たった1つの笑顔   作:粗茶Returnees

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ドレスローザ 愛と情熱とおもちゃ③

 

 ベルナートをスカウトしに行ったメンバーは、若くして革命軍No.2の立場にいるサボ、魚人のハック、そしてたった今接触したコアラの3人だ。コアラとベルナートの年は同じであり、サボとも1つしか変わらない。近い年齢の人間が接触したほうが、接しやすいだろうと判断されてのことだ。ちなみにハックはお守りとして同行させられただけ。

 結局ベルナートは最終的に革命軍のスカウトを断ったが、当時は回答を先延ばしにしていただけ。サボとコアラとは打ち解けあって仲良くなっていた。

 

「サボはもう中か?」

 

「まだかかるんじゃないかな。観客としてはともかく、内部に忍び込むのは、そう簡単にさせてくれないみたい」

 

「そりゃそうか」

 

「ベルナートたちも観客?」

 

「親友が出るからな。今朝のニュース関連で気になることもあって、下手には動けないし」

 

「私たちも引っかかってるんだけど、手がかりはなし。今回の目的とは直接の関係がないからそっちは調べないかな」

 

「なるほどな。お前らの目的になりそうなのだと……地下だろうな」

 

「何か知ってるの!?」

 

 大声を出してしまったコアラは慌てて口を手で塞ぎ、周りの目を気にした。幸いにもここはコロシアムの外縁。中に入る観客が多く、コアラの声に反応した者はいない。

 周囲を素早く確認したコアラは、ほっと胸をなでおろして1歩ベルナートに近づく。ウタも半歩近寄った。

 

「入り口は?」

 

「そこまではわかってない。この国にいる生きるおもちゃは、悪魔の実の能力によるもの。()()()()からなら、あるいは探れるかもな。地下はおもちゃの気配の方が多い」

 

「……もっと早く教えてくれてもよかったんじゃない?」

 

「オレは革命軍(そっちの人間)じゃないし……」

 

「そうだけど。君はこっちに借りがあるんだからね」

 

「だから今情報回しただろ」

 

「足りてませんー!」

 

「ね、そろそろ入ったほうがいいんじゃない?」

 

 抗議してさらに近づくコアラを手で遮ったウタが、コロシアムの中に入ろうと促した。まだ入場客の列があるが、さっきよりは人が減っている。紛れ込むのなら、人が多い内の方がいい。

 3人で入場客の列に紛れ込むと、話はまだ終わってないとしてコアラが話を続けた。

 

「ハックに魚人島の案内をさせたのはともかく、それとは別件で2つ借りがあるでしょ」

 

「さっきの情報でチャラにならない?」

 

「1つ分は対価として認めてあげるけど、まだ1つ残ってる」

 

「ベルナート何か頼んでたの?」

 

「去年ぐらいにちょっとな」

 

「いつの間に……」

 

(知らせてないんだ……。エレジアのことなのに。ううん、エレジアのことだからか)

 

 1ヶ月半程度とはいえ、ベルナートもエレジアで過ごしていた。船の修復だけでなく、エレジア内の散策も行っていた。その島に生きる生物のことも知ることができる。そうして島のことを知り、革命軍に頼みごとをしていた。

 それをウタに話していないのは、関わらせないためだろう。ベルナートがそうしているのも、ウタのためだと察することができる。コアラは詳細までは話に出さないようにしようと気をつけることにした。

 

「ともかく、ベルナートはこっちに借りが残ってるってこと」

 

「この国にいる間になんか協力したらいいのか? それとも後日呼ばれるのか?」

 

「うーん、早いうちにチャラにしたほうがよさそうだけど」

 

 チラリとウタの方に目を向けると視線が合い、ウタがドキっと驚いてフードを深く被った。その反応に微笑むも、いい考えが出てこないなとコアラは唸った。

 

「君は革命軍(うち)に加入してない。ちゃんとそこを加味して、いずれお願いすることになるかな」

 

「その方が助かるよ」

 

「うん。ウタちゃんに危害が及ぶのも避けたいからね。世間はともかく、裏だと今じゃ君たちはセットで見られてるんだから」

 

「私と? ベルナートが?」

 

「そうだよ。……嬉しそうだね」

 

 照れたウタはそれを隠そうとするもはにかんでいる様にしか見えず、そういう感じかとコアラは関係性を察した。

 

「ベルナートにも良い相手ができたんだね~」

 

()ってことはコアラにはいるんだな。いつの間にできたのやら」

 

「なっ!? わ、私たちはそういうのじゃなくて仲間だから!」

 

「へ~。誰とも言ってないんだけどな。そっかー仲間内にいるのかー」

 

