たった1つの笑顔   作:粗茶Returnees

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ドレスローザ 愛と情熱とおもちゃ④

 

 コロシアムのブロックはA~Eブロック。Aブロックの勝者は黒ひげ海賊団のジーザス・バージェス。Bブロックの勝者は凶暴な新星バルトロメオ。Cブロックはルーシーことルフィが勝ち上がり、残るは2つのみ。

 

「ん~~! やーっと出番が来たね!」

 

「……楽しみなの? ヤマトさん」

 

「強い相手と戦えるのは楽しみだけど、それ以上にメラメラの実がかかってる試合だからね。僕はエースのために何をすることもできなかったから、まさかこんな機会が来るとは思ってなかったんだよ」

 

「海賊じゃないんだよね? なんで知り合いなの?」

 

「僕の故郷に彼が来たからさ。海賊だろうと彼は親友。僕はもう悪魔の実を食べちゃってるから、せめて彼の身内に渡せたらいいなって」

 

「じゃあヤマトさんも敵だね」

 

「同じブロックになってるからこればっかりはね」

 

 ヤマトと話しているのは、同じブロックで出場する剣闘士レベッカだ。これまで何度も大会に出場しているが、一度も負けたことがない。そして一度も相手を負傷させない闘い方を貫いている。

 話をしてみて「良い人だな」と思ったから、ヤマトもルフィもレベッカとはすでに打ち解けて友だちとなっていた。しかもレベッカがルフィに弁当を奢ってあげていた場面も見ていたために、ヤマトの中でレベッカの好感度がうなぎ登りである。

 

「レベッカの鎧ってそういうファッション?」

 

「えっ……。恥ずかしくないわけじゃないよ? 好きで着てるわけじゃなくて……重たいから」

 

「たしかに君は華奢だもんね」

 

「身軽に動けたほうがいいし……」

 

「うんうん。僕もこの袖破きたいんだけどね。もう1人の親友がやめとけーって言うんだよ」

 

「そうなんだ。ヤマトさんが綺麗だからじゃないかな」

 

「僕は男だけど?」

 

「え?」

 

 目を丸くしてぱちくりとまばたきしたレベッカは、視線を下げてみた。一度自分のものも確認して、再度ヤマトのを見やる。

 

「男?」

 

 レベッカは大いに混乱の渦に叩き込まれた。

 そんなレベッカを見ながら、ヤマトはやれやれとため息をついた。ベルナートが服を破くなと言うのも、そういうことなのだろう。露出を下げていた方が、女と見られる可能性を減らすことができる。何よりも誰もが理解のある人間じゃないのだ。生まれ持った体は変えられない。

 それでも、隠して生きるのは、それはそれで窮屈だとも思っている。いい案はないかと、目下の思考事項だ。

 

「ヤマトさんは男。ヤマトさんは男。ヤマトさんは男。よしっ! ヤマトさんは男だよ!」

 

「あはは……ありがとうレベッカ」

 

 そうやって言葉を交わしながら入場すると、観客たちから一斉にブーイングが浴びせられ始める。心無い言葉が、罵声が、その身に叩き込まれていった。

 そうなるのは、レベッカが先代国王の孫だからだ。ドフラミンゴがこの国の王として現れたあの夜、リク王が町に火を放ち、国民をその手にかけたあの悪夢の日。10年前のその事件は国民の心に深く残っており、当時僅か6歳で事件と無関係だったレベッカにさえ、その恨みの矛先を向けられている。

 

「……へぇ」

 

 その大きなブーイングの中、小さく冷たく呟かれたその言葉をレベッカの耳は拾った。

 ヤマトにも幻滅されたかと思いきや、そういうことではないらしい。兜の下で溜まる涙を、ヤマトはそっと受け止めた。

 それと同じくして、最後の入場者としてキャベンディッシュが現れた。愛馬の背に乗って現れたその男は、馬に取り付けてある拡声器を使って観客たちを一喝する。

 

