たった1つの笑顔   作:粗茶Returnees

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ドレスローザ 愛と情熱とおもちゃ⑥

 

 その日、ドレスローザは悪夢を見た。

 王下七武海にして国王であるドンキホーテ・ドフラミンゴが、自身の能力で鳥カゴを発動。誰も国外へ脱出することができないように、そして誰も外との連絡を取れないようにしたのだ。

 さらにドフラミンゴは寄生糸(パラサイト)により、海軍も市民も海賊も関係なく操り、本人の意志とは無関係に人を襲わせている。

 

 その状況下で、最高幹部の1人ピーカによって国の形は変貌。地下にあったSMILEの工場は地上へ。コロシアム、王の台地、王宮と、それらは直線上に並んでいた。

 混乱が生じている中、SMILEの工場を守っているのは最高幹部の2人、ディアマンテとトレーボル。トンタッタ族が奮闘したものの、この2人には敵わず返り討ちにされていた。

 

「べへへへへ! ディアマンテ。ドフィが王宮に戻れとの指示だんね~!」

 

「なんか始める気か?」

 

「そうだろうんね~!」

 

「ピギャ!」

 

 返り討ちにしたトンタッタ族には見向きもせず、避けもせずにトレーボルは踏みつけながら王宮を目指して歩き出す。それはシュガーが気絶する前にも行っていたことであり、トレーボルはそれを楽しんでいた。

 今はドフラミンゴの指示により真っ直ぐ歩いているが、楽しんでいることに変わりはない。

 

「べっへっへっへ! こいつら飽きないねべはっ!?」

 

「トレーボル!?」

 

 高らかに笑っていたところ、正面から顔に拳が叩きつけられて飛ばされる。弾丸の如く弾き出されたトレーボルはSMILE工場の外壁に激突。そのままズルズルと滑り落ちていく。

 

「貴様なにも……ッ!」

 

「月時雨」

 

 ディアマンテが振り返った時にはすでに斬られていた。よろけたところを腹部に蹴りがいれられ、土の壁にめり込まされる。

 

「慢心してるからそうなるんだよ。お前らの弱点だ」

 

「べへっ! ……んの……ベルナート……! よくもお前、鼻血が止まらん!」

 

「お前いつも汚いんだから変わんねぇだろ」

 

「失礼だな! ベタベットンランチャー!」

 

「最高幹部なんざよく名乗れたな」

 

 トレーボルはベタベタの実の粘液人間。粘着性の高い粘液を活かして戦う。その能力自体の殺傷能力は低いものの、相手の動きを妨害することには長けている。その能力で相手の身動きを封じてしまえるのだから。

 悪魔の実の能力者との戦いは、そのギミックへの理解から始まる。動物(ゾオン)系や自然(ロギア)系のように、一見で理解しやすいものならまだしも、超人(パラミシア)系はそうもいかない。初見殺しとなるものが多い。

 だがベルナートは初見ではない。ドンキホーテファミリーとの戦いは今回で2戦目。トレーボルの能力も知っている。

 乱れ撃たれる粘液弾をすり抜けて接近。刀を振りかざすベルナートに、そうはさせまいとディアマンテが横槍を入れた。懐に入れていた銃を発砲する。

 

「チッ。当たるわけもねぇか……!」

 

「トレーボル。シュガーにモネをやらせたのはお前だな」

 

 ディアマンテが撃った弾を最小限の動きで避け、刀を振り下ろした。トレーボルも杖でそれを受け止めるが、ベルナートより力が弱い。そのまま押し込まれて刃が肩に食い込み始めた。

 トレーボルは粘液を多く纏うことで、自分の体の体積を誤魔化すのだが、ベルナートには見抜かれている。

 

「おいおいやらせねぇぞ! 蛇の剣(ウィーペラグレイブ)!」

 

 蛇のようにくねりながら剣が迫り、ベルナートは後退。トレーボルから離れるついでに斬撃を2本飛ばしたが、トレーボルが慌てて半身になることで回避した。

 

「ハァハァ……。うちのファミリーの問題に、他所者が口を挟むな!」

 