 にやにやして肘で突いてきていたコアラにカウンターパンチを決め、今度はベルナートがにやにやとコアラを見やる。

 してやられたと睨むコアラを見て、ウタはふと思い返す。ベルナートとコアラの距離感は友だちのそれだろう。親友であるヤマトはこれより近いから置いとくとして、最近ベルナートとそういうやり取りが減ったなのではなかろうか。

 仲が悪くなったのではない。それとは逆で仲が深まった……はずだ。少なくともウタはそう思っている。

 これ自体はいい事なのだが、今のベルナートとコアラのようなやり取りを懐かしく感じるのは、不思議な感覚だ。いったいいつから減っただろう。

 

「なんか考え込んでるね」

 

「たまによくある」

 

「それ結局どっち?」

 

 そうこうしながら3人は、ベルナートを間に挟む形で並んで座る。観客席はほぼ満員状態だが、今大会のことを考えればすぐに満席となるだろう。

 

「見てて気分が悪くなったらすぐに言えよ。外に出るから」

 

「でもヤマトの応援があるから」

 

「出番がいつかわからないし、たとえそれまで耐えれなくてもヤマトはわかってくれるって」

 

「……ヤマトが出てるかを毎回教えて。いなかったらその試合はあんまり見ないようにするから」

 

「……わかった」

 

「友だちの名前はヤマトなんだ? 出てきたら私も応援するね」

 

「ありがとうコアラさん」

 

 やがて開始時間となり、実況者による今大会の説明が行われる。それらを経てようやくAブロックの試合が始まった。

 だが、その試合は参加人数に反して凄まじい速さで決着がつくことになる。その試合を制したのは、紙袋を頭に被って素性を隠していた巨漢。決勝進出が決まり、素顔を晒したその男は。

 

「ウィーハハハー!!」

 

『バージェスだぁぁぁ! 新たな四皇黒ひげを支える10人の巨漢船長の1人! ジーザス・バージェス!!』

 

「……あれ? 黒ひげ?」

 

 実況の言葉に気づいたウタは、横にいるベルナートの顔をそっと覗いた。

 黒ひげこそ、ベルナートとヤマトの親友エースを海軍に引き渡した張本人。2人にとって、そして義兄弟であるルフィにとっても因縁のある男。その男が率いる海賊団の幹部が、今大会に紛れ込んでいた。

 狙いは十中八九メラメラの実。

 

「ジーザス……バージェス……」

 

 手に力を込めながら呟いたベルナートに、ウタはそっと手を重ねた。

 

()()()()ベルナート」

 

「……わかってる。ありがとうウタ」

 

「どういたしまして」

 

 大会に参加してないのに今すぐ戦うつもりはなかった。場は弁えている。

 だがウタがベルナートを止めたのは、そういう理由からではない。それはコアラには見当もつかないことであり、どういうことだろうと首を傾げていた。

 

「他にも来てるのかどうか。もう1人いたら面倒だな」

 

 

 

 

 

 

 コロシアムはあくまで国内で行われるイベントの1つ。人々の生活はこれまでと何も変わらず、地下で行われる闇取引も同様だ。1つの港町とも呼べる規模になっている地下空間では、今日も秘密裏に武器等が売り買いされていた。

 それを横目に港内を歩いているのは、自分の忠誠を貫くために単独行動をしているモネだ。

 モネは港内を素通りし、何本もの大きなパイプの収束地点となっている建物に進んでいく。そここそが幹部塔。おもちゃたちが生まれる場所、モネの妹であるシュガーがいる場所だ。

 

「ブドウに指を差して食べるのは、相変わらずなのねシュガー」

 

「……? っ!? ね、姉さん……!? どうして、それにその傷……!」

 

「ん~~? モネ~~。久しぶりだな」

 

「傷はひとまず大丈夫よ。麦わらの一味が甘くて、敵なのに治療してくれたから」

 

「べっへっへ! それ甘すぎだんね~~!」

 

「トレーボルのべちゃべちゃ、飛ばさないように気をつけておいて」

 

「ベタベタ! ……仕方ないから少し離れておくか~」

 

 心なしか肩を落としているようにも見えなくはないが、ベタベタだろうと飛ばされて体についた日にはモネもシュガーも本気で怒る。女性陣の怒りを避けるためにも、トレーボルは自ら距離を取った。

 

「姉さんはなぜここに?」

 

「彼らの目を盗んで抜け出したのよ。ここは知られてないし、1回予想の外に出ておくべきだと思って」

 

「シーザーは誘拐されて、ヴェルゴはベルナートに負けたって聞いたけど」

 

「……そうね。麦わらの一味とローの裏切りだけでも手に負えなくなってたのに、ベルナートまで島に来てしまったから」

 

