

 

「モチャ……?」

 

「海兵のおねーちゃんがね、ちょっとだけ時間くれたんだ」

 

「……私は加害者側の人間よ?」

 

()()()()()()()()()!」

 

「え……?」

 

「モネさんが優しいお姉さんだったから! だからこの怖い島でも頑張ってこれたの! 私だけじゃなくてみんなも同じ気持ちだよ!」

 

「だからそれはあなたたちを騙してて」

「そんなことないもん!!」

 

 否定の言葉を大きな声で遮った。モチャはそれを聞きたくなかった。薄々そう思っていた。勘付いてはいた。

 だがもしそうだと言うのなら、モネが子どもたちにしてきたことが釣り合わない。施した優しさを、受け取ったそれを、モチャは否定したくなかった。モネ自身にもさせたくなかった。

 

「怖いことがあったら側にいてくれた! 一緒に寝てくれた! 不安な時は抱きしめてくれた! モネさんは……ずっと……ずっと優しかったもん!! 私たちのおねえちゃんだったんだもぉぉぉん!! うわぁぁぁぁん!!」

 

「モチャ……!」

 

「ひぐっ、えぐっ……! だから……だから……! あ゙りがとぉ……!」

 

 ここでの生活は悪夢と変わらなかっただろう。助けは来ない。体はずっと大きくなっていく。帰れるとは思えず、チョッパーにこのままだったら大人になれなかったと言われた。

 モネのことだって、裏切られた気分だった。だがモネに与えられたものは間違いなく本物の優しさだった。シーザーと繋がりのある組織、その一員であるヴェルゴに深手を負わされたと聞いた時も、「やっぱりモネさんだけは」とそう思えた。

 巨人族の子どもと見紛う大きさのモチャに、手を伸ばしても届かない。モネは能力を使って体を浮かせると、泣いているモチャの頭を優しく撫でた。

 

「モチャはここではお姉さんだったけど、やっぱりまだ子どもね」

 

「そうだもん……! ぐすっ、だから、大きくなったら。モネさんみたいに綺麗な大人になるね!」

 

「え……ぁ、そ、そう? ありがとうモチャ」

 

「モネさん?」

 

「ううん。気にしないで。……でも、あなたたちは真っ当に生きなさい」

 

「……モネさん、また会える?」

 

「お互いに生きていれば。いつか必ず」

 

「……! うん! また会おうねモネさん! 昔話してくれたイセイノーサツスキルっていうのも絶対教えてね!」

 

「!? それだけは忘れなさいと言ったでしょう!?」

 

 初めて子どもの前で狼狽えるモネの姿は、子どもたちに印象深く残ったとか。

 

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