「ファミリー?」

 

「べへへへ! そうさ! モネの問題はうち(ファミリー)の問題だ! どうするかはおれたちが決める! シュガーの独断専行ではあったけどね~」

 

「……そうさせたのも……お前だろうが!!」

 

「こいつさらに速く……!」

 

 2人の中にあった余裕はもう消えている。油断もなくなっている。それでいて尚、ベルナートの速度は2人の想像を超えていた。

 ディアマンテは纏っていたマントを鋼鉄に戻す。無闇に攻撃に出るよりも、防御に入る方が懸命だろう。だがディアマンテはベルナートのことをまだわかっていなかった。

 ベルナートにとって、ディアマンテは眼中にないことを。

 

「ぎゃああっ!」

 

「しまった! トレーボル!」

 

 ベルナートにとって今の状況は、1対2ではない。1対1+その他である。

 トレーボルを側面から斬りつけ、覇気を纏ってその傷口を容赦なく殴る。内側にまでダメージが入っており、抉られたような感覚にトレーボルは吐血した。

 

「姉妹の仲を利用する家族(ファミリー)があってたまるか!!」

 

「半月~~クレイブ!」

 

 完全に背を向けたベルナートに、ディアマンテは剣を叩きつけた。たしかに斬った手応えがあり、剣にも血がついている。だが振り下ろした場所にはベルナートがいない。ベルナートを仕留めるにはいたらない。

 

「テメェがそこまで怒る理由がどこにある! なぁリチャード!」

 

「大切な人を傷つけられて、黙ってるわけねぇだろ!」

 

「ウハハハ! 大切ぅ? 表にも裏にもでねぇ半端者が、んなもん作って何になる。甘いからテメェは()()()()()()()()()()()()()()!」

 

「お前の理解なんて求めてねぇよ!」

 

「ぐっ……」

 

「ディアマンテ!」

 

「ウッ……ハハハ! 刺したのは間違いだったな」

 

 腹部を貫かれたディアマンテだったが、刀とベルナートの肩を掴んで動きを止めた。その意図を察したトレーボルがすかさず粘液を飛ばし、ベルナートの足を封じ込めた。

 

「慢心がおれ達の弱点だと言うのなら、()()()()がお前の弱点だリチャードォ! ウハハハハ!」

 

「その粘液が可燃性だってことも覚えてるよね~~! べへへへ!」

 

「半月~~」

 

「もっと追加してから引火してやる」

 

 さらに粘液を追加したトレーボルが、瓦礫の中から薄い木片を拾い上げる。持っている杖の先はライターとなっており、それで木片に火をつけてからベルナートへと投げつけた。

 トレーボルの粘液は引火などという生易しいものではすまない。それに火を付けるということは、爆弾に火をつけるのと同じ。粘液が増やされているために、大爆発を引き起こした。

 

「べっへっへっへ!! ざまみろ~~!!」

 

「ぬあーー!! って危ねぇなこの野郎!! おれまで巻き込まれかけたぞ!!」

 

「イデッ! 鼻出た。……はぁ、時間を取られた。早くドフィのとこに行くかね~」

 

「……いや、まだみたいだな」

 

「王宮に行くんだろ? 協力してやるよ。桜嵐」

 

「フッ! そんな見え透いた技が通るかぁ! ……ぬっ?」

 

「王宮に送ってやるって言ったろ」

 

「リチャード……! お前ぇぇ!!」

 

 ディアマンテへと斬撃を叩き込んで、王宮方面へと飛ばす。剣で攻撃自体は防いでいるものの、ベルナートは防がれることを読んで放っている。斬撃を受け止めているからこそ、ディアマンテはそこから取れる術がなく工場前から強制的に排除された。

 この工場前から王宮までは距離があるが、たとえ届かなくとも、すぐにこの場にまでは引き返せない。ベルナートはそちらには見向きもせずにトレーボルへと向き合った。

 

「あの爆発だぞ! なんで動ける!?」

 