「命を懸けぬお前たちには罵声を浴びせる資格もない!! そんなに娘を殺したくば武器を取りこのリングに降りてこい!!」

 

 気迫の篭ったその言葉は、ブーイングの嵐を止めるどころか歓声へと塗り替えた。その鮮やかな手のひら返しに、リング上の参加者たちも呆れていた。

 しかし一喝した当の本人は、この歓声に大喜びをしており同情の余地もない。面白い人だなとヤマトは軽快に笑っていた。

 

「さてと、そろそろ始まるみたいだけどレベッカ。君の剣は刃がついてないよね」

 

「……私が兵隊さんから教わったのは、傷つけ方じゃないから」

 

「……君は人が傷つくのが嫌いかい?」

 

「うん。でも、戦わないといけないことがあるのも知ってる。……せめて、私は誰かを傷つけることはしたくない。兵隊さんに、それは教わってないもん」

 

「そっか。君は僕の親友たちに似てるよ」

 

「え……?」

 

 観客席の一画に目を向けたヤマトがそっちに手を振った。それをレベッカも目で追うと、手を振り返している2人組がそこにはいた。1人は男で、もう1人はフードを被っている誰か。その2人がヤマトの友人で、今話し出てきた人だということだけは、レベッカにもわかった。

 満足したヤマトは、手を振るのをやめてレベッカへと笑いかけた。清々しいその笑顔に、状況のせいでレベッカは困惑するしかない。

 

()()()()()()()

 

「…………へ?」

 

 

 

 ヤマトのその言葉の真意を掴みかねていたレベッカだったが、それは試合開始直後から存分に体現されていた。

 レベッカが得意とするのは"背水の剣舞"。リングの端に立つことで、警戒すべき範囲を半分にまで現象させる。敵の攻撃は見切り、得意の速度を利用してカウンターとして相手をリング外へと落として脱落させる。

 これがレベッカの戦法なのだが、いつも通りリングの端に立って早々レベッカはぽかんと口を開けることになった。

 

「雷鳴八卦!」

「白蛇駆!」

「鳴鏑!」

「もういっちょ鳴鏑!」

 

 ヤマトがリング上で圧倒しているのである。

 今回は広い範囲から猛者たちが集った異例の大会だ。出場者1人1人が、レベッカにとって強敵。もちろんその中でも脅威度の差が出てくるのだが、今現在ではダントツでヤマトがその脅威度の頂点にいた。

 

『強い……! 強過ぎる!! 前Cブロックの謎の超新星ルーシーに引き続いて現れた無名の出場者ヤマト! 次々に出場者たちを薙ぎ倒していく!! 今大会はいったいどうなっているんだぁぁ!?』

 

「あんま好きじゃないけど、特別にやろうかな」

 

『……!? なっ……何が起きたんだぁぁ!? 出場者のおよそ半数が、突如気を失っている!! これはいったい……!?』

 

「い、今のもヤマトさんが……?」

 

 実況の困惑は当然のものだろう。観客たちも目の前の現象に目を疑っている。そして思い出すのはやはり先程のCブロック。そこで起きた現象を彷彿とさせられる。

 

「ヤマトのやつやり過ぎだろ……」

 

「覇王色の覇気だっけ? ヤマトも使えるんだ」

 

「2人ともとんでもない人と友だちだね……」

 

 ルフィと違ってヤマトは偽名を使っていない。顔も隠していない。目立ち過ぎると後々面倒なことになる可能性もあり、ベルナートは深く息を吐いた。

 そんなベルナートの懸念とは裏腹に、リング上で新たな動きが起きた。意識のある者たちがヤマトを警戒し、言葉なくとも共同戦線を張り出したのである。それは全員というわけでもなく、知名度のある猛者たちは変わらずロワイヤル形式を続けていた。

 

「もしかして僕目立ち過ぎちゃったかな」

 

「もしかしてじゃなくてそうだよ!」

 

 ヤマトがレベッカの前で戦っているため、2人が結託しているのは誰の目にも明らかだった。とはいえ、ヤマトが1人で目立っているがために、観客たちからはその事が抜け落ちている。

