ローの持ちかけた計画により、麦わらの一味はシーザーを連れて一路ドレスローザを目指す。その航路は直行するものではなく、ドフラミンゴの襲撃を警戒したローの指示により通常より大回りだ。
「ロー殿! 狙いはカイドウとは誠でござるか!?」
「ドフラミンゴにぶつけさせた後だがな。いくら四皇と言えど、七武海とぶつかりゃ被害は出る。少しでも戦力を減らせれば、勝機も出てくるだろう」
「ふむ……実に合理的な策でござるな」
「その時は僕も参加するからよろしくね!」
「親を討つって作戦にノリノリだな……」
「あんな奴でもたしかに僕の父ではあるんだけど、死んでもらって構わない」
「辛辣!!」
「だがトラ男。どうすんだ? 錦えもんたちの仲間の救出もしないといけねぇだろ?」
「ああいやフランキー殿。お主たちにそこまで世話になるわけには。潜入し、なんとか救出してみせるでござる」
「……侍の救出はどっちでもいいが、あまりドフラミンゴを舐めないことだ。ファミリーの戦力は約2000人。七武海を辞めたとしても海賊であることに変わりない。脅威が薄れるどころか、むしろ苛烈になる可能性もある」
「まあそこはなんとかなんだろ。トラ男の計画をやる。侍も助ける。んで上手い肉を食う!」
「余計なものを組み込むな」
「計画のことか?」
「なんでだ! 主目的を省くんじゃねぇ! 肉はどこでも食えんだろ!」
「何言ってんだトラ男! その島でしか食えない肉だってあんだろ!」
「話が逸れていってるね」
「気にすんな。いつものことだ」
ウタの冷静な指摘は、ゾロにあっさりと流された。
ローの目的はドフラミンゴとの交渉。シーザーを引き渡す代償として、ドフラミンゴには王下七武海の脱退を突き付けた。翌朝の朝刊にそれが載っていなければ交渉は決裂となる。
ドフラミンゴが七武海を辞めた場合、恩赦が消えて海軍からも追われる。SMILEの製造が止まれば、商売相手である四皇カイドウとも激突しかねない。直接的ではない遠回しの手だが、ドフラミンゴを倒すより確実性が増す策だ。
「ウタはどうすんだ?」
「ドレスローザでライブができればいいなーって思ってるけど、難しそうだね」
「その判断は正しいな。ドフラミンゴは闇社会に精通している。大物たちとの取り引きも多い。無論情報通にもなる」
「え!? じゃあウタがシャンクスの娘ってことも知られてるのか!?」
「そうだ。……いや待て……娘? ウタ屋が? 四皇赤髪の?」
「うん。直接の親じゃないけど、シャンクスは私の父親だよ」
「なっ……!?」
ルフィとウタが揃って首を傾げているが、ローの反応が当たり前である。ローはその情報を持っていなかったのだから。
しかし絶句するのもつかの間。すぐに頭を働かせたローは、その情報をドフラミンゴが掴んでいてもおかしくないと指摘する。なにせドフラミンゴは、七武海の中でも最も多く世界政府と接触しているのだから。どこからどう情報を手に入れていてもおかしくないのである。
「チッ。ウタ屋の能力だって強力だ。その上に赤髪の娘ともなれば、赤髪に使える最高のカードとして狙われるだろう」
「そん時はおれがぶっ飛ばしてやるとして、上陸はするだろ? 冒険だからな!」
「……うん! ルフィもベルナートもいてくれるからね」
「そのベルナートはどこに行ったんだ?」
「医務室じゃないの?」
「いや、さっきマストを登ってたから、上の見張り台のとこだろ」
「そうなんだ。私もあとで行ってこよーっと」
風に揺られて落ちないか心配されるが、そこはその時に誰かしらが助ければいい。少なくとも、そんな場面が来たら真っ先に反応する男が2人いる。過保護になる必要はない。
「そうだ。僕モモの助くんに渡すものがあったんだけど、今どこにいるの?」
「ロビンとお風呂に入ってるわよ。そろそろ出てくる頃合いじゃないかしら」
「「「何やっとんじゃあのエロガキィィ!!」」」
サンジ、ブルック、錦えもんが怒り狂い始め、ナミに呆れられている。子供相手にそこまで過剰にならなくてもと思われるところだが、モモの助本人が下心持ってるならその怒りも正当な部分がある。大人気ないのは置いといて。
「この後女子部屋で寝かせるけど、ウタも来る?」
「ううん。私は大丈夫」
「寝る場所どうするの?」
「ベルナートと一緒に上でもいいかな。エレジアにいた時は床で寝てた時もあるし」
「作詞してる時とかたまにそうなってたよね」
「ベルナートとかゴードンにそれで叱られたんだ~」