「覇気は防御にも使える。ただの爆発なんだから、ダメージを減らすことぐらい造作もない。お前がディアマンテの邪魔をしなければさすがにキツかったが、おかげ助かったよ。さすが参謀だな」

 

「ぬあぁぁ! 馬鹿にしやがって!!」

 

「お前が散々周りにやってきたことだろ」

 

「なにおう! ベタベットン流星(メテオーラ)!」

 

 粘液のチェーンで船を掴み、それをベルナートへと落とし込む。

 頭上から降り注ぐ船を、ベルナートは真っ直ぐに走りながら必要な箇所だけ切断。斬り開いた道を駆け抜けた。

 今の自分の行動が、モネにもシュガーにも喜ばれないことはベルナートも理解していた。むしろ苦しませることもわかっていた。だが、止まることはできなかった。

 「シュガーにモネをおもちゃにさせた」この一点が、ベルナートの怒らせている。2人と旅をしたことがあるから。その仲の良さを知っているから、そんなことをしないといけない状況を作り出したトレーボルを、ベルナートは赦すことができない。

 

「消えてくれ」

 

「……!」

 

「翠竜の牙!」

 

 竜に喰われるが如く、トレーボルの体が複数ヶ所穿かれる。前面は粘液で障壁を作っているものの、タネがベルナートには割れているのだ。それを想定し、奥まで届く攻撃をすればいい。

 それを身につけるだけの時間が、ベルナートにはあったのだから。

 

「がっ……はぁ、はぁ……」

 

「十分愉しんだろ? じゃあな」

「だめぇぇぇ!!」

 

 何の迷いもなくとどめを刺そうとしたベルナートを、ウタが後ろから飛びついて引き止めた。駆けつけたヤマトもトレーボルが斬られないように棍棒を備えている。

 

「ウタ……? なにしてんの?」

 

「だめだよベルナート……、ベルナートがそれをやっちゃだめ!」

 

「……こいつは別」

 

「ベルナート!」

 

 パチンと乾いた音が響いた。

 回り込んだウタがベルナートの頬を叩いた音だ。それにはヤマトも驚いたようで目を丸くしている。

 

「ベルナートは()()()()()()でしょ! クライガナ島で私を受け止めてくれたベルナートは! そういう人じゃない!! この国で起きてることも見たはずでしょ!? その"理不尽"を無視するの!?」

 

「……」

 

「ひどい人に……奪う人にならないでベルナート!!」

 

「……っ!」

 

「ベルナートがそんな人になるなら……私は……わたしは……!」

 

「ごめん……ウタ。ごめん」

 

 カランとベルナートの手から落ちた刀が鳴る。わずかに腕が動き、けれど糸が切れたようにだらりと下げられた。

 ウタはそんなベルナートを抱きしめ、伏せられた顔を覗き込むとふわりと微笑みかけた。

 

「ねぇベルナート。相棒(パートナー)失格とか考えないでね」

 

「っ!?」

 

 図星だったためにビクリと反応し、ウタはやっぱりなと小さく笑う。

 

「きっとね、相棒(パートナー)ってただ背中を押すだけじゃ駄目なんだと思う。時には引き止めて、注意して、怒って。相手のことを支えるのが相棒(パートナー)だと思うから」

 

 自棄になった時に引き止めてくれたように。

 

「喧嘩することもこれからあるかもだけど、私はベルナートじゃないと嫌だから。お互い支え合っていこう?」

 

「…………ありがとうウタ」

 

 言葉を見つけられず、なんとか言葉を絞り出す。

 躊躇いはあったが、ベルナートもゆっくりとウタの背に腕を回した。腕の中で、嬉しそうに、どこかくすぐったそうに笑うウタの存在を心で感じとる。

 

「落ち着いたところ悪いんだけど2人とも」

 

「ひゃい!?」

 

「いでっ!」

 

「あっ、ごめんベルナート。大丈夫? って怪我! 手当しなきゃ!」

 

「ウタの服にもついちゃったな……」

 

「うわぁっ! ほんとだ!? ……まぁいいかな」

 

「よくはないだろ……」

 