 しかし出場者たちはそうもいかない。どのみち突破するのは1人のみ。ヤマトに勝つためにも、ヤマトと組んでいる相手を排除しておきたくなる。

 レベッカを狙う者たちが増え始め、彼女も得意な戦術でそれに応戦していた。

 

「よそ見は命取りだよ」

 

「ッ……!」

 

 タイマンならまだしも、レベッカの戦術は複数人同時に相手できるものではない。ヤマトは相対する敵を棍棒で殴り飛ばしながら、レベッカの負担を減らすために援護も入れる。

 

「僕より目立つのはやめろ!」

 

「わっ! 君強いね」

 

 突き出された剣を受け流し、ヤマトは好戦的にニヤリと笑った。その笑顔もヤマトにまだ余裕がある証。それを見たキャベンディッシュは歯ぎしりしながらヤマトを睨みつけた。

 

「最悪の世代といい君といい。この僕の人気をそんなに攫いたいのか!!」

 

「ごめん、君のこと僕知らない」

 

「なっ……!! ぐ、ぬぬぬ……! それはいいとしよう! だがそのキャラ被りは許せない!!」

 

「どこが!?」

 

「僕の目の前で"僕"と言いながら人気を攫うとは! 君に人の心はないのか!」

 

「八つ当たりだよね!?」

 

 ツッコミを入れるヤマトの脳内で存在感を増しているのは、カイドウの存在だった。カイドウが口にしていた「鬼の子」という言葉。「人の心」というキャベンディッシュのワードに連動してそれが主張してくる。

 他の人と相容れるわけがないと。

 

「スキを見せたな!」

 

「っ!」

 

「……速い!」

 

 間違いなくスキをついたはずなのに、遅れて反応したヤマトを完全に捉えることはできなかった。寸前で躱したヤマトの頬に、薄い切り傷ができた程度だ。

 そのヤマトの髪が不意に靡く。コロシアムはその構造上、強風が起きない限りリングに風が届かない。それなのに今たしかに、ヤマトの髪が風で揺れ、その風をヤマトは肌で感じ取った。一瞬だけ、それを慈しむように目を細め、強く目を瞑ってから反射するように見開く。

 

「……今さら悩むことじゃなかった」

 

「?」

 

「さっきはごめんね。今から、集中し直すから」

 

 レベッカに攻撃をしかけようとした相手を鳴鏑で殴り飛ばしながら、ヤマトはキャベンディッシュに向き直ってそう宣言した。

 空気が引き締まったのを、キャベンディッシュも感じ取る。

 次の瞬間、一度の跳躍で距離が詰められ、振り下ろされる棍棒を彼は剣で受け止めた。しかしその衝撃は剣を通り越して直接手や腕へと浸透。その痛みに耐えたキャベンディッシュはヤマトを押しのける。

 

「新世界を旅していくなら、覇気は使えるようにならないとね」

 

「覇気……?」

 

「強敵と張り合うためには必要不可欠なものさ」

 

 棍棒を構えるヤマトを見ながら、どう攻めるか考えていたところで突如キャベンディッシュはリングに倒れ伏した。気絶したわけでもなく、明らかに寝息を立てて眠っている。

 その光景に肩をすかされたヤマトだったが、何かがあると勘付いて警戒を強めた。

 それに気付なかった者たちは、一大チャンスだと一斉にキャベンディッシュに襲いかかり、そして返り討ちに遭っている。

 

「……!」

 

「っ!」

 

「……このっ!」

 

 その速さに反応できたレベッカは、ギリギリのところで体が動き、兜を斬られるだけ済んだ。その衝撃に額から出血しているものの、軽傷の部類だろう。

 その直後にヤマトは斬り裂き魔の速さに追いつき、リングへと叩きつけている。

 

「はぁはぁ……。ベルナートで慣れてたおかげだね」

 