「ヨホホホ! 私もそれありましたね~。昔の仲間たちとよく夜通しで作曲したものです」
「やっぱりそうなるよね!」
味方を見つけたウタがはしゃいでいると、モモの助を連れたロビンが風呂場から出てくる。それと同時にモネも医務室から出てきた。モネを見たチョッパーは慌てて駆け寄り、安静にするようにと訴えかける。
「名医のおかげでこれくらいなら大丈夫よ。あとでちゃんと戻るから」
「め、名医だなんて。そんなこと言われたって嬉しくねぇぞこのやろ~」
「お前鳥男の仲間なんだってな。おれたちと一緒にいて大丈夫なのか?」
「あら敵とわかってても心配してくれるのね。不安要素はあるけれど、うまくやるわ。若様を裏切ったつもりはないもの」
「そっか~。んで、なんで出てきたんだ? 腹でも減ったのか?」
「だったらこの一流コックにお任せくださいレディ。すぐにご用意します」
「うふふ、ありがとう。お腹はすいてないわ。明日の朝ご飯を楽しみにしてるわね」
「うひょぉぉぉ!! 喜んで!!」
「エロガッパ」
「あァ!? クソマリモ野郎が!」
呼吸するように滑らかに喧嘩が始まるも、一味の誰も止める気がない。それが日常だと見せつけられ、モネは楽しそうに笑った。
「要件はなんだモネ。麦わら屋たちはともかく、おれとしちゃあお前を警戒しないわけにはいかねぇ」
「……そうね。ただ伝えておきたいことがあっただけ。それに対してどうしてほしいという要望はないけれど」
「ドレスローバの上手い店のことか?」
「あ、ルフィあんたお腹空いたんでしょ。サンジくん、つまみの夜食用意してあげて」
「はい! ナミさん!」
「……こいつらのことは気にせず続けてくれ」
「その方がよさそうね」
当たり前のように脱線する。実力的に、同盟相手としては申し分ないだろうが、こういう面ではローの負担が大きくなっている。苦労してるなと内心で軽く同情した。
「ベルナートはドンキホーテファミリーに宣戦布告してる。彼はドレスローザに残るわ」
「っ!? 待ってモネ! 私それ聞いてない!」
「でしょうね。彼はそういう人だもの。麦わらを信用できるから、ウタのことを任せるつもりね」
「……なんでベルナートが……」
「私の伝えたかったことはそれだけ」
ベルナートに力を貸してほしいと、そう言うだけなら簡単だ。だがベルナートに引き金を引かせたのがモネだ。それを言うことなどできない。それはドンキホーテファミリーへの裏切りとなる。
これを話したのは、今のモネにできる精一杯のこと。この後はもう、なるようになるだけ。
「ベルナートがその気なら僕も付き合うよ。それに、宣戦布告したと言っても何も真正面から挑むことはしないだろうね」
「何を考えてるかは本人に聞くしかないか」
「何にせよ、どうなるかは明日の朝刊で決まるだろう」
「あ、モモの助くんには寝る前に渡すものがあるんだ。錦えもんにも関係あるよ」
「渡すものでござるか?」
「拙者にも関係が?」
ひとまず今夜は解散だと話がついたところで、ヤマトがモモの助と錦えもんを呼び止める。興味を持つ者もいたが、重要なものだと雰囲気で察して各々離れていく。船室に入ったり、見張りのために前方甲板に行ったり。
誰もいなくなったところで、ヤマトは服の中から1冊の日誌を取り出した。鼻の下を伸ばした錦えもんには、頭上から空気弾が撃ち落とされた。
「斬撃って曲がるものだったっけ……」
上を見ても犯人の姿は見えない。窓が開いているだけだ。
やれやれと呆れたものの、気を取り直してヤマトはそれをモモの助に手渡した。それを持つべきなのはモモの助だと確信しているからだ。
「こ、これは……!」
「ち、ちちち、父上の日誌……!?」
「なぜこれをヤマト殿が!? まさかカイドウもこれに目を通したのでござるか!?」
「ううん。これはあの日に僕が拾って隠し持っていた日誌だよ。昔、岩穴に軟禁された時に、一緒にいたお侍さんたちに文字を教わりながら読んだけど、それ以外の誰もこれを知らない」
「このような重要なものまで……! かたじけのうござる……ヤマト殿……!」
「ルフィやローたちにも見せるかは君たちが決めて。まあ、見せなくてもいいんじゃないかなって思うけど。ほら、ルフィは行きあたりばったりの冒険好きみたいだし」
「うむ。……ではモモの助。中身を閲読した後、どうするか決めるのだ」
「錦えもんは読まぬのか?」
「恐れ多いでござる。読みたい気持ちはあるが、すべての判断はモモの助が下すのだ」
「そうそう。その日誌の価値は高いんだから。ベルナートもそれは今後も隠し持つといいって。中身を共有するのは、
「ベルナート殿も中身を読んだのでござるか?」
「ううん。読んでないよ」
「ではなぜそのような言葉を」
「うーん、ベルナートは察しがいいんだよね。直感みたいなものらしいけど、こういう重要なものに対しては的中率高いよ」
「そうか……。錦えもん、これは一旦おぬしが預かっていてくれ。拙者子ども故隠し持てぬ」
「承知。では読む時に渡すということで」
「うむ」
サウザンド・サニー号の見張り台は、屋根も設置されている。台というよりも、見張りのための部屋がマストに刺さっているようなものだ。
電伝虫でのやり取りを終えてくつろいでいるベルナートの下に、ウタがひょこっと現れた。登ってきていることは察知していたため、特に驚くこともない。むしろ無事に登れたことに安堵している。
「ベルナート、隠し事あるでしょ」
壁にもたれかかってのんびりしているベルナートの隣に座ったウタは、開口一番で真っ先にそのことを指摘。
じーっと視線を向けていると、ベルナートは隠し事がバレた子どものようにバツが悪そうな顔をする。ウタがその中身もわかっていることを理解したからだ。
「なんで?」
「……やらないといけないことだから」
「ベルナートの嫌いなことなのに?」
「そうだな。もう、見過ごすことはやめたんだ。……あの国とは縁もあるから」
すべてを話すつもりはなかった。ウタは表側、光側の人間だ。ドレスローザに巣くっている世界の闇に関与させたくない。
そう思って、自分勝手な人間だなと自嘲した。モネのその思いは受け入れなかったのに、ウタには受け入れてほしいと思っている。
「ベルナートが駄目って言っても私はドレスローザに上陸するから」
「え……」
「ドレスローザのことはよく知らない。ベルナートがそのつもりなのも、それだけ大きな理由と闇があるんだと思う。
ウタの夢のために。
世界中の人間を幸せにしてみせるために。
そのためなら、深い闇も知らないといけない。危なかろうと、そこに飛び込むだけの理由と対価があるのだから。
「私のことよろしくね。ベルナート」
「無茶苦茶な
「今さらだね」
「ははっ、まったくだ」
ウタが上陸するのなら、ベルナートには枷がつけられるようなもの。しかしそれはベルナートを弱体化させるようなものじゃない。どちかと言えば命綱のようなものだ。
ウタの安全を意識させることで、戻るべき場所を常に頭の片隅に置かせておく。死をも覚悟して挑ませるようなことをさせないために。
「言ったでしょ? ベルナートがいないとダメなんだって。私じゃ力不足だけど、でも話して。気持ちだけでも、一緒にいさせて」
「……! ……力不足なんかじゃない」
「ひゃぇ!?」
ウタの肩に手を回して抱き寄せる。
腕に感じる重みと温もり。
それが隣にいてくれるということ。
もしかしたら、この時初めて、本当の意味で
「ありがとうウタ」
「え? え?」
「ウタが
その言葉に胸が熱くなるのを感じ、ウタは耐えきれずに顔を逸らす。はしごより、鼻から上だけを覗かせているヤマトに気づいたのはその時だった。
安定の航海の夜、歌姫の悲鳴が海原に響くのだった。
□
翌朝、ドフラミンゴの七武海脱退を知らせる朝刊が全世界に運ばれる。麦わらの一味もニュースクーからそれを買い取り、今後の動きを固める中、別の鳥がベルナートの頭に乗る。嘴でコツコツと2回頭を突くと、丸く包まれた紙を渡してすぐに飛び立つ。
嘴で突くのは何も合図ではない。単純にその鳥の趣味であり、殴り返される前にズル賢く飛び去っている。
「今の鳥何なんだ? ニュースクーとも違うよな」
「新聞社が飼い慣らしてるのとは別口。細かな生態はオレも知らない」
「んで、その手紙は何なんだ?」
「……麦わら。お前
「なんだそれ」
「強さを競い合う大会のことよ」
「おい。作戦に関係ない話を入れてくるな」
「作戦にはたしかに関係ないんだが、麦わらには関係ある話だ。ヤマトにもな」
「優勝したらすんげぇ美味い肉が貰えるのか……!?」
「ヤマトもってことは肉じゃねぇだろ!」
「ドレスローザにある闘技場、そこで大会が開かれるんだが、今回の優勝賞品がメラメラの実らしい」
「「はァ!?」」
「メラメラの実ってエースの……!」
「なんでドフラミンゴがそれを!?」
「裏に精通してるから手に入れられたんだろ。悪魔の実は、能力者が死ぬと世界のどこかでまた現れるからな」
「トラ男。作戦のことは頼む」
「……」
「エースのメラメラの実は誰にも渡さねぇ!」