「落ちなかったら新しいの買うから、買い物に付き合ってね」

 

「おれのせいだし、もちろん」

 

「ベルナートのせいじゃなかったら来てくれないの?」

 

「……行くよ」

 

「うん!」

 

 照れながら喜んでいるウタは、誤魔化そうとしてベルナートの傷の止血を始める。トレーボルの方が重傷ではあるのだが、ウタの中の優先度はベルナートの方が当然高い。

 仕方ないなとため息をついたヤマトが、一応の応急手当を施し始めた。

 

「ベルナート。君大変なことになってるよ」

 

「大変なことって?」

 

 ヤマトが指を差した方を見ると、電伝虫がとある映像を映し出している。そこにはベルナートの手配書の写真が載っており、ドフラミンゴが始めるゲームの賞金首の1人にされている。

 

『我がドンキホーテファミリーに宣戦布告してきたこの男は、(ゴッド)ウソップと並んで5つ星!!』

 

「うぉぉぉ!!」

「5億がもう1人いるのかぁ!」

 

『生死は問わねぇがこの男に限り、生け捕りにすれば倍だ!!』

 

「倍……!!」

「倍ってつまり……なんばいだー!?」

「いや2倍だ馬鹿!」

「ってことは2億ってことか!?」

「下がってんじゃねぇか!? 10億だろ!!」 

 

 ドフラミンゴが始めたゲームとはつまり、ドンキホーテファミリーに挑みドフラミンゴを討つか。あるいは指定された人間を全員討ち取るか。

 この鳥カゴの中、つまり今この島にいる人間全員がハンターとなる。

 

「あらら、10億だってよ。オレの手配書の倍だな」

 

「僕も星欲しかったな~」

 

「なんで狙われたがるの!?」

 

『こいつも生け捕りのみの10億だ! コロシアムに現れたダークホースの1人、ヤマト!!』

 

「やった!」

 

「喜ばないの! どうしよ、2人とも狙われちゃう……」

 

「ドフラミンゴの取引相手がカイドウだし、話が回ってきてても不思議じゃない……か?」

 

「どうだろ。僕って扱い的には秘密にされてたようなものだし」

 

「だよな~」

 

「角で気づかれたんじゃない?」

 

「「それだ!!」」

 

 正解っぽい意見が出てきたことで2人はスッキリ。狙われていることを何とも思っていない様子で笑い合っていた。これにはウタも呆れるが、この方がらしいなと苦笑気味だ。

 

「構図をわかりやすくしてくれたのはありがたいな」

 

「王宮を目指すんだろう? 僕も一緒に行くから単独出撃はやめてね」

 

「わかってる。ウタをまたコアラに預けたいところだけど、あいつも仕事あるしな」

 

「わしに任せておけ」

 

「え……!? は、え!? ガープさん!? なんで!?」

 

「まあちょっとな。……フン、感情の制御はまだまだじゃな」

 

 ベルナートの傷を見ただけでガープはそれを察した。付き合いがほぼ無くとも、よく理解しているからこそ見抜くことができる。

 

「まったくその通りです。はい」

 

「じゃが、その心は変えるな。お前が世界を周り、ようやく手に入れたものとの確かな証じゃ。傷つけられれば怒るのは当然。頭は冷静にな」

 

「……ベルナート、モネとは会わなくていいの?」

 

「……今は、いいんだ。モネも会う気がないだろうから」

 

「でも!」

 

「全部終わったら会いに行く。会って、話をするから」

 

「なら行こうかベルナート。まずはこっちに向かって来てる人たちを突破して!」

 

「ああ。……ウタ」

「ベルナート」

 

「「あっ」」

 

 呼び合うタイミングが重なり、妙に恥ずかしさを感じた2人は、一度互いに目を逸らしてから再度視線を重ねる。

 何を言いたかったのか。それは相手の目を見るだけで理解し合えた。

 

「ほら行くよ」

 

「ぐえっ」

 

 待ってると長そうだと思ったヤマトは、ベルナートの首に腕を回して連行した。

 

 




トレーボル「何を見せつけられてるんだろう」
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