 今の一撃が当たらなければ、ヤマトが斬られていたところだろう。だが、その賭けをもぎ取ったのは、他でもない本人の実力だ。

 

「何かわからなかったけど、おかげで僕らの他にはいなくなったね」

 

「うっ……。ヤマト……さん……?」

 

「よかった。レベッカは斬られたわけじゃないんだね。怪我はしてるみたいだけど」

 

「他には誰も?」

 

「うん。立ってるのは僕らだけ。どっちかが決勝だ」

 

「……ありがとうヤマトさん。でも、私は引くわけにはいかないんだ!」

 

 その瞳に意志を灯し、刃のない剣を構える。

 ヤマトも本気で敵意を向けることでレベッカを威圧するも、レベッカは唇を噛み締めてそれに耐えた。一歩も引かずに、真っ直ぐにヤマトを見つめている。

 

「……よし! じゃあ決勝がんばって!」

 

「え?」

 

「僕は降参(リタイア)するね!」

 

「えぇ!? でも! だってヤマトさんにも!」

 

「君が食べることになってもそれはいいんだよ。君みたいな()()()なら、彼だって喜ぶだろうからね」

 

「でも……!」

 

「あ、もしかしてこれってリタイアなし? じゃあ気絶するね」

 

「ヤマトさん!?」

 

 軽快に笑い飛ばしてから自分の頭を棍棒で殴ったヤマトは、綺麗なたんこぶを作って本当に気絶した。

 Dブロックの勝者がレベッカに決まった瞬間だった。

 

「『ええぇぇぇぇ!?』」

 

 言うまでもなく、観客も実況もブーイングを忘れるほどに驚かされていた。

 

 

 

 

「ヤマトがリタイアしちゃったね」

 

「本人が満足してたんだから、いいんじゃないか?」

 

「あはは、そうだね。ベルナートでもそうしてたもんね~」

 

「……よくわかるな」

 

相棒(パートナー)だからね」

 

「それで、さっきコロシアムの外ですごい音してたけど、ベルナートはどうするの? 私たちはここにいるけど」

 

 コロシアム内では歓声が響いていたが、コアラとベルナートの耳は外で起きていた"何か"の音を拾っていた。ベルナートはその気配から見当が付いており、だからコアラはどうするのかと聞いた。

 今から動くのか。それともまだ何もしないのか。

 

「私のことは心配しないで。負けず嫌いの幼馴染もヤマトもいるし、心得ぐらいはついてきたよ」

 

「……わかった。コアラ、頼めるか?」

 

「いいよ。これぐらいは貸し借りにもカウントしないであげる」

 

「優しいな。どうした?」

 

「私がいつ君に意地悪くしたかな?」

 

 にっこりと笑顔で詰められたベルナートは、目を合わせないように逸して姿を消した。目で負えないほどの速さで観客席からコロシアムの外へと飛び出したのである。

 

「あ、逃げられちゃった」

 

「まったくベルナートは……」

 

 

 

 女性陣にため息をつかれているとは露知らず、外に出たベルナートはどうしようかと頭を働かせた。気配でルフィたちの位置もわかるのだが、そこに手を貸すべきか別口から動くべきか。より有効的な行動を取りたい。

 そのためには情報をさらに集めたいところだが、なかなか簡単にはいかないことだろう。

 そんなベルナートの頭目掛けて、1羽の鳥が突っ込んできた。より正確には鳥のおもちゃだ。着地が下手くそなのか、ベルナートは顔に鳥おもちゃのボディプレスに見舞われている。

 

「鳥のおもちゃ? この国のおもちゃは多いけど、鳥のは初めて見たな」

 

「ベルナート、聞いてほしいことがあるの」

 

「なんで名前知られてんだろ……。悪いけどオレ、おもちゃの知り合いはいないんだよ。同名の誰かと間違えてないか?」

 

「……っ! ……間違えてないから、いいから聞きなさい。ね?」

 

「はい」

 

 

 




ベルナート……記憶がなくともモネに尻に敷かれる男。
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