「んね~~。何かあいつらの狙いを掴んでないか? ドフィとの交渉とメラメラの実、ベルナートの宣戦布告までは掴んでるから、それ以外で~」

 

 ベルナートの宣戦布告、その言葉にはシュガーがぴくりと眉を震えさせた。それはシュガーには聞かされていなかった内容だ。あえて伏せられていたのだろう。なにせシュガーもまた、ベルナートと共に冒険をしていた仲なのだから。

 

「そうね……SMILEの工場の破壊も目論んでいる、ということぐらいかしら」

 

「べっ! それはいい事を聞いた~。早速ドフィに連絡するか。んね~~」

 

「姉さんはしばらくドレスローザ(ここ)にいられるの?」

 

「どうかしら。若様の判断によるわ」

 

 せっかくの帰国なのだから、しばらく一緒にいられたらいいのになとシュガーは考えていた。ドンキホーテファミリーは、その名の通り構成員の年代の幅が広くなっている。しかしシュガーの肉親はモネだけ。同じファミリーと言えど、そこはやはり特別となる。

 

「んね~~~モネ。帰ってきて早々悪いんけど、1つ仕事を頼まれてくんね~~?」

 

「どんな内容かしら。今ハードなのは無理よ」

 

「べヘヘ。そこは大丈夫だ~んね~~」

 

「ならよかった」

 

「仕事は簡単」

 

 そう言いながらトレーボルは1本の短刀をモネの足下に投げ転がした。モネはそれを拾い上げ、状態を確認していく。手入れはされているようで、切れ味も申し分なさそうだ。

 

()()()()()()()()()()()()()

 

「…………ぇ?」

 

「……トレーボル?」

 

「パンクハザードで戦力不足だったのはそうだろうんね~~。だからそっちのは良い。ドフィが手を打ってある。だから問題はベルナート1人だ」

 

「……彼の覇気は相当なものよ? 未来まで視えてる」

 

「べヘヘ。お前なら刺せる。あいつは甘い男だからんね~~。ファミリーを裏切ったわけじゃないって証明をしてくるだけだんね~~~」

 

 パンクハザードでの仔細はドフラミンゴの耳には届いていない。最高幹部たちも同様だ。

 しかしモネは敵と共にこの島に来たのだ。ベルナートがいたからそうなったことだが、見方によっては裏切りとも取れる。そうでなくとも、手土産として持って帰った工場破壊の話だけでは、失態を清算するのに足りていない。

 そこでトレーボルは思いついてしまった。一番面倒な男に使える有効な手段を。

 ベルナートならたしかに覇気で先読みできる。たとえモネが狙っても奇襲は成功しない。だが、奇襲にならないだけであって刺すことはできてしまう。ベルナートがすべてをすぐに察してしまうから。

 モネのことを想うからこそ、避けることなく受け入れてしまう。

 

「拒むなら裏切り者として処分するだけだんね~~。いらないから()()()()()()()

 

「っ!?」

 

 ベルナートを誘き出す餌にすることもできるが、トレーボルはそれを提示せずにシュガーを巻き込んだ。実の姉をおもちゃにしてしまえと。

 そうすることで、どっちに転ぼうともドンキホーテファミリーへの従属を高めさせられる。愛する者を刺して証明するか。あるいは肉親の存在を変えることで証明するか。

 モネが裏切った場合、シュガーまで伝播すると面倒だ。この国のおもちゃたちは、シュガーの力で10年かけて今の数にまで増やしているのだから。

 

「……うふふ……、甘く見られたものね。それぐらい簡単よ」

 

「べ?」

 

「刺すだけじゃない。ベルナートの首を手土産にするわ」

 

「べへへへ! そこまでできれば上出来だな!」

 

「……待って姉さん」

 

 トレーボルに背を向けて早速向かおうとするモネを、シュガーが呼び止めた。モネは振り返りはせず、軽く首を動かして反応を示した。

 そんなモネにシュガーは近づき、その腕に触れる。

 

「シュガー? あなた何を」

 

「──。さようなら」

 

「待ってシュガ……!」

 

「姉さんはどうせベルナート刺せないでしょ」

 

 静止の声も虚しく、シュガーを能力を発動させてモネをおもちゃへと変貌させた。変えられたモネの姿はおもちゃの鳥そのもの。

 

「契約ね。もう二度とドンキホーテファミリー(私たち)の前に現れないで」

 

「どういうつもりだシュガー。んね~~。今のが誰か覚えてないけど、なんで労働力にしなかったんだんね~~?」

 

「いらないでしょ。鳥のおもちゃなんて」

 

「べへへへ! それやったのお前~~!! ん~~まぁ~いいか。今日はコロシアムで大量の労働力を確保できるからな」

 